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生活者目線で考える、5年後のお金の使い方【アドテック東京2019レポート】
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生活者目線で考える、5年後のお金の使い方【アドテック東京2019レポート】

マーケティングとテクノロジーに関するカンファレンス「ad:tech東京2019」において、『生活者目線で考える、5年後のお金の使い方』というタイトルでセッションが行われました。スピーカーとしてLINE Financial株式会社マーケティング・コミュニケーションチームの岩田慎一マネージャー、楽天証券株式会社Marketing dept.の土井理輝氏、株式会社朝日広告社ブランドマーケティングプロデュース本部の西牧喜紀ディレクターが登壇、博報堂生活総合研究所所長代理の堀宏史がモデレーターを務めました。

■フィンテックによって変わりゆく生活者

テクノロジーの新しい変化によってフィンテックも変化し、それによってお金の使い方、お財布の持ち方も変わってきています。今日は、お金の未来について、いまどんな変化が起きているのかを生活者目線で語りながら、マーケターが今後マインドセットをどう変えて、どんなスキルセットが必要になるかまで話せていければと思います。
岩田
まずは、この8月に当社で実施したお金に関する意識調査の結果を紹介します。「ご自身で保有している金融商品、サービスについて」では預金と保険が最も高く、投資、ローンは低く、保有している金融商品=現金と保険が中心ということがわかります。
次に店頭でよく使う支払い手段については、現金とカードの割合がほぼ同数で、その次にスマホ決済となっています。性別別で見ますと、男性がやや高いです。
一方で貯蓄に関しては、これには性差がすごくあって、「株や貯金以外の方法でお金を増やしたい」という質問、つまり投資意欲は、男性が高い。逆に女性が高いのが節約などによる現金の貯金になります。今後は、キャッシュレス決済に慣れていた20代男性が結婚後どうなるのかも注目すべきポイントですね。
土井
このあたりのアンケートを読み解くのはマーケティング的にも難しい。男性は投資したくて女性はリスクを避けたいと思っている。世の中の半分以上の夫婦で家計を握るのは女性なので、20代男性が結婚後も高い投資マインドを冷やすことなく、いかに奥様、女性の方にアプローチするか、そのためにどんな商品開発、プロモーションが必要かを僕らも考えているところです。
岩田
給与振り込みがデジタル化すれば、状況が大きく変化するきっかけになるかもしれませんね。
西牧
奥さんに渡す給与明細を偽装してお小遣いを確保している人もいるそうなので、すべて透明化されることで困る人も出てきそうですが(笑)。
私の方からは消費と生産がどうなるのか、社会の変化などについてお話させてください。まず世界的な潮流として生活者の消費にもSDGsが強い影響を与えると思います。SDGsは社会、経済、環境という3つのテーマにわたる世界の約束事で、特に若い世代の意識はすでに高い。これを破ると「ダイベストメント(投資撤退)」が起きてしまうため、たとえば環境面ではスターバックスがストローなしで飲めるカップを使い始めるといった取り組みが始まっています。経済面でも、プラスチックのリサイクル市場は2030年までに600億ドルになりますし、リサイクルに加え、リユースやリデュースなども増え、まさにリニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへシフトしてきている。その経済効果は2030年までにグローバルで540兆円になるとされています。一生活者の立場で最もなじみがあるのは、シェアリングエコノミーかもしれません。こちらも市場規模が大きく、メルカリやブックオフ、ゲオのセカンドストリートのようなシェアリングエコノミーの後押しになるC2Cサービスもたくさんある。新品である必要はなく、いまあるものをいかに回して暮らしていくかという考え方になってきています。また、フリーランス人口が増えるなど働き方も変わってきているし、「アドレスホッパー」「ミニマリスト」などに代表されるように、今後日本人の暮らしももっと身軽になってくるのではないでしょうか。そしてそのベースにあるのが循環型の新経済プラットフォームと言えるのではないかと考えます。
博報堂生活総合研究所でも、サブスクリプションやシェアサービスが利用されるようになった理由を調査したのですが、現在は社会状況や経済環境が変化し先行きが見えないために、生活者は自己防衛の一環として、できるだけ固定的な資産を持たないようにしているのではないかというインサイトがみえてきました。このような背景の中、お金は一体どこを回るのでしょうか。
土井
シェアリングエコノミーの根底にあるのは、「自分が持つ資産、リソースを余すことなく使う」ために、遊休資産などをどんどんお金にしたり価値を生んでいこうということだと思いますが、投資はその最たる例でもある。投資の本質というのは、預金で眠っているお金に働いてもらって、利益を生み出しましょうということ。実はいま投資のプチブームで、今年6月に例の「老後2000万円問題」があってから、我々の口座増加数も毎月過去最高を更新し続けています。シェアリングエコノミーの隆盛と、自分の資産を活かして稼ぐという価値観が広がってきているのは、無関係ではないと思いますね。我々も、先ほどお話しした「預金しておきたい」という奥様のマインドを変えるにあたって、楽天ポイントで投資信託買えますとか、100円から投資できますとか、手軽なサービスを増やしているところです。

