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マーケティングシステムコンサルティング局は、「広告の外側」にある生活者接点を構想、開発、運用することを目的に博報堂内に立ち上がった新しい組織です。そこと、「テクニカル・ディレクター」のコミュニティであるBASSDRUMが、「B2H」と題するワークショップをスタートさせました。「BASSDRUM to 博報堂」を意味するこのワークショップの狙い、テクニカル・ディレクターという職種の役割、そしてマーケティングシステムコンサルティング局が目指すものについて、BASSDRUM代表の清水幹太氏と博報堂の入江謙太に聞きました。

異なる職能間の「翻訳」を行う仕事

──はじめに、博報堂のマーケティングシステムコンサルティング局とBASSDRUM、それぞれの概要をご説明ください。

入江
マーケティングシステムコンサルティング局は、広告活動以外の領域で生活者接点をつくることを役割とする部門です。アプリ開発、店頭におけるデジタル活用、会員プログラムの立ち上げ──。そういった施策のアイデアを出し、実現までの道筋をつくり、運用までも行っていくのが僕たちの仕事で、「何のためにそれが必要なのか」といったコンセプトからご提案していくことをミッションにしています。施策の具体的な形をつくっていくだけでなく、クライアントが持っている顧客データをどう活用していくか、既存のシステムとどう連携させていくかといった点についての提案や支援も行っています。
清水
BASSDRUMは、「テクニカル・ディレクター」をネットワーキングしたコレクティブ(集合体)です。では、テクニカル・ディレクターとは何か。そこからご説明します。
私はもともとデザイナーで、その後プログラマーになりました。それ以前には接客業をしていたこともあります。いくつかの職種を渡り歩いてきたことで、一つのプロジェクトの中で、いわば「翻訳」ができる。それが自分の強みだと以前から考えていました。その「翻訳」を一つの独立した仕事にしたのがテクニカル・ディレクターです。

──「翻訳」とは。

清水
プロジェクトの中には、クリエイティブ、エンジニア、営業など、さまざまな職能を持つ人たちがいます。それぞれ専門領域が違うので、考え方、モチベーション、あるいは一つの言葉に込めた意味などが異なるわけですが、そのギャップがプロジェクト進行のロスになるケースを私は何度も見てきました。とくに、デジタルテクノロジーを必要とするプロジェクトの場合、専門家の数が多くなり、さまざまな場面でギャップが生じることになります。そのそれぞれの専門家、とりわけプロデューサーとエンジニアの間に入り、コミュニケーションをスムーズにしていく。それが僕の言う「翻訳」です。
私がその役割をテクニカル・ディレクターと呼び始めたのは2006年頃のことでしたが、その後いろいろなプロジェクトに関わる中で、僕と同じ問題意識をもち、かつ同じ動き方をしている人が少なくないことを知りました。そこで、そういった人たちの横のつながりをつくって、世の中にテクニカル・ディレクターという仕事の認知を広めていきたいと考え、BASSDRUMを立ち上げたわけです。

「頭」と「手」を一体化する

──ビジネスの目標、アイデア、クリエイティブ、テクノロジーなどをつなげて、プロジェクトを成功に導く。それがテクニカル・ディレクターの役割と考えてよろしいですか。

清水
そういうことですね。プロジェクトの初期段階から参加し、プロデューサーが「こういうことをやりたい」とアイデアを出してきたときに、クリエイティブやエンジニアの意見を聞きながら、技術的に「それはできる」「それは難しい」と判断する。アイデアの実現が難しい場合は、「こういうことならできます」と対案を出して、プロジェクトの方向性を初期段階で調整していく──。それがテクニカル・ディレクターの重要な役割です。

──なるほど。そのプロセスがあると、のちのちプロジェクトの方向修正が発生するリスクが少なくなりますね。

入江
ビジネス開発やサービス開発のアイデアの中には、「面白いけれど実現は不可能」というものがたくさんあります。いわゆる、机上の空論ですね。テクニカル・ディレクターの役割とは、机上の空論を早い段階で補正していくことであると僕は理解しています。
清水
おっしゃるとおりです。プロジェクトがある程度進んだ後で、「やっぱりできなかった」となると、最初の数カ月はまったく無駄になってしまいますからね。それから、テクニカル・ディレクターは技術のプロでもあるので、開発や制作が進んでいく中で、現場のエンジニアにアドバイスをすることもあるし、場合によっては自ら手を動かすこともします。その点では、技術に関する「何でも屋」という側面もありますね。

──マーケティングシステムコンサルティング局とBASSDRUMのコラボレーションの可能性はどのようなところにあるのでしょうか。

入江
広告ビジネスには、大きく分けてプランニングとプロダクションという二つの機能があります。プランニングは構想する機能、プロダクションは実際にそれを形にしていく機能です。それぞれを「頭」と「手」と表現してもいいと思います。
これまでの広告ビジネスにおける仕事の流れは、往々にして、プランニング機能からプロダクション機能へ一方向的に進んでいました。しかし、新しいものを生み出す場合には、プランニングとプロダクションがフラットで双方向的な関係になること、いわば「頭と手が一体化する」ことが必要です。お互いに意見を交換し合って、アイデアとその実現性の幅を広げることができれば、これまでにないものをつくり出すことが可能になるはずです。

プロジェクトメンバーが「仲間」になることが重要

清水
新しいものをつくる場合は、その「つくり方をつくる」という作業が必要になりますよね。
入江
まさにそのとおりで、テクニカル・ディレクターに加わってもらえれば、プロジェクトやワークスタイルの新しい形、つまり「つくり方」をつくることができる。そこに清水さんたちとのコラボレーションの可能性があると考えています。
清水
僕も入江さんの問題意識には非常に共感しています。シンプルに言えば、仕事の中での上下関係を取り払い、みんなが「仲間」になるということだと思うんです。仕事の流れが一方向的になると、プランニングが発注者、プロダクションが受注者になってしまいます。そのような受発注関係が生まれると、それぞれの間に壁ができてしまう。しかし、その関係をニュートラルにし、それぞれを「仲間」と考えられるようになると、双方向的な意見交換ができるようになり、そこにシナジーが生まれます。お互いにリスペクトし合って、相手から学ぼうとするので、アイデアの質も高まります。そのような環境をつくるのがテクニカル・ディレクターの役割だと僕は考えています。

──そのコラボレーションの第一歩が今回の「B2H」というワークショップというわけですね。

入江
そうです。プロジェクトでアプリなどを手掛ける場合は、コンピュータープログラミングが必要とされます。しかし、エンジニアではない僕たちはプログラミングのことをしっかりと理解できていません。そこで一回目のワークショップでは、博報堂のメンバーがプログラムの動き方を体験するところから始めました。BASSDRUMの方々に教えていただきながら、自分たちでデータとデバイスをつなげて、実際にプログラムを動かしてみました。とても面白い体験でしたね。
清水
私たちが伝えたかったのは、エンジニアやプログラマーが「よし! 動いた!」みたいな、とてもシンプルなモチベーションで仕事をしているということです(笑)。自分が組んだプログラムが動くことがエンジニアやプログラマーの一番の喜びで、それを体験して頂けたのはたいへん意味のあることだったと思います。
一方、私たちが入江さんたちに教えていただいたのは、マーケティングの考え方や生活者発想ということでした。生活者のインサイトをいかにつかんで、そこからどのような顧客接点をつくっていくか。その具体例をいろいろお聞きして、目から鱗が落ちました。
ワークショップの名前は「B2H」、つまり、「BASSDRUMから博報堂へ」となっていますが、もちろんそこには「H2B」、つまり「博報堂からBASSDRUMからへ」も含まれます。あくまでも双方的なワークショップということです。

「習慣のクリエイティブ」を生み出すフォーマット

──このコラボレーションはビジネスのパートナーシップに発展してきそうですか。

入江
短期的にビジネスの成果を生み出していくというよりも、まずは、僕たちとBASSDRUMのメンバーがフラットでニュートラルな関係をつくっていく実験をすることに意味があると思っています。
従来の広告は、生活者の気持ちを一瞬でつかむことに力点があって、そこで求められるのはいわば「感動のクリエイティブ」でした。それに対して、マーケティングシステムコンサルティング局が目指しているのは、生活者に長期にわたる価値を提供できる「習慣のクリエイティブ」です。そのようなクリエイティブを生み出すフォーマットはまだ確立していません。それを僕たちはつくっていきたいと考えています。
そのフォーマットに求められるのが、まさにプロジェクトメンバー間のフラットな関係であり、相互理解であり、さまざまなプレーヤーが結びつくエコシステムです。その新しい形をBASSDRUMの皆さんと一緒に模索していく場がこのワークショップです。
清水
ワークショップを入江さんと企画するに当たって、僕の念頭にあったのはグーグルの「G2G(グーグラー・トゥ・グーグラー)」という取り組みでした。これは、グーグルの社員が別のグーグル社員に対して何かを教えるというもので、例えば、経理の人がプログラミングを学んだり、その逆のパターンがあったりします。
同じ会社の中にいても、異なる部署の人がどんな仕事をしているかほとんど知らないのは珍しいことではありません。もし、ほかの部署の人がどんな仕事をしていて、どんなことを日々感じているかがわかれば、会社のビジネス全体を俯瞰できるようになるし、どうアプローチをすれば気持ちよく動いてもらえるかもわかるようになります。B2Hは、会社を超えてそれを行う試みということです。

──今後の予定についてお聞かせください。

入江
ワークショップの初回には、BASSDRUMから6人、博報堂から10人くらいが参加しました。参加者はみな確かな手応えを感じたと思います。ここで得たものをそれぞれ持ち帰ってもらい、次のアクションに関するアイデアを自由に出してもらう。それが次のステップです。僕や清水さんが引っ張るというよりも、次にやるべきことがメンバーの中から自然に生まれてくることをまずは待ちたいと思います。
清水
その結果として、ビジネスにつながるチームをつくっていければいいですよね。BASSDRUMという社名は、バンドにおけるベースとドラム、つまりリズムセクションを意味しています。私たちがバックでしっかりしたリズムをつくり、博報堂の皆さんにフロントでボーカルをとったり、ギターソロを弾いてもらったりする。そんなチームが理想です。長期的には、そのチームの力でこれまでになかったものを生み出していきたいと考えています。
  • 清水 幹太
    清水 幹太
    BASSDRUM代表/テクニカルディレクター
    東京都生まれ。東京大学法学部中退。バーテンダー・トロンボーン吹き・DTPオペレーター・デザイナーなどを経て、独学でプログラムを学んでプログラマーに。2005年12月より株式会社イメージソース/ノングリッドに参加し、本格的にインタラクティブ制作に転身、クリエイティブ・ディレクター / テクニカル・ディレクターとしてウェブサイトからデジタルサイネージまで様々なフィールドに渡るコンテンツ企画・制作に関わる。2011年4月より株式会社PARTYチーフ・テクノロジー・オフィサーに就任。2013年9月、PARTY NYを設立。2018年、テクニカルディレクター・コレクティブ「BASSDRUM」を設立。
  • 博報堂 マーケティングシステムコンサルティング局
    ユーザーエクスペリエンスデザイン部 部長
    マーケティング/クリエイティブ/デジタルを統合したコミュニケーションプランニングの知見と、広告を超えた新しいサービス開発の知見をかけ合わせ、企業や事業やブランドの成長に貢献します。日本マーケティング大賞、ACCグランプリ(マーケティング・エフェクティブネス部門)、モバイル広告大賞、東京インタラクティブアドアワード、カンヌ、アドフェストなど受賞。