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【Media Innovation Labレポート.16】 マーケティング効果向上へ進化を続ける「スーパーボウル」
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【Media Innovation Labレポート.16】 マーケティング効果向上へ進化を続ける「スーパーボウル」

米国のアメリカンフットボールは米国で圧倒的な人気を誇るスポーツで、プロリーグのNFL(National Football League)はメディアパワーも他スポーツ、他エンタテインメントの追随を許さない存在です。その中でも最も人気があるのが年間チャンピオンを決めるスーパーボウル。テレビ中継だけでなく、デジタルメディアを活用したファンとのエンゲージメント施策や、会場周辺でのアクティベーション施策など、リーグとメディアとスポンサーが一体となってコンテンツの価値を向上させ、ビジネスを拡大させ続けています。
今回はこのスーパーボウルに見る、テレビ中継やマーケティングのあり方、またスポーツビジネスの未来図について、博報堂DYメディアパートナーズイノベーションセンター 兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ※)の吉田弘(シリコンバレー在住)と、スーパーボウルを現地で何度も観戦し、現在データスタジアム株式会社でスポーツビジネスに従事している矢木野桂一郎に、ナレッジイノベーション局兼Media Innovation Labの田代奈美が聞きます。

スタジアムの様子(2015年@アリゾナ州フェニックス:矢木野撮影)

■スポーツコンテンツとして別格の強さを持つNFLとスーパーボウル

田代
2020年はコロナウイルスの影響で、アメリカンフットボールのNFL、野球のMLB、バスケットボールのNBA、アイスホッケーのNHL、さらにサッカーのMLSを入れたアメリカの5大スポーツは、試合数を減らして開催したリーグ、場所を限定して開催したリーグなど、それぞれ通常とは異なる対応を迫られました。Media Innovation Lab.2「米国スポーツビジネスの最新動向」でも触れたように、アメリカでライブスポーツはリアルタイムショー市場をけん引する巨大コンテンツとして君臨してきたわけですが、2020年は他のスポーツと開催日がバッティングするなどし、視聴率での苦戦も見られました。そんな中でもNFLは視聴率の下げ幅も小さく、スーパーボウルも無事開催され大きな盛り上がりを見せ、テレビコンテンツとしての強さを証明するような結果となったように思います。
吉田
前提を少し説明すると、5大スポーツの中で人気、視聴率ともに突出しているのがアメリカンフットボール。そしてスーパーボウルは、NFC(National Football Conference)とAFC(American Football Conference )という2つのNFLリーグの1位同士が戦い、毎年2月に年間チャンピオンを決めるアメリカ最大のスポーツイベントです。2019年のシリーズ番組(レギュラー番組)の年間平均視聴者数のデータでも、1位はNFLの日曜夜の試合で平均視聴者数は2000万人。3位は木曜夜の試合、4位が月曜夜の試合と、ベスト5内に3つもアメリカンフットボールの試合中継が入っています。個別の番組の視聴者数を見ても、1位は約1億人が視聴したスーパーボウルで、2位、3位、5位がスーパーボウルに向けたプレーオフの試合中継。それ以外ではアカデミー賞や大学のアメフトの決勝戦、MLBのワールドシリーズなどがベスト15内に入っています。本当にアメリカではスポーツ中継がよく見られていて、特にNFLが別格であることがわかると思います。
田代
ネットでの動画配信サービスを利用する人も増えて、テレビの視聴者数自体は減少傾向にあるものの、依然としてスポーツ視聴は人気なのですね。
吉田
国民みんなが見るコンテンツというものが減ってきているので、こういうビッグコンテンツに注目が集まりやすくなっているとも言えます。結果的にスポンサーも集中するし、CM単価、放映権料も上がってきています。NFLの年間スポンサー契約の総額は、1000億円規模に達すると言われています。
田代
矢木野さん、日本のスポーツ市場と比較するといかがですか。
矢木野
単純比較はできませんが、年間スポンサー料は桁が1~2つ違うと言われています。また、一つのスポーツイベントとして比較しても放映権料やスポンサー料はもちろん、特にCM出稿料での差が顕著で、スーパーボウルCM出稿料は30秒のテレビCM枠が約5億円以上の値付けです。

