おすすめ検索キーワード
生成AIとルールベース型チャットボットのハイブリッドが生み出す顧客接点の未来
TECHNOLOGY

生成AIとルールベース型チャットボットのハイブリッドが生み出す顧客接点の未来

AI技術の進歩は目覚ましく、直近ではテキスト生成AIの「ChatGPT」や画像生成AIの「Stable Diffution」など、さまざまな生成AIの登場が社会に大きな影響をもたらしています。

産業構造やビジネスの商慣習に革新をもたらす可能性を秘めている生成AI。

デジタル社会の発展に伴うDX推進の文脈でチャットボットを導入し、業務効率化やコスト削減に取り組む企業も、生成AIの台頭は見過ごせない状況だと言えるでしょう。

今回は、博報堂テクノロジーズの管轄会社でチャットボットに特化したデジタルコミュニケーションを提供する株式会社Spontenaの北原 由佳と、同社と業務提携を行っている株式会社日立コンサルティングの加耒 敬行さん、岡田 航汰さんが、「生成AIとルールベース型チャットボットのハイブリッドが生み出す顧客接点の未来」をテーマにディスカッションを行いました。

勤怠管理や経費精算、スケジュール調整などさまざまなチャットボットを開発

──まずはSpontenaと日立コンサルティングの関係性について教えてください。

北原
Spontenaは2013年に博報堂が設立した、チャットボット企業になります。単にチャットボットを導入するのではなく、ユーザーエクスペリエンス視点からコミュニケーション設計や実装を行うほか、独自の自然言語処理技術を活用して、人間同士のコミュニケーションに近い高品質な会話体験を提供できるのが大きな特徴となっています。これまでクライアントの課題を解決するために、さまざまな産業の企業に向けてチャットボット開発を手がけてきました。

日立コンサルティングとは2020年3月に資本業務提携を締結し、企業のデジタル変革をより多方面でサポートし、新たなサービスデザインやビジネスモデル創出を図っていくため協業関係にあります。

加耒
日立コンサルティングは2014年からデジタルコンサルティングに取り組み、お客様のDXをサポートしています。その中で、従来のコンサルティングに留まらず施策の実現まで伴走する手触り感のある支援に一層力を入れていきたいと考えていました。
Spontenaと協業することで全社的なデジタル戦略を策定するだけでなく、クライアントの抱える顧客課題を実際に解決するところまで支援できるようになりました。特に、顧客接点から始まる業務改善の領域で、協業を活かした事業展開を進めています。

Spontenaの持つチャットボットの開発技術やコミュニケーションノウハウと、日立コンサルティングの展開するデジタルコンサルティング事業のシナジーで、社会課題の解決や業務効率化に繋がるソリューションを提供しています。

──これまで、具体的にどのようなソリューション開発を行ってきたのでしょうか?

北原
BtoB領域では、勤怠管理やスケジュール調整、経費精算チャットボットなどを手がけてきました。また、BtoCでは日本有数のLINE公式アカウント登録者数が4,000万人を誇るサービスのチャットボット開発も行っています。
チャットボットの導入に至っては、ユーザーの利用シーンを想像しながら、コミュニケーションの動線設計を行い、そこから機能を決めていくという流れを重視しています。
岡田

当社でも導入しているスケジュール調整のチャットボットは、“小さい秘書役”のように活用できる利便性の高いサービスです。Office365やTeamsと連携し、チャットボットに「Aさん、Bさん、Cさんとミーティングしたい」と投げかけるだけで、空いている時間に会議を設定します。日立コンサルティングも利用者になることで改善を繰り返し、使い勝手を突き詰めて開発しました。

生成AIは「機械が人間に寄り添う」体験を生み出す

──わずか2ヶ月で月間アクティブユーザーが1億ユーザーを達成したChatGPTのように、生成AIは大きな話題になっています。企業はどんな反応をしているのでしょうか。

加耒
「自社で生成AIを使いたいが、どうしたら良いかわからない」、「セキュリティを担保した上で社員が生成AIを業務で使えるようにしたい」といった問い合わせを数多く頂いています。さらに最近ではツールの導入に留まらず、人間と生成AIの分業という観点から、生成AIの「使いこなし」やどういう業務に適応すれば一番効果が得られるのか考えたいというニーズも増えてきています。

──そもそも、なぜChatGPTはここまで話題になったのでしょうか。

北原
ChatGPTがここまで話題になっている最大の理由は、スムーズなユーザー体験にあると考えます。自分が思ったことを何となく入力すると一定程度的を射た回答が返ってきて会話ができる、そんな体験自体に大きな驚きや感動が生まれていると思います。
これまでのITサービスでは、ユーザーが機械の求める形式やルールに合わせるのが当たり前でした。例えばWebフォーム入力をする際には、ボタンの意味や入力規則を理解し、決められたフォーマットに則って記載していく必要があります。いわば、”人間が機械に寄り添っている”側面があったわけです。それがChatGPTの誕生によって、自分が頭に思い描いたことをそのまま入力しても、機械が理解して動いてくれるようになった。“機械が人間に寄り添ってくれる”という体験が生まれたことは、大きな変革だと感じています。
岡田
まさにデザインシンキングの出発点である「人間中心のデザイン」(ヒューマンセンタード・デザイン)が、ChatGPTの登場で加速していくわけですね。自然な会話形式のインターフェースを上手くサービスに組み込めれば、インターフェースの不便さや複雑さに耐えかねて、ユーザーが離れてしまうようなことが減るのではないかと考えます。

