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生活者の「つぶやき」を マーケティング資産に変える! トレンドスコープ座談会・後編
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生活者の「つぶやき」を マーケティング資産に変える! トレンドスコープ座談会・後編

Twitterなどのソーシャルデータをマーケティングに活用できるツール「Trendscope(トレンドスコープ)」。その日本版開発のプロジェクトを進めてきたのが、三井情報と博報堂DYグループの4人のメンバーでした。ビジネス領域を異にする2社が協業した意義とはどのようなものなのでしょうか。また、このコラボレーションによってどのような価値が生み出されるのでしょうか。Trendscope(トレンドスコープ)をめぐる座談会の後編をお届けします。
前編はこちら

異業種コラボレーションは何を生み出すのか

──トレンドスコープ日本版の開発は、博報堂DYグループと三井情報の協業によって実現しています。このコラボレーションの意義について、それぞれの考えをお聞かせください。

岡部
三井情報の主要なお客さまは、企業の情報システム部門です。一方、トレンドスコープのユーザーとして想定されるのは、マーケティング部門や商品開発部門で、僕たちにとっていわば未知のお客さまです。そのようなお客さまと「会話」をしていくには、博報堂DYグループの幅広い知見がぜひとも必要である。そう僕たちは考えています。
知念
三井情報にはデータ分析の技術があります。一方、博報堂DYグループにはそれを生活者・企業・社会にとっての価値に変換する力があります。その両者の強みの凹凸がうまくかみ合っているのがこの座組であると言えます。
もう一つ、このトレンドスコープの展開では、三井情報の親会社である三井物産とのコラボレーションも視野に入っています。三井物産はこれまで、原材料を輸入して日本のメーカーに販売してきたわけですが、近年、新商品にどのような素材を使えばいいのか、あるいは三井物産が取り扱っている素材によってどのような商品が作れるのかといった提案が求められるケースが増えています。場合によっては、三井物産自身が商品のプロトタイプを作ってお客さまにご提案することもあります。

──商社のビジネスモデルが変わってきているわけですね。

知念
そういうことです。その新しいビジネスモデルでは、商品の「作り方」や「売り方」という私たちがこれまでもっていなかったスキルが求められます。そのスキルをお持ちなのが、まさしく博報堂DYグループであるということです。
山中
今までも、博報堂としてクライアントの商品開発をサポートさせて頂くことはありましたが、商品開発に必要とされる素材の調達やデリバリーは、当然ながら専門外です。三井物産、三井情報、博報堂DYグループの協業によって、お互いにないものを補い合うことができるフォーメーションが生まれる。そう言えると思います。
岡部
新しい技術やそれを使った新しいモデルには、オープンイノベーションの考え方が求められます。自社、あるいは自社グループ単独で新しいモデルをつくるのには限界があるからです。その点でも、このコラボレーションには必然性があると思いますね。
知念
コラボレーションの範囲は、今後、お客さまの領域まで広げていくことも可能かもしれません。ベンダーとクライアントの関係から、事業パートナーへ──。そこまで広がるポテンシャルのある取り組みであると考えています。

テクノロジーと人間が織りなす技

井手
博報堂DYグループにとってこの座組が意義深いのは、何より新しいマーケティングの方法を創出できるコラボレーションであるということです。
トレンドスコープは、ひと言で言えば「生活者のリアルなデータを使って市場の現在と未来を洞察するツール」です。ブラックスワンは、この洞察の方法を「ボトムアップアプローチ」と呼んでいます。これに対して、従来のマーケティングの方法は「トップダウンアプローチ」としています。プロのマーケッターが市場を見立て、仮説を立て、マーケティングのストーリーを作っていく。それが王道・定石であり、これからも変わらないと思います。
しかし、どれほど熟達したマーケッターでも、人間である以上、必ずバイアスがあります。そのバイアスからマーケッターを解き放ってくれる手法はこれまでなかったと言っていいでしょう。自分が知っている範囲を超え、市場を俯瞰して新しい発見と出会わせてくれるのが、このトレンドスコープです。属人化した人間の情報収集の限界を超え、客観的な視点で生活者や市場を広く見られるように、マーケッターの仕事を助けてくれるのです。
山中
一方、「データを解釈する」という点では、依然として人間の力が求められますよね。
井手
そう。「助けてくれる」と行ったのはまさにそこで、「解釈」は絶対に人間の創造力が必要です。しかし、テクノロジーの力でいったんバイアスが極力押さえられた(≒アンラーニング)された上での解釈は、経験や勘などに頼ったこれまでの解釈とは別ものと言っていいでしょう。いわば、テクノロジーと人間が織りなす、より客観的でより妥当性のあるひとつ上の解釈を実現するのです。

山中
もう一つ、この取り組みには「バリューチェーンを拡げる」という意味合いもあると思います。従来の商品開発から販売に至るバリューチェーンの中で、三井物産が担っていたのは「調達」であり、三井情報が担っていたのはビジネス活動の基礎となる「システム開発」「データ分析」で、一方、博報堂DYグループが主に担っていたのは、「商品開発」から「販促・宣伝」領域でした。しかし、トレンドスコープを基点に各社の得意領域を掛け合わせることで、クライアントの原料調達から開発研究、そして商品企画まで、一気通貫的にサポートできるようになると思っています。
知念
バリューチェーン自体が、どんどんシームレスになっているわけですよね。コンセプトを考える、モノを作る、売る──。従来は、それぞれの領域のプロが担っていたその各プロセスがどんどん融合してきている。それを加速させているのがデータです。
井手
トレンドスコープという新しいデータ分析ツールを使うことによって、より柔軟で、滑らかで、軽やかなバリューチェーンをつくっていく。それによってクライアントや生活者のメリットを最大化していく。その可能性を追求していきたいですね。

