おすすめ検索キーワード
CES2021レポート 「イノベーションとは、目前にある生活者の課題に向き合うこと」 ~CESにおけるオールデジタルの方法論~
TECHNOLOGY

CES2021レポート 「イノベーションとは、目前にある生活者の課題に向き合うこと」 ~CESにおけるオールデジタルの方法論~

年初恒例の世界最大級のコンシューマー向けのテクノロジーカンファレンスである「CES」ですが、2021年はコロナ禍の中、当初はリアルとデジタルの両方での開催を予定していましたが、昨年7月末に全面オンライン開催が発表されました。

今年は日本勢では、トヨタやホンダ、日産といった企業は不参加でしたが、PanasonicやSony、OMRON、J-startupなど常連の企業や団体も見られ、感覚的には例年の半数程度が参加していた印象でした。実際の数字でも主催であるCTAによると、出展社数は昨年の約4,500社から2,000社、来場者/登録者数は約17万人から8万人と発表されています。オンライン開催でもこの規模を実現できているのは、やはり注目度の高いCESだからでしょう。

*昨年のレポートはこちら。
CES2020レポート前編 https://seikatsusha-ddm.com/article/10629/
CES2020レポート後編 https://seikatsusha-ddm.com/article/10657/

今年は総じて、「パンデミックにおけるイノベーション」が各社の共通テーマになっていましたが、今までのように10年先の企業ビジョンを語るのではなく、より「目前の社会課題や生活者ニーズに向き合い実現させる」というグローバルトップ企業の意志を感じました。その点では、コロナ以前から取り組んでいる方向性は変わっておらず、マイクロソフトCEOのSatya Nadella氏も、2年分のトランスフォーメーションが2ヶ月で起きていると述べていましたが、ある意味強制的にイノベーションやDXが加速しただけとも言えます。むしろ今年は「オールデジタルの方法論」の方が、変化したポイントなのかもしれません。

「目前の社会課題に向き合うDXの加速」

Inflection Point: Putting Everybody in an EV
GM Chairman and CEO Mary Barra updates CES 2021 on the progress of GM's zero-crashes, zero-emissions and zero-congestion vision and how the company is driving an inflection point on mass adoption of EVs.

GMのオープニングキーノートでは、「INFLECTION POINT(変曲点) Putting Everybody in an EV」と題し、CEOのMary Barra氏が登場。冒頭にGMのパーパスとして、コロナによる従業員や顧客の安全性、ジョージ・フロイドの事件を発端とした問題に対するGMの方針転換(この話は長くなるので、別途検索してみてください)と、インクルージョンへのコミットメントから入りました。今年はGM以外にも多くの企業が、この2つの問題に向き合い、バイデン政権に変わる中での企業進化のメッセージを発信していました。
次に、EV普及がなかなか進まない現状の中、世界的な潮流である脱炭素化に向けたビジョンとして「zero crashes」「zero emission」「zero congestion」の3つを掲げ、それをEV化によって推進していくと宣言。GMが次世代に生まれ変わる象徴として企業ロゴも刷新。2025年末までに世界30車種の新型EVの発売予定と、そのEV化を支える新型バッテリーの開発、運転支援システム「Super Cruise」を紹介。

物流の効率化やエネルギー削減を目的とした商用EV車によるサービス「Bright Drop」、小型商用EV車「EV600」など新物流ソリューションを紹介。これらはFedexと共に2021年中にも展開の予定だそうです。

また、CESの直前となる1月8日に企業ロゴを57年ぶりに一新し、EVやプラグをイメージさせるものに変更。GMはすべての人向けのEVプラットフォーム(Ultiumプラットフォーム)を設計し、「Everybody In」というキャンペーンを展開。これも企業としてのダイバーシティに向き合う意志を反映させていると言えます。
脱炭素化の実現に向け、EV化を軸にこれだけ具体的なアクションとして打ち出し、コンテンツや演出も素晴らしいと感じたプレゼンテーションの1つでした。

GM企業サイト
https://www.gm.com/

企業ロゴのリニューアル
https://media.gm.com/media/us/en/gm/news.detail.html/content/Pages/news/us/en/2021/jan/0108-everybodyin.html

