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今までのオウンドメディアとこれからのオウンドメディア
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今までのオウンドメディアとこれからのオウンドメディア

ソーシャルメディア時代とは何か、この時代の情報環境に置いて有効なコミュニケーション戦略とは何か、全4回にわたって、博報堂DYグループのデジタル・コミュニケーション・カンパニー、株式会社スパイスボックスの担当者が紐解いていく連載をお届します。
第3回目は、メディアコンテンツ事業部 事業部長 プロデューサーの角田和樹が、スパイスボックスが提供する「BRAND SHARE」のフレームワーク(第2回記事)を活用して継続的なコミュニケーション支援を行う、“これからのオウンドメディア”について語ります。

 

今回お話するのは、ソーシャルメディア時代に合わせた新しいオウンドメディアの形を象徴的に作ることができた、ある保険会社の事例です。

この保険会社には、第二の人生を楽しむという概念で、セカンドライフを応援するというブランドメッセージがあります。しかし現在では保険商品もコモディティ化が起きており、数多くの商品がある中で生活者はどれを選んだらいいかわからない状況です。さらに保険に対するイメージが、老後にそなえるネガティブなものとして捉えられている一面がありました。

そんな中でどうしたら生活者に自社の保険商品を選んでもらえるか。その答えはブランドのメッセージに共感してもらうことです。このブランドではTVCMとデジタル上で同じメッセージを発信しており、スパイスボックスはデジタル上でのコミュニケーションを担当することになりました。そのなかで、検索を起点に自社のサイトにターゲットを誘引する従来型とは異なる“これからのオウンドメディア”施策を提案しました。

そもそもオウンドメディアとは、企業自身が運営するメディアのことで、その運営を通して企業と生活者の継続的なつながりを行うマーケティング施策の一つです。今までのオウンドメディアのあり方は、自社のWebサイトでポイントを付与するゲームコンテンツなどを提供し、繰り返しサイトを訪れてもらうことで生活者を囲い込み、ブランドと生活者のつながり作りを行っていました。

しかし、SNS が発達した現在では、わざわざサイトをお気に入りにしてきてくれる人や検索してくる人が減ってきているため、これから行うべきなのは、SNSを含むソーシャルメディア上における「分散・エンゲージメント型」のオウンドメディアです。

ユーザーが自らシェア拡散したくなる(語りたくなる)コンテンツを提供することで、ソーシャルメディア上で企業の話題が自然とターゲット層に届くことを目指します。コンテンツを通して、企業やブランドに対する好意や共感を醸成し、その後、企業やブランドのFacebookページをフォローしてもらうことで生活者と継続的なつながりを作っていく施策として、“分散型オウンド”プロジェクトを立ち上げました。

主たる発信場所はFacebook、1年でファンは8万人に

具体的には、同社のFacebook ページとWebサイトの運用をしています。特徴的なのはFacebookを軸としている点で、立ち上げから1年ほどで約8万人のファン数になりました。

現状のFacebook は過去に「いいね」を押した投稿や、「いいね」をしている友だちの情報などをもとに、その人が興味を持つであろうコンテンツがタイムライン上に表示されやすいアルゴリズムになっています。そのため、企業の投稿が生活者によって「いいね」されるなど、エンゲージメントされるとその生活者の友だちに情報が広がりやすくなります。

友だち同士は価値観が近いことが多いので、ブランドのメッセージに共感してもらえるコンテンツを増やしていけばいくほど、共感を伴って生活者から生活者へと情報が伝わり、次々とブランドのファンを増やしていくことができるのです。これが、SNS上で自然な形でターゲットを囲い込む「分散型オウンドメディア」の考え方であり、“これからのオウンドメディア”と呼べるものです。

Facebook は細かく運用しており、一つ一つターゲットを変えながらコンテンツとADの PDCA を両軸で回しています。

スパイスボックスでは、独自のソーシャルリスニング手法である「ブランド・エンゲージメント調査」というサービスを持っており、ソーシャルメディア上でエンゲージメントしやすいコミュニケーション設計をするための独自のメソッドを持っています。今回もこの調査を活用しながらコンテンツのプランニングを行いました。

最初にターゲット層に刺さるコンテンツのテーマカテゴリーを決め、各カテゴリーに合ったコンテンツを5~10本ほどまとめてプランニングしていきました。実際にコンテンツを運用してみてユーザーの反応がイマイチだった場合は、原因を分析し次のコンテンツ制作時にチューニングする形でPDCAを回しました。

