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スタッフコマースの可能性 【第1回】「人」と「動画」を軸とした新しいコミュニケーション
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スタッフコマースの可能性 【第1回】「人」と「動画」を軸とした新しいコミュニケーション

店頭で接客をしていたスタッフなどがECサイトやオウンドサイト上の動画に登場して商品解説やリコメンドをする「スタッフコマース」。この新しいマーケティング手法に注目が集まっています。しかし、現在のところ定まった方法論があるわけではありません。スタッフコマースはECに限られた手法なのか。登場する人はスタッフだけなのか。どのような業種業態で使えるのか──。
スタッフコマースの可能性をさぐる連載の第1回では、スタッフコマース向けのソリューションを開発しているファナティックの野田大介氏と、同社と戦略的パートナーシップ契約を結んだアイレップ、そしてスタッフコマースに関わっている博報堂のメンバーが、スタッフコマースの今後の可能性について語り合いました。

野田 大介氏
ファナティック 代表取締役

戸田 充幸
アイレップ ソリューションビジネスUnit

岡本 和久
博報堂 DXソリューションデザイン局

武藤 重近
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局

山﨑 恭嗣
博報堂 ショッパーマーケティング事業局

これまでにない顧客体験をつくる

──「スタッフコマース」という言葉を耳にする機会が増えています。これは具体的にどのようなマーケティング手法なのでしょうか。

武藤
「スタッフコマース」については、店舗の販売スタッフが自社の商品を直接生活者にお薦めできるサービスが広がる中、業界の共通認識が生まれていったように思います。生活者が自分の好みやスタイルに近い販売員と出会い、提案された商品、販売員のセンスや人柄に惹かれて「ファン」になる状態がつくられるアプローチとして認識されていると感じます。

テクノロジーの進展により情報の選択肢が多様になる中、生活者は自分にとって必要な情報を得たい、という気持ちが高まってると感じています。その意味で、自分の好みやスタイルに近い販売員から提案される内容に対し、背中を押される部分は大きいと考えます。

生活者は、販売員からの提案内容や、彼らのセンス・人柄への共感を深めていく中で、「ファン」になっていくのだと思います。「スタッフコマース」の魅力は、まさにこうした買い手と売り手を超えた人間関係を構築できるところにあると思っています。

山﨑
「人」を介することで、ECや顧客とのコミュニケーションに「あたたかさ」や「リアリティ」、あるいはブランドへの「愛着」といった価値が付加されるのがスタッフコマースと言ってもいいかもしれません。
岡本
スタッフコマースの「スタッフ」には、店舗で接客しているスタッフだけではなく、例えば、商品の開発者や、場合によってはブランドのファンも含まれます。開発者がどんな思いで商品をつくったか。そのブランドのどこが好きか──。そういったことを開発者やファンに語ってもらうことで、ブランドに対するエンゲージメントを醸成していくことができます。どのような「人」に登場してもらって、「何」を伝えるかがスタッフコマースのコンテンツづくりの大きなポイントになると考えられます。

──店員などが動画のライブ配信で商品をリコメンドする「ライブコマース」との違いはどのような点にあるのでしょうか。

戸田
スタッフコマースは、リアルタイムの配信に限ったものではなく、またオンラインでの直接的な売り上げを目指すだけのものでもありません。動画をいつでも見られる状態にしておいて、そこからリアル店舗への来店を促すといったケースもあります。
岡本
例えば、ショッピングモールに出店している飲食店などが、モールのウェブサイトに動画を掲載して、店舗への集客を狙うといった手法です。
野田
一方、ECに「接客」の要素を加えるためにスタッフコマースの方法を活用するケースもあります。これまでECコンサルティングを手掛けてきた中で、スタッフが生活者に語りかけているようなクリエイティブにしただけで売り上げが伸びるケースがいくつもありました。「お店に行けば接客してくれるのに、ECにはそれがない」と感じている生活者は少なくありません。そのようなニーズに「人×動画」で対応できるのがスタッフコマースの特徴です。一方で長尺の「動画」ではコンテンツの量産が難しく、スタッフ各個人での制作の継続性にも課題があります。そこで私たちは店頭にいながらでも簡単に投稿できる「ショート動画」という手法が有効だと考えています。