生成AIの得意なこと、苦手なこと

──ChatGPTを実際使ってみてどう感じていますか。

北原
実際にChatGPTと会話してみると、返答はすごく滑らかで”話が通じる”という感動がありますね。例えば、「近くにあるおすすめのレストランを教えて」と聞いてみると、いくつかのお店を挙げるだけでなく、「事前に予約をしてから行った方がいいかもしれない」と気遣いまで示してくれました。
岡田
さも人間のオペレーターが話しているような回答が返ってくるところは、やっぱり驚かされますね。
北原
そうですね。一方で、返ってきた情報をそのまま信じてよいのか、信頼性が現時点の懸念だと言えます。例えば先ほどのレストランの例では、提案されたレストランのうちいくつかが、存在していない架空のお店でした。その辺りの情報の信頼性、正確性に関してはユーザー自身が判断していかなければならず、ChatGPTを使う際には留意すべき点だと感じています。
岡田
時々行き過ぎた内容を返してしまうこともありますよね。例えばシステムエラーが起きた場合のユーザーへの回答をChatGPTに書かせると「速やかに対応し、数日以内にご連絡します」という趣旨の文章を生成しました。本来企業の担当者であれば、いつ頃どのような対応ができるのか見積もったうえで、適切な回答を返したいところですよね。ChatGPTが想定と異なる返答・想定以上の返答を返してしまう可能性があることには気を付けないといけません。

──ChatGPTは「文章の生成」や「文章の要約」など、自然な文章生成が得意なわけですが、誤った情報を返したり、倫理的に問題のある回答を生成したりする可能性が指摘されています。ChatGPTを使う上で注意すべき点を教えてください。

加耒
技術の特性をよく理解することだと考えます。ChatGPTは「確率にもとづいて次の文章を予測・生成する」機能を基本としたAIだと理解しています。正しい使い方をするためには、そうした特性を理解したうえで、APIや各種のサービスと組み合わせ正しい情報を与えたり、場面に応じて使い分けたりする必要があります。
サービスに組み込む場合には生成AIの回答をある種野放しにするのではなく、一定のルールに基づいて回答を返すチャットボットを上手く取り入れていくのも有意義だと考えます。
岡田
「ChatGPTに何を期待するか」正しい期待を持つことが大切ですよね。“聞いたら何でも教えてくれる万能なAI”と期待値が高くなりすぎている部分もあるかなと考えています。あくまで、自然言語処理の得意なAIという見方で捉え、活用領域を考えていくことが重要です。

ChatGPTとルールベースの「ハイブリッド型」が新たな顧客体験を生む

──生成AIとルールベース型のチャットボットを比較すると、どのような違いがあるのでしょうか。

北原
Spontenaのチャットボットは「ルールベース型」と呼ばれる技術を用いており、これはユーザーのインプットに対応してどんなアウトプットを返すか、予めプログラミングで定義します。ルールベース型のチャットボットは「会話のシナリオ」を明確に設定できるのが特徴です。コミュニケーションを十分デザインし、会話の流れを設計すれば、ユーザーにスムーズな体験を届けつつ意図したやり取りをきちんと完遂できます。
岡田
例えば予約や申し込みのような、必要な入力項目があらかじめ決まっている用途はルールベース型のチャットボットがあっていると言えますね。
北原
そうです。一方で、ルールベースは「決められたルール通りにしか返答できない」という限界を持っています。生成AIは先ほど見たように、意図しない返答をするリスクがある一方で、与えられたインプットから自然で滑らかなアウトプットができるのが強みです。そこで、お互いの良い部分を掛けあわせ、ハイブリッド型のチャットボットサービスができないかと考えています。

──ルールベースとChatGPTにおける具体的なハイブリッド構成について教えてください。

北原
ハイブリッド構成は、会話の内容をルールベース型チャットボットの技術できちんとコントロールしつつ、生成AIを使って柔軟性やユーザー体験を高める構成です。
ありとあらゆるユーザーの入力を、システムが理解できるようにフォーマット化して整える部分を生成AIが担い、処理された入力をルールベースが正しいアウトプットに変換して、ユーザーに返答を行います。

システムがユーザーの入力を理解できない場合は、生成AIがクッション言葉を挟むなどして、会話をうまく成立させることが可能になると考えています。

──ハイブリッド構成を活用することでチャットボットはどのように進化するのでしょうか?

