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CES2019 現地速報レポート後編-テクノロジーがもたらす生活者エクスペリエンスの変化
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CES2019 現地速報レポート後編-テクノロジーがもたらす生活者エクスペリエンスの変化

前回 、CES会期中に5G、AI、自動運転が今年の中心テーマで始まり、いくつか紹介しました。
今回は後編レポートとなります。広範囲なCESをまとめるのは難しいのですが、個別のガジェットやテクノロジーは、他のメディアでたくさん紹介されていますので、マーケティング視点から自分なりに振り返ってみたいと思います。

CES2019で、気になった4つのトレンド

  1. ベンチャーのスピードを取り込む大企業のイノベーション「Lab:ラボプログラム」
  2. 自動運転は、コンセプトから「生活シーンへの正常進化」へ
  3. テクノロジーやデータは、「ヒューマンセントリック」な行動体験で伝えるべき
  4. 「中国のハイテクリテール」から進むイノベーション

総じて言うと、2年前はVoiceや自動運転の最新テクノロジーに注目が集まり、昨年はそれが進化してアライアンスや裾野が広がった、そして今年は「生活者エクスペリエンスを中心としたテクノロジーのインフラ化」を多く見た気がします。P&GのMarc Pritchard氏が言っていたように、CESはConsumer Experience Showだと。その通りです。Intelは、INTEL INSIDEではなく、INTEL OUTSIDEと打ち出し、自社の製品やテクノロジーがプロダクト内部を革新するのではなく、いかに生活者やビジネスシーンを変えていくか、という外側に焦点を当てていました。これらの動向は、CES2020や、5G時代の序章と見ています。

その他のトレンドで言うと、「5G」は業界スローガンのレベルで、正直まだまだな印象でした。5G本格化は、来年のCES2020で話題の中心になるのではないでしょうか。「AI」ももはやあらゆるブースやネーミングに使用され、どの部分がAIなのかよく分からなくなるほどになっていました。「中国勢」は、米中貿易問題の影響もあり、中国出展企業が今年は2割減少したそうですが、まだまだ存在感はありました。

1.ベンチャーのスピードを取り込む大企業のイノベーション「Lab:ラボプログラム」

既にこの数年で多くの大手自動車メーカー(Fordやダイムラー、Honda、Nissanなど)、またSamsungやSonyといったエレクトロニクスが主催するアクセラレータープログラムや社内ベンチャーといった動き(オープンイノベーションプログラム)はあったのですが、その動きは消費財メーカーにも広がってきています。CESに出展する大企業では、かなり多くの割合で実施されているイノベーション手法の1つといえるでしょう。

今年新しく目にしたのは、P&G社もLIFE LABの中で、P&G Venturesが5つのベンチャー(Opte:シミを検出しスキンプリンターで塗布、他)を紹介。
前編 でも触れたのですが、今年は消費財の代表的企業のP&GがCESに参加した事が、個人的には最もインパクトが大きかったです。研究開発部門が、従来の研究領域とは全く異なるテクノロジーやベンチャーと協業し、マーケティング部門とも連携し、作ったことのないプロダクトを開発する。しかも圧倒的なスピードで。これこそイノベーションであり、マーケティングそのものを変えていく動きだと私は思います。

他にも、whirlpool社は昨年、Yummly(レシピサイトサービス、米国版クックパッド)を買収し、今年もYummlyとの連携プロダクトを更に拡大。デモでは格段に精度が上がっているとのこと。また、WLabsというラボ組織があり、モバイルとつながるだけでなく、ユーザーの嗜好を学習し続けるスマートオーブンを開発。

Panasonic社も、Panasonic βというプロジェクトをシリコンバレーに設置し、デザインシンキングやスタートアップとの共創を取り入れる活動を行い、今年のCESで発表していました。他にもたくさんのラボプロジェクト、ラボプログラム、アクセラレータープログラムが各社からCESの場で紹介されていました。
このような、大企業のラボプロジェクトを通じて、ベンチャーと大企業の両方にメリットがあると考えます。ベンチャーにとっては、自社の信頼性や認知向上に役立つということ。大企業にとって最も重要なのは「スピード」。従来組織ではハードルの高かった「イノベーションのスピード」を手に入れる事ができます。他にも、生活者への新たなエクスペリエンスの提供や、企業にとってはリテール戦略の新規事業と言えるかもしれません。独自の肌情報やユーザーデータを蓄積し、スマートミラーを通じたレコメンデーションや、直接ユーザーとの関係構築ができることで、最近流行りのD2C(Direct to Consumer)の新規事業にも繋がっていく可能性が期待できます。