市場テストのデジタルトランスフォーメーション

山中
ブラックスワンという企業の一番の強みは、クライアントとのプロジェクトで得た知見をベースに、汎用化を目的にツール化まで実現できる点にあると僕は考えています。実は、トレンドスコープのほかにも、「Sonar(ソナー)」というツールがありますよね。
岡部
あるカテゴリーにおける商品や素材などの存在感や価値を評価するのがソナーです。「仮想世論」をつくるツールと僕たちは呼んでいます。たんに現在における価値だけはなく、別の変数をそこに投げ込んだ場合の「世論」の変化をシミュレーションすることができるツールです。

知念
ミネラルウォーターの市場に向けて、新商品のコンセプトを投げかけるとします。そのコンセプトの中にちりばめられた言葉、例えば「朝」「スポーツ」「リラックス」「渇き」のうち、今のトレンドと結びつきやすいキーワードはどれで、それを投げ込んだ場合、仮想世論はどう変化するか。それを24時間以内に評価して、レポートを出してくれます。トレンドスコープが実現するのが商品開発のデジタルトランスフォーメーションだとすると、ソナーは市場テストのデジタルトランスフォーメーションのためのツールと言えます。
井手
新商品のコンセプトを開発する場合、そのコンセプトが生活者に受け入れられるかどうかをCLT(会場調査)やオンライン調査でリサーチする必要があります。しかし、それは、リリース前の商品の情報をリサーチのモニターに開示することを意味します。つまり、リサーチには常に情報漏洩のリスクがともなうわけです。そのリスクを恐れて、リサーチなしで商品をリリースして失敗してしまうというケースもあります。
しかしソナーを使えば情報漏洩のリスクが低減されるだけでなく、リサーチ期間を劇的に短縮することが可能になります。リサーチの設計から実施まで、CLTなら2週間、オンラインでも1週間はかかります。そこを1日に短縮できるわけです。しかも、何度でも繰り返しテストを実施して、コンセプトに磨きかけていくことができます。
岡部
トレンドスコープやソナーが非常に便利なツールであることは間違いありません。一方、これらのツールが従来のリサーチ手法と完全に置き換わるということではもちろんないと思います。課題やクライアントニーズに応じて、さまざまなリサーチ方法や人間の知見とデジタルツールをそのつど組み合わせて、最適な方法を編み出していくというのが、今後の方向性ではないでしょうか。
山中
最適なリサーチ方法を模索する上で、従来のリサーチ方法に加えて、マーケティングスキルや経験、そしてデジタルツールの活用も求められる。つまり、それら各要素をどう組み合わせるかに、マーケッターや分析担当者の独自性が現われると言ってもいいかもしれません。

「生活者中心の商品開発」に向けて

──最後に、今後に向けた意気込みをお聞かせください。

井手
トレンドスコープが実現するのはお客様の価値観が多様化する中で、そこを主役に据えた「生活者中心の商品開発」であると考えています。生活者が求めているものをつぶさに感じ取って、スピーディに届けていく。そんなマーケティング手法を企業側は組織力として備えることができると、生活がもっと素敵になるのではないかと思っています。
岡部
このコラボレーションの一番の意味は、新しいデータ活用の方法によって、いい商品やサービスが圧倒的なスピードで開発され、その結果、生活者が豊かになり、社会が便利になる点にあると思います。「共創」が生み出す新しい価値を、どんどん世の中に広めていきたいですね。
山中
これまでの2年間、この4人で繰り返し議論を重ね、目指すべき方向性やビジョンを共有してきました。ここからは、この取り組みを、それぞれの社内に、さらに社会に拡げていくフェーズに入っていきます。それがこれからの僕たちのチャレンジになると思います。
知念
三井情報が目指しているのは、ナレッジをつないで新しい未来を築いていくことです。そこに博報堂DYグループのナレッジを加えていただくことによって、素晴らしい未来が開けていくと考えています。ソーシャルデータ活用のスタンダードをつくるために、そして幅広いナレッジを融合してさらに新しい価値を生み出していくために、このパートナーシップをこれからも育てていきたいですね。
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  • 株式会社博報堂
    マーケティングディレクター

  • 前)博報堂DYメディアパートナーズ
    メディアマーケットデザイン局 データサイエンス部
    データアナリスト

    現)博報堂
    人材開発戦略室付

  • 知念 孝祥 ジョナサン
    知念 孝祥 ジョナサン
    三井情報株式会社
    流通・サービス営業本部
    流通・サービス営業部 第一営業室
    上級ソリューションストラテジスト

  • 岡部 伊隆
    岡部 伊隆
    三井情報株式会社
    ソリューションナレッジセンター
    ソリューション企画部
    上級ソリューションストラテジスト