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顧客とともにブランドを成長させていくために──独自の数値指標をベースにした「顧客価値マーケティング」
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顧客とともにブランドを成長させていくために──独自の数値指標をベースにした「顧客価値マーケティング」

ブランド体験の中で顧客が感じている価値、すなわち「顧客価値」の向上支援を目指す大広は、顧客価値の数値的指標を明らかにする独自の調査手法を開発しました。「価値の意味」と「価値の大きさ」の2つの指標によって顧客価値の現状を可視化するこの手法のコンセプトと、大広が考える「顧客価値マーケティング」について、調査手法を開発した菱田和宏に語ってもらいました。

菱田 和宏
大広 顧客価値開発本部  副本部長

顧客価値が生み出す長期的な関係

──大広が考える「顧客価値」についてご説明ください。

菱田
大広はこれまで「顧客価値」を大切にブランドの活動を支援してきました。よく言われているように、生活者の欲求はモノの豊かさからコトの豊かさにシフトしています。それにともない、顧客のブランド評価においても、商品の機能やサービスのメニューだけではなく、そのブランドを購入したり使ったりすることによってどのような「体験」を得たかが重視されるようになりました。そのブランド体験において顧客が感じる価値を、私たちは「顧客価値」と定義しています。

顧客価値は、顧客の欲求に応えるだけで生まれるものではありません。人々が暮らす「社会」、ビジョンや戦略を掲げて活動する「企業」、ニーズやウォンツをもつ「顧客」──。その3者が交わるところに生まれる本質的な価値が、顧客価値であると私たちは捉えています。

このような考え方に至った背景には、大広が得意としてきたダイレクトマーケティング支援の経験があります。ダイレクトマーケティングの特徴は、新規顧客獲得以上に既存顧客との関係維持が重視される点にあります。CRM活動によって顧客との深く長期的な関係を構築し、そこから利益を上げていくモデルです。しかし、すべての顧客と長期的な関係を結べるわけではありません。1回の購買だけで離れていってしまう顧客と、何年にもわたって商品を買ってくれたりサービスを使ってくれたりする顧客がいます。その差は何かと考える中から、顧客価値というキーワードに行き着いたわけです。顧客価値を上げることができれば、その顧客は商品やサービスを長く愛好してくれる。そうでなければ、顧客は早々に離反してしまう。そう私たちは考えました。

──昨今、多くのビジネスがサブスクリプションなどのリテンションモデルに変わってきています。そう考えれば、この顧客価値の考え方は、幅広い企業に当てはまりそうですね。

菱田
おっしゃるとおりです。今後人口が減っていく中で、新規顧客獲得のハードルは今まで以上に上がっていきます。その点でも、リテンションモデルは多くの業種業態にとって有効になると考えられます。そのようなモデルにおいて、顧客と長期的関係をつくっていくために求められる視点が顧客価値ということです。

顧客価値を高めるためには「指標」が必要

──顧客価値を中心に据えたマーケティング手法とはどのようなものでしょうか。

菱田
従来のマーケティングファネルは、「認知」から始まり「理解・関心」「購買意向」「購買」という流れになっていました。これを購買後の「満足」「リピート」「推奨」まで広げていく考え方を、私たちはフルファネルマーケティングと捉えています。これはまた、既存顧客が知人、友人、家族などに商品・サービスを推奨することによって、新規顧客の獲得が期待できるモデルです。顧客のロイヤル化とそこで抽出した顧客価値を新規顧客獲得に活かすこのモデルに基づいたマーケティング設計を、私たちは「リバースプランニング」と呼んでいます。

このファネルの購買以降のプロセスでは、顧客データが力を発揮することになります。会員システム、アプリ、キャンペーンなどによって顧客データを蓄積し分析することで、顧客価値を高め、それを新規顧客獲得にもつなげることができる。そう私たちは考えています。