 
 

↑タップすると連続再生でデモ動画が視聴いただけます

店頭でしか体験できなかったことをオンラインで再現する

──スタッフコマースが生活者と企業のそれぞれにもたらすメリットについてご説明ください。

野田
生活者のメリットとして、購買の際に多くの情報を参照できる点が挙げられます。例えばアパレル通販の場合、これまではECサイトに洋服のコーディネートの写真を何点か載せて商品説明をするのが一般的でした。それに対してショート動画を使えば、その洋服を着た人が動いて見せたり、スタッフがコーディネートのポイントや素材について詳しく説明したりすることが可能です。それによって情報量が飛躍的に増えて、購買の意思決定がしやすくなります。またショート動画は連続再生での閲覧が一般的になりつつあり、次に何が再生されるか分からないので、店頭でのお買い物のように思わぬ出会いが生まれることもあります。
武藤
コスメなどでもショート動画ならではの体験を提供できると思います。例えば、自分の好みやスタイルに近いメイクをしている販売員の方が、実際にどのようなプロセスでメイクを行っているか動画で紹介してくれたら、その商品を使ったメイクの正しいやり方への理解を膨らませることができると思います。
戸田
今まで店頭でしか体験できなかったことを、動画を使うことでオンライン上でも再現する。そんな手法と言えます。動画を見て直接オンラインで購買しなくても、実店舗に行って商品に触れてから購買してもらうという導線をつくることも可能です。
山﨑
そこでも、やはり重要なのは「人」だと思います。日々接する情報が増大している中で、「誰が発信する情報を信頼するか」ということが生活者にとって重要なポイントになっています。自分と価値観が共通する人、自分とライフスタイルが同じ人の意見を重視して、その人がリコメンドする商品を購入する。そんな行動が増えています。アパレルショップでも、自分と趣味が合う店員に薦められたら買いたいと思うことがありますよね。そのような機能をオンラインで実現できるのがスタッフコマースです。

スタッフコマースが企業にもたらすさまざまなメリット

野田
企業側には、「人」を介することで生活者との共感をつくれるというメリットがあります。企業と一人の生活者が一対一の関係をつくるのは簡単ではありませんが、その企業に属する具体的な誰かと生活者という関係ならば、そこに共通点を見つけやすくなります。人と人が初めて会ったときは、どんなアーティストが好きかとか、どこに住んでいるかとか、どんなファッションが趣味かといった共通点を探って、そこから仲良くなっていったりしますよね。そんな一対一の対話に近い等身大のコミュニケーションを実現することで、ブランドの魅力を伝えやすくなることが、企業にとってのスタッフコマースの大きな利点です。
武藤
大事なことは、そういう等身大のコミュニケーションが生活者の好みやスタイルの数だけ存在するということです。彼らに対し、自分の好みやスタイル・センスと近しいスタッフと出会える体験を提供することができれば、結果として「ブランド」自体への愛着が深まると思っています。多様なスタッフがいて、多様な生活者との多様なコミュニケーションが生まれ、ブランドの魅力が多くの生活者に広がっていく。そんな流れをつくることが大切です。
山﨑
ワントゥワンマーケティングの重要性は以前から言われていますが、それを実現する際のネックは、コンテンツをひとりひとりに合わせて提供することができないことでした。多様な生活者に合わせて多様なコンテンツをつくることには限界があるからです。しかし、スタッフの動画であれば、簡単に撮影してサイトにアップすることができるし、それぞれの動画でそれぞれのスタッフが個性を発揮することで、多種多様なコンテンツを発信することが可能になります。そう考えれば、スタッフコマースとはワントゥワンマーケティングを実現できる有力な手法の一つと言えるのではないでしょうか。
岡本
もう一点、スタッフコマースへの取り組みが人材採用のプロモーションになるという側面もあります。スタッフコマースをより仕組み化する上で、動画に登場するスタッフの売り上げに応じたインセンティブを用意することはひとつのやり方です。インセンティブを用意することで、積極的に動画コンテンツ制作、活用に参加して売り上げを上げることがそれぞれのスタッフのモチベーションにつながります。採用プロモーションでそのようなスタッフコマースの仕組みを説明すれば、「この企業に入れば、オンラインでの活躍の場が与えられるし、活躍すれば、しっかり評価もしてもらえる」と多くの求職者に感じてもらえるはずです。

