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トップクリエイター対談 1Tweetで社会を動かす SNSクリエイティブの可能性
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トップクリエイター対談 1Tweetで社会を動かす SNSクリエイティブの可能性

生活者が触れるメディアにおいて、今やタッチポイントの主戦場とも言えるSNS。企業やブランドはコミュニケーション課題の解決に向け、SNSとどう向き合いどのように活用していくべきなのか。
SNS起点でコミュニケーションを設計する手法であるSNSクリエイティブで多くの実績を残している「JAAA 2021年 クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリスト」の関谷“アネーロ”拓巳(TBWA\HAKUHODO)と「JPM The Planner 2022」受賞者の市川晴華(読売広告社)の2人に、生活者および社会を動かすSNSクリエイティブの可能性について語ってもらいました。

関谷“アネーロ”拓巳
TBWA\HAKUHODO

市川晴華
読売広告社

Twitter 1st で考える、ツイートで匂わせる、人格を感じさせる

アネーロ
僕が企画する上で大事にしているのは、商品の言いたいことよりも先に、Twitterユーザーに対して「これだったら“いいね”と思ってもらえるのではないか?」という視点をまず考えることです。そこからブランドと接着させる企画を考えることにしています。そのため周りから「関谷はTwitter 1st, Campaign 2nd. だな」と言われるようになりました。

携わっている仕事の1つにある人気飲食チェーンのプロモーションがあります。その中で同社のTwitter公式アカウントのツイートをチームで設計しています。プランニングにあたって、特に発売前のティザーのツイートを大事にしています。ティザーのバズが大きいほど、発売後の初動が大きく変わるからです。そこで新商品発売を“匂わせる”ツイートを企画しています。
例えば新商品発売前に意味深な一言だけをツイートして、会社の中の人が誤爆しちゃったのかな?と思われるようなツイートでタイムラインを騒つかせつつ、発売する商品のことにつなげていく流れを設計しています。

また、季節の風物詩化している人気商品については「あの季節が来ますよ」とそっと“匂わせる”ことで、みんなが「今年も、もうこの季節なんだ」「待ってました」という声が挙がることを意識してツイートしています。

市川
その場合、ユーザーのリアクションを想定して書いている感じですか? どうやってその一言を生み出しているのでしょうか?
アネーロ
ポイントはいろいろあると思いますが、一番は、What to Sayの“What”だけでなく“Who”を意識することです。このアカウントがつぶやいたら面白いよねということを意識しています。
短い一言を僕が個人でつぶやいても1つの「いいね」もつかないけれど、企業アカウントがつぶやいたら「どうした?笑」ってなりますよね。企業アカウントがつぶやかなさそうで、むしろユーザーのようなつぶやきであることが大事なんじゃないかと思います。そして、Twitter運用は、中の人の人格を感じさせることがとても重要です。
市川
その飲食チェーンの公式アカウントでも、人格みたいなものを意識されて運用されているということですね。
アネーロ
チームのメンバーは「ツイ廃」ばかりです。僕たちは「自分が普段Twitterで投稿するならこういう言い方にする」と意識しています。かしこまった定型文は使いません。そうすることで、中の人がTwitter好きな人格が伝わり、Twitterのカルチャーに受け入れられるのだと思います。
市川
意味深な一言だけをツイートするとか、確かに企業ってよりは何か人間っぽいアカウントだなって思いました。でもそれがTwitterユーザーに愛される人格なんですよね。