Everybody Inキャンペーン
https://media.gm.com/media/us/en/gm/news.detail.html/content/Pages/news/us/en/2021/jan/0108-everybodyin.html

「目前の生活者ニーズに応えるイノベーション」

Samsungは、プレスカンファレンスにSamsung ResearchのプレジデントSebastian Seung氏が登場。「Better Normal for All」のタイトルと共に、映画のスタジオ調な雰囲気の演出から始まり、「ホーム」がよりハブ的な空間になると説明。家族との時間だけでなく、リモートワークや学校、外部サービスへの接続、一人一人の生活や個性、使い方が重要とし、パーソナルな体験ができるようにイノベーションをデザインしているそうです。

リビングルームも過ごし方や位置づけが変化したことで、TVも変わるべき。だからTVはスクリーンとして、ギャラリーや室内空間の用途で使い分けたり、テラスに設置したり、また「Samsung Health」を通じた自宅フィットネスもできるようになるとし、MicroLEDの機能性の解説ではなく、生活者のニーズに合わせたイノベーションを直感的に表現しています。

 他にも、レシピ検索からショッピング機能を搭載した「SmartThings Cooking」、他にもスマート洗濯機、カジノサポートをしてくれるロボットのコンセプトモデル「Samsung Bot Care」と「Samsung Bot Handy」の発表もありました。
これらのプロダクトは、昨年のCESでも一部紹介されていたものも多く、形状や機能を変え、あるいは組み合わせることで、新しい価値を提供できるものへと着実に進化しています。コロナの影響から、生活者の家中やリビングの体験や行動が変わる中、「目前の生活者ニーズ」に既存のテクノロジーやプロダクトをいち早く進化、あるいはピボットさせリリースするスピード感も、今後求められるイノベーションの形でしょう。

また、個人的に期待を感じたのが、使わなくなったスマートフォンのアップサイクリング(リサイクルではなく、新しい価値として利用する)プログラムの「Galaxy Upcycling at Home」です。元々、アップサイクリングのプログラム自体はあったものを、家庭用にソフトウェアを導入し展開するもの。例えば、赤ちゃんの見守り用デバイス、あるいはペットの見守りやセキュリティのソフトウェアを搭載して活用するものだそうです。
今までは、こういった活動は、企業にとって新商品の販売を妨げるものとして積極的ではなかったのではないでしょうか。私自身にとっても、新しいスマホへの機種変更や利用プランばかりに目が向いていたので、このプログラムは新たな価値と顧客体験を生む企業活動として、とても斬新に映ります。

CES2021 Samsungマイクロサイト
https://www.samsung.com/us/explore/experiences/ces2021/

プレスカンファレンス映像
https://www.youtube.com/watch?v=DqXsTtW5VEo

「オールデジタルにおけるコンテンツ設計と方法論」

今まで、壮大な規模のプロダクト展示を売りにしていたCESが、オールデジタルに変わり、今年は「CES公式サイトへの出展」、「自社マイクロサイト」、「企業独自のオンラインイベント」の3つが、多くの企業が展開する主な構成になっていたと思われます。
ブランド体験やCXの観点から見ると、CESという世界的に注目が集まる期間の「コンテンツの設計と配置」「時間軸の展開」が、一層重要になってくるでしょう。現時点では、恐らく来年はラスベガスでのリアル開催とオンラインのハイブリッド型になるので、オンラインxオフラインの両方の観点も合わせて必要になってきます。

例えば、CES公式サイト(~2/15までオンデマンド利用可能)は、コンテンツフォーマットが決まっているため、30分のプレゼンテーション映像、スピーカーセッションのオンデマンド配信、プロダクト映像、配布資料、連絡先といった限られたものになるため、ここではプレゼンテーションやプロダクトの「映像や演出」が、かなり重要になります。メリットは、多くのCES来場者やメディアに見てもらうことができる点や、コンタクト先やチャット機能も掲載されているため、本来リアルの場で名刺交換するようなビジネスリードの獲得ができる点です。