■町全体がアクティベーションイベントで盛り上がる1週間

田代
今年のスーパーボウルの概況について教えてください。
吉田
今年はNFCからワイルドカード(特別枠)として勝ち上がってきたタンパベイバッカニアーズと、AFCで昨年のチャンピオンでもあるカンザスシティチーフスとの決戦となり、メディアは特にチーフスの若手注目クオーターバック、パトリック・マホームズ選手とバッカニアーズのレジェンドクオーターバック、トム・ブレイディ選手との対決などで盛り上がっていました。また、例年スーパーボウルは気候が温暖な中立地で行われるのですが、今回はたまたま、前々から開催地としてタンパベイが選ばれていたため、史上初、ホームスタジアムでの優勝決定戦となりました。
コロナウイルス対策で通常の2割に減らした約1万5000人の観客のほか、1月から始まったワクチン接種を受けた医療関係者7500人が無料で招待され、試合前の集客イベントであるTaile Gate Showには、マリー・サイラスやビリー・アイドルなどのスターが出演して盛り上がりました。
従来は中立地で行われるので、開催地の地元の人が集まるのはもちろん、対戦相手チームのファンも集まりますし、チームにこだわらずスーパーボウルを観戦したいというアメフトファンも集まる。毎年違う町で開催されるので、これを目的に旅行するという人も多いのですが、今年はそうはいきませんでしたね。
矢木野
スーパーボウル当日までの1週間は「スーパーボウル・ウィーク」と呼ばれていて、各メディアやファンが開催地に乗り込み、例年、NFL開催のイベントやスポンサー主催の趣向を凝らしたアクティベーションイベントなどで町全体が盛り上がります。私が初めて現地へ行ったのは2013年でしたが、20社近いスポンサーブースが密集して、商品を無料でサンプリングしているのがまず印象に残りました。

イベントエリアマップ(2013年@ルイジアナ州ニューオーリンズ:矢木野撮影)

また、当時からキネクトやモーションキャプチャーを活用したブースがあり、ファンが選手と一緒に動いてそれを写真に残せるとか、VRを使って実際のグランドに降りて選手と一緒にプレー体験をするといったブースが設置されるなど、現地に集まるファンは試合と同じくらい、あるいはそれ以上にこのイベントを楽しみにしている様子でした。中には試合のチケットは持っていないのにイベントだけに参加して、たくさんのサンプリングをもらって楽しんでいる家族も多くいました。試合が行われるのは日曜ですが、会場が設置される木曜朝から長蛇の列ができ、イベントを楽しむ人たちで連日ごった返します。日本でも試合や大会の周辺エリアでのイベントやアクティベーション展開には今後伸びしろがあるかもしれません。

会場の賑わい(2015年@アリゾナ州フェニックス:矢木野撮影)

田代
スーパーボウルの放映権は4大ネットワークのうちCBS、NBC、FOXの3つが持ち回りと聞きました。
吉田
今年、本来ならNBCが放映するはずでしたが、NBCは来年の北京オリンピックの放映権を持っているので、来年のスーパーボウルと北京オリンピックのCM販売を抱き合わせで行うこととし、今年の放映権はCBSとトレードしたそうです。

