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【連載 Creative technology lab beat Vol.4】人間の創造力をサポートする仕組みづくりを──クリエイティブとテクノロジーのあるべき関係とは?
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【連載 Creative technology lab beat Vol.4】人間の創造力をサポートする仕組みづくりを──クリエイティブとテクノロジーのあるべき関係とは?

「クリエイティブ×テクノロジー」をテーマに、広告制作業務の効率化と新しい価値創造の両方を目指しているのが、博報堂DYグループの横断型組織「Creative technology lab beat(以下、beat)」です。その活動、人材、プロダクトなどを紹介する連載の第4回では、AIの専門家である2人のメンバーとbeatのリーダーである木下陽介に、クリエイティブとテクノロジーのあるべき関係について聞きました。AIは人間のクリエイティブワークを代替することになるのか。それとも──。

木下 陽介
博報堂DYホールディングス 統合マーケティングプラットフォーム推進局 局長
兼 博報堂テクノロジーズ マーケティングDXセンター
Creative technology lab beat

青木 千隼
博報堂DYホールディングス 統合マーケティングプラットフォーム推進局 AIプロダクト開発チーム 兼 博報堂テクノロジーズ マーケティングDXセンター プロデュース1部
Creative technology lab beat

大﨑 翔平
博報堂テクノロジーズ マーケティングDXセンタープロデュース1部 部長
兼 博報堂DYホールディングス 統合マーケティングプラットフォーム推進局 開発グループ グループマネージャー
Creative technology lab beat

テレビCMをスマホ画面に最適化するソリューション

──はじめに、beatにおけるそれぞれの役割をお聞かせいただけますか。

青木
AIなどのテクノジーを活用した広告制作支援プロダクトの開発をマネジメントしています。博報堂DYグループ各社でクリエイティブ業務を担当しているメンバーのヒアリングをしてニーズを把握し、それをもとにプロダクトの企画をつくるのが主な役割です。
大﨑
青木さんが構想した企画を具体的なプロダクトの形にまとめていくのが僕の仕事です。システム構成、データ活用法、UI/UXなどを考え、プロトタイプをつくるプロセスを担っています。

──beatが開発しているプロダクト「H-AIシリーズ」の〈H-AI MOVIE RESIZER〉と〈H-AI IMAGES〉の開発はお二人が中心となって進めたそうですね。それぞれのプロダクトについて解説していただけますか。

青木
広告制作にAIを活用していこうというチャレンジが1つの形になったのが〈H-AI MOVIE RESIZER〉です。この10年ほどの間で、デジタル動画広告が広く活用されることになり、テレビCM用に制作した映像をスマートフォンなどでも配信したいというニーズが高まってきました。しかし、CM映像はテレビの大きな画面で見ることを前提につくられているので、スマホでそのまま流してもテレビのような視聴体験を提供することはできません。そこでAIを活用して、テレビCM映像をスマートフォンのフォーマットに最適化する仕組みがつくれないかと僕たちは考えました。それを実現させたのが〈H-AI MOVIE RESIZER〉です。
AIがCM映像の中の被写体などの要素を検出し、スマホの画面に合わせて再配置するというシンプルな用途に特化して開発しました。
大﨑
開発にあたって僕たちが重視したのは、クリエイティブのメンバーだけではなく、営業担当など幅広い人たちが使えるわかりやすいユーザビリティを実現することでした。これまで、テレビCM映像を再編集する場合は、元データを入手し、映像編集のプロをアサインし、編集機材を用意するといった工程が必要でした。それに対して、〈H-AI MOVIE RESIZER〉はウェブ上で操作できるので、特別なスキルがなくても活用することが可能です。

──映像の「最適化」の基準になるのはどのような要素なのですか。

青木
スマートフォンの動画広告の効果を最大化することがすなわち「最適化」であると僕たちは考えています。それを実現するために活用したのが、博報堂DYグループがもっているテレビCMに関する定点調査データです。これは2007年から継続的に収集しているもので、テレビCMの表現に対する好感度、注目換気度、演出への評価、商品購入意向など、独自の項目を設定して調査しています。僕たちは、それらのデータに基づいてCM映像を評価する機械学習モデルをつくりました。例えば、「表現好感度の向上を目指すなら、人物やロゴをこう配置した方がいい」といった観点でAIが評価し、それら評価結果を活用し、スマホ用動画制作を支援する仕組みになっています。