戸田
その視点は、社員の離職防止にもつながりますよね。スタッフコマースの取り組みによって社員のモチベーションを上げて、会社への愛着をもってもらうことで、離職率を下げる効果があると思います。

野田
オンラインでの情報発信ができるようになることで、実店舗でのリアルな接客が苦手だった人が活躍できるようになる可能性もあります。自分が出ることが苦手であれば物撮りで説明はテロップという表現だったり、さまざまな個性をもった社員が自分に合ったやり方で会社に貢献できるようになる。いわば、貢献の「面」が広がる。そんな機能もスタッフコマースにはあります。
戸田
スタッフコマースの動画は、必ずしもスタッフの顔を出さなければならないわけではありません。顔を出すことが苦手でも、商品説明が上手なら活躍できるのがスタッフコマースです。まさに多様な人材が多様な形で活躍できる手法と言えると思います。

業種業態を問わず使えるマーケティング手法

──スタッフコマースはどのような業種業態で使える手法なのでしょうか。

野田
これまではアパレルやコスメなどで活用されるケースが多かったのですが、基本的には業種業態を問わず、どのような企業でも使えるマーケティング手法です。リアル店舗を展開していて、実際に接客をしているスタッフが多い方がたくさんの動画をつくれると思いますが、実店舗がない場合でも、商品開発者やブランドの魅力を伝えてくれるファンなどがいれば動画をつくることは可能です。

山﨑
スタッフコマースがより効果を発揮するのは、静止画では魅力や特徴が伝わりにくい商品だと思います。
実際にスタッフコマースを介して、北海道のディーラーから中古車を買ったことがあります。中古車は「出会い」が大事で、見つけたときに買わなければ、もう二度と同じような車には出会えないかもしれません。しかし、ディーラーの実店舗で出会える機会は限られています。その点、スタッフコマースを介して実店舗と同じ感覚で車と出会って、購買を決めるということは大いにあり得ます。
武藤
教育業界でもスタッフコマースは力を発揮するのでは、と考えています。例えば、教育プログラムにはジャンルや領域が多岐に渡るものがありますので、自分の好みやスタイルに合ったプログラムを講師陣から動画で紹介してもらえるサービスがあると良いと思っています。講師陣から、プログラムで学習する内容は勿論のこと、学習ステップ、学習することで得られる変化・成果など、動画を通じてまるで目の前にいるかのような感覚で教えてもらえたら、「この先生たちから実際に学んでみたい」という意欲が沸くかもしれません。
チャットボットなどによって問い合わせに対応する仕組みを組み合わることで、より安心して購買できるようになると思います。

それから、旅行会社のプロモーションにスタッフコマースを活用することにも可能性を感じます。生活者が自分の好みやスタイルに近いスポットを発見し、そのスポットを紹介するスタッフから、動画にてまるで現地にいるかのような感覚でその土地の魅力を紹介してもらえたら、実際に行ってみたいという気持ちが高まるのではないでしょうか。

もう一つは金融商品ですね。保険など、テキストや画像に加え、動画があることで理解の深まりが期待できる商品については、生活者が自身のライフステージに適した商品の提案を講師から動画で受けられるサービスがあると良いと考えます。講師の方が動画を通じて、商品の特性・仕組みを噛み砕いて説明することで、生活者は自身に必要な商品への理解を深めることができるはずです。