2.自動運転は、コンセプトから「生活シーンへの正常進化」へ

現地に来ている人と話していると、「今年は、目立ったものがないね」という声を何人かから聞きましたが、私は「今年の自動運転領域は、確実に昨年より盛り上がっていますよ」と答えています。Westgateエリアまで自動運転の展示スペースが拡大しているし、CESに復帰している自動車会社もあります。車単体の自動運転技術だけではなく、V2Xやスマートシティに関連するエコシステムや、様々なサイズのモビリティ(1人乗りや自転車のマイクロモビリティなど)、自宅までのラストワンマイルなど、「自動運転社会がもたらす生活シーンの具体化」という流れになってきました。

確かに今年は、自動車メーカーのキーノートもなかったし、大規模なコンセプトやビジョンの発表はありませんでした。むしろ今年は、モビリティプラットフォームを実際どういった生活シーンで使うのか、道路から自宅までのラストワンマイルをどう実現するかといった「生活者目線の具体化」が、圧倒的に増えていました。

PanasonicのSPACe_Cは、実際にそのプラットフォームのEV走行デモをブース内で行ったり、コンチネンタル社もContinental Urban Mobility Experience (CUbE)の中で、デリバリーロボット犬が荷物を自宅のドアまで運ぶデモを行っていました。昨年BYTON社は、M-Byteコンセプトを昨年発表し、CES ASIA(上海)や今年のCESを通じて2年越しの2019年内の実車販売の予定です。CESにおける自動運転は、テクノロジーやコンセプト段階から、確実に業界や社会として「生活者目線の具体化」を推進していく方向で、正常進化の流れに乗っていると言えます。

3.テクノロジーやデータは、「ヒューマンセントリック」な行動体験で伝えるべき

今年、個人的に劇的に変わったなと最も印象的だったのが、Panasonicブースです。
(https://news.panasonic.com/jp/press/data/2019/01/jn190108-3/jn190108-3.html)

昨年までは、電池からスマートホームや自動運転、カメラ、オーディオまで、幅広いビジネス領域のゾーンでそれぞれのテクノロジーや特徴を紹介する展示構成だったのが、今年は「Connected Mobility」「Intelligent Living Spaces」「Immersive Experiences」「Human Insight Technology」に領域を絞り、巨大スクリーンや体験ゾーンをオープンにして、多くの来場者が最新テクノロジーを体験できるブース構造になっていました。
実際は分かりませんが、SPACe_Cや電動バイクのLive Wire、V2Xマネジメントシステム、人や感情センシング、イマーシブエクスペリエンス(没入体験)といったテクノロジーも広いスペースを使い、来場者や体験デモを重視。また、それをオープンに見せていく手法も「ヒューマンセントリック」にすることで、PanasonicのA Better Life, A Better Worldのメッセージがより深く伝わった気がします。例えば、フィジカルストレスセンシングは、家庭やオフィスに導入されれば、家族や社員の行動ストレスをトラッキングし、リビングの広さや家具の高さ、サイズとか、オフィスのレイアウトや備品の場所など、データを活用して、人間のストレスを最小限に抑える設計ができるようになるのだろうといったことを体感することができました。
テクノロジーを紹介する時に、ディスプレイや映像、空間やサイズ感、スピード感、音楽といった要素も重要で、いかに実際の生活シーンの中で、従来の生活(Before)がテクノロジーやデータで変わるのか(After)を表現し、実際に来場者を行動体験させることで、格段に伝達力が上がるんだなと実感できた非常に参考になったブースでした。例えは良くないのですが、最近話題の動物園の行動展示に近い発想かもしれません。

4.「中国のハイテクリテール」から進むイノベーション

CESに来る前に、米中貿易問題が過熱し始めていたので、中国企業は控えめかなと思ったのですが、全くそんなことはありませんでした。

今年はAlibabaがLVCCサウスホールからセントラルの入り口側の場所に移動(格上げ?)し、AIや顔認識、スマートホーム、自動運転OSなど、自社のテクノロジーを幅広く紹介。特にAlibaba独自のTmall Genie(ボイスアシスタント)を中国のBMWに搭載と発表もありました。