──動画広告のKPIによって最適化の方向性も変わってくるのでしょうか。

木下
そのとおりです。僕たちが活用している定点調査データは、CMのブランディングの要素を中心としたものなので、最適化の指標もブランディングの視点で設定することになります。視聴完了率や検索リフトといったデジタル広告のパフォーマンス指標に基づいたモデルをつくることも今後目指していきたいと思っていますが、まずは博報堂DYグループの強みであるブランデッド領域でのモデルを実現させました

配信前に広告効果を評価する

──〈H-AI MOVIE RESIZER〉を活用したこれまでの取り組みについてお聞かせください。

青木
〈H-AI MOVIE RESIZER〉のプロトタイプが完成して以降、グループ内のさまざまなセクションとの実証実験を行ってきました。その過程でいろいろなニーズや意見を聞くことができたのは大きな収穫だったと思っています。例えば、広告を具体的に制作する現場として、グループの制作会社と連携し実証実験を行ったところ、工数削減と納期短縮の期待効果が算出できましたし、博報堂DYメディアパートナーズからは放送局にもこのプロダクトを使っていただけるのではないかという提案を頂き、実証実験を行いました。無論、ブランドエージェンシーの営業担当からクライアント案件での活用を前提にした、実証実験を断続的に行って参りました。
大﨑
いろいろな人と話をしていると、僕たちが想定していなかった使い方があるという気づきが得られます。現在の機能は要素の再編集に特化していますが、例えば、映像のシーンを入れ替えるとか、新しいカットを差し込むといった機能を開発すれば、さらに用途が広がると思います。
青木
最近の動画広告では、例えば一つのTIPSとして、最初の数秒間のいわゆるトップカットの工夫が重視されています。〈H-AI MOVIE RESIZER〉は、元映像の構成や素材をそのまま使ってフォーマットだけを変えるという機能にフォーカスしていますが、大崎さんが言うように、新たな素材をトップに加えて広告効果を高めるといったチャレンジも今後はあると思います。それを実現するにはどのようなシステムが必要で、AIをどのように活用していけばいいかを現在検討しているところです。

──〈H-AI IMAGES〉についてもご説明ください。

木下
これまでのバナー広告は、たくさんのクリエイティブをつくって、すべてを配信したうえで効果の高いものを残していくという方法で効果を高めていました。しかし、このやり方は制作の負荷が大きく、広告のいわゆる「無駄撃ち」も増えてしまいます。その課題を解決するために開発したのが〈H-AI IMAGES〉です。
青木
バナーに掲出する画像や、一緒に掲出するテキスト、配信条件などをもとに、配信前にクリエイティブの効果を評価するのが〈H-AI IMAGES〉の基本的な機能です。これによって業務負荷や配信コストを削減することが可能になります。

大﨑
〈H-AI IMAGES〉を活用することで制作現場のプレッシャーが少なくなるという効果もあると僕たちは考えています。制作担当者には、過去のキャンペーンなどで最も効果が高かったクリエイティブを超えるものをつくらなければならないというプレッシャーが常にあります。しかしこれまでは、過去の実績を超えられるかどうかは、実際に配信してみるまでわかりませんでした。それに対して、〈H-AI IMAGES〉を使えば配信前に小さなPDCAサイクルを何度も回せるので、高い効果が期待できるクリエイティブを自信をもって提案できるようになります。

クリエイティブに向かい合うことは「人」に向かい合うこと

──テクノロジーとクリエイティブを掛け合わせるbeatの活動の醍醐味と、その活動からどのような新しい価値を生み出していきたいか。それぞれのお考えをお聞かせください。

大﨑
以前の仕事ではクリエイティブ業務との接点がほとんどありませんでした。
beatのメンバーになって、日々クリエイティブに取り組んでいる人たちと話す機会が増えたことで、CM映像のワンカットにどういう思いが込められているかなど、これまで知らなかったことを聞くことができるようになりました。それが僕にとって大きな刺激となっています。beatのテーマの1つは、テクノロジーによって「生活者の心を打つクリエイティブ」をつくる支援をすることです。その方法に答えはありませんが、データをうまく活用することで最適解に近づくことはできるのではないかと僕は思っています。そういったチャレンジの機会があることが、beatで活動することの一番の醍醐味ですね。
青木
技術の進化によって、「打率が高いクリエイティブ」を機械的に再現することはある程度できるようになっています。しかしクリエイターの皆さんと会話をしていると、「この発想は絶対にAIからは出てこない」「このアイデアはデータからは生まれない」と感じることがよくあります。つまり、人間にしか生み出せないものは確実にあるということです。

