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アバターを使った新しい洋服購買のスタイル──「バーチャル試着」を可能にするソリューション〈じぶんランウェイ〉(後編)
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アバターを使った新しい洋服購買のスタイル──「バーチャル試着」を可能にするソリューション〈じぶんランウェイ〉(後編)

自分のアバターで服をバーチャルに試着できる画期的ソリューション〈じぶんランウェイ〉。その体験会が都内近郊のショッピングモールで開催されたのは2023年3月のことでした。そこから見えてきた〈じぶんランウェイ〉の可能性と、ビジネス化に向けた道筋について、前編に引き続き5人のメンバーに語ってもらいました。

野田 貴司氏
GOOD VIBES ONLY CEO

田尾 雄也氏
GOOD VIBES ONLY 執行役員

中島 優人
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
OMOクリエイティブ部 エクスペリエンスディレクター

平沼 英翔
博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター
研究開発1グループ テクノロジスト

伊賀 理心
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
OMOクリエイティブ部 エクスペリエンスプラナー

参加者の心を捉えた〈じぶんランウェイ〉体験会

──2023年3月に行われたショッピングモールでの〈じぶんランウェイ〉体験会の様子をお聞かせください。

平沼
体験会は、ショッピングモールの店頭に3Dアバターをつくるための筐体を設置し、行き来する人たちに自由に参加していただく形で開催しました。参加者は、2日間で100名近くに上りました。僕たちがメインの参加者として想定したのはZ世代でしたが、実際にはZ世代が3割くらいで、ほかはミドル層、シニア層、7歳以下のお子さんといった構成でした。男女比はちょうど半々くらいでしたね。

──開催してみての手応えはいかがでしたか。

平沼
反省点から先に話すと、「アバター」とか「デジタルファッション」という言葉にすぐにピンと来る人は決して多くはなく、設置した筐体もひと目見ただけでは何のためのものかわからないと感じた人もいました。もう少しわかりやすい表現で体験会の趣旨をアピールできたら、もっと参加者が増えたかもしれません。

一方、参加してくださった方々にはとても満足していただけたようです。体験後に定量的なアンケートをとったのですが、「満足度」が5段階中の上位2段階で90%、「魅力度」は同じく98%という高い数値となりました。また、「楽しかった」と答えた方も96%にのぼりました。ソリューション自体の評価は非常に高かったと言っていいと思います。

野田
僕は、7歳以下のお子さんが多かった点に可能性を感じました。親御さんからすると子供に服を試着させるのはたいへんですし、アパレル企業には子どものモデルが少ないという課題があります。〈じぶんランウェイ〉を使えば、お子さんに筐体に短時間入ってもらうだけでアバターを使った洋服選びができるし、アパレル企業はアバターをモデルとしてカタログなどをつくることができます。ブランド側、お子さんがいる生活者側、その双方にとって有用なツールであることが明らかになったと思います。

田尾
「満足度」や「魅力度」が非常に高い結果になったことの背景には、洋服選びや試着への不満があると僕は考えています。アパレルショップで店員に話しかけられるのを苦手にしている人は多いし、試着が嫌という人も少なくありません。〈じぶんランウェイ〉はそういった不満や不便から解放してくれるツールである。そんなふうに感じた人が多かったのではないでしょうか。
平沼
確かに、アンケートの「実店舗として比較して優れてる点は?」という項目では、「店員の目を気にせず試着できる」という回答を88%の人が選んでいました。リアル店舗ではできない体験ができると認めていただけたと感じています。
中島
もう1つの課題を挙げると、スキャンして生成した自分のアバターを見て「リアルすぎて恥ずかしい」といった違和感を抱く方もいました。愛されるアバターへと更にアップデートしていくことも今後の検討事項の1つだと思います。
平沼
アバターで本人をどれだけリアルに再現するかという問題ですよね。美容室の鏡には、映った人の顔が1.1倍くらい縦長に見える工夫が施されている場合もあります。インスタグラムなどでも、自撮りの写真をデフォルトで加工する機能が備わっていたりします。そう考えれば、アバターも多少の見た目の調整が必要かもしれません。
伊賀
例えば若い女性の場合、相反する2つの気持ちがあると思います。理想の自分を表現したいという気持ちと、リアルな自分を見てみたいという気持ちです。そのバランスを考えることが重要だと私は思っています。理想的すぎず、リアルすぎるわけでもない、本人にとって納得感のあるアバターを生成する工夫をしていきたいですね。

アバターをシェアすることから広がる可能性

──ショッピングモールでの体験会を経て、見えてきたほかの可能性はありますか。

中島
体験会では店頭で〈じぶんランウェイ〉を体験していただきましたが、ゆくゆくはアプリをスマホの中にダウンロードしてもらってアバターを見られるようにしていきたいですね。それによって、生活者はいつでもどこでも試着体験ができるし、ブランド側には生活者との接触時間が増えるというメリットが生まれます。
伊賀
私は、「シェア」の機能に大きな可能性を感じています。お店の中を歩いているときに、友だちにすごく似合いそうな服を見つけてプレゼントしたいと思っても、その子の服のサイズがわからないということがよくあります。もし、アバターを互いにシェアしていたら、その場でその子のサイズを確認して服を買うことができますよね。友だち同士に限らず、おじいさんやおばあさんにお孫さんのアバターをシェアしてもらって、服を買うときに確認してもらえるようにするといった使い方もあると思います。
野田
「シェア」は重要なキーワードだと思います。中国のECモールで、シェアの機能をつけることで売上がかなり伸びたケースがあります。モールで見つけた服などの情報を「あなたに似合いそう」といって知り合いなどとシェアするとクーポンがもらえるといった仕組みです。それによって商品の情報がどんどん拡散されるので、ブランドや小売り事業者にとっても大きなメリットになります。

