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アバターを使った新しい洋服購買のスタイル──「バーチャル試着」を可能にするソリューション〈じぶんランウェイ〉(前編)
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アバターを使った新しい洋服購買のスタイル──「バーチャル試着」を可能にするソリューション〈じぶんランウェイ〉(前編)

ファッションを通じて自分らしさに出会いたい──。多くの生活者が抱いているそのような願いを叶えるソリューションが〈じぶんランウェイ〉です。自分そっくりの3Dアバターをつくり、たくさんの服を同時に試着し、着こなしやフィット感までチェックできるデジタルならではのアパレル体験。その開発経緯や今後の展望について、開発に関わった博報堂DYグループのメンバーと、GOOD VIBES ONLYのお二人に話を聞きました。

野田 貴司氏
GOOD VIBES ONLY CEO

田尾 雄也氏
GOOD VIBES ONLY 執行役員

中島 優人
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
OMOクリエイティブ部 エクスペリエンスディレクター

平沼 英翔
博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター
研究開発1グループ テクノロジスト

伊賀 理心
博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
OMOクリエイティブ部 エクスペリエンスプラナー

「新しい自分」に挑戦できるツール

──自分のアバターで試着体験ができる〈じぶんランウェイ〉がリリースされたのは2021年11月でした。その後、いろいろな取り組みや改善を続けてこられたようですね。あらためて、このソリューションの概要をご説明いただけますか。

中島
自分の3Dアバターに同時にたくさんの服を試着させて、ファッションショーのランウェイ形式で着こなしをチェックできるのが〈じぶんランウェイ〉の基本的な機能です。アバターは全部で6体で、それぞれの着こなしを360度の方向から見ることが可能です。

──3Dアバターはどのようにして作成するのですか。

平沼
専用筐体(VRC社のスキャン筐体)の中で本人のデータをスキャンして作成します。筐体は幅2m、奥行き2m、高さ2.5mくらいの大きさです。かなり大掛かりな装置に見えますが、コンパクトに折りたたんで運搬することが可能で、インターネット環境があるところなら屋内外を問わずどこでも利用できます。またスキャンにかかる時間もほんの数秒で、1、2分後にスマホ上にアバターが生成されます。移動式の証明写真機といったイメージですね。

──開発のきっかけについてもお聞かせください。

中島
2020年からのコロナ禍で、リアル店舗への来店が激減しました。そんな中で、商業施設から「デジタルを活用したファッション体験を提供できないか」というご相談をいただいたのが始まりでした。いろいろ検討した結果、デジタル空間で試着体験ができる仕組みをつくろうということになり、テクノロジー系のメンバーや、外部の協業パートナーにプロジェクトに加わってもらってプロトタイプ開発に着手しました。2021年にリリースしたのはそのプロトタイプです。幸いいくつかのメディアに取り上げていただき、アパレル企業からのアプローチもありました。その後、アパレル業界の課題感をお聞きしたりしながら、細かなアップデートを続けてきました。
平沼
〈じぶんランウェイ〉は、試着の心理的ハードルを突破できるツールであると僕たちは捉えています。アバターだから、実際のアパレル店舗では試着が恥ずかしいと思うような服を着てみることができるし、ブランド横断で何着でも同時に試すことができます。
伊賀
新しい自分に挑戦できるツールと言ってもいいですよね。リアル店舗での試着数には限界があるし、ハイブランドだとメイクで汚してしまうのが怖くて試せないという気持ちもあります。だから、あまり試さずにいつも着ているのと同じような服を買ってしまったり、低価格帯のアイテムで挑戦したりすることになります。それで失敗して、結局着なくなってしまう。そんな体験は誰にでもあるはずです。でも〈じぶんランウェイ〉を使えば気軽に試すことができるので、失敗が少なくなるし、冒険することで自分でも知らなった新しい自分に出会うこともできる。そんなふうに思います。

ECとリアル店舗をつなぐハブとしての〈じぶんランウェイ〉

──アパレル企業にはどのようなメリットがあると考えられますか。

中島
例えば、一度作った3Dアバターをスマホに保存してECからも試着できる仕組み、カタログに載っているアイテムを試着できる仕組み、あるいは店員さんがおまかせでコーディネートしてくれる仕組みなどをつくることで、試着体験の間口がぐっと広がると思います。

──小売りやEC事業者にとってもメリットがありそうですね。

平沼
ECの場合、サイズ感やフィット感などを具体的につかむことが難しい場合が多いですよね。そんなときに、自分の体型を再現したアバターに試着させて着こなしを確かめられる機能があれば、そこから購買する人が増えると考えられます。また、D2Cなど、実店舗をもたないブランドに利用していただく選択肢もあると思います。

