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アプリはマーケティングのコアツールとなるのか? ──スマホアプリマーケティングにおける、これからのエージェンシーの存在価値
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アプリはマーケティングのコアツールとなるのか? ──スマホアプリマーケティングにおける、これからのエージェンシーの存在価値

生活者の最も身近にあるデバイス、スマートフォン。多くの生活者はスマホにダウンロードしたアプリを、生活や仕事のさまざまな場面で使いこなしています。そのアプリをマーケティングに活用する試みが、現在あらゆる業種で進んでいます。「最も接触頻度が高い顧客接点」であるアプリで企業課題を解決していくために必要なこととは何でしょうか。博報堂DYグループ内でアプリ活用に詳しい二人に聞きました。

重要な顧客接点としてのアプリ

──アプリをマーケティングに活用する企業が増えています。はじめに、その背景について説明していただけますか。

増田
商品やサービスのコモディティ化がどの市場でも進んでいて、CRMによって顧客と継続的な関係をつくっていくことが多くの企業の課題となっています。関係づくりの起点となるのはさまざまな顧客接点です。その接点の一つとして、アプリの重要性が高まっています。というのも、スマートフォンの保有率は日本全体でも8割程度に達していて、利用時間もどんどん長くなっているからです。それはすなわち、アプリとの接触機会が増え続けていることを意味します。アプリを通じた顧客との関係づくりに多くの企業が可能性を見出しているのはそのためです。
桝屋
アプリの活用が先行していたのはゲーム業界ですが、最近ではナショナルクライアントと呼ばれる大手企業が非ゲームの領域でアプリを使ったコミュニケーションにチャレンジするようになっています。しかし、アプリ活用のノウハウの蓄積がある企業はまだまだ少ないのが現状です。どのクライアントも試行錯誤を繰り返していらっしゃいます。
増田
アプリ活用は、旧来のプロダクト開発の発想ではなかなかうまくいかないことが多いんです。開発時点だけではなく、リリース後にもユーザーの反応を見ながら継続的に機能を充実させていくプロセスが必要になるからです。完璧なものをつくってから世に出すのではなく、まずは試してみて、徐々に改良していく。アプリ活用にはそんなアジャイルな発想が求められます。
桝屋
「なぜアプリなのか」、あるいは「それによってどんな価値を顧客に提供するのか」といった目的を明確にすることも大切ですよね。その見極めがないと、アプリの設計に失敗してしまうケースが少なくありません。我々としては、コンセプトをつくる段階から関わらせていただいて、企画・開発、リリース、運用、効果測定、新しい戦略策定といった一連の流れをトータルでお手伝いさせていただくのが理想です。しかし今のところ、すでにアプリ展開が始まっていて、そのパフォーマンスに課題がある場合にお声がけいただくケースが多いのが現状です。
増田
逆に、プロセスの最上流から関わらせていただいて、継続的に伴走させていただければ、大きな成果に結びつけられる可能性は格段に高くなると思います。そういう力が博報堂DYグループにあるということが、まだまだクライアントの皆さんに伝わっていないのかもしれません。そこは我々の課題ですね。

アプリのトータルな活用が企業を成長させる

──アプリ活用の成功の指標にはどのようなものがあるのですか。

増田
現状、最もよく使われている指標はダウンロード数で、ほかに、DL後の登録数や売上、DAU・MAU、ROAS(広告の費用対効果)などが指標になることもあります。
桝屋
アプリ展開をプロモーション施策と考えれば、最も基本的な指標はおのずとダウンロード数になりますね。ダウンロード後にどのような成果をKPIとするかは、クライアントの課題によると思います。
増田
課題や戦略によってKPIが多種多様なのがアプリ活用の難しさと言えるかもしれません。逆に、KPIが明確でないと戦略の設計や開発がうまくできないという面もあります。戦略、開発、KPI──。そのそれぞれの要素をうまくリンクさせてPDCAを回していくことが、アプリ活用の一つの目標になると思います。

──クライアント側でアプリを担当されるのは、どのような部署なのですか。

増田
これもクライアントによってまちまちですね。多いのは、サービス開発やプロダクト開発の担当部署です。アプリ活用にはデジタルマーケティングのノウハウが必須なのですが、必ずしもデジタル関連の担当者が加わってチームをつくるのは、現状ではなかなか難しいようです。
桝屋
事業部ごとに別々にアプリをつくるケースも多いですよね。それから、イベントやキャンペーンのために単発で展開するアプリと、継続的なコミュニケーションを目的にしたアプリが一事業部内に混在しているケースも珍しくありません。自社で展開しているさまざまなアプリをどう有機的に連携させていくか。それが多くの企業の課題になっていると感じます。
増田
あらゆる機能を統合したスーパーアプリをつくるのは簡単ではないので、現状では、各事業部の戦略や顧客接点ごとにアプリを使い分けるのが現実的だと思います。必要なのは、一度アプリの立ち位置を俯瞰的にとらえて、そのそれぞれのアプリの間に相互送客などの回遊機能を上手につくることです。そのような方法でアプリ全体のパフォーマンスを上げることができれば、アプリは企業を成長させるコアツールになる可能性があります。
桝屋
そのためには、アプリを活用したマーケティングを支援する僕たち自身が、クライアントのマーケティング部門の責任者や経営企画室の方々と戦略についてしっかり議論できなければなりません。そこが博報堂DYグループの力の見せどころだと思います。

