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CES2020速報レポート後編 「イノベーションの本質は、テクノロジーにとどまらない生活者と社会への価値創出」
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CES2020速報レポート後編 「イノベーションの本質は、テクノロジーにとどまらない生活者と社会への価値創出」

【まとめ:イノベーションの本質は、テクノロジーにとどまらない生活者と社会への価値創出】

前編では、「Intelligence of Things:AI実用化と各社が示す次の未来のコンセプト」と題して、Samsung、デルタ航空、トヨタ、ソニーといった企業のキーノートやプレス発表から、そして後編は、
・ビジネスモデルの転換を見据えた各社の動き
・ヘルスケア×テック領域の出展が増加
・パーソナライズ化が進むビューティー×テック領域
・フードテックの未来:植物性代替肉は定着するのか?
といったヘルスケア、ビューティ、フード領域のトピックスを紹介させて頂きました。

今年のCESは、昨年から兆しは出始めていましたが、もはやテクノロジーや新製品の発表ではなく、「生活者のライフスタイルをいかに革新していくか」を各社がグローバルに発表する場になっていると言えます。

ボイステクノロジーやAIは数年前から発表され、毎年様々な企業やプロダクトを通じて、収斂されコンシューマープロダクト、生活者のライフスタイルに落とし込まれていく、この進化の流れを実感できました。特に今年は、AIを活用してパーソナライゼーション化されていたり、単品プロダクトからコネクテッドされたシステムやサービスに進化しているものなど、よりバリューチェーン全体の視点からイノベーションの進化と商品としての具体化を実現していると思います。
このCESの場では大企業も毎年ではないものの2~3年に一度大きな進化を発表したり、スタートアップも展示スペースが大きくなったり、プロダクトが増えたりと成長進化を感じる場面がたくさんありました。その変化を毎年肌で実感できるのがCESの楽しみの1つです。

マーケティング視点から触れておきますと、P&Gは今年のCESで2年目となりますが、マーク・プリチャード氏は、昨年から「P&Gはテックカンパニーとして、スタートアップのリーンかつアジャイルなやり方を学び、従来のマスマーケティングモデルをディスラプトする」と宣言していました。
P&G Venturesから始まったスタートアップブランドのOpteは昨年も発表していたのですが、今年はPrecision Skincare Systemという形でプロダクトの精度アップだけでなく、パーソナライゼーションのシステムとサブスクリプションのビジネスモデルの仕組みを決めて、年内予約販売予定($599)まで着実に進めており、まさにバリューチェーン全体のイノベーションを実現している例だと言えます。*P&G Life LabのWEBサイト開設もCESにて発表

同氏は、昨年の「ディスラプション」に「コンストラクティブ(建設的な)」を追加し、今年は「コンストラクティブ ディスラプション(Constructive Disruption:建設的な破壊的創造)をリードする」と宣言していました。

「イノベーションそのものをP&Gのやり方でイノベートする」。今までのやり方をディスラプトして、バリューチェーン全体でのイノベーション、ブランディングやマーケティング、外部パートナーシップ、ダイバーシティやSDGs領域も含むイノベーションを実行すると意味しているようです。

日本ではイノベーションというと、優れたアイデアがおこすマジックのように捉えられることが多いのですが、「自社のグロース、バリュー創出、生活者に仕える(Serve)ことを前提目的とし、自社ビジネスのバリューチェーンの1つ1つをスタートアップのように革新し、精度とスピードを上げて取り組むことがイノベーションである」ということを、2年越しのCESを通して見せつけられた気がしました。

他にも「パーソナライゼーションへの期待と同時に、プライバシーへの配慮も必要。新しいテクノロジーやソリューションと同時に、安全性と信頼性、透明性も必要。イノベーションのハードルは上がり続けているが、社会とビジネスの両方に良いものでなくてはならない」と言っていました。
P&Gは以前から、環境、高齢化、デジタル、バイアスといったマクロトレンドや、社会問題に積極的に取り組んでおり、「この領域にもイノベーションをもたらす新しい思考が必要だ、エモーショナルなハイタッチと、テクノロジーやデータ活用(データアナリティクスやビヘイビラルサイエンス(行動科学))の両面を通して、生活者とコネクトする」と、CESの場に相応しいメッセージ、ストーリー作りがされていました。

