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Twitterデータを形容詞で分析してみえてきた、日本人の感情の変化【デジノグラフィ・トークvol.5】
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Twitterデータを形容詞で分析してみえてきた、日本人の感情の変化【デジノグラフィ・トークvol.5】

博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)が提唱する、デジタル上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する手法、「デジノグラフィ」。

その可能性を探る「デジノグラフィ・トーク」シリーズの第5回は、Twitter上のツイートを解析し、エンタメ作品のコンテンツパワーを計測する角川アスキー総合研究所(以下、角川アスキー総研)との共同研究です。
今回はツイートに含まれる「形容詞」に着目し、生活者の感情変化を浮かび上がらせることを目的としました。
角川アスキー総研の吉川栄治氏、鈴木大介氏と、生活総研の堀宏史、露木章史が、分析結果を振り返り対談します。

Twitterの全ツイートを「形容詞」で分析してみる

生活総研 露木章史(以下、露木)
そもそも、御社はなぜツイートの解析を行われるようになったのでしょうか。
角川アスキー総研 吉川栄治氏(以下、吉川)
角川アスキー総研がTwitterに注目したのは、エンタメ業界を横断できる指標を作るためでした。たとえば、世の中へ及ぼすコンテンツパワーは映画とソーシャルゲームでどちらが強いかを考える際に、映画は興行収入を、ゲームのダウンロード数を持ち出しても比較になりません。
そこで比較する方法として、ユーザーの「生の声」が表れるTwitterを独自に分析することで、新たな指標を作れる可能性があると考え、分析を始めました。Twitterは炎上も風物詩のようにいわれますが、決してネガティブな話題だけでなく、ポジティブな発見もあるメディアだと考えています。
生活総研 堀宏史(以下、堀)
その中で、形容詞が含まれる全ツイートを取得することにされたのはどうしてでしょうか。
吉川
本分析はビッグデータ工学で著名な東京大学の喜連川優教授の研究室とNTTデータと共同で2014年より取り組んでいるのですが、解析の結果、形容詞が含まれるツイートは、エンタメのキーワードが含まれる割合が高いとわかりました。逆に考えると、たとえ具体的なコンテンツ名が明示されていなかったとしても「形容詞が含まれているツイートは、エンタメに関するツイートである可能性が高い」と考えて、形容詞を中心にツイートの抽出フィルターを作っている、とお考えいただければ。
露木
固有名詞ではなく、「うれしい」や「たのしい」のようなエンタメに接触したときの反応として現れる形容詞が再現性のある抽出フィルターとして活用されるというのは面白いです。
今回の共同研究では、この「形容詞」そのもののツイート量に注目しました。Twitterの中で、日本人の感情が経年でどのように変遷しているのか、そしてそれぞれの感情にどのような言葉が紐付いているのかを分析していきたいと思います。

6つの形容詞から分析してみえた、男女別の変化

露木
今回の分析では「うれしい、たのしい、かわいい、すごい、やばい、かっこいい」という6つの形容詞を選んでみました。「うれしい」「たのしい」「かわいい」「すごい」は2016年から3か年で増加傾向にあります。一方で、「やばい」と「かっこいい」は前者と比べ横ばいです。
吉川
「うれしい」というツイートしたアカウント数の推移をみると、右肩上がりに伸びているのが、20代、30代、40代の男性です。特に30代以上の男性が「うれしい」とツイートする件数が伸びているのが特徴的でした。
日本は「幸福度調査」の国際ランキングが毎年下がっているという声もありますが、調査方法への疑問視も聞かれます。おそらくTwitterだと、調査アンケートで答えるよりも、そっと本音を出せるので、このような特徴がみられるかもしれません。
デジノグラフィのポイントとしては、「通常の調査では出てこない生活者の本音」がアクチュアルなデータに表れているのが興味深いポイントですね。
「うれしい」が増えている点については、生活総研が実施している長期時系列調査の「生活定点」では現在の日本は「この先が良くも悪くもならない」という認識の上で、身の回りの楽しさや喜びを覚えている人が増加傾向にあります。全体的なムードとは意外と、今回のTwitterの累積に表れているような「うれしい」とも共通しているのがみて取れます。
角川アスキー総研 鈴木大介氏(以下、鈴木)
Twitterアカウント全体の属性シェアでいくと30代男性が最も多いのですが、今回分析したツイートにおいては20代女性が、どの形容詞でも一番に多かったですね。つまり、形容詞は女性のほうがよく使う。けれど、「うれしい」に関しては、20代、30代、40代の男性が2016年から2019年にかけて2倍ほどに増えています。普段、男性は面と向かって「うれしい」と口にしないけれど、Twitter上ではよく使っているともいえます。
吉川
30代や40代の男性は「うれしい」以外にも、「かわいい」も増えていました。全体感としては、30代や40代は男女ともにポジティブな形容詞が伸びています。ポジティブな感情を表現しやすくなったり、表すことに抵抗がなくなったのでしょうか?
実際のところ、「うれしい、たのしい、かわいい、すごい」についてみていくと、言及しているテーマや対象のバリエーションに広がりがあります。逆にそれらに比べてツイートの絶対数の少ない「やばい」や「かっこいい」に関しては、具体的な対象が絞られている様子もみて取れました。
「かわいい」というものの対象が広くなって、なおかつ女性だけではなくて、20代や30代の男性を中心に「かわいい」の多様化が起きているのかもしれません。
露木
「やばい」は雪や台風など気象や気候にかかわることや固有名詞に使われる機会に限定されがちなのに対して、「たのしい」や「かわいい」は対象が数多くあり分散しています。

