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【連載 Creative technology lab beat Vol.6】 生成AIはクリエイティブやスキルセットをどう変えるのか
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【連載 Creative technology lab beat Vol.6】 生成AIはクリエイティブやスキルセットをどう変えるのか

「クリエイティブ×テクノロジー」をテーマに活動を続ける博報堂DYグループの横断型組織「Creative technology lab beat(以下、beat)」。そのメンバーが語り合う連載記事の第6回をお届けします。今回は、生成AIを活用したプロジェクトに取り組む柏原平志朗が登場します。プロジェクトから見えてきたAIの可能性とは──。

木下 陽介
Creative technology lab beat共同リーダー
博報堂DYホールディングス 統合マーケティングプラットフォーム推進局 局長/テクノロジスト

柏原 平志朗
Creative technology lab beat
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
アクティベーションディレクター

AIを活用して広告の業務プロセスを変えていく

──柏原さんが博報堂に入社したのは2023年1月とのことです。現在のお仕事についてお聞かせください。

柏原
広告コンテンツの企画・制作をしています。テクノロジーとIPへの興味と理解が強みだと個人的には思っています。
最近では広告制作の現場でも、AIを活用しています。
AIをどのように活用できているかというと、たとえば「果汁100%の甘酸っぱい飲み口のオレンジジュースのCMをつくりたい」と指示すれば、テキスト生成AIがCMの脚本をつくり、画像生成AIが絵コンテをつくり、おおよその完成イメージまではパッと仕上げてくれるという状況です。もちろんそれで完成というわけではなく、あくまで叩き台の状態ですが、AIがつくったものをベースに議論してブラッシュアップする、ということはできていますし、プロモーション戦略を定めるためにグループインタビューを行いたいとき、ペルソナを仮定し、そのペルソナに応じた回答をしてもらうことも可能。簡易的なリサーチや戦略づくりにも役立てています。

──beatにおいて柏原さんに期待されている役割とはどのようなものですか。

木下
デジタル広告による獲得効率などを向上させるパフォーマンスクリエイティブと、生活者と長期的な関係を築いていくためのブランデッドクリエイティブ。その2つをどうつなげていくかが現在のbeatの課題です。
AIを上手に活用しながら、パフォーマンス領域とブランデッド領域を融合させ、かつクリエイティブをつくる業務プロセスを変えていく取り組みの先端事例を柏原さんにつくってほしい。そう思っています。
僕は、柏原さんたちが取り組んでいるプロジェクトから3つの可能性が見えたと考えています。
まず、クリエイティブをつくるスピードです。
以前からあった広告手法において、AIを使えばかなりの手間が省けるため、短期間で作品を仕上げることが可能な場合があることが分かりました。
2つ目は、現時点におけるAI活用のトライアルになったことです。
現在の生成AIには「癖」があって、その癖を踏まえてプロンプト(AIへの指示や質問)を書く必要があります。AIによりよいアウトプットを出させるには、プロンプトを工夫しなければなりません。柏原さんのチームメンバーは、自分たちが表現したい、伝えたいクラフトを実現するためにひつようなプロンプトを指示する経験値を得られていると思います。
それから3つ目は、AIを効率化のためだけに使うのではなく、ブランドの世界観を伝えたりというブランデッドクリエイティブのために使うアプローチも可能であると分かったこと。
これは、今後のbeatにおいても非常に重要になるはずです。

スキル拡張ツールとしてのAI

──様々な取り組みから見えてきたAI活用の可能性についてお聞かせください。

柏原
一番の気づきは、AIはスキル拡張のツールになるということです。
これまで、クリエイティブをつくる作業において自分のアイデアをビジュアルとして伝えるには、絵やデザインのスキルが必要でした。また、アイデアをわかりやすく伝えるには言語化のセンスも求められました。しかしAIは、プロンプトをもとに絵や言葉を生成してくれます。つまり、絵が書けなくてもアイデアを絵で伝えることができるし、言葉のセンスがなくてもアイデアをコピー化できるわけです。

僕の仕事上のポジションはプラナーですが、AIを活用することで、プラナーという立場にありながら、コピー案を考えたり、ビジュアルイメージを自分でつくって、それをもとにほかのメンバーと議論をしたりすることができるようになる。同じように、デザイナーやコピーライターも、それぞれの専門性を軸としながら自分のスキルを拡張することができる。そこにAIの大きな可能性があると思います。

木下
クリエイティブの領域だけでなく、営業担当がAIを活用して自らビジュアル案やコピー案をつくることもできそうですよね。
逆に、クリエイターがAIを使って市場レポートをつくるなど、マーケティング領域の仕事ができるようにもなると思います。今後はいろいろな立場の人が、AIの力によってマルチタスクをこなせるようになるのではないでしょうか。

柏原
もちろん、AIを使ったからといって、コピーライターがアートディレクターになれるわけではありません。職能としての専門性は従来どおりあるけれど、意思疎通がスムーズになったり、イメージの共有がスピーディになったりするということです。
木下
これまで、クリエイティブをつくる作業では、実際のクラフトワークにたどり着くまでに、長い時間をかけて試行錯誤を繰り返していたわけですがAI活用によってかなりの時間を短縮できるますし、2つのクリエイティブアイデアを掛け合わせるといった試みもAIを使えば容易にできるようになります。