また、今年初出展だったのが、テンセントグループのJD.com(京東)。彼らはAlibabaのタオバオに次ぐ、中国2番手のECを中核とした企業で、自動デリバリー配送システムやモビリティ、バーチャルフィッティング、スマートミラー、VRxEコマースショッピング、wechatペイメント連携といったハイテクリテールを革新する展示を行っていました。

中国の家電量販店のSUNINGも、Smart Retail Channel Solutionsとして、ロボット型ショーケースや顧客や販売動向を管理するダッシュボードを展示。

少し地味でしたが、Meituan(美団:共同購入やEC、デリバリー等に拡大中)も出展し、Meituan Autonomus Deliveryとして、デリバリーロボットやモビリティを紹介。
今までは、アメリカ企業に向けた中国ビジネスのゲートウェイとしてCESに出展していた中国企業が、上記IT大手企業が一斉に、ハイテクリテール領域を強みとした展開に変化していました。Alibabaグループのニューリテール構想を筆頭に、Eコマースやキャッシュレスペイメントなど、この領域は中国企業が圧倒的に進んでおり、その自社の強みをそのまま、CESの場に持ち込んできた印象です。確かに、巨大な中国市場のリテールネットワークとテクノロジーを求めるグローバル企業に対するプレゼンスアップの方法には最適なやり方でしょう。Eコマースやペイメントは、生活者のショッピング行動に直接つながる領域で、そこからオフライン店舗やサービスに派生していく中国ならではのO2Oイノベーションは、日本やその他の市場でもベンチマークとなります。生活者にとっても、既に日常で使っているオンラインサービスが、オフラインや店頭にも拡張され、日々の利便性がシンプルに改善されるという点は、普及に弾みがつく大きな要因となります。
今回の中国企業の展示は、ほぼ同じものが6月のCES ASIA(上海)にもありました。CES ASIA全体はラスベガスほどの規模はありませんが、中国のハイテクリテールに興味がある方は、6月のCES ASIA(上海)に行かれる事を強くお勧めします。
参考:CES ASIAレポート(https://www.hakuhodo.co.jp/archives/report/47992
少し極端ですが、今後、テクノロジーやデータの米中の競争がCESから始まるかもしれません。

生活者中心のエクスペリエンスに伴う、超スピードのマーケティング変化への対応が求められる

今までのCESは、最新テクノロジーやコンセプトのお披露目の場だったのですが、生活者が中心となるサービスやプロダクトの発表が表舞台となり、テクノロジーやデータが着実に、人間が意識しないプロダクトやサービスの裏方、インフラ側に浸透してきています。ITやベンチャー、自動車、家電といった一部の企業だけではなく、消費財も含むすべての企業やブランドが、テクノロジー企業になれるのではないかと思えるほど、様々なテクノロジーが、生活者のリアルなライフスタイルシーンに自然と入り込んでいました。CESは、こういったテクノロジーによって、私たち生活者のライフスタイルが変わることへの期待感、イマジネーションを膨らませてくれます。マーケティング視点で考えると、企業・ブランド・生活者の関係性が、テクノロジーの浸透によって劇的かつ、超スピードに変わるのは間違いないでしょう。グローバル視点で起きているこの変化を先読みし、生活者中心のエクスペリエンスが今後どのように変わるのか、その時のマーケティングをどうすべきか、我々マーケティング関係者は早急にその対応準備をすべきだと考えます。

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  • 博報堂 データドリブンマーケティング局 局長代理 グローバルデータマーケティンググループ グループマネージャー
    博報堂のフィロソフィーである生活者発想を軸に、デジタルやデータを活用したマーケティング領域の戦略プランニング、マネジメント、事業開発、イノベーション、グローバル展開を担当。自動車、IT、精密機器、エレクトロニクス、EC、化粧品業界を中心に、デジタルシフト、データ分析、DMP活用、データ基盤構築、組織開発など、マーケティングの高度化を支援。アジア、中国、インドの海外業務やテクノロジー動向にも精通。