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「Spatial Computing」とその未来【XR Kaigi レポート】
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「Spatial Computing」とその未来【XR Kaigi レポート】

2019年12月に開催された「XR Kaigi」に、博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター(以下MTC)の目黒慎吾が、ARクリエイティブスタジオ MESON CEOの梶谷健人氏とともに登壇しました。また、「AR City in Kobe」と題したARクラウドを活用した都市開発シミュレーションの体験ブースを展示。本稿では、セッションと多数の方にご体験いただいた体験ブースの様子をレポートします。

■2019年、XR市場は多数の大きなニュースが

まずはMESON CEOの梶谷氏から、ARクリエイティブスタジオである同社の取り組みやARのユースケース、本イベントでも展示された「AR City in Kobe」をはじめとした、博報堂DYホールディングスとの取り組みについて紹介しました(AR City in KOBEについては後述します)。博報堂DYホールディングスの目黒からは、彼らの所属するMTCの取り組みを紹介。次世代の顧客接点のひとつとしてXRに注目をしており、コロンビア大学と共同研究を進めていることを紹介しました。

続いて、2019年はXR市場にさまざまなニュースがあったと解説していきます。世界的にも多数のARデバイスが登場し、日本へもMRグラスが上陸。さらに大手企業も続々とXR市場への参入をするなど、大きなニュースが多かったと梶谷氏。目黒からは「ARクラウド」について解説がありました。現在はスマートフォンゲームや家具配置アプリなどで活用されているAR技術は、画面上では他人と共有しているように見えているが、実際には個人のデバイスに閉じられており、それをAR空間で共有化する技術が「ARクラウド」であると語りました。加えて、「仮想空間でコミュニケーションが取れるようになると、次世代のプラットフォームになっていくのでは」と期待を寄せました。

博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 目黒慎吾

■MESONと博報堂で考えるSpatial Computingとその未来

梶谷氏からは、「Spatial Computing」(空間コンピューティング)について、MESONとMTCが最近、議論をしているなかで2つの仮説があると紹介しました。
1つめは「オンライン・オフラインの超越」。スマートフォンは手入力でのインプットがメインですが、“まだデバイスとして人間との距離がある”と梶谷氏は指摘しました。ARクラウドでは目の前のモノとデジタルデータが連動していくことから、「デジタル世界と物理世界の距離をゼロにするのがARの意義」だとし、今後は視覚や聴覚から情報を出すようなサービスが生まれる可能性もあるとしました。

2つめは「人間感覚器官を超える変化が起こる」とし、シナスタジア(共感覚)という特殊な知覚感覚を例に挙げ、そのような特殊な感覚をARグラスなどのデバイスが実用化されることで、後天的に獲得できるようになり、人間の感情が可視化されていくのではという仮説を紹介しました。

MESON CEO 梶谷健人氏

目黒は、「IoTといった“モノがインターネットに接続”していったように、今後は“場所がインターネットに接続”していき、そこでの体験が求められる時代になっていくのでは」と仮説を語りました。ARが普及していった時代では、現代に例えると無料Wi-Fiがないと生活者ががっかりするのと近い感覚で、ARによる付加的な体験サービスがその場所の価値を高めていくのではないかと指摘。加えて、戦後はモノ消費、2000年代はコト消費、2010年代はモノコト消費と移り変わり、いまはトキ消費となっていったことを例に挙げ、「MRデバイスはコンテクストがわかる。飛行機の搭乗前の皆が水を捨てて持っていないタイミングに、デバイスから『機内は乾燥するので水を買っておくのはどうですか?』と広告が出たり、場所と時間が紐づいて最適化される、TPOに応じたサービスが生まれそう」と話しました。

■「SXデザイン」の可能性とは

最後に、「Spatial Computing時代のデザイン」をテーマに語り合い、「スマホデザインは平面だったが、これからは空間や立体になり、視界や環境そのものをデザインするようになる」と梶谷氏。さらに、コンテクスト、声、ジェスチャーとインプット方法も変わるとし、ARにおいては視覚や触覚のフィードバックが必要で、デザインすべき感覚器官が変わるので、デザインの性質も変化する。これを「SXデザイン」(Spatial Experience Design)と呼ばれていることを紹介しました。

目黒は広告づくりにも通じるものがあるとし、「広告会社は、例えば飲料(ビール)のCMであれば、冷えたグラスやのど越しの音など美味しく感じさせる“シズル表現”を追求してきた。しかし、表現が平面的なものから三次元的・空間的なものになっていくとその”シズル表現”も変わってくる。今までのような二次元的に美味しく感じさせるということだけでなく、美味しく感じさせる体験とは何か?をも考えていく必要もありそう」と示唆しました。梶谷氏はARデザインを始めてからは、体験を取り扱うことから映画監督のような絵コンテを書くようになったとエピソードを紹介し、今後進化しつづけるXR市場では、いろんなスキルセットをもったチームで取り組んでいきたいと、この場をまとめました。

■都市開発シミュレーション「AR City in Kobe」

今回「XR Kaigi」で展示した体験デモは、2019年4月に神戸市で開催されたクロスメディアイベント「078kobe」において、両社が共同で開発し、体験デモ行った「AR City in Kobe」をアップデート。078kobeで展示した「AR City in Kobe」は未来の神戸市を複数のユーザーが仮想空間の中で同時に作り上げる体験が可能な都市開発シミュレーションで、来場者にはiPadを⽤いてARクラウド技術の体験をしていただきました。
今回は「NrealLight」や「Magic Leap One」といったMRグラスを着⽤しながら、同様の体験を行っていただきました。iPad上にて平面で表現していたユーザーインターフェース(UI)を全面的に刷新し、MR グラスという新たなデバイスでの共有体験を実現しました。

当日おとずれたゲストは実際にMRグラスを着用し、AR空間での神戸市にさまざまな観光スポットを配置していく体験デモを行った

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    梶谷 健人
    MESON
    代表取締役CEO

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