アプリ活用のフォーメーションづくりを

──アプリを活用するマーケティングは、いろいろな意味で過渡期ということですね。そのぶん、チャンスも多いと言えると思います。

桝屋
そのとおりですね。まずは、アプリを開発して展開していくための最適なフォーメーションづくりが必要だと思います。これはクライアントだけではなく、博報堂DYグループ側にも言えることです。アプリに何らかの形で関わってきた人はグループ内に少なからずいると思うのですが、どの部門にどのくらいの知見が蓄積しているかがなかなか把握できていないんですよね。
増田
グループ内にどんなリソースがあって、そのうちのどれをどのように組み合わせれば最適なバリューチェーンがつくれるのか。それを本気で考える必要がありますよね。広告をつくる場合は、営業、プランニング、クリエイティブといった役割分担も有効だと思いますが、顧客接点をトータルにつなぐことが求められるCRMの場合、より部門間の役割分担をまたいで、横断的にシナリオ設計していくことが重要になります。
桝屋
もちろん専門性は大切ですが、専門性と専門性の間にエアポケットがあって、そこが断絶しているためにトータルなモデルがつくれない。役割分担は効率を生みますが、そのような課題もあるような気がします。それぞれが専門性を磨きながら、一方でスキルセットを増やして互いの「重なりしろ」をつくっていく。アプリ活用するマーケティングでは、そのような取り組みが重要になると思います。
増田
インターネットが普及し始めた頃は「インターネットの専門家」というポジションがありえましたが、現在ではネットはすべてのコミュニケーションの基盤になっていますよね。同じように、アプリも「アプリの専門家」がいるのではなく、全部門にまたがる基礎的なコミュニケーションインフラと捉えることが必要だと思います。

アプリを軸にしてグループの資産をつなぎ合わせる

──アプリが生活者に非常に近いツールであることを考えれば、博報堂の生活者発想はアプリ開発に大いにいかされそうですね。

増田
そう思います。アプリにどういう機能があって、どういう遷移導線があれば、ユーザーに快適に使えってもらえるか──。その視点は生活者発想そのものです。
桝屋
生活者発想に基づいたフルファネルのリソースがあるのが博報堂DYグループの大きな強みです。マーケティングの戦略をつくるノウハウがあり、メディア活用の知見があり、テクノロジーの専門家がいて、クライアントの広範な業種に対する理解と知見がある。それらの資産を、アプリを軸にしてどうつなぎ合わせていくか。そこが勝負になると思います。
増田
例えば、マーケティング部門の人たちにとって、アプリはとても有用なツールです。継続的なコミュニケーションによって生活者のさまざまなデータを収拾することが可能だからです。各部門の皆さんがアプリ活用に可能性を感じて、積極的に関わってもらえるようになると嬉しいですよね。
桝屋
ゲームやECなど、特定業種の専門知識をもつプレーヤーはいます。しかし、クライアントの課題を踏まえてアプリの開発~戦略~実行(グロース)を俯瞰的に捉えて立ち回ることのできるプレーヤーはそう多くないと感じています。博報堂DYグループは、そのポジションを獲得することを目指すべきだと思います。そのポテンシャルが博報堂にはあるし、それが実現すればクライアントメリットを最大化できるはずです。
増田
現在、金融分野でのアプリ活用支援が進んでいます。今後は、食品、飲料、自動車、サービスなど、さまざまな分野でのアプリ活用支援にチャレンジしていきたいですね。成功事例をつくって、マーケティングにおけるアプリ活用の可能性を多くのクライアントに知っていただくこと。それが僕たちのミッションだと思います。
桝屋
製造業などのクライアントに対して、製品自体に関わらせていただける機会はそう多くはありませんでした。しかし、アプリなら、クライアントと一緒に企画し、開発していくことが可能です。ぜひ最上流からご一緒させていただいて、成功例を生み出せる機会をつくっていきたいと思います。そのために博報堂DYグループ自身がいかに最適なフォーメーションをつくれるか。そこが一つのカギになりそうです。
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  • 博報堂 
    マーケティングシステムコンサルティング局
    ユーザーエクスペリエンスデザイン部
    ストラテジックプランニングディレクター
    2009年、教育系出版社にて社会人生活をスタート。サービス開発、マーケティングプロモーション、新規事業開発など、多岐に渡る業務を担当。
    2016年、博報堂入社。事業会社出身の強みを生かした、ビジネス・マーケティング設計を得意領域とする。ゲーム業界に加え、食品・飲料、金融、スポーツを常時担当しているからこそできる、世の中を横断的にとらえた提案を心がける。
  • 博報堂DYメディアパートナーズ
    データドリブンマーケティング局 データドリブンマーケティング部
    ストラテジックプランニングディレクター
    調査会社、総合広告会社を経て、2017年に博報堂DYメディアパートナーズに入社。
    一般消費財~耐久財などを幅広く担当しながらも、特にアプリクライアントの担当実績が多く、深い業種知見を有する。
    調査会社やメディアプランナーの職歴を活かし、戦略設計からメディアを使ったグロース、PDCAサイクルの構築・実装まで幅広くプランニングできることを強みとしている。