二次拡散の仕掛けとワンチームによる高速PDCAの実現

市川
私の「JPM The Planner 2022」受賞のきっかけなった作品の1つにサントリー ペプシコーラの‘’じゃがりこ愛してる‘’いう企画があります。
「ファミリーマート限定ペプシが発売するのでSNSで告知してください」というお題だったのですが、対象商品が当時国内で販売していた日本向けの「ペプシ ジャパンコーラ」ではなく、海外で販売されている「ノーマルペプシ」でした。これはペプシファンにとっては待望の商品で、ファンも多くTwitterでも「ノーマルペプシを売ってほしい」というツイートをよく見ていました。
今回の話をいただいたときに、これってファンみんなの待望の商品だと思い、「お待たせしました。ファン待望の「あのペプシ」ファミマで販売」という宣言をビジュアル化しました。このビジュアルだけでもTwitter内で拡散する可能性はあったのですが、気づいた人が別の拡散もしてくれるような二次拡散を生んでいく仕掛けをこの中に入れたらもっと広がるのではないかと考えました。
商品販売キャンペーンとして「じゃがりこ」の引き替え企画を行なうことが決まっていたのでビジュアルの本文中に「じ ゃ が り こ 愛 し て る」という太字を仕込みました。いわゆる”匂わせ”です。
◇「ペプシ日本版公式アカウント」の関連ツイート
https://twitter.com/pepsi_jpn/status/1391936094493499397?cxt=HHwWioCj5Zmgk9EmAAAA

「じゃがりこ」もファンが多い商品なので、だれかがきっと見つけてくれると思いました。結果的に、文字を見つけて「じゃがりこ愛してるって何?」と拡散してくれる人やニュースサイトで「ペプシとじゃがりこ熱愛か?」といった記事化などの話題につながりました。いろいろな要因はありますが、この期間にファミリーマートでの商品売り上げに貢献できたという結果になりました。

また、ペプシのフォロワーの皆さんはリアクションがとても良いので、想定以上に気がついてくださる方がたくさんいました。そこで「ネタばらしツイート」だけではなく、きちんと熱愛の経緯を説明する「ペプシとじゃがりこのコンビ愛動画」も制作したほうが良いのではと考え、フォロワーの皆さんの反応を見ながら、クライアントに提案し、急ピッチで進めました。
◇「ペプシ日本版公式アカウント」の関連ツイート
https://twitter.com/pepsi_jpn/status/1399198953724289024?cxt=HHwWgICt7Z-C-uomAAAA

アネーロ
フォロワーの反応をみて次の一手を考えられるのも、SNSだからできることですよね。
市川
高速PDCAを回せたいい事例になりました。
アネーロ
そこまで短期間で進められたのは、クライアントとの距離が近くて良好な関係が築けていることが大きそうですね。今なにかやるべきだ!と考えてもチームの時間が取れなかったり、クライアントと調整できなかったりしますよね。だからこそ、どれだけクライアントとワンチームでできるかがすごく大事だなと思います。

大衆に好かれるよりも特定のクラスターに刺さること

アネーロ
僕はTwitter以外のメディアですと、YouTubeで「よまにゃチャンネル」という声優さんが集英社の文庫本を朗読するというチャンネルを作りました。
◇集英社文庫「よまにゃチャンネル」
http://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/yomanyachannel/
人気作ばかりの文庫本をさらに話題にし、売れる企画が必要とされました。
シンプルな企画ですが声優さんと朗読は相性がいいだろうし、熱狂的なファンの人たちにいいねと言ってもらえるじゃないかと。声優さんに様々なセリフを読んでもらう企画がありますが、名文を読んでもらえたら絶対に喜ばれるだろうなと考えました。
市川
声優さんを格好良く撮るって、ファンが一番見たい動画だったんじゃないかなと思います。しかも声優さんというより俳優さんのような見え方で撮られていたじゃないですか。きちん設計されたアートワークで作られていたところがすごく新鮮に見えました。
アネーロ
ビジュアルのコンセプトとして、一緒に読んでいるような感覚、読み聞かせてもらえる感覚を大切にしています。二次的な意味で、推しの声優が本を読んでいる仕草も結構シズると思ったんですね。
市川
声優さんで動画を作るとしたら、本や声を主役に構成を考えがちですが、しっかり画としても声優さんの魅力も堪能できるっていうところが新しいなと、この作品をみて思いました。特定のクラスターに刺さるってそういうことだなって気付きました。キャンペーン施策としてはどういう仕組みだったんですか?
アネーロ
動画は前編・後編があって、前編をYouTubeで無料公開をして、文庫本を買うと本がチケットになっていて後編が聴けるという仕組みになっています。
市川
確かにそれならファンの人は買いますよね。キャンペーンがやっていて推しの声優さんがお奨めしてくれる本だったら絶対買いたくなります。
アネーロ
そうなんですよ。前編をYouTubeで無料で見られますから、キャンペーンとしてちゃんと機能しました。前編は気になるところで終わるので、絶対に後編も見たくなるなと。前編だけでも30分から1時間ほどあるので、それだけで聞き応えがあり、後編も聴きたくなりますよね。