──そのようなマーケティングにおいて重要になるのが、顧客価値の「指標化」ということですね。

菱田
そのとおりです。「顧客価値を高めることが大切」と言っても、その価値を定量的に把握する方法がなければ、どう高めればいいかわからないし、取り組みの成果も明らかになりません。そこで私たちは、顧客価値の現状や、それが上がったか下がったかを数値化する指標づくりを2年間ほどかけて進めてきました。

顧客価値の「意味」と「大きさ」を明らかにする

──顧客価値の指標化とは具体的にどのようなものか、ご説明ください。

菱田
2つの指標があります。1つが、顧客は「どのような価値を感じているか」、もう1つが、「どのくらいの大きさで価値を感じているか」、その2つの指標です。私たちは、前者を「QoV(Quality of Value)」、後者を「VoV(Volume of Value)」と表現しています。そのそれぞれを、ブランドの既存顧客へのアンケートから明らかにしていきます。

まず、VoVの方からご説明します。顧客価値を感じている顧客は、ブランドへのロイヤルティが高いと考えられます。ロイヤルティには心理面での「マインドロイヤルティ」と、行動につながる「アクションロイヤリティ」があります。マインドロイヤルティを構成する要素は、ブランドへの「愛着」や「共感」です。一方、アクションロイヤルティには、ブランド購買の「継続」に加えて、先にも触れたように、知人、友人、家族などへのブランドの「推奨」が含まれます。この「愛着・共感」「継続」「推奨」を3つの軸として、それぞれに2問ずつ、計6つの質問を用意します。そして、その質問に対して7段階で回答してもらいます。その答えが、各項目に対する顧客価値の大きさを示すことになります。

もう一方のQoVは、顧客価値の「意味」を明らかにする指標です。顧客が知覚する価値は、商品・サービスの技術的性能や実用性に対して知覚する価値、すなわち「機能的価値」と、商品・サービスについて経験する楽しさ、美しさ、非日常感、優越感などに関する価値、すなわち「意味的価値」に分けられます。機能的価値に関しては、「品質感」「価格面」「効率性」の3つ、意味的価値に関しては「審美性」「娯楽性」「新規性」「好印象」「利他性」の5つ、計8個の項目を設け、それぞれについて3つの質問を用意します。つまり、24問ということです。こちらもVoVと同じように、7段階で答えてもらいます。

──VoVで6問、QoVで24問。計30の質問によって顧客価値の大きさと意味を明らかにしていくわけですね。

菱田
そのとおりです。一般的な生活者アンケートと比べても回答者の負担は少ないと考えていますが、例えばLINEでアンケートを実施する場合などは、30問は多いのではないかという意見がありました。そこで全14問に縮小した簡易版もつくりました。

──明らかになるのは、1人の既存顧客における価値の意味と大きさということですか。

菱田
そうです。1人の顧客の中での顧客価値です。それを平均化して、ブランドがもつ顧客価値を算出するという考え方です。

──質問の内容は、ブランドごとにカスタマイズしていくのでしょうか。

菱田
私たちが目指したのは、汎用的な定量調査手法をつくることでした。ブランドのカテゴリーにかかわらず共通して使える調査ということです。30の質問も、あらゆるカテゴリーにあてはまるものにしてあります。調査のユーザーである企業からすれば、調査内容をカスタマイズせずに顧客価値を指標化できるたいへん便利なツールであると言っていいと思います。

ブランド体験設計のベースとなる「星取り表」

──VoV、QoVのそれぞれの結果の見方を教えてください。

菱田
VoV調査では、ブランド全体のスコアと、「愛着・共感」「継続」「推奨」のそれぞれのスコアが算出されます。また、スコア100を満点とし、スコアゾーンごとの顧客の分布を見ることが可能です。

一方、QoVの結果は、8項目を同心円状に並べたレーダーチャートで見ていきます。これによって、顧客がどの要素に価値を感じているのかがわかります。8項目の数値の総計は、VoVのブランド全体のスコアと一致するようにしてあります。それによって、QoVとVoVに相関性をもたせているのがこのレーダーチャートの特徴です。