Impossible foodsの代替肉も大豆由来になるダイエットということではなく、将来的な世界人口増加に対するタンパク質供給の問題、食肉になるまでの水や肥料二酸化炭素の環境問題、動物愛護意識など、社会問題が背景にあります。Impossible foodsは昨年に続き、CESの場で今年はアジア市場を狙ったポーク(豚の代替肉)を発表。グローバルなPR効果のある場として、エシカル意識のたかそうなIT系ターゲット層やメディアなど、CESの会場で話題になっていましたが、彼らのミッションは、世界のフードエコシステムを変えていくこと。サイエンスやテクノロジーで、代替肉の美味しさや栄養、サステイナブルにしていくメッセージを伝えています。

(IMPOSSIBLE FOODSのブース。右の垂れ幕にミッションを掲げ、企業活動に参加登録してもらうための試食サンプリングを用意。)

またデルタ航空は、前編でも紹介しましたが、顧客エクスペリエンスの革新のためのテクノロジーやアライアンスの取り組み紹介だけでなく、CEOが最後に従業員やフライトアテンダントをステージに登壇させ、「顧客エクスペリエンスに最も重要なのは、デルタ航空の従業員達である」といい、ステージ上から観客席に向かってセルフィーを撮影していました。またブース内にもフライトアテンダントによる解説があったり、ブース内セミナーでも社内の功労者を賞賛するなど、今までのCESのキーノートにはなかった光景です。テクノロジーやプロダクトの紹介をこれでもかと発表する企業も多くいる中、今年のデルタ航空は良い意味で異彩を放っていて、とても好感が持てました。この発表を聞いて、帰国の便にデルタ航空を選んでおいて良かったなと思いました。まさに「テクノロジー×人の接客」による新しいエクスペリエンスとホスピタリティの形が感じ取れました。これも自社ビジネスのアセットや従業員、テクノロジーを活用して、バリューチェーンを革新している例だと言えます。

毎年CESに来させて頂いているのもあり、社内で「今年は何がNEWなの?」と聞かれることも多いのですが、今年はP&Gやデルタ航空といった、いわゆるIT系ではない企業が、AIやテクノロジーを活用して、イノベーションを具現化しているということではないでしょうか。

企業におけるイノベーションには、テクノロジーや商品だけではなく、「生活者と社会」を中心とした、自社企業のブランド、従業員や働き方、本業のバリューチェーン、店舗やパートナー、スタートアップとのエコシステム、ダイバーシティやサステイナビリティといったカルチャーも含めたイノベーションが必要です。
そして、CESにおける大企業の多くは、これらのイノベーションを実現するための、Lab組織や、スタートアップに投資・アライアンスを組むエコシステムがあります。

節目の年であるCES2020を通して、AIやテクノロジーの進化、イノベーション、マーケティングの目指すべき役割に気づけたことが今年の収穫だと感じています。CESに見られた多くのテクノロジーは、これらのより良いライフスタイルや社会のイノベーションを実現するためのものでしょう。
これらの視座を持ち、企業として取り組むべき新しいブランディング、マーケティングのシフトチェンジ、スピードが我々日本企業もグローバルスケールで求められています。

<欄外>NEONのCES期間中の動画コミュニケーション

SamsungのSTAR Labというプロジェクト傘下にNEONというのがあり、高精度なAIによるバーチャルヒューマン、デジタルアバタープロジェクトのようなものです。CES開催前から事前発表し話題だったのですが、本番のデモがうまくいかず、メディアから辛辣な評価を受け、開催中に毎日のようにその弁明、論証を動画を通じてNEON創業者が対応している構図もCESらしい新しいコミュニケーションの形だと感じました。バーチャルモデルがインスタグラムで話題になっていることもありますが、動画やサイネージを通したAIアバターも人の認識や感じ方次第なところもあるので、この領域も様々なビジネスシーンで活用されていく日も近いでしょう。

 

  • 博報堂 CMP推進局 第一グローバルグループ
    2013年入社後、トイレタリー・化粧品・食品・OTCなど消費財領域を中心にマーケティング戦略立案を担当。現在はグローバル領域における企業のデータマーケティング支援、およびコマース領域の事業・ソリューションの研究開発に取り組む。
  • 博報堂 CMP推進局 局長代理
    博報堂のフィロソフィーである生活者発想を軸に、デジタルやデータを活用したマーケティング領域の戦略プランニング、マネジメント、事業開発、イノベーション、グローバル展開を担当。自動車、IT、精密機器、エレクトロニクス、EC、化粧品業界を中心に、デジタルシフト、データ分析、DMP活用、データ基盤構築、組織開発など、マーケティングの高度化を支援。中国駐在経験もあり、アジア、中国、インドの海外業務やテクノロジー動向にも精通。海外広告賞審査員も行う。