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あらゆる人が参加できる「町おこしDX」を目指して ──地域共創の新しいプラットフォーム「ポHUNT」(後編)
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あらゆる人が参加できる「町おこしDX」を目指して ──地域共創の新しいプラットフォーム「ポHUNT」(後編)

「ポHUNT」のキャンペーンは、富山県朝日町の皆さんに好意的に受け止めていただき、多くの方々が参加してくださいました。この取り組みが次に目指しているのが、LINEを活用した行政インフラづくりです。朝日町の行政や暮らしのDXを推進し、ゆくゆくは日本全国の行政や暮らしのDXを実現していく──。その大きなビジョンをメンバーたちに語ってもらいました。

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住民の1割以上がキャンペーンに参加

堀内
「ポHUNT(ポハント)」のキャンペーンを実施したのは、2020年1月から2月にかけての1カ月間でした。紙でのスタンプラリー参加を含めると、総参加者は1300人以上で、LINE公式アカウントの友だち追加は1130人でした。朝日町の人口は1万1000人弱ですから、住民の1割以上がキャンペーンに参加していただいた計算になります。ポイントを貯めたあとのプレゼント抽選に応募したのはおよそ700人と非常に高いアクティブ率だったと言えます。

また、キャンペーン後にアンケートをとったところ、「次回のキャンペーンにも参加したい」という人は99%、「健康意識が高まった」と答えた人は78%にも上りました。このキャンペーンによって町内で初めて訪れた施設があるという人も26%いました。小さな町で知らないお店も少ない中で十分な成果だと思いますし、移動が促進され、町内の回遊性が高まったと評価頂いています。

古矢
健康クイズも人気が高かったですよね。ポイントがもらえるというインセンティブはもちろんあったのですが、それだけでなく、「クイズに参加すると健康が促進される」という意識が広まったように思います。「みんなで健康教室に行こうよ」と声を掛け合う方々もいたようです。
辻野
一般に、健康に関する啓発活動は難しいことが多いんですよね。今回は、クイズ形式にしたこと、ポイントが取得できる仕組みを入れたことなどによって、健康意識を高めることができました。

堀内
コンテンツは、ひと月の間ほぼ毎日配信しましたが、ブロック率が1割未満と非常に少なかったのもこのキャンペーンの特徴でした。それぞれのコンテンツの最後までアクセスしてくれた方の割合も7割に達しています。キャンペーン終了後も「ありがたい情報がたくさんあった」「ぜひ参加したいと思った」という声をたくさんいただきました。実は、ポHUNTで活用している「情報やコンテンツ」自体は既に存在していたものばかりで、アクセスする手段や情報整理に課題があったことがわかります。
磯部
単に仕組みをつくるだけでなく、現地に足を運んで住民の皆さんとお話をしたり、施設を回ったりしたことも功を奏したと感じています。便利で楽しいものをデジタルで提供するだけでは住民の方々には届かないと考え、最後の一歩“ラストワンマイル”となるオフラインコミュニケーションをきめ細やかに行ったことが重要だったと思います。その点は、生活者発想を大事にしてきた博報堂ならではの取り組みだったと言っていいかもしれません。

辻野
どの地域でも同じだと思うのですが、コロナ禍以降、朝日町では町の活性化施策がほとんどできませんでした。「ポHUNT」がコロナ禍において人と人の結びつきをつくる役割を果たしたという側面もあると思います。
古矢
人と人、お店と人、施設と人。そのそれぞれを結びつけることができましたよね。

辻野
キャンペーンが終わってから、朝日町の和菓子屋にお土産を買いに行ったら、すごく感謝されたんですよ。以前は若い人があまり買いに来なかったのだけど、「ポHUNTでポイントが貯まるから一度行ってみようか」と若い人が来るようになって、その人たちがリピーターになってくれたということでした。客層がかなり変わったそうです。お店の人が喜んでくれるキャンペーンになったことが僕としても嬉しかったし、「ポHUNT」のような仕組みを使えば、こういうつながりをほかの町でもつくれる可能性が大いにあると感じました。

