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メディア環境研究所×オズマガジン 対談 「生活者との新たなつながり」~期待されるこれからのメディアへの役割~
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メディア環境研究所×オズマガジン 対談 「生活者との新たなつながり」~期待されるこれからのメディアへの役割~

※この対談は5月にオンラインで実施しました。

メディア環境研究所は2019年、メディア生活フォーラム『メディア満足』において「メディアに触れる時間をよくすることが一日をよくする近道」だと気付き始めた生活者にフォーカス。また、メディアイノベーションフォーラム『Direct_』では、多接点時代において、「生活に直接作用する」生活者との新たなつながり方を探りました。いま改めて考えるメディア満足や、どのように生活者とのつながりを設計しようとしているのかについて、フォーラムにもご登壇いただいたオズマガジンの井上大烈編集長にメディア環境研究所の新美妙子がうかがいました。

■メディアの集合知を使い、「役割」を感じられる居場所を作っていく

新美
昨年は、メディア生活フォーラム『メディア満足』へのご登壇ありがとうございました。メディア環境研究所は、2つのフォーラムを通じて、今後メディアの役割は情報を届けるだけではなく、より生活に踏み込んでいく方向に拡張するのではないかと考えているのですが、どう思われますか?井上編集長が考えていらっしゃることを教えてください。
井上
情報発信を担うというメディアの役割自体は基本的に変わらないと思いますが、情報過多の時代、情報の受け手──我々の場合は読者──といかに信頼関係を築き、その関係性を高めていくかが重要だと考えます。オズマガジンは「よりみち案内」をコンセプトに、主にお店の紹介を通してさまざまな街の情報を届けています。良い情報であることを前提として、発信する側がどういう人間でどんなメッセージをもってコンセプトを考えて情報を届けているのか透明性を高める必要があると思っています。読者が情報を取捨選択する際に、何をもってそれを信頼し共感するのかを、誌面内容はもちろんですが、その裏側にあるつながり方を一緒に考えて作っていく必要があると思います。

その際のポイントとして、「オズマガジンで紹介されたお店の背景にある物語を知って素敵だと感じたからその店に行く」というように、消費ありきではなく、オズマガジンを通じて初めにコミュニケーションが生まれ、その後に消費がついてくるというような関係性…つまりオズマガジンと読者、読者(お客さん)とお店というトライアングルの関係を
作れるのが理想的な在り方ではないかと感じています。その上で、オズマガジンは仲介者としての役割を担いながら、「情報が多くて便利」という価値の前に「姿勢が好き」「共感できる」という理由でオズマガジンを選ぶ、という方向に持って行けたらいいですね。