僕が非常に可能性を感じているのは、〈じぶんランウェイ〉をECとリアル店舗をつなぐハブにする方法です。アパレルの購買動線で比較的多いのは、まずECでアイテムをチェックして、その後に実店舗に行って試着して買うというパターンです。でも実際に店舗で試着してみると、ECで見たのとはイメージと違っていて、結局買わないというケースも少なくありません。

しかし、仮にECサイトに〈じぶんランウェイ〉の機能があれば、店舗に行く前に自分のイメージにぴったり合う服を絞り込むことができます。また、実店舗に行ったときもたくさんのアイテムを試着せずに済みます。結果として、顧客体験が向上するし、実店舗での購買確率も高まると考えられます。上記仮説はこれまでの実証実験で実施した定量調査結果からも、正しいのではないかと感じています。

──ECで試着してそのまま購入するという動線もありそうです。

平沼
もちろんです。いろいろな購買動線がある新しいOMO(オンラインとオフラインの融合)モデルを〈じぶんランウェイ〉によってつくることができると思います。

アパレル業界の課題をデジタルで解決したい

──アバターに着せる服のデータはどのようにつくるのでしょうか。

中島
現段階では、デジタルで架空の服をつくってアバターに着せる仕組みになっていますが、今後、アパレル企業やECサイト、ショッピングモールなどに〈じぶんランウェイ〉を使っていただくには、実際に販売されている服をデジタル化する取り組みが必要になります。その取り組みにおいて、GOOD VIBES ONLY(以下、GVO)の皆さんのお力が非常に重要になると考えています。

──GVOの概要をお聞かせいただけますか。

野田
2014年にアパレルのブランド事業を立ち上げたのが会社の始まりです。その事業は3年ほどで売却したのですが、売却時に数億円分の在庫の価値が一切評価されないという経験をしました。アパレル企業が在庫を抱えるのは当然のことだと僕たちは思っていたのですが、それには資産価値がないとみなされたわけです。

在庫問題はすべてのアパレル企業が抱えています。その問題をデジタルの力で解決できないか。そう考えて、ファッションビジネスのDX化を目指す事業に大きく舵を切りました。その時点でやりたかったことは、「ファッション×デジタル」のモデルづくりと、AIを活用した需要予測に基づく適正な在庫管理の仕組みづくりです。その後小さなピボットを繰り返しながら、「デジタルファッション」をテーマにした事業を続けてきました。

中島
〈じぶんランウェイ〉のプロジェクトにGVOに皆さんにジョインしていただいたのは、2023年3月のショッピングモールでの体験会の直前でした。体験会は、幅広い生活者に〈じぶんランウェイ〉を体験してもらって、意見を聞くことを目的として企画したものです。しかし、体験会を実現するにあたって1つの課題がありました。デジタルアイテムの制作です。それ以前は、3Dアバター生成を専門とするパートナーさんにお願いする形でデジタルファッションを制作いただいていたのですが、社会実装を進めていく上では、よりアパレル業界に精通し、デジタルファッションを量産できるプレーヤーとの協業も必要になってくると僕たちは考えました。
平沼
〈じぶんランウェイ〉に適合したアイテムづくりができるプレーヤーをリサーチして、たどり着いたのがGVOでした。最初にアプローチさせていただいたのは、確か本番の2週間くらい前でしたね。
田尾
そうです。どういったアイテムが必要かというディスカッションをして、女性用のワンピースと男性用のトップスとボトムスをデジタルでつくることになりました。そこから5日間で試作品をつくって、それをブラッシュアップして最終アイテムを提供しました。
中島
色味や光沢などに関して細かなリクエストをさせていただいたのですが、すぐに対応してくださいました。ものすごいスピードでしたよね。
田尾
僕たちがリクエストに短期間で対応できた理由は2つあります。1つは、もともとブランド運営をしていた会社なので、大量のパターンデータのストックがあることです。そのデータをベースにして、ご要望のアイテムをつくることができました。もう1つは、繊維事業者などと提携してデジタルファブリックの仕組みをつくっていたことです。デジタルファブリックとは、素材などをデータ化してデジタル上でデザインできるプラットフォームを意味します。そのプラットフォーム上には、5000点を超える素材の物性データやテクスチャーデータなどがライブラリー化されています。そのライブラリーを活用することで、色味や光沢、質感などのリクエストに即座に応えることができるわけです。

中島
初めて仕事