LINEを地域行政のプラットフォームに

堀内
「既存の自治会網を活用した」という話がありましたが、僕たちがこの取り組みで一番大事にしていたのは、「外部から異物を持ち込まない」ということでした。地元にアセットやハードはすでにあるわけです。それを尊重して、それらの価値を高める工夫をすること。地元のハードを活かし切るソフト設計で、新たな価値を産み出すこと。それが僕たちの役割であると考えました。
福田
もともとあるものを組み合わせて新しい価値をつくる──。それがまさしく博報堂ならではのやり方であるということが、今回ご一緒してよくわかりました。そこに暮らしている人たちが大切にしているものをリスペクトしながら、新しいユーザー体験をつくっていくという点に博報堂の力が発揮されたように思います。

堀内
もちろん、自治体、住民、事業者を含めた全体の共創モデルをつくることができたのは、LINEという民主化したツールがあったからこそです。僕たちが最終的に目指しているのは、LINEをプラットフォームとして自治体と住民の関係をよりよくしていくことです。

住民の皆さんに、「ポHUNT」の仕組みを使って、行政サービスに関するアンケートを発信したところ、短期間で500人程度の回答が集まりました。ポHUNTという住民向けのサービスですが、実は、住民の生の意見を聞ける貴重な目安箱プラットフォームなのではないか?という視点も頂きました。まさに、自治体と住民の関係を変える力がこの取り組みにはあるということだと思います。

福田
私たちLINE社も、「持ち運べる役所」をつくろうという発想のもとで、多くの自治体と新しいチャレンジを進めています。例えば、LINEで住民票の写しの交付を請求できたり、アンケートで住民の生の声を届けたりする仕組みづくりです。また、「公園のブランコが壊れていた」といった情報をLINEを使って直接自治体に届けるなど、地域の小さな問題を解決する仕組みもあります。

「ポHUNT」は、移動体験を含めて、さらに数歩進んだ非常に先進的な事例だと思います。自治体や住民と一体となった取り組みの例があることによって、全国の自治体のLINE活用のアイデアの幅が大きく広がるのでないでしょうか。LINEが地域活性化のプラットフォームになりうる可能性を示してくださった点でも、本当に素晴らしい取り組みだと思いますね。

博報堂メンバーも加わった新たな役場組織

堀内
次の新しい動きとして、朝日町の自治体DXやカーボンニュートラル、を推進することを目的にした官民連携の新部署「みんなで未来!課」が朝日町役場内に発足しています。これまでになかった部署横断型の組織で、僕たち博報堂のメンバーもその部署の一員に加えていただいています。この「みんなで未来!課」を一つの足場として、LINEを引き続き使わせていただきながら、住民のみなさんにも積極的に参加して頂ける、共助型の行政プラットフォームをつくっていくことがこれからの僕たちの一つの目標です。
磯部
回覧板のデジタル化、町内会や自治会の会合のデジタル化、施設の休館情報の発信など、「行政×LINE」「町内情報×LINE」の可能性はいろいろありそうですよね。誰もが参加できるプラットフォームがあることによって、昔から住んでいる人たちと新しく住み始めた人たち、あるいは世代を超えた人たちの間の関係性も生まれやすくなると思います。
辻野
これはまだ構想段階ですが、住民の皆さんから情報をアップしていただく仕組みもぜひつくりたいですね。昔はどの地域でも住民同士が顔を直接合わせて情報を交換し合っていたわけですが、最近では情報のハブの役割はほぼ行政が担っています。行政が用意した情報インフラを活用して、住民間で情報を交換する。そんな仕組みがあれば、とても暮らしやすい町になりそうです。

福田さんがおっしゃるように、LINEを活用している自治体は増えていますが、行政のプラットフォームと言えるレベルになっているケースはまだまだ少ないと思います。朝日町では「移動」という視点からアプローチを始めましたが、地域ごとに課題は異なるので、その地域の特性を踏まえた切り口でいろいろなアイデアを出して、LINEの使い方をカスタマイズしていくことができれば理想的ですよね。

磯部
一方で地域課題には共通性があるところもあります。共通する部分と異なる部分を見極めて、仕組みやコミュニケーションのあり方をどう設計していくか。そこで博報堂の力が発揮されると思います。
古矢
「ポHUNT」の実証実験でわかったのは、LINEを活用したコンテンツ展開には、人を動かす力があるということです。その力は行政サービスだけではなく、いろいろな社会領域への応用も可能だと思います。例えば、大型施設で人の動線を上手にコントロールして、密になるのを回避するといった活用もありえます。人の密度や動きを判定できるソリューションがあったとしても、状況を伝えられる手段がない。こういう課題にも、LINEは大いに活用できる可能性を感じますし、今後、いろいろな可能性を探っていきたいですね。