市川
私が担当した「アロンアルフア」のTVCMでは、知る人ぞ知るタレントさんが出ている」ことを仕込み、話題化を図りました。商品特徴が「たった5秒で接着できること」なので、15秒尺のCMで、5秒でくっつくシーンを描き、残り10秒が余るためその時間で全く関係ないことをして「接着の速さ」をアピールするという企画でした。こちらも、視聴者がSNSでツイートたくなる仕掛けをしたいと思いましたので、話題になっていた「バチェロレッテ・ジャパン」という恋愛リアリティ番組に出演していたタレントの當間ローズさんを起用して、残った10秒で鼻笛を吹いてもらったんです。余った時間でいかにインパクトを作るかというチャレンジでした。するとローズさんのファンの方が「ローズ?」と発見してくださり、拡散されました。SOV(share of voice)の上げ方として有効だなと改めて思いました。アロンアルフアについて一言言いたくなるコミュニケーションというのを常に大事にしています。
また、些細なことを見つけた人がつい言いたくなるという仕掛けも取り入れています。
実はこのCMはローズさんの口元に“接着”とかけて米粒が“くっついて”います。それを見つけた人が結構ツイートしてくださいました。CMを観た方がアロンアルフアについて考えてくれる時間ができて、何かコメントをしてくれるということも一つのCMの目指したいところだと思いますし、そういう仕掛けも一つの方法だと思います。
アネーロ
くっついているという“接着”とかけて、 米粒が“くっついている”面白い演出ですね。
ローズさんを「私は知っている」という状態が、特定のクラスターに刺さって、コメント数が増加するのではないかと思いますね。かつ、私が応援しなきゃいけないっていう気になるんじゃないかな。大衆に好かれるよりも特定のクラスターに刺さることが大事だなと改めて思います。

あえて言わない引き算のクリエイティブ

アネーロ
SNSの場合は、例えば画像だけがあって、“何かお気づきでしょうか?”とだけ書いてあるとか、細かく説明するよりもあえて言わない方がみんなリアクションしてくれるということもありますよね。
市川
確かにSNSはあえて言わないのが大事だなと思っていて、私も公式アカウントでは言わない言葉を決めておくことがありますね。中の人があえてフォロワーさんのツッコミどころを規定しない、全部言わないというところは、センスが大事ですよね、その引き算というか。
アネーロ
SNSこそ実は引き算が重要って言えますね。「ポスターやCMは時間・スペースが限られているからポイントを絞っていかなきゃいけない、Webならいくらでも言えます」という話になりがちなのですが、本当はSNSもCMとかグラフィックと一緒で、あんまり言い過ぎない方がいいと思っています。「じゃがりこ愛してる」も画像だけで本文にキャンペーンのことは何も書いていないじゃないですか。普通ならせめて1行だけでも何かヒントを書くと思うんですが、何も書かないでいいんだと思いました。
市川
企業の場合、文章をとにかく読んでもらいたいから普通だったらハッシュタグも入れて、5行ぐらい書いてしまうと思うのですが、やっぱりテキストは最小限の方が良いと最近は特に思います。