女性たちが「誕生日」をつぶやかなくなっている

露木
「うれしい」や「たのしい」と共にツイートされる共起語のランキングもみてみました。その際に面白かったのは、「誕生日」の順位が年々下がっていることでした。
鈴木
確かにそうですね。ツイート全体でも、誕生日というキーワード自体が減ってきています。特に20代女性は落ち込みが激しい。
吉川
増加率でいえば、これも男性は30代、40代、50代では増えています。ただ、データ的には女性は総じて減っています。30代女性だけは、若干増えていますが。
露木
むしろ、今まで「誕生日」を使ってきた20代女性のツイートが減少したから、全体を押し下げているということですね。
鈴木
そうですね。逆に男性の場合は、何かのキャラクターに対する誕生日祝いや、ファンが集う「生誕祭」みたいな言葉が伸びています。
Twitterで「誕生日」という表現の数が減ってきているのは、その誕生日を人にシェアして一緒に祝おうという気持ちが、少し減っているとも想像できます。
逆に、「生活定点」では、自分へのご褒美として自分にプレゼントを買ったことがあるという調査結果が、最近伸びてきています。なので、一つの仮説としては誕生日がよりパーソナルなものになっているという見方もできそうです。その行為をSNSやTwitterでシェアするのではなく、より近しい人と祝っているのかもしれません。
実際のソーシャルなアクチュアルデータをみていくことにより、人の隠されたインサイトの価値観の変化も読み取れる可能性が出てきていると感じました。
 

検索だけではみえないトレンドを、SNS分析でみつける

Twitterではポジティブな連鎖が可視化されづらいなかで、今回のように形容詞を解析、分析することによって、しっかりデータとして出せたのは非常に興味深い提案だと思います。こういったかたちで、SNSのデータを解析していく視点を持つことで、生活者のつながりも可視化されていくのだと感じます。
吉川
ただ、Twitterだと感情の表面はさらえるのですが、「なぜ、そう思ったのか?」みたいな深掘りができにくい。そこをアンケート調査で相互補完みたいに調査できると、またみえるものが違ってきそうです。
補足的な話なのですが、Google トレンドで、それぞれの形容詞を検索してみると、どれもそれほど数としては伸びていないのです。「検索で世の中のトレンドを把握できる」という考え方もありますが、たしかにそれは一面でありつつ、「形容詞のトレンド」は検索だけでは測りにくいと思いました。
検索ワードは生活者の欲望や気持ちが具体的に顕在化したものです。ただ、SNS上のデータは、それらが顕在化する前の潜在的な状態を洞察できるのかもしれません。なおかつ、今回のように、時系列で形容詞みたいなものを追っていくと、検索結果からではみえない「価値観や行動様式の変化」がみえてきます。
これまでの調査や分析ではみえてこなかったサイレントマジョリティのリアルな生活者の声が、Twitterの形容詞の中に表れているのかなと感じます。
露木
指標でいえば、今後は「加速度」も検証したいと思います。さまざまなニュースやコンテンツ、イベントなどにどれくらいの早さで反応が広がっていくかについて、デジノグラフィの視点で分析を行うと、世相を予測できるような先行指標がみえてくるのではと考えています。
吉川
「加速度」と似た話では「密度」もありそうです。ラグビーワールドカップの期間で「リーチ・マイケル」という言葉のシェアが一定期間に多くされている状態を「密度が高い」と捉えれば、日本人全体のマインドシェアを測れるかもしれません。

角川アスキー総研では今、Twitterのデータ以外にも、各ニュースメディアの記事の見出しや、YouTubeの動画の再生回数、Google トレンドのワードなどの収集も行っています。これらを分析する中で「このワードは何時間メディアに登場し続けたのだ」を測ったデータもあります。これらの掛け合わせで、さらに議論を深めていけそうです。

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  • 吉川 栄治
    吉川 栄治
    株式会社角川アスキー総合研究所 
    プラットフォーム開発事業部 担当取締役
    2000年角川アスキー総合研究所入社(旧社名:角川デジックス)。Webサービスの開発や大手海外動画配信サービスの日本展開のための実証実験などを担当。2014年からはTwitterを始めとしたSNS上の口コミデータの収集と分析を元にしたトレンド解析サービスを企画し事業化。
  • 鈴木 大介
    鈴木 大介
    株式会社角川アスキー総合研究所 
    プラットフォーム開発事業部 研究員
    2001年角川アスキー総合研究所入社(旧社名:角川デジックス)。WEB制作スタッフとしてKADOKAWAグループを中心に様々なサイトの構築に携わる。2016年よりTwitter解析チームに参加し、調査・分析を担当。
  • 株式会社博報堂 博報堂生活総合研究所 所長代理
    1993年博報堂入社。これまでに広告業界でリアルとデジタルを融合させた新しい広告を実現し、カンヌフェスティバル、アドフェスト、ロンドン広告祭、クリオ、東京インタラクティブアドアワードグランプリ、文化庁メディア芸術祭グランプリ、モバイル広告大賞など受賞歴多数。カンヌフェスティバル等で審査員を務めるとともに、adtech等の国際カンファレンスでスピーカーとしても活躍している。
  • 株式会社博報堂 博報堂生活総合研究所 上席研究員
    2014年博報堂中途入社。自動車関連、通信、電力、金融、消費財、流通、家電等多数の分野で新規事業開発、新規サービス開発、ユーザーエクスペリエンス開発、アプリ開発、顧客データ分析等をコンサルタントやエンジニアとして、実装に向けてリードしている。