北原
まず、より柔軟に会話に対応できるようになります。チャットボット開発の経験から言えることは、ユーザーは本当に千差万別な文言で質問を投げかけ、人それぞれ様々な機能や回答を期待するということです。これらの期待に応え、快適なユーザー体験を届けるのが私たちの腕の見せ所ですが、あらゆるパターンを見込んで開発するのはコストもハードルも高くなります。うまく生成AIを活用してユーザーの入力をある程度フォーマット化し、入力情報を整えた上でルールベースに受け渡してあげれば、スムーズな会話が可能になります。

また、従来のようなルールベース型のチャットボットはシナリオから外れてしまうと「気の利いた一言」を返せないのが難点でした。例えば一連の会話シナリオが終了し、ユーザーが最後に「ありがとう」と入力したとき、「その質問は理解できません」等と返答が返ってきてしまうのは興覚めです。
生成AIを利用して最後に気の利いた一言を返すことで、顧客体験はよくなり、ユーザーから親しみや信頼を得られるようなチャットボットになると考えています。

加耒
北原さんが仰ったハイブリッド型はBtoB領域でも応用できると考えています。業務システムへの入力や連携を行うのであれば、ふるまいをきちんとコントロールできるルールベース型の特徴は重要です。一方で、ビジネスシーンにおいてはなおさら、業界用語や専門用語、略語のような特有の表現で会話する場面が多いと思います。使い慣れた用語を自然に理解し、欲しい回答を返してくれればチャットボットが頼れるパートナーになるのではないかと考えます。

生成AIとルールベースの「得意領域」を理解し、ビジネスプロセスに取り入れる

──ChatGPTを活用して、今後2社ではどのようなビジネスを展開していく予定ですか?

加耒
生成AIを含む先進テクノロジーを活用していくことを前提に、企業がユーザーにどんなサービスや体験を与えたいか、全体のデザインを支援していきたいと考えます。
生成AIは強力で大きな可能性を持っていますが、あくまでツールですから、その活用の結果将来的にサービスや業務をどう変革したいのか、ユーザーにどんな体験を届けたいのか、お客様と一緒にしっかり議論していくことが重要だと考えています。
そのためにも、生成AIが何が得意で何が苦手なのか理解し、適切な使いこなしや関連技術へとの組み合わせを深めていくことが大切だと思います。

北原
ユーザー体験を前提にサービスや機能を作っていくのは、まさに生活者発想を強みとする博報堂の得意とする領域です。ユーザーの利用シーンを想像し、それを元に機能やサービスを設計しないと、企業の視点を押し付けるサービスになってしまう可能性もあるでしょう。
そうならないために、Spontenaでは”ユーザーの利用シーン”を軸に、サービスを構築することを意識しています。クライアントから相談を受けた際、実際にサービスを体験してみて、「自分自身が1ユーザーになる」ことを意識しています。そこから、ユーザーがどんな気持ちや期待値でサービスを使っているのかを何十パターンも洗い出し、機能設計に移っていく流れを大切にしています。

機能をリリースした後も、ユーザーが入力するインプットのログを解析し、より良い顧客体験になるようにチューニングやブラッシュアップを重ねています。プロダクトやサービスの差別化が難しくなっている今、ユーザーは体感・体験の心地良さを重視するようになったため、企業側も生成AIをうまく活用し、ユーザー体験を向上させることが求められるでしょう。こうした背景の中、ユーザーが自然言語で話しかけるだけで、知りたい情報や手続きができるような新しいチャット体験を見出せれば、顧客満足度にも貢献でき、ユーザーから選ばれるサービスになります。

ルールベースと生成AIのハイブリッド構成や、それぞれの「使い分け」や「使いこなし」をベースに、引き続き会話エンジンの開発に尽力していきたいと考えています。

sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 加耒 敬行
    加耒 敬行
    株式会社 日立コンサルティング
    ディレクター
    「新規事業・サービスの立上」ならびに「DX戦略策定」にフォーカスした、大手企業向けのコンサルティング業務に従事。デザイン思考とテクノロジーインサイトを組み合わせたイノベーションに関するプロジェクト経験多数。
  • 岡田 航汰
    岡田 航汰
    株式会社 日立コンサルティング
    シニアコンサルタント
    大手企業向けの業務改革、新規事業の企画、DX戦略の策定・実行のコンサルティング業務に従事。特にデジタル技術を活用した従業員の働き方の変革や顧客接点強化のプロジェクトを推進。
  • Spontena,Inc.
    株式会社 博報堂人事戦略局
    株式会社 博報堂テクノロジーズマーケティングDXセンター
    コミュニケーション コンサルタント
    2016年博報堂中途入社。Spontena,Inc.にてチャットボット開発、サービス提供に従事。サービス企画からUX・コミュニケーション設計、開発・運用までシームレスに支援。直近はtoB向け企業間コミュニケーションの課題解決に向けた取組を推進。

関連記事