改めて「5年後お金の使い方がどう変わるか」という問いについてですが、これは「決済手段がどう変わるか」ということに大きくつながっている。具体的に見ていくと、投資信託の積み立て口座数とクレジットカードによる支払い率が大幅に増えています。一方でキャッシュレス決済も増えていて、2017年時点で21.3%。5年後、国としても40%を目指しています。キャッシュレスとクレジットは似て非なるもので、クレジット(信用)という概念こそが、消費者の投資行動を変えていくと考えている。キャッシュレスは、スマホ決済などを通していまあるお金を使うこと。楽天ペイなどはクレジット決済なので、未来のお金から買うという考え方になります。そうした前提で5年後を考えると、クレジット決済が現金決済と半々くらいになるかなと思っています。それによって、たとえば楽天スタジアムは2017年くらいから現金が使えない完全キャッシュレス化しているのですが、観客動員数が増えただけでなく売り上げが20%ほど上がっています。投資信託の支払いも、現金で設定している方よりクレジットで設定している方の積立金の方が大きい。クレジットによって財布のひもを緩ませる、消費者の財布を数値的に膨張させることができ、それが行動にも影響を与えているわけです。良くも悪くもクレジットによって誰もが高いものを買えるようになると、値段そのものの意味は薄れ、むしろサービスに共感できるかが問われることになるのではないでしょうか。
僕自身スマホ決済アプリを多用していて現金をあまり目にしなくなりましたが、かつて1万円札を見ると、お金そのものに価値があるように感じていたのが、いまは受けたいサービスの対価としてそれだけの価値があるか?という視点で見るようになりました。

岩田
これまでは手持ちの現金がどれくらいあるかが購買検討の大きなハードルだったわけですが、後払いという決済手段が広がることで、価格よりも価値の吟味に時間をかけられるようになり、商品の選び方、優先度が変わることになる気がします。それによってマーケティングにおいても、キャッチコピーなどのコミュニケーションも変わっていくでしょうね。
土井
たとえば自分の好きなアーティストの1000円するCDを買いに行って、他のアーティストのCDが800円だったからそっちを買う、ということにはならないですよね。価格から離れて、本質的な共感があるかどうか、というのはそういうことだと思います。