売れるバズを生む「完全商品中心主義」

アネーロ
SNSクリエイティブを企画するのに大事なこととして「売れるバズと売れないバズ」を日々意識しているかもしれません。市川さんも多分同じだと思いますが、僕は「完全商品中心主義」なんですよ。どの企画もその商品やブランドが中心にある企画が好きなんですね。映像だったら、ずっと商品が出ているとかずっと商品名を連呼しているとか。
バズが一般化し始めた頃は、とにかくネットで受ける面白い事をやって、最後に商品を出てくるクリエイティブが多かったと思います。今はその次の段階にきている気がします。商品を中心にした企画をどう面白くするかが重要で、その形でバズが起きるときちんと商品の売りに繋がるはずだと思います。
市川
商品を真ん中に置かなければいけないって根本的なことだと思いますが、SNSクリエイティブの企画をしているときって結構忘れがちになることもあると思うので、すごく大事なことですよね。
アネーロ
バズっても商品に関係ないとあんまり売れないと思っています。
だから日頃から企画を考えるときは‘’商品が中心にある事‘’を意識しています。
市川
売りに繋がるのもそうですし、商品が中心にある企画の方が、オリジナリティがあって面白くなっていく可能性もありますよね。その企業にしか言えないことを突き詰めていくと、段々と個性的になっていくし結果として一番商品の伝えたいことも言える。私も‘’商品が中心にある事‘’は大事にしています。

生活者発想をもとに謙虚な姿勢でトライ&エラーにチャレンジ

市川
これからのSNSクリエイティブにとって大事なことは、やはり常に謙虚に向き合う事がすごく大事な気がしています。過去の成功体験があるとそれが正解だと考えがちですが、SNSは正解が毎日変わっていくメディアだからこそ、謙虚に常に探究心を持って取り組んでいくということが必要なのだと思います。
アネーロ
おっしゃる通りSNSクリエイティブの手法に関するトレンドは日々変わるため、「これが正解です」と言っても、すぐに「まだこんなこと言っているよ」と言われてしまうこともあります。
僕が大事にしているのは、仕事だと思ってやらないということです。自分が1ユーザーとしてプライベートでつぶやくみたいな気持ちでやること、いわば生活者発想で取り組むことで、いわゆる定型文みたいな対応を避けることができると思います。
そしてSNSに投稿することはメディア費がかかりません。だからこそトライ&エラーを繰り返すことができる点が良いと思います。
市川
おっしゃるとおり、常に新しいことにチャレンジしていくという意味で、トライ&エラーができるSNSは実験の場として有効なメディアだと思います。だからこそ、ツイート手法のトレンドも常に追いかけていきたいと思います。
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  • TBWA\HAKUHODO Disruption Lab アクティベーションディレクター
    平成元年、栃木県生まれ。東北大学大学院で建築学を専攻。2014年博報堂入社。2017年よりTBWA\HAKUHODO所属。Twitter 1st, Campaign 2nd。ソーシャルを起点に全てを企画し、話題化と売上増にコミットする。2019年カンヌライオンズ/ヤングカンヌ世界一、2017年スパイクスアジア/ヤングスパイクス アジア1位、NY ADC、ONE SHOW、LIA、ACC、交通広告グランプリなど受賞多数。2020年ブレーンが選ぶU35クリエイター54人に選出。国連 世界食糧計画 Japan Impact Council メンバー。「会ってみると思ってたより面倒くさくないね」とよく言われる。
  • 株式会社読売広告社 クリエイティブセンター
    クリエイティブディレクター/プランナー/タイムラインクリエイター
    1990年生まれ。マスメディアからSNSまであらゆる手法を用いた話題化を得意とする。
    「JPM The Planner 2022」受賞。
    「JPMプランニング・ソリューション・アワード2022」で、サントリーペプシコーラ「じゃがりこ愛してる」を担当し、コストパフォーマンス・プロモーション企画部門金賞を受賞。その他、サントリーペプシ「本田とじゃんけん」シリーズ、東亞合成 アロンアルフア「時間が余るCM」「ウルフアロンにアロンアルフアインタビュー」、クラフトボス「パワポ専用アイドル”PowerPops!”」、イエローハット ピザハット リンガーハット 「ハット首脳会談」など。