とはいえ、「AIにはAIの、人間には人間の役割があって、その役割分担をしっかりしていこう」といった月並みな話にまとめてしまうことにも僕は抵抗があります。優れたクリエイティブは、専門の訓練を積んだ人たちが長年の経験をもとに生み出すものだとしても、それをテクノロジーの力でサポートできる可能性はあるのではないか──。僕たちはそう考えてみるべきです。テクノロジーやデータ活用のポテンシャルを過小評価せず、自由な発想で「テクノロジー×クリエイティブ」のあり方を考えていきたいと思っています。

木下
広告業界で働く中で、クリエイターが思いついた言葉や映像表現を見て、「これは世の中を変えるかもしれない」と感じたことがこれまで何度もありました。しかし、そのような発想や表現を生み出せるようになるには数々のCM制作を長い時間かけて経験することが必要です。その紆余曲折や試行錯誤にかける時間を可能な限り減らせるようなサポートをすること。それが僕たちの第一の役割です。

クリエイティブに向かい合うことは「人」に向かい合うことであり、そこには従来のテクノロジーとは異なる知見が求められます。一見無駄なデータが役に立つことがあるかもしれないし、既存のクリエイティブ制作のセオリーではまったく想定していなかった変数を設定することで新しいものが見えてくるかもしれません。従来は必ずしも重視されてこなかった要素を科学的なプロセスに入れ込んで、新しい価値を生み出していくことが僕たちの腕の見せどころだと思っています。

「人間中心の技術開発」に取り組んでいきたい

──生成AIが話題を集めています。beatとしてこのテクノロジーにどう向き合っていくべきだとお考えですか。

大﨑
生成AIを使えば、テキスト、画像、動画などを短時間で大量に生成することが可能になります。その点で、効率は圧倒的に向上すると思います。しかし、そうして大量に生み出されたクリエイティブから優れたものを採用したり調整を加えたりする作業は、経験や直観に基づいて個々のクリエイターが行うことになります。その作業もまたAIによってある程度サポートできる可能性があると思っています。クライアントの課題や生活者のニーズに対して最適なクリエイティブをAIに判定させるということです。「生成」と「評価」。その2つの機能を備えたソリューションをぜひ開発していきたいですね。

木下
博報堂DYグループは、生成AIの活用に関するガイドラインを整備しています。そのルールに基づいて、生成AIを使ってどのように業務の効率化を目指すのか、どういった直接的な収益につなげていくかについて考えるのは各事業会社の判断になると思います。それに対して、「このグラフィックは感動した!」「このコミュニケーション方法はわくわくした」といった生活者の心を動かしたり、社会に影響を与えたりするクリエイティブづくりに生成AIを活用する道筋を考えること。あるいは、これまで考えられなかったようなクリエイティブワークの新しい制作スタイルをつくり出していくこと。それがbeatの役割であると考えています。

──beatという組織の中で、今後どういう価値を生み出していきたいか。それぞれの思いをお聞かせください。

青木
先ほど、テクロノジーのポテンシャルを過小評価すべきではないという話をしましたが、それはAIやシステムによって人間の作業をリプレイスするということではまったくありません。クリエイティブワークはあくまで人間中心の設計であるべきであり、それに寄り添えるような精度の高いテクノロジーを開発していくことが必要であるということです。クリエエイターのケイパビリティを高めるためのテクノロジーと言ってもいいかもしれません。そんな「人間中心の技術開発」にこれからも取り組んでいきたいですね。
大﨑
beatのメンバーになってから、僕はあらためてクリエイティブという仕事に対するリスペクトの思いが強くなりました。AIを使ったソリューション開発に取り組んでいる僕が言うのも変ですが、クリエイターの皆さんにはAIに絶対に負けてほしくないと思っています。テクノロジーで仕事を効率化できるところは徹底的に効率化していけばいいし、それに反対する人は誰もいないはずです。でも、効率化だけを目指す取り組みは、僕たちとしても正直面白いものではありません。効率化すべきところを効率化し、その上で人間だけができる価値創出のプロセスをテクノロジーで支えていくこと。それが、僕たちがやるべきことだと考えています。
木下
テクノロジーの進化によって、これまで分断していた業務を統合することが可能になってきています。グループ内の個々のメンバーの専門性はもちろんこれからも重視されるべきですが、さまざまな専門性を有機的に結びつけて、社会や生活者にとって本当に役立つものを生み出せる統合的な仕組みをつくっていくことが今後は求められると僕たちは考えています。そのベースとなるのがテクノロジーです。マーケティングやクリエイティブなど、多様なコミュニケーション領域に携わってきた博報堂DYグループのアドバンテージをいかしながら、テクノロジーを駆使して、これまでになかった業務、組織、ビジネスの形をつくっていく。そのミッションをみんなの力を合わせて達成していきたいと思っています。

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