こうしてPDCA を回していくうちに、とあるタイミングから非常に各コンテンツがエンゲージメントするようになり、その後は広告費に関して効率の良い運用を実現できています。

この会社が提供する保険商品への導線としては、SNS上のコンテンツから同社のWebサイトへ誘導しそこで詳細な情報提供を行う形です。例えば「移住」というテーマのFacebookコンテンツ を見たファンが、もっと詳しい情報が知りたいと思い投稿のリンクをクリックするとウェブサイト上で詳細な記事を読むことができます。

そこには大きく保険のブランド名は出ていませんが、 関連記事にブランドが提供するサービスなどを表示させて、商品へブリッジできるようにコンテンツをレコメンドしています。

今エンゲージメントするフォーマットは「動画」

2年ほど前の Facebook のアルゴリズム変更によって、動画が優先的にエンゲージメントされるようになったこともあり、生活者が面白いと思ってくれる動画コンテンツであればあるほど、広がっていく傾向にあります。

そうするとわざわざ記事ページに来てもらわなくても、動画コンテンツがタイムライン上で独り歩きして生活者とコミュニケーションを取ってくれます。このプロジェクトではCMのような大きなコンテンツではなく、一つ一つをライトに制作し量を増やすことで、 PDCA を回す設計にしています。

最近では週に1~2本投稿しており、例えば去年の夏に作った花火の動画を今年リポストすることもあります。SNSでは時節の考慮も重要なので、季節に合わせたコンテンツもいくつか用意しています。

スパイスボックスには、クリエイティブ関連のプランナーとは別に制作ディレクターがいるので、基本的には動画も記事のライティングも内製で行っています。

老後の多様性も広がっている中で、どういうコンテンツを作っていくか

保険は老後のためのものと捉えられる面もありますが、今、生活者の価値観はさまざまに多様化しています。「人生100年時代」と言われる中で、 「60歳の定年=セカンドライフ」かというと、そうではありません。

ですから、広義の意味で「年齢に関わらずチャレンジによって新しい生活に踏み出す=セカンドライフ」と捉え、コアターゲットは50~60歳の方ですが、潜在的なターゲットとして40代から30代も視野に入れています。

ブランド・エンゲージメント調査を行ってセカンドライフに関連する文脈で何がエンゲージメントしているかを見ると、「いくつになっても自分がやりたいことを貫き通して活躍している人はかっこいいという共感」や、「夫婦が仲良くずっと円満に暮らしていくにはどうしたらいいのか」などがありました。

そこでこの文脈に沿いながら、「自分らしいセカンドライフを歩んでいる人」の様子を映像や文章、写真などのコンテンツにして紹介しています。

コンテンツのカテゴリーとしては、家族、健康、仕事、住まい、エンタメなどがあり、多様なライフスタイルの選択肢を提示しています。

今後はファンの育成に力をいれていく

今後は、Facebookで繋がっている人たちを育てていくことを重要視しています。

このプロジェクトをはじめた初年度は、このブランドの考え方に共感してもらえる人をいかに増やせるか、つまり、ページの「いいね」をいかに増やせるかと、ひとつひとつの動画コンテンツに、「いいね」・「コメント」・「シェア」をしてもらってエンゲージメントを高められるかに注力していました。

それが奏功した2年目以降は、サイトに来訪してもらい、商品理解に具体的につなげる部分を視野に入れながら PDCA を回していました。3年目はこれからですが、実際の購入促進を行うべく進めていきたいと思っています。

また、スパイスボックスの分散・エンゲージメント型オウンドメディアの取り組み自体は、今後さらに発展させていきたいと思っています。必ずしもSNSプラットフォームとWebサイトに閉じる必要もないので、リアルなイベントまで含めて立体的に施策を設計したり、企業やブランドのコンセプトを体現する生活者を起点にインフルエンサーやコミュニティマーケティングにまで施策を広げられると考えています。ソーシャルメディアを起点とする“これからのオウンドメディア”には、まだまださまざまな可能性が秘められています。

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  • 株式会社スパイスボックス メディアコンテンツ事業部 事業部長/プロデューサー
    2014年に新卒でスパイスボックスに入社。メガバンクのダイレクトマーケティング、コンテンツタイアップなどをプロデュース後、2016年よりソーシャルメディアを中心とした「共感」と「話題」を生むコンテンツのプランニングに従事。2018年、ソーシャルメディア時代におけるメディアとコミュニティの在り方を探求する「メディアコンテンツ事業部」の事業部長に就任。