■不可欠となったダイバーシティ&インクルージョンへの配慮

田代
テレビビジネスについても教えていただけますか。コロナで厳しい局面を迎えるビジネスも多いなか、スーパーボウルに関しては広告出稿にあまり変化が見られなかったとか。
吉田
CBSは今年CMの量を増やして、スーパーボウル全体でみるとCMの売り上げはむしろ増えています。これはその年の放送局の戦略によるところも大きいですね。ただスポンサーからしてみると、大統領選があったり、その後トランプ前大統領をめぐる騒動が発生したりして、広告出稿を最後まで悩んだところは多かったようです。ですから通常なら年内に完売するところ、今年はずっと遅れて1月下旬くらいの完売となりました。それでも売り切ったというのは、スーパーボウルだからでしょうね。
田代
スポンサー層としては、何か特徴はありましたか。
吉田
毎年レギュラーで出していた大手クライアントのいくつかが出稿を取りやめたこともあって、24ブランド、26本のCMが初出稿されました。そのなかでも目立ったのがIT系の新進企業で、過去のネットバブル時代を彷彿とさせるような勢いを感じました。いずれにしても毎年出稿が多いのは自動車メーカーとアルコールメーカーで、最近はいわゆるサブスク型のテレビ配信事業者の出稿が増えています。
また、アメリカでは通常30秒CMが一般的ですが、今年のスーパーボウルでは45秒以上のCMが31本ありました。スーパーボウルでは比較的メッセージ性の強いCMを流す傾向があるため、必然的に長尺のものが多くなるのだと思います。一方で、5秒くらいの短尺CMでインパクトをねらったCMもありました。
矢木野
日本ではあまり盛んではありませんが、アメリカには一般視聴者参加型のCM評価サイトが複数あり、スーパーボウルのCMランキングは毎年話題になります。スポンサーも、「1年で最大のコンテンツであるスーパーボウルを盛り上げたい」「面白いCMをつくって企業イメージを高めよう」という気概があるんですよね。サイトによって評価基準もさまざまで、好感が持てた、有益と感じた、面白かった、勇気づけられた…などさまざまな指標で視聴者がどう受け止めたかをランク付けしています。
田代
それは面白いですね。CMのトピックスとしては、ブラック・ライブズ・マターに象徴されるようなD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)に絡めたものも多かったようですね。全CM中、何本が男性の主人公で何本が女性の主人公だったか、あるいは監督は男性だったか、女性だったかなどの数値を集計したデータが公開されているのは面白いと感じました。
吉田
アメリカでD&Iはもはや不可欠です。もちろんスーパーボウルのCMでも何らかの形で気配りをせざるを得ないテーマになっていますね。人種の混成率を見ても、そもそもNFLはNBAに次いで黒人が多い。ちなみにNHLはほとんど白人で、MLBも意外と白人比率が高いです。
矢木野
サンフランシスコ・フォーティーナイナーズのコリン・キャパニックという有名選手が、2016年、有色人種差別への抗議として試合前の国歌斉唱中に起立しなかったという有名な出来事がありました。これにより当時の米国の政策方針や白人至上主義に対抗するというメッセージが広く伝えられたのですが、NFLは以前からこうした行為の、ある意味アピールの場にもなっています。そういう経緯があるので、むしろ今年はもっとD&Iを前面に押し出したCMが多くなるのではないかと思っていました。
田代
ほかに、若者に向けて行われたSNSと連携させたキャンペーンについても教えていただけますか。
矢木野
ひとつのキャンペーンの中で、SNSも使って仕掛けやコンテンツをロングスパンで配信していき、ファンを少しずつエンゲージさせて、そのコミュニケーションの集大成をスーパーボウル当日のCMに持ってくるという手法が、2013年頃から2015年くらいにかけて非常に盛んにおこなわれていました。代表的なものではある製菓メーカーがCMコンテストをFacebookやTwitter上で半年間かけて行い、入賞作品をスーパーボウルCMとして放映するもので、ファンはその過程を楽しみながらスーパーボウル当日のテレビ放送で入賞作品を知る、といったものがありました。個人的にSNS活用の潮目が変わったと感じるのは2016年で、この年は長期スパンのコミュニケーションが減り、当時人気だったスナップチャットを活用したコンテンツ配信一発勝負のものが急増しました。今年はさらに顕著になり、Instagram、TikTokなど、テキストではなく画像や動画をベースにした展開が広がり始めました。短い期間でどれだけディープに情報を伝えるか、というキャンペーンに変遷してきた印象です。
吉田
特に今年はコロナがあったので、なかなかロングスパンのキャンペーンは組み立てにくかったのではないでしょうか。また、TikTokは若者の間で圧倒的に支持されていますから、メディアとして活用しない手はないですよね。CM枠だけで6億円近くするのと、巨額の費用をかけているので、その場を使って新しいコミュニケーション手法をどんどん試していこうという、コミュニケーション博覧会的様相を呈しているのも興味深いです。
ある飲料ブランドのキャンペーンで、スーパーボウル当日のCMで登場するボトルの数を数え、ツイートしてもらい、最初の正解者が賞金100万ドルをもらえるというクイズ形式のCMにしたところ、AIを使って画像解析する視聴者もいて話題になりました。SNSをフル活用する点では目新しくはないですが、非常に今どきな感じがしました。
矢木野
以前からも似た手法のキャンペーンはありましたが、今年のCM評価サイトでこれは非常に高い評価を得ていました。やはり、ライブで1億人が見るコンテンツで、何か面白いことを仕掛けようというつくり手の意図が伝わり、まだまだCMでそんなことができるんだという可能性が感じられるキャンペーンでした。