一方、自社マイクロサイトは、コンテンツ設計の自由度が高いので、各社リッチなコンテンツ体験を用意しているように感じました。多くの企業が、映像コンテンツを中心に構成しながら、3Dやバーチャルツアーといったコンテンツを用意する企業もありました。私自身も体験してみましたが、使い勝手も以前と比べて良くなり、ZoomやTV番組のリモート出演に違和感がなくなってきたのと同じように、アバター同士のコミュニケーションも今後違和感なく成立していくのだろうと、将来性は感じました。

P&G Life Lab
https://pglifelab.com/

LG
https://www.lg.com/global/exhibition/homeappliances/lgfurnitureconcept/html/index.html

Philips
https://www.v-liveexperience.com/ces2021/

 

Samsungが展開する「時間軸」について、ご紹介します。上図が、私が見た範囲ですが、CESの直前から期待値を高め、最終日にGalaxy S21(スマホ新商品)をローンチする流れになっています。
通常、Samsungは毎年2月にスペインで開催されるMWC(Mobile World Congress)で新型スマホを発表するのですが、今年はコロナで6月下旬に延期となったため、CESの最終日に独自のGalaxy Unpackedというオンラインイベントを実施しました。The First Look 2021というのも独自イベントですが、こちらはディスプレイ事業に寄った新製品発表を中心に、CESのプレスカンファレンスの限られた時間では伝えきれない情報を、事前に紹介しました。映像の冒頭では、飛行機からラスベガス空港に着陸し、街中に進んでいく映像から始まり、CESファンの心をくすぐる演出もあります。Samsungは、どの映像もCGやアニメーション、各プロダクトの紹介や、サステイナビリティの企業メッセージの伝え方など、テンポも良く、非常に参考になるコンテンツです。
また、このタイミングで「The Voyage」(航海)というタイトルのコーポレートブランドサウンドも刷新。視覚だけでなく「聴覚」にも訴えかける取り組みを行なっており、サウンドは今後のコンタクトレス(非接触)体験やサービスにおいて重要な要素となっています。

The First Look 2021
https://www.youtube.com/watch?v=7moa0_fH84Y

Galaxy Unpacked
https://www.youtube.com/watch?v=TD_BZN0bn_U&t=1227s

コーポレートブランドサウンド「The Voyage」
https://news.samsung.com/global/what-melody-opened-samsungs-ces-2021-the-new-corporate-brand-sound-the-voyage

このようにCESの事前、期間中、事後の独自イベント、コンテンツを戦略的に設計していくという視点もオンラインイベントでは重要になると考えます。CESの場合、12月末あるいは1月頭からが事前のタイミング、事後も3週間程度はメディアから情報が出続けるため、独自のオンラインイベントを開催する方法もあるでしょう。

今回は割愛しますが、今後CESのオンライン出展を検討される方、認知がまだ低い企業の場合は、今年のCES公式サイトは検索され難い構造になっているため、異なる情報戦略を展開する必要があります。

今年のCESは、オールデジタルという各社模索しながらの取り組みでしたが、グローバル各社の動向から、確実に風向きの変化を感じました。「生活者や社会の目前にある課題」を解決することこそが、イノベーションのあるべき方向です。CESも中止にするのではなく、「オールデジタルでやり切る」というのもCESとしてのイノベーションだったのではないでしょうか。
我々日本企業も、この状況下で不安になるのではなく、まず既にある技術や資産をもとに、目前にある生活者の課題に向き合い、身近な人々の安全や安心、楽しみを生み出していくことが求められていると思います。イノベーションの歩みを止めない、これは日本企業が最も得意な領域だと思います。

sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 博報堂 CMP推進局 局長代理
    博報堂のフィロソフィーである生活者発想を軸に、デジタルやデータを活用したマーケティング領域の戦略プランニング、マネジメント、事業開発、イノベーション、グローバル展開を担当。自動車、IT、精密機器、エレクトロニクス、EC、化粧品業界を中心に、デジタルシフト、データ分析、DMP活用、データ基盤構築、組織開発など、マーケティングの高度化を支援。中国駐在経験もあり、アジア、中国、インドの海外業務やテクノロジー動向にも精通。海外広告賞審査員も行う。