新美
オズマガジンにはお店の人がたくさん出てきますよね。フォーラムでもおっしゃっていましたが、情報量で勝負するのではなく、その人に会ってみたい、という気持ちにさせられるかどうかにこだわっていると。
井上
SNSのインフルエンサーのように、その人の発信するものに価値を感じたり、共感、信頼できると思ってもらえたりするようなメディアを目指しています。我々には複数のスタッフがおり、外部のクリエイターさんたちもいる。メディアの強みは、まさにその集合知を使えること。それも再認識すべきだと思っています。
新美
以前、読者にとっての「居場所づくり」を意識したいとも話されていました。詳しく教えていただけますか。
井上
居心地がいい快適な場所という以上に、「こういう理由があるから自分はそこにいたいんだ」と感じられる場所がこれからの「居場所」になっていくと思っていて、それを読者と築いていきたいですね。メディアから読者へという一方向の発信にとどまるのではなく、双方向性をもって、読者との間に情報が循環していくようなサイクルが作れれば。鍵となるのはおそらく「役割」で、読者自身が自分の役割を見出せたり、自分の働きかけで何かが動いている実感が得られたりすれば、「自分はそこにいてもいい」という感覚が得られると思うんです。まずはオズマガジン自体が、居場所になるような場所をきっかけとして提供する。さらには我々が、居場所として機能し得るコミュニティをつくっていくといったことができると思います。
新美
「サードプレイス」という言葉が少し前にはやりましたが、オズマガジンさんは単なる居心地のいい場所を超えて、もう少し発展した形をつくりたいということですね。
井上
そうですね。コロナウイルスの影響で在宅勤務を始めた方も多かったと思いますが、案外家の近所には居場所がないという人もいたと思います。カフェなど、日常的に利用している場所があれば別なのですが。
新美
私自身、在宅勤務になって職場と生活が地続きになったという実感があります。そこで、自分と生活の場所をつなげてくれるものは何だろうと考えた時、初めて行くお店でもそこにオズマガジンが置いてあったり「オズマガジンで紹介されました」というポップがあったりすると自分とその場所がオズマガジンによってつなげられた感じがする。そういう役割は今後も大きくなっていく気がします。
井上
ありがとうございます。僕らは普段提唱している「よりみち」の価値観をもっと広げ、仲間を増やさなくてはいけないですね。外出自粛をきっかけに多くの人が、地元で初めてのところに行く回数が増えたと思いますが、僕らが伝えたい「よりみち」の意味は、まさにそういう発見、出会いにあります。客観的な評価ではなく、自分が心地いいと感じられる場所との出会いに、可能性を感じてもらいたい。また、オンラインでの飲み会やイベントを体験してみて、対面の良さを再確認した人も多いと思います。何気ない会話や、場の香りやぬくもりといった目に見えない価値に気付けると、一見どこにでもあるような商店街、喫茶店でも面白味を感じられるようになるのではないでしょうか。そういう視点に賛同してくれる仲間を増やしていきたいですね。

■「手紙」につくり手の想いを託す

新美
改めて、「よりみち」にこめた意味について教えていただけますか。
井上
僕らは「よりみち」に3つの意味を立てています。1つ目は言葉のまま、物理的に「おでかけしましょう」ということ。通常は目的地までの最短距離を行くと思いますが、普段はしない遠回りをしてみることで思いもよらない出会いもある。2つ目は「一息入れましょう」です。情報を追いかけたり処理したりと、忙しく生きている中、ときには足を止めたり振り返ったりしてみませんか、と。3つ目は「無駄を楽しみましょう」です。世の中どんどん効率がよくなっていて、とても便利な時代です。でも不便なものや無駄だと思っていたことでも効率とは別のよさや味わいを感じることもあります。そういう心持ちでいると、多少気に入らないことだって許容できるようになるかもしれない。そういった心のゆとりという意味での、無駄を楽しんでほしい。これら3つの意味を「よりみち」という言葉に集約して伝えています。
どんな人でも“ハズレを引きたくない” “なるべく意味のあることをしたい” と、つい考えてしまいますが、多少のハズレを引いたり、全然意味のないことをしたりしても、大きな損失があるわけではありません。そのあたりを、良い加減にできるといいですよね。
新美
確かに「良い加減」は大事ですね。

次にコミュニティについて伺いたいと思います。メディアと生活者が、直接的で双方向的になっていくこれからの時代、メディアと生活者がつくるコミュニティとはどのようなものでしょうか。オズマガジンさんの取り組みを教えてください。

井上
オズマガジンが昨年秋から始めた取り組みに、定期購読者の会「オズマガジンの夜」があります。定期購読者はオズマガジンを好きでいてくれる方々なので、まずはお礼をしたいという気持ちと、もっと読者のことを知りたいという気持ちで企画しました。現在はコロナウイルスの影響で、対面での開催はストップしていますが、1度に約30名に参加していただき、これまで120名くらいの方とお会いできました。皆さんお出かけが好きでアクティブな方だとわかったのはよかったですね。今後これをオンラインコミュニティに発展させたいと思っており、その中心になってくれる方々という位置づけです。

誌面では「よりみち」のコンセプトをページを割いて説明しているわけではありませんし、全員が隅々まで読み込んでいるわけでもないので、改めてコンセプトを説明すると「そうだったんですか」という反応があったのは、発見でした。また、オズマガジンを開いている間はちょっとお出かけした気持ちになれるとか、眠る前のルーティンになっているとか、ポストに届くこと自体が楽しみだとか…生活の一部にしてくださっている声を聞けてとても嬉しく感じましたし、情報取得以上の存在価値があったことを、発見できました。