──AIを上手に活用するポイントについてもお聞かせください。

柏原
先ほど木下さんからもあったように、プロンプトをしっかり書くことですね。
自分が目指すものをAIに生成してもらおうとすると、場合によっては数千字のプロンプトを書く必要があります。その作業がたいへんなので、AI活用に二の足を踏んでいる人も少なくないと思います。

1つ確かに言えることは、「アイデアが思いつかない」と言って天井を眺めている時間にプロンプトを書いてAIに読ませれば、間違いなく何かしらのアイデア、あるいはアイデアのヒントは出てくるということです。そう考えれば、AIを使わなという選択肢はもはやないと言っていいと思います。

もっとも、プロンプトが重要視されるのはあと3年くらいだと僕は考えています。プロンプトで事細かに指示しなくてもある程度のアウトプットを出してくれるところまでAIは早い段階で進化していくと思います。

質の高い「独断と偏見」こそがクリエイティビティ

──AIが生成したものをどう評価し、どうアレンジしていくか。そのスキルも必要であると言われています。

柏原
おそらく、それが人間に残される最後の砦になるのではないでしょうか。
現在のAIには、「これでいいじゃん」と言えるくらいのレベルのアウトプットを生成する能力があります。しかし、プロのクリエイターに求められるのは、それに対して「いや、これが足りない」とか「ここはこうでなければならない」という視点を加えることだと思います。その視点は多くの場合、その人の個人的な経験に基づく独断と偏見です。しかし、その質の高い独断と偏見こそがクリエイティビティなのだし、それがあることによってクリエイティブの解像度が向上するのだと僕は思います。

木下
「当たり前」ではないもの。今の生活者が「それはいいね」とは言っていないもの。つまり、AIにとっては学習データがないもの。
それを生み出せるのが人の力ということですよね。「当たり前」ではない学習データを大量に用意すれば、AIは「当たり前」ではない答えを出してくれるかもしれません。しかし、それには莫大な費用と時間がかかります。そう考えれば、やはりその仕事は人がやるべきタスクなのだと思いますし、そこが我々の会社が長年培ってきたDNAがいきていくのだと思います。

──AIによるスキル拡張と、人とAIの生産的分業。その方法論を見出していくのもbeatの役割と言えそうですね。

木下
おっしゃるとおりです。AIを使った新しいクリエイティブプロセスや、業務のスタイルの方法論を確立する取り組みを続けていきたいと思っています。

「個告」と「広告」の違いとは

──AIの普及によって、広告はどのように変化していくのでしょうか。

柏原
僕は、これからの広告は「個」に向けたものと「大衆」に向けたものでアプローチの仕方を変えていくべきだろうと考えています。後者が従来の「広告」で、前者はいわば「個告」です。
これまでは、「企業」ないし「ブランド」という円が一方にあり、集団としての「生活者」という円が一方にある図でマーケティングは説明されてきました。その円の重なりがすなわちマスコミュニケーションです。

しかし現在は、無数の「個」の小さな円があって、それが「企業」や「ブランド」の円と点で接しているというイメージがより実態を表していると思います。その点がどこにあるかを一つ一つ明らかにして、メッセージの出し方を切り分けていくのが「個告」です。

生活者のニーズに合致した最適なコンテンツを届けるパーソナライズ広告、つまり「個告」は、AIの得意領域です。
一方、大衆が共通して抱くブランドイメージをつくっていくのが「広告」の役割です。大衆に流れる空気を捉えながら、新しい価値やイメージを創造することは、まだしばらくクリエイターにしかできない領域になるはずです。ただし、足元のコスト削減やスケジュール短縮といった効率化の領域で、クリエイターをサポートする存在として、AIが存在感を発揮していくことになるのだと思います。

木下
以前の広告は「ブロードキャスト」であり、現在の広告は「コミュニケーション」であるという考え方があります。ブロードキャストとはTVなどのマスメディアを通じてワンメッセージを多数の人々に伝えることであり、コミュニケーションとは相手に応じてメッセージを変えていくことです。いわゆるブランディングは、柏原さんが言うように「大衆が共通して抱くブランドイメージをつくっていく」ものであり、その意味でブロードキャストであると言えます。柏原さんの言葉を借りれば、ブランディングに必要なのは「広告」であり、コミュニケーションに必要なのは「個告」である。そう言ってもいいかもしれません。

僕たちが考えなければならないのは、その「広告」の領域でAIを活用して新しい価値をつくっていくための思考プロセスやプラニングウェイです。
これまでのマーケティングの歴史を振り返れば、マス広告が世の中を変えたことが何度もありました。例えば、エコロジーに対する意識の高まりは、自動車会社がエコを意識した企業広告を長年行ってきたことで世の中のエコに対する興味や意識が高まった歴史もあります。そのときのコミュニケーションの話法や経験をAIと接続させたときにどのような価値が生まれるか。
それを考えて、プロダクト・サービスとして世に出していくこと。
それがbeatの役割であると考えています。

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