■コンテンツとしての健在ぶりを明らかにした2021年のスーパーボウル

田代
毎回話題になるハーフタイムショーはいかがでしたか。
吉田
ハーフタイムショーは、やはりマーケティング装置として強力です。ある飲料メーカーは、プレーオフのときからスーパーボウル当日のプレゲームショーまでハーフタイムショーの番宣CMを流していて、見ていて自然とロゴが頭に刻まれていく感じでしたね。毎年複数の豪華アーティストが出演し、その人選も話題になりますが、今年パフォーマンスを行ったのはザ・ウィークエンドだけでした。ちなみにハーフタイムショー出演のギャラはないらしく、NFLは演出費用として予算をとってはいるそうですが、ザ・ウィークエンドは自腹で7億円追加し、豪華なステージ演出を実現させたそうです。ただ、ハーフタイムショー出演後は音楽配信数が格段に伸びたりコンサートのチケットが売り切れたりするので、プロモーション費用としてとらえるならば安い方なのかもしれません。
田代
その13分間のハーフタイムショーの裏側を描いたドキュメンタリーも、後日CBS系の有料放送で放送されるのですよね。視聴者はそこでまたハーフタイムショーを見ることができ、スポンサーはロゴを見てもらえ、アーティストはプロモーションになる。メディアにとってもビッグコンテンツだと思います。
矢木野
今回、実は試合自体は盛り上がらなくて、視聴率もそれほどよくなかったのですが、それを差し引いても、いろいろな仕掛けが見られて個人的には面白いスーパーボウルでした。イベントの良し悪しや試合そのものの出来による視聴率の上下はあるかもしれませんが、視聴者を惹きつけるコンテンツとしてまだまだ健在ということですね。
田代
さまざまな環境変化で視聴率が下がりつつあるなか、どうやったらもっと注目を集め、盛り上げていくことができるか、戦略的に仕掛けているようです。スーパーボウルには今後も注目していきたいですね。今日はお2人ともありがとうございました。

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アドトランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

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  • 博報堂DYメディアパートナーズ
    イノベーションセンター
    1988年博報堂入社。事業局、研究開発局を経て、2004年より博報堂DYメディアパートナーズへ異動。メディア環境研究所長、メディアビジネス開発センター長を経たのち、2018年よりイノベーションセンター(シリコンバレーオフィス)エグゼクティブディレクター。20年より、Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)海外拠点リーダーを兼務。
  • データスタジアム株式会社 取締役執行役員
    電機メーカーでキャリアをスタートし、米国留学を経て2001年博報堂入社。マーケティングプラニング、事業開発、経営企画、コンテンツビジネスセンター戦略企画業務を経て、20年よりデータスタジアム株式会社にて全社マーケティング、ベースボール事業、人材開発領域に従事。米国スポーツのビジネス動向と文化面に与える影響に興味関心を持つ。
  • 博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局
    情報マネジメントグループGM兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ)サブリーダー
    1996年博報堂入社。テレビ局、メディアマーケティング局、博報堂香港、メディアビジネス開発センターなどを経て、2019年よりナレッジイノベーション局でメディアやテクノロジーのグローバルトレンドを研究。

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