「内×外」の発想で課題を解決していく

福田
LINEは、「Life on LINE」というビジョンを掲げています。24時間、365日、いつでもユーザーの生活を支えるプラットフォームになりたいという思いがこのビジョンには込められています。

これまでLINEはオンラインコミュニケーションに強みをもって事業を展開してきましたが、ユーザーの生活を本当の意味で支えるには、よりリアルな場面、オフラインでの価値提供も重要になります。オンラインとオフラインを分け隔てなく考えて新しいユーザー体験をつくっていくのが、これからのLINEの一つのチャレンジになると私は考えています。もちろん、それは私たちだけでできることではありません。博報堂のようなプロフェッショナルの皆さんと一緒に、これまでになかったLINEの新しい価値を生み出していきたいですね。

辻野
それによって、LINEの社会価値もいっそう向上していきそうですね。
福田
そう思います。新しい取り組みには勇気が必要ですが、どんどん挑戦していきたいと考えています。
堀内
僕たちがこの取り組みで最も重視していたのは、地域へのリスペクトです。地域には素晴らしいものがたくさんありますが、住民の皆さん自身もその価値に気づいていないケースが少なくありません。その地域にある優れたものを可視化し、活用し、そこから新しい価値を生み出していくのが僕たちの役割なのだと思います。

博報堂やLINEが外から乗り込んでいく、ということではなく、僕たちと地域の皆さんとが一緒になって地域の資産をあらためて見直すこと。「内×外」の発想で、課題を解決していくこと──。そのお作法を大切にしながら、引き続き朝日町のDX、ひいては日本全国のDXの推進に寄与していきたい。それが僕たちのこれからの目標です。

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  • 博報堂 DXソリューションデザイン局ソリューション開発推進二グループ グループマネージャー
    京都生まれ京都育ち。2006年博報堂入社。入社以来、一貫してマーケティング領域を担当。
    事業戦略、ブランド戦略、CRM、商品開発など、マーケティング領域全般の戦略立案から企画プロデュースまで、様々な手口で市場成果を上げ続ける。
    近年は、新規事業の成長戦略策定やデータドリブンマーケティングの経験を活かし、自社事業立上げやマーケティングソリューション開発など、広告会社の枠を拡張する業務がメインに。
  • 博報堂 ビジネスデザイン局(兼)社会課題解決プロジェクトメンバー
    2014年博報堂入社。製薬会社・自動車会社・ITベンチャーのブランディング・マーケティング・EC事業・サービス開発支援などに携わる。2019年度より社会課題解決と得意先課題解決の両立を目指した、新規事業開発プロジェクトのプロデュース・プロジェクトマネジメントを行っている。
  • 博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局カスタマーサクセス部
    大手SIベンダーにて様々なシステム開発を担当。その後、出版社に転職。Webサービスの開発や社内起業を通し、事業成長に向けて幅広い領域に取り組む。前職では、アプリ企業でソリューションコンサルティング業務などに従事。博報堂入社以降は、マーケティングシステムのコンサルティングやソリューション開発業務に携わる。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 ビジネスデベロップメントプラナー
    2016年博報堂DYメディアパートナーズ入社。DMPを用いたソリューション開発・分析業務に従事した後、2020年から現職。
    データを用いたビジネス開発経験を活かし、MaaS開発やLINEを使ったソリューション開発に取り組む。
  • 福田 真
    福田 真
    LINE株式会社 プランニング統括本部 アカウント事業企画室 Business Designチーム
    2012年に自動車メーカー系金融会社へ入社。キャッシュレスの推進やモビリティスーパーアプリの企画に従事した後、2020年から現職。LINE公式アカウントやLINE APIを活用した新規事業開発を担当し、日本マイクロソフトおよびMicrosoft AzureパートナーとのMaaS・小売DXプロジェクトや、さとふるとの協業による「LINEでふるさと納税」を立ち上げ。

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