
生活者発想と生成AI 人間のクリエイティビティは駆逐されるか、進化するか|ウェビナーレポート
2025年2月27日と4月24日、生成AI活用をテーマにウェビナーを実施しました。博報堂は長年「生活者発想」を大事にしてきました。生活者のインサイトを掘り出し、実行力ある打ち手を考えることは、広告に限らず多くのビジネスパーソンにとって重要な力であることは、言うまでもありません。
本記事では、ウェビナーの内容から、生成AIが求められている社会的背景(人口減少、業務効率化、IT人材育成など)や、博報堂が考える生成AI最前線と活用術をご紹介。そしてマーケティング・セールスのソリューション(バーチャル生活者/バーチャル販売員) も詳しく解説します。
登壇者
入江 謙太(博報堂 コマースデザイン事業ユニットCXクリエイティブ局)
栗田 昌平(博報堂 コマースデザイン事業ユニットCXクリエイティブ局)
生成AIは生活者を理解するためのパートナー
- 入江
- 本日は、ホットなトピックスでもある生成AIと、博報堂が創業以来、企業フィロソフィーとして掲げている生活者発想を掛け合わせることで、どんな新しい価値創造が可能になるのか、お話させていただきます。
あなたとAIの関係は、何ですか?
まず、生成AIについてですが、皆さんにとって、AIはどんな存在でしょうか? ひとつは、何かわからないことを検索したり、聞いてみる「道具」としての存在ということが言えると思います。
少し進化すると、仕事やビジネスの「パートナー」として活用している人もいるでしょう。また、「競争相手」としてとらえている人もいるかもしれません。実際、“AIが人間の仕事を奪ってしまうのではないか”という意見も出ていて、AIを脅威として考える人もいるのはご存知のとおりです。
この点に関して、私が共感するのが、NVIDIA CEOのJensen Huangが述べている「AIが仕事を奪うのではなく、AIを使いこなす人たちによって淘汰される」という考え方です。とくに今は、私たちがAIをどのように使いこなせるのか、試されている過渡期と言ってもいいのではないでしょうか。
博報堂のフィロソフィー:生活者発想
一方、博報堂は長年、「生活者発想」という企業フィロソフィーを掲げてきました。いわば、私たちの発想の原点とも言えます。
「生活者発想」は、世の中の人を単に消費者として捉えるのではなく、多様化した社会の中で、色々なことを感じたり、考えたりしながら生きる、主体性のある「生活者」として捉え、そのインサイトを深く洞察することから新しい価値を創造していこうという考え方です。
博報堂の生活者発想を支える、2つの論理的基盤
そして、この「生活者発想」を支える論理的基盤として、私たちが続けているのが「生活定点」という、2年に一回行う定量調査と、「HABIT」という調査データ群です。「HABIT」は、いわば生活者を多面的に捉えるデータスペックとご理解ください。
このように、博報堂は、2つの定量調査を通じ、「生活者発想」のアップデートを繰り返しながら広告を創ってきたわけですが、この調査の対象が関東と関西限定であることから、地方都市も含めた国内全体あるいはグローバルで生活者を理解することに限界がありました。
そうした生活者理解の限界を解決するために私たちが考えたのが、生成AIの活用です。いわば、生活者理解のための、さらには新たな価値創造のための“イマジネーションパートナー”としてAIを活用することを考えたわけです。
バーチャル生活者をつくる
- 栗田
- この取り組みの核になるのが「バーチャル生活者」です。「バーチャル生活者」の開発において、私たちは、バーチャルでありながら限りなくリアルな生活者を創ることを目指しました。
まず、ChatGPTやMidjourneyなどの生成AIを使って、生活者のビジュアルと内面、あらゆる側面をバーチャルでシミュレーションしていきます。併せて、企業やブランドに関する調査インタビューをあらゆる角度から検証して、キャラクターに反映させます。
「バーチャル生活者」を構成するのは、基本属性や写真の他に、性格・職業・SNSなども含まれます。
発見に富む生活者にするために工夫することのひとつは、エクストリームな側面を聞いてみることです。そうすると、新たな発見や、私たちが持てなかった視点などが抽出できます。また、具体的な過去のエピソードを教えてもらうことで解像度を上げることもできます。
さらに私たちが重視するのはインサイトです。つまり、普通,他人には言わないけれど、本音や本当の気持ちを表現してくれるペルソナを創っていくことで、新たな価値創造につながる「バーチャル生活者」を具体化でき、リアリティがあり、生々しい発見のある対話が「バーチャル生活者」とできるようになってくるのです。
バーチャル生活者を活用する3つのメリット
- 入江
- では、そうして作られた「バーチャル生活者」をどんなふうに活用すれば、単なる検索とは違う発見が得られるのか? その観点からAIならではの特徴を考えてみましょう。
AIには忖度がない
まず、「AIには忖度がない」ということが挙げられます。つまり、偏見や従来の知見にとらわれずに、あらゆる生活者に向きあうことができるのです。
例えば、あなたが辣腕の営業部長だと想定して、育休復帰直後の女性スタッフの本音を聞き出すという状況を考えてみると、その女性がどんな働き方をしたいのか、どんなことが嫌なのか、どんな悩みを抱えているのかといった、現実ではなかなか難しい質問も、AIを活用することで可能になります。
他にも、“行政の担当者”-“親と二人暮らしで老々介護の60代”とか、“コンビニの店長”- “20代ベトナム人のバイトスタッフ”、“製薬会社の担当者”-“体調に不安を抱える人”など、相手から本音を聞き出しにくい時に、AIを活用すれば、リアリティのある答えを引き出し、課題の解決に役立てることができます。
バーチャル生活者と対話する時に、“昨日どこへ行き、誰と会って、どんな話をしたのか。その時にどんな気持ちになったのか?”という、24時間のカスタマージャーニーのようなことを深堀りして質問すると、その生活者の解像度がさらに上がります。
また、どんなソーシャルアカウントを見ているかとか、どんなWEBサイトを見ているのかとか、質問をいろいろ工夫することで、イマジネーションパートナーとして、さらに発見に富んだ情報を与えてくれるようになります。
AIは感情的にならない
第二の特徴は、「AIは感情的にならない」という点です。つまり、良くも悪くも感情を持って生活を営む人間と違い、AIは感情的にならずに、建設的な対話ができるわけです。
例えば“腕にタトゥーを入れたい思春期の女の子”-“タトゥーに嫌悪感を持つ父親”とか、“営業成績を上げたい営業部長”-“離職率を下げたい人事部長”のように、利害や立場が異なることで、リアルではなかなか合意形成ができないような状況を打開するツールとして、AIは有効に働くのではないでしょうか。
バーチャル生活者に、一回でパーフェクトな回答を期待するのは難しいので、繰り返し同じ質問をして、気になったワードややり取りを深堀ってみると、新しい発見が得られることも多いと思います。
また、対話を重ねても、期待したような答えが得られないことも想定されます。そんな時は、年齢を変えたり、別の職業を想定したり、家族の関係性を付加してみたり、イマジネーションを膨らませながら造形していくと、可能性が広がっていくでしょう。
AIは時間を超えられる
AI活用の3番目のメリットは、「AIは時間を超えられる」ということです。これは実際に評価が高く、かつニーズも多い特徴です。つまり、SFのように未来の顧客や過去の人間と対話できるということです。
例えばあなたがソフトウェアマーケティング担当である決済アプリを開発したと想定すると、そのアプリのダウンロード直前のユーザーと対話できるわけです。ダウンロードすべきか否か決心できないでいるユーザーに、躊躇する理由を聞いたり、ダウンロードすることにしたユーザーに、その決定理由を聞いたり、過去の生活者と対話するという貴重な疑似体験ができます。
同時に、未来の生活者との対話も可能になります。例えば、自動車会社のブランドマネージャーという立場で、一年後に発売される電気自動車の購入者に購入理由を聞くといった、現実には不可能な対話もAIを活用すれば可能になります。そうすることで、気づかなかったユーザーのニーズを知ることができるわけです。
以上のように、バーチャル生活者をイマジネーションパートナーとして活用すれば、あらゆる生活者に向き合えたり、生活者と建設的な対話ができたり、さらには時間を超えることも可能になります。
「バーチャル販売員」 エグゼキューションパートナーとしての生成AIの活用
- 入江
- ここまで、生活者発想をアップデートするイマジネーションパートナーとしてバーチャル生活者を活用する狙いと可能性についてお話させていただきましたが、私たちはさらに進んで、「エグゼキューションパートナー」としてのAIの活用について構想しました。それが「バーチャル販売員」という新たなソリューションです。
世の中の多くのチャットボット販売員:人格が無機質かつ汎用的
「バーチャル販売員」は、平たく言うと、生活者へのコミュニケーションを生成AIで生み出すツールです。すでに、世の中にはチャットボット販売員というツールが存在していますが、人格が無機質で汎用的という難点がありました。
洋服にしろ車にしろ、従来のチャットボットのような無機質な販売スタッフに何かを相談したり、商品を買いたいと思う人は少ないはずです。場合によっては、クレームや返品が増えることも想定されます。
バーチャル生活者のノウハウを活用して、リアルな販売員をバーチャル化
そこで、私たちは、生活者が買いたい販売スタッフにリアルもバーチャルも接客してもらうことができないかと考えました。
具体的には、バーチャル生活者で培ったノウハウを活用することで、リアルな販売スタッフをバーチャル化したわけです。リアルな販売スタッフの接客方法や個人的な趣味、個性を多角的に反映させることで、数千タイプのバーチャル販売員をつくることが可能になります。そうすることで、リアルとバーチャルが同じ人格で、オンラインとオフラインをまたいで対話・接客できる“ハイブリットな接客UX”を実現しました。
オンラインで対話したくなる、アバターデザインとUIUX
また、ブランドの世界観を生活者が体感できる体験設計を目指し、オンラインで対話したくなるアバターデザインとUIUXを設計しました。
「バーチャル販売員」には、顧客接点の拡大、対話頻度の向上、ユーザーデータの蓄積の他に、販売スタッフの働き方改革など、ビジネス/マーケティング上の多様なメリットがあります。
フロントデスク、コールセンター、カウンセリングなど、お客様とのコミュニケーションが発生するあらゆる場面で活用できると同時に、カーディーラー、住宅メーカー、保険の販売員、美容部員など、多様な業界に対応可能です。
以上、博報堂が考える、生活者発想型の生成AI活用について、お話させていただきました。
博報堂が考える、生活者発想型の生成AI活用アプローチ
生活者の本音を生成AIで理解する“バーチャル生活者”、そして、生活者へのコミュニケーションを生成AIで生み出す“バーチャル販売員”。企業と生活者のコミュニケーションの場を拡げ、新たな体験を創る、博報堂エクスペリエンスクリエイティブ局の取組みにご興味がある方は、ぜひお声がけください。
本日はご参加いただき、ありがとうございました。
顧客体験を改善したい方へ
博報堂では、生成AIで生活者発想を支援するサービスプロトタイプ『バーチャル生活者』を提供しています。AIを生活者の声を聴くイマジネーション・パートナーとして活用します。ご関心のある方は、お気軽にお問い合わせください。
⇒ソリューション詳細はこちら
⇒ダウンロード資料はこちら
⇒お問い合わせはこちら
この記事はいかがでしたか?
-
株式会社博報堂 コマースデザイン事業ユニット CXクリエイティブ局クリエイティブ、ストラテジー、UX&サービスデザイン、アート、テクノロジー、データサイエンスなど、多彩なプロフェッショナルチームを統括し、広告の枠を超えた事業・商品・サービス開発、大規模Webやアプリ開発、ロイヤルティプログラム開発、EC構築、OMO店舗開発、マーケティングプロセス変革、人材開発支援、地域創生など、幅広い領域の業務を行う。博報堂の「生活者発想」を軸に、単なる効率化や最適化を超える、価値創造型AIの活用を推進し、新たな体験価値を生み出している。
-
株式会社博報堂 コマースデザイン事業ユニット CXクリエイティブ局デジタル領域を中心に広告キャンペーンの企画・制作やサービス開発、UI/UXデザイン業務に従事。Web/アプリはもちろん、リアル/デジタルイベント、メタバース、XRに関する体験デザインを行う。最近では、生成AIを活用したサービス開発業務を推進中。