岡本
不動産商品でもスタッフコマースは活用できると思います。不動産は数千万円から数億円という金額の買い物で、契約に到るまで複数の商談を重ねてゆき、購入を決めることが多いです。そのため、購入を検討している生活者は、大きな買い物をする決断をするゆえの心的負担も少なからず出てくる方もいらっしゃるかと思います。その点、スタッフコマースによって物件の魅力や住み心地、周囲の環境など、複数のコンテンツをオンラインで気になった時に見返せるようにすることで、購入にあたっての検討事項を解消できる可能性があります。また、実際に住んだときの様子をより想像できるようになるため、購入検討時のワクワク感を、さらにつくりだせるかと思います。
戸田
車も金融も不動産も、もともと営業スタッフにインセンティブが付与される業界なのではと思います。営業スタッフの皆さんがスタッフコマースを使うことによって営業成績を上げて、より多くのインセンティブを得られるモデルがつくれそうです。
岡本
テーマ特化型のバーティカルメディアやポータルメディアでのスタッフコマース活用の可能性も探っていきたいですね。それらのメディアにコンテンツを掲載する企業が、統一のインターフェースフォーマットへ、スタッフ制作の動画をアップすることで、メディアのコンテンツの幅が広がるし、生活者にとってもこれまでにない情報が得られるようになると思います。
野田
ぜひ、幅広い業界の企業の皆さんにスタッフコマースの力をお伝えしていきたいですね。

 

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  • 野田 大介
    野田 大介
    ファナティック 代表取締役
    ファッション誌の編集、スニーカーブランドの生産管理、アパレルブランドでの通販責任者を経て、2016年に株式会社ファナティック設立。大手アパレル通販のリニューアル支援や売上改善の傍ら、2017年にLINE公式アカウントの自動配信ツール「ワズアップ!」を提供開始。2020年には日本で6人だけのLINEの認定講師 LINE Frontlinerに任命(2022年現在9名)。2021年には動画接客ツール「ザッピング」の提供を開始。
  • 戸田 充幸
    戸田 充幸
    アイレップ ソリューションビジネスUnit
    長年PR・広報業に携わり、総合PR会社の立ち上げ参画を経て、アイレップに入社。アパレルや化粧品・ラグジュアリーブランド・商業施設・金融機関など幅広いジャンルのSNSやLINEの運用を戦略立案からコンサルティングまで従事。セミナー(ウェビナー)や社内外向け勉強会へも登壇。フルファネルでのデジタルマーケティングコミュニケーションを支援。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局
    イノベーションプラニングディレクター
    システムインテグレーター、メディアサービス企業を経て、博報堂入社。システムインテグレーターでは資産運用会社向けのSaaSサービスの開発に従事。メディアサービス企業では分譲マンションデベロッパー向けにマーケティング、メディアプランニング、商品開発を担当。博報堂では、OMO、B2Bマーケティング、MaaSのプランニングチームを歴任し、事業開発、UX、DX、AI等のテーマで得意先業務をアップデート。JDLA Deep Learning for ENGINEER 2021#2。
  • 博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
    テクノロジーを起点に事業・サービス領域の顧客体験からビジネスデザインまでを推進するクリエイティブビジネスプロデューサー。営業部門経験を経て、現在はクリエイティブ部門にて、OMO・コマース領域におけるビジネスデザインを見据えた顧客体験の設計から実装までを推進。
  • 博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    通信販売会社、通信会社を経て、博報堂に入社。通信販売会社では、MD・海外生産地開拓・を行う。通信会社では、ECモール・ライブコマースのサービス立ち上げから事業戦略・実装までEC領域全般に携わる。博報堂では、「HAKUHODO EC+」に所属し、ECコンサルタントとして事業戦略から実装に至るまで推進。