重要なのは、これらの指標をもとにブランド体験設計をしていくことです。そのガイドとなるのが、私たちが「星取り表」と呼んでいるチャートです。これは、VoVとQoVを相関させたうえで、QoVの8項目(「品質感」「価格面」「効率性」「審美性」「娯楽性」「新規性」「好印象」「利他性」)のどれに注力すれば顧客価値が上がるかを、星の数であらわしたものです。星が3つあれば、そのQov項目をあげることがVoVのアップにつながりやすいということです。そして、星がゼロなら、その項目を上げてもVoVのアップにはつながらないということになります。

この星取り表の結果を受けてどのようなアクションをするかは、企業の戦略によります。既存顧客との関係をより強化していきたい場合は、星が多い項目にいっそう注力していく。逆に、既存顧客とは異なる新規層を開拓したい場合は、逆に星が少ない項目を伸ばす施策を実施する。例えば、そんな考え方です。

──この調査は競合分析と合わせて行うのが有効なのでしょうか。

菱田
顧客価値指標は絶対値ではないので、何かと比較することが前提になると考えています。競合ブランドの調査指標と比較する、あるいは自社の顧客価値の経時調査を行い、過去と現在を比較する。そのような方法を念頭に置いて開発しています。

──指標が明らかになったあとの具体的なアクションはどのようにサポートしていくのですか。

菱田
この調査のミッションは星取り表を出すところまでですが、明らかになった指標が顧客価値向上の取り組みにつながらなければ意味がありません。調査結果を踏まえたマーケティング戦略の立案やメディアプランニングなどを、大広の別部門の専門スタッフがお手伝いしていきます。

顧客はブランドを成長させるパートナー

──この調査ソリューションの今後の展開や見通しをお聞かせください。

菱田
2023年は、クライアントの皆さんにご協力をいただきながら、30ほどの業種で調査手法のPOC(実証実験)を実施しました。それによって、この手法に対する確かな手応えを得たと同時に、業種ごとの差も見えてきました。先ほど汎用的調査手法を目指したという話をしましたが、とくにこの手法が力を発揮するのはBtoCブランドで、かつ生活者の関与度が高いカテゴリーであることがわかりました。

そのようなPOCの結果を踏まえながら、今後はプロモート活動に注力していきます。調査手法をご提案する前に、まずは私たちの顧客価値に関する考え方とその重要性を丁寧にご説明していくことが必要であると考えています。

──この調査を軸にした博報堂DYグループ内の連携の可能性もありそうですか。

菱田
クライアントへのご提案のフェーズでグループ内のネットワークを活用させてもらうだけでなく、顧客価値指標が明らかになったあとのさまざまな施策実行支援のフェーズにおいてもグループ内連携を模索していきたいと思っています。顧客価値指標をベースにした商品開発や事業開発などをご支援していける可能性もあるかもしれません。あらゆる支援体制がつくれるのが博報堂DYグループの強みです。その強みを最大限にいかしていきたいですね。

──最後に、この調査手法に可能性を感じていらっしゃるクライアントの皆さんへのメッセージをいただけますか。

菱田
私は、顧客はブランドを成長させるパートナーであると考えています。商品やサービスを購買し続けてくれるだけでなく、ブランドに対していろいろな意見を言ってくれたり、コミュニティをつくったりすることで、ブランドを支えてくれるパートナー。それが顧客です。その顧客と一緒にブランドを育てていく1つの方向性を提示するのが顧客価値指標です。これをベースに、ブランドと顧客の双方がハッピーになるお手伝いをしていきたい。そう思っています。顧客価値を中心に置いたマーケティングにぜひ一緒にチャレンジしていきましょう。
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  • 大広 顧客価値開発本部  副本部長
    1994年新卒で大広入社。以来、幅広いカテゴリーのコミュニケーション戦略・マーケティング戦略・ブランド戦略に携わる。現在は、ストラテジックプランナー、CRMプランナーが属する顧客価値開発本部の副本部長として、大広のプランニングスタッフをリード。