■「キャッシュレスネイティブな生活者」の出現

ではお金の「持ち方」が変わることによって、たとえば「レジ待ちの5秒が待てない」とか「おもてなしよりスピード」など、人の行動や意識は変わるのでしょうか。
土井
金額を意識しなくなるというのは大きいですよね。あとは時間。今いくらあるか、というところから自由になる。マーケティングでも、給料日とかボーナスの日にキャンペーンを当てるなどの手法がありますが、そういうものに意味がなくなっていき、時間よりももっと本質的なところが大切になる。また値段を気にしなくなるということは、逆に価格を上げるチャンスにもなる。
なるほど。では投資マインドの方を掘り下げていくといかがでしょうか。
岩田
ポイントの新しい使い方として投資に回すというのは今までになかったこと。それはここ1年くらいで加速度的に広まっています。いまはポイントを積極的に貯める方と、ポイントカードすら出すのがめんどくさいという方と2極化してると思いますが、今回の国を挙げてのキャッシュレスの取り組みによってポイントが貯まりやすくなっています。ただ、ポイント活用という点でポイントを取り込んだサービス提供に対してはまだ限定的な印象ですね。とはいえ、それを手段にお金を増やしていけるということに気付き始めているという点では、投資を行うきっかけとなりいい兆しなのではないかと思います。
西牧
キャッシュレス時代にお金を目にしなくなるという話ですが、キャッシュレス決済における仮想のお釣りを投資に回すとか、あるいはポイントで投資できるとか、キャッシュレスになることで投資マインドが非常にカジュアルになっていく感じですね。面白いのは、「フォリオ」という投資サービスでは、ユーザーは「コスプレ」「京都」など、自分の好きなテーマを選ぶだけであとは自動的に投資してくれるんです。これで儲けようというよりは、自分が好きなこと、応援したいことに対して投資するという、応援のマインドなんですね。
土井
その流れで言うと、西牧さんが少し前におっしゃった「ダイベストメント」は欧米では当たり前の価値観で、環境に投資しているとか社会に貢献しているとかを評価して投資するのが一般的なんです。日本でこれがあまり進んでいないのは、個人投資家が少ないからだと思います。顕著な例が楽天。2017年に楽天が携帯電話事業に参入すると発表しましたよね。いまのモバイル業界を変えうる、ESG投資の面でもポジティブな動きのはずですが、翌日の株価が下がった。これは数値上でのみ企業を判断しているからで、欧米のように個人投資家がそういう動きを評価してくれれば、企業にとっては本来のいい取り組みができるかもしれないと思います。
最後に、マーケター目線で見た際、お金の変化がマーケットにどう変化を与えるか一言ずつうかがえますか。
西牧
キャッシュレスとプレイスには相性があると思います。土井さんのお話にもありましたが、スポーツ観戦スタジアムはキャッシュレスによってグッズや飲食売上が向上しています。ただ流れではキャッシュレスが進むでしょうが、プレイスによっては現金の方がいいというところもあるでしょう。そのときに、無人コンビニもそうですが、お客さんにとって本当に最高な体験は何だろうとか、一番感動してくれる買い物体験は何だろうというところを考えていく必要があるのではないかと感じています。
岩田
一生活者として最先端のものに触れるということがポイントかと思います。ウェブニュースで知った気にになるのではなく、たとえば Amazon Go のような最先端の取り組みを実際に体験し、これはいいとか、ここはいけてないとか、そういうのを感じる必要があると。一方で、現金重視の人のマインドや背景もよく知る必要がある。両方をわかっている状態がマーケッターとして重要だと思う。国の取り組み、ユーザーの変化も含め、また国内にとどまらず360度レーダーを張っておかなくてはならないと考えています。
土井
いまLINEさんYahoo!さん楽天などが何を狙っているかというと、要はデバイスと決済を押さえることで消費者の財布を押さえ、そこにサービスを加えて価値を出し、そこからデータをとっていくことだと思うんです。なので他業種やエージェンシーの方も、そこを無視しては今後事業の視座は開けていかないと思います。デバイスと決済に絡めて何ができるかというのが、いま一番ほしいアイデア。そこにアプローチすることで大きな変革が狙えるのではないかと思います。
ありがとうございます。今日の議論を通じて、「キャッシュレスネイティブな生活者」の出現を感じました。フィンテック、お金の変化というのがマーケターとしてもキャッチアップすべきリアルな問題だと思いました。今日はありがとうございました。
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  • 博報堂
    生活総合研究所 所長代理
    1993年博報堂入社。これまでに広告業界でリアルとデジタルを融合させた新しい広告を実現し、カンヌフェスティバル、アドフェスト、ロンドン広告祭、クリオ、東京インタラクティブアドアワードグランプリ、文化庁メディア芸術祭グランプリ、モバイル広告大賞など受賞歴多数。カンヌフェスティバル等で審査員を務めるとともに、adtech等の国際カンファレンスでスピーカーとしても活躍している。
  • 岩田 慎一
    岩田 慎一
    LINE Financial
    マーケティング・コミュニケーションチーム/マネージャー
    大学卒業後、テレビ業界からキャリアをスタートし、ソフトバンクモバイル、三井物産VIXIAを経て、2011年ライフネット生命保険に入社。
    マーケティング部長として広報、広告、ウェブを統括。オウンドメディア編集長も兼任。
    2018年10月LINE Financial株式会社に入社。LINE Financial事業全体のマーケティングを担当。現職。第10回ウェブ人賞受賞。
  • 土井 理輝
    土井 理輝
    楽天証券
    Marketing dept.
    大学卒業後、岡三証券に入社。
    対面(非ネット)証券の現場に愕然とし、今後の証券会社は全てネット証券に移行することを悟る。ネット証券を志すもそもそもITの知識がなかったため幅広く学ぶためにトランス・コスモスに転職。改めて現職の楽天証券に転職し、証券業界への情熱と、代理店で得たデジタルマーケティングの経験を活かし活躍中。
  • 西牧 喜紀
    西牧 喜紀
    朝日広告社
    ブランドマーケティングプロデュース本部 ディレクター
    早稲田大学商学部を卒業後、2007年、朝日広告社に入社。
    入社から一貫してデジタルマーケティング領域に従事。2019年よりブランドマーケティングプロデュース本部においてマーケティング活動を実施するためのデータ基盤構築~マーケティング戦略策定を行っている。

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