新美
やはり読者も、作り手の顔が見えると、情報に対して向き合う姿勢も変わって、両者の関係性も変わるのではないでしょうか。当たり前のようでいて、これまでメディアができていなかったことかなと思います。
井上
メディアはパブリックなものなのでどうしてもよそ行きの表現にならざるを得ませんが、芸能人のSNSをフォローしたくなるように、素顔の部分やバックステージが見えるとより親近感を覚えやすくなるでしょうね。また、我々編集者もいろいろな取捨選択をしながら作っているということも知ってもらえれば、応援してもらいやすいのかもしれません。
実は定期購読者には、毎号僕から1枚手紙をつけているんです。内容はどこにも公開されておらず、他の編集部のメンバーも目にすることはありません。どんなことを考えながらこの号を作ったか、苦戦した点や、特に見てもらいたいところといったことを書いています。
新美
メディアからの情報に求めるものとして、信頼や正しさというのはベースにありつつも、今後は人肌が感じられることや、個人的なつながりも求められるかもしれませんね。

新しく始められた「暮らし観光郵便局」という連載は、どういった取り組みなのでしょうか。

井上
誰もが知るような観光地ではない、日本の小さな、もしかしたら名前も知られていないような街を少しずつ紹介していくという新連載です。その街に住む人に写真を撮っていただき、その人たちからの読者への手紙という形で、各地域を紹介していきます。誰もがこぞって行くような流行の場所ではなく、地域で愛される老舗のお団子屋さんとか街の人々がふらりと集うカフェとか、地元で愛されている人や場所を取り上げる。観光名所に関する情報はたくさんありますが、その価値観だけだと見えないいいもの―地元で愛されている場所がたくさんあるはずです。ほんの少し足を伸ばすだけできっとあるそういう出会い、素敵だなと思う感覚を皆さんと共有できたらと考えています。
新美
地元の人が紹介するということは、地元の人もひとつの「役割」を担っていますよね。読者にとっても、有名観光地ではないその場所を訪れることで、心に残る人とのつながりができる。両者にとっていい企画ですね。
井上
地域の方にも地元を見直すきっかけにしてもらえるかもしれませんし、多くの人に知ってもらうことで、今まで以上に地元が好きになるかもしれません。通常であればその店にしかない個性や特徴にフォーカスしますが、ここで紹介したいのは全国どこにでもあるようなお店。それでも地元の人にとっては特別であることを伝えていきたい。普通のものでも、そこにある関係性が見える形で紹介することで「自分もその関係性の輪に入ってみたい」と思ってもらえるのではないかと思っています。誌面での表現方法について地元の人にも相談した結果、その人の言葉でつづるような、手紙というやり方がいいのではないかということになりました。
誌面には限りがありますから、こういう裏側の話も、コミュニティのような場所を通して知っていただきたいですね。記事の伝わり方も変わってくるのではないかなと思います。
新美
同じ情報でも、裏側を知っているとか、つながりがあるかどうかで受け止め方が全然違ってきます。情報そのものを届けることと並行して、その記事の背景や想いを地道に伝えていくことが求められるのかもしれませんね。

■東京も、“小さな街の集合体”

新美
最後に、「首都圏」という地域の特異性についてもお話いただけますか。私も首都圏に住む生活者として首都圏メディアが発信する情報はくくりが大きいと感じています。身近な情報が足りていないと思うのですが、どうお考えでしょうか。
井上
たとえばアメリカから日本初上陸したお店がオープンするというニュース。その後何度も足を運ぶ店になるかどうかはわかりませんが、話題性はあります。一方で街の名もない喫茶店で、つねに常連さんで埋まっている人気店もある。両方の情報があっていいと思うし、バランスよく伝えていきたいです。ただ、愛され続けている場所には必ず理由があるはずなので、そういう情報をなるべく拾っていきたいなとは思っています。たとえば、都内でも、最寄り駅でいつも使っている出口の反対側には知らない店がたくさんあった、ということはあるはず。何気ないけどいい情報、ごく普通の楽しい街並みなど、まんべんなく伝えていきたいですね。
新美
首都圏というくくりからは最先端とか流行のものをイメージしてしまいがちですが、以前井上編集長が、「オズマガジンは東京も小さな街の集合体として捉える」とおっしゃっていたのが印象的でした。二極的な捉え方ではなく、そこに住む人がいて、よりみちしているという点で、都会も地方も変わりない。
井上
そうですね。最新のものを見てみたいという気持ちと一人静かな場所で落ち着きたいという気持ちは共存するし、同じ価値があると思います。その日の気分での楽しみ方を提案していきたいですね。
まだ形にはなっていませんが、そういう小さな街の情報を共有していけるような場所をオンライン上で作れたらと考えています。誌面で紹介する情報がA面的なら、B面的なよさのある情報をそこで共有できたら、同じ価値観を持つ仲間同士で、この駅で降りてみようとか、この路線で各駅停車の旅をしてみようといったことができるかもしれない。その際に、自分が「自分の場所の代表」といった意識を持てれば、街を知っていくモチベーションにもつながるでしょう。住めば都というくらいで、誰しもいま住んでいる場所にそれなりに思い入れがあるはずです。コミュニティ上での情報交換を通し、人の役に立つことができれば嬉しい気持ちになれるはず。皆が寄り道のブロックチェーンになれればいいですね。
新美
オズマガジンも読者もそれぞれが役割をもってよい循環をつくることで、いい街になっていく感じがしますね。

■コロナウイルスの影響から思うこと。そしてこれから

新美
一緒に雑誌をつくってきた多くのお店がコロナウイルスの影響を受けているいま、これからのことについてどうお考えですか?
井上
昔先輩にも、「取材とは材料を取ることを意味する。雑誌は無償で材料を提供してもらってつくらせてもらっているんだ」と言われていましたし、取材を受けていただかないと雑誌は成り立ちません。僕らは代弁者、あるいは拡声器として街やお店のよきところを伝えることが第一義であり、共存共栄で一緒にやっていけて初めていい関係で長く続けられるのだと思います。オズマガジンとしていま何ができるのかを僕らも模索しているところです。何かしらお店や人に還元できるような内容にできるといいですね。
もしかしたら、いつもより少し狭い範囲で自分たちの街を捉え直すいい機会になるかもしれません。通勤も減って移動が少なくなるとしたら、より身近な足元に目を向けることが新しい生活様式のひとつになるかもしれません。また、これまで以上に合理化が進む側面もあると思います。だからこそ、僕たちはあえて「よりみちしよう=無駄な時間も作ろう」ということを強く発信すべきだと考えています。雑誌はもとより、街に連れ出すことも、SNSの発信やオンラインイベントも、まったく別の形の提案も、「無駄だけど大事なこと」としてお届けしていきたいと思います。
新美
コロナウイルスの影響によって生活が変わり、小さな発見をしている人はたくさんいるはずです。そしてみんなが発信できるツールを持っている。一人の力は小さくても、それを編んでくれるメディアの存在はとても大きく、意味があると思います。今日はありがとうございました!

★OZmagazine最新号「お菓子とお花」特集2020年7月10日発売予定

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  • 井上 大烈
    井上 大烈
    スターツ出版株式会社 オズマガジン編集長
    1977年生まれ。2000年株式会社芸文社入社、「カスタムCAR」編集部所属。2004年日之出出版株式会社入社、「FINEBOYS」編集部所属。2006年スターツ出版株式会社入社、「OZmagazine」編集部所属。2015年より同誌副編集長、2018年1月より同誌編集長。読者の毎日を少し豊かにする「よりみち」を提案することをテーマに、雑誌からイベントまでをディレクションする。
  • 博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
    1989年博報堂入社。メディアプラナー、メディアマーケターとしてメディアの価値研究、新聞広告効果測定の業界標準プラットフォーム構築などに従事。2013年4月より現職。メディア定点調査や各種定性調査など生活者のメディア行動を研究している。「広告ビジネスに関わる人のメディアガイド2015」(宣伝会議) 編集長。