──アバターに試着させた服をほかの人に見てもらって、似合うかどうか意見をもらう。そんな使い方もできそうですね。

平沼
大いにあると思います。僕の上長は、〈じぶんランウェイ〉はミドル層の男性をメインターゲットにすべきだとよく言っています。ミドル層男性に多く見られるのは、自分では服を買わず、奥様が買ってきたものを着るというケースです。しかし、それが今一つ似合わないと自分では思っている。そんな人も少なくないようです。〈じぶんランウェイ〉のシェア機能を使えば、奥様が店頭で選んでアバターに試着させた服を旦那さんに送ってすぐにスマホなどで確認してもらうことができます。
中島
長時間の外出が難しい方にとっても〈じぶんランウェイ〉は有用だと思いますね。あるいは、アパレルショップが近隣にない場合に、〈じぶんランウェイ〉で試着したうえで商品を取り寄せるといった使い方も考えられそうです。

衣料破棄を減らす新しいサプライチェーンを

──〈じぶんランウェイ〉の活用が広まることで、アパレル業界のDX推進や、衣料破棄削減を実現できる可能性もありそうですね。

野田
それも非常に重要な視点です。衣料破棄の大きな原因の1つは、ミニマムロット数にあります。最低100着とか1000着といったロットからしか生産できない体制になっているので、需要に関係なく服をつくってしまう。そうしてつくった服が売れ残れば破棄するしかなくなる。そんな悪い流れが生まれています。つまり、問題はサプライチェーンにあるということです。

GOOD VIBES ONLYが中長期的に目指しているのは、需要を起点として、1着からでも服がつくれる新しいサプライチェーンの構築です。それが実現すれば、衣料破棄の問題は大きく改善します。〈じぶんランウェイ〉は、そのサプライチェーンを支えるツールの1つになりうると僕たちは考えています。生活者はほしい服をアバターに試着させてみて、サイズ感などを確認したうえで注文する。メーカーはその注文を受けてから商品を生産し、生活者に届ける──。そのようなサプライチェーンができれば、衣料生産の無駄はほとんどなくなるはずです。

田尾
アパレル業界のビジネスモデルは、セールありきで構築されています。夏本番になったとたんに夏物が30%オフで売られたりしますよね。これはほかの業界から見たらおかしな構造だと思うんです。でも、セールをしないと在庫を捌くことができないわけです。生活者の側から見ても、正価で買った服が次の月には3割引きで売られていたらがっかりしますよね。そういった構造を変えるためにも、デジタルファッションを活用した新しいサプライチェーンをつくることが必要だと思います。

野田
そのようなサプライチェーンができたら、衣料破棄が減るだけでなく、衣料品の品質が間違いなく上がっていくと思います。生活者は一つ一つの服をアバターに試着させてしっかり吟味したうえで買うようになるし、ブランド側はそのような生活者に選んでもらえる質の高い服をつくるようになるからです。そういう流れをドライブしていけるポテンシャルが〈じぶんランウェイ〉にはあると僕たちは考えています。

ビジネスモデルづくりの4つの段階

──最後に、〈じぶんランウェイ〉プロジェクトの次の展開の見通しをお聞かせください。

平沼
今後は、具体的なビジネスモデルをつくっていくフェーズに入っていくことになると思います。体験会のアンケートで「自分ランウェイがサービス化されたら使ってみたいですか?」という問いに対して、約84%の人が利用意向を示しました。また、「試着した服をECで購入したいですか?」という問いには約78%が、「実店舗で購入したいですか?」との問いには約76%が「購入したい」と答えています。つまり、アバターでの試着が実購買につながる可能性は非常に高いということです。購買モデルを確立して、マネタイズを実現していきたいですね。
中島
ビジネスモデルづくりには、4つの段階があると僕たちは考えています。まず、アパレル企業のイベントなどで〈じぶんランウェイ〉を使っていただくのが第1段階です。次に第2段階として、アパレルの旗艦店などに筐体を常設して、店頭で〈じぶんランウェイ〉を使っていただく方法が考えられます。第3段階として想定されるのが、カタログやECサイトと〈じぶんランウェイ〉を連携させる方法です。そして最後が、野田さんや田尾さんからお話があったようなオーダーメイドの仕組みをつくっていく段階です。この4つのモデルに一つ一つチャレンジしていきたいと考えています。
伊賀
私は先に話したように、プレゼントやギフトシーンに〈じぶんランウェイ〉を役立てていただける仕組みづくりにぜひ取り組んでみたいですね。
中島
今後の展開には、様々なプロフェッショナルの皆さんとの協業が欠かせません。GVOを始めとする皆さんとも連携しながら、〈じぶんランウェイ〉の社会実装を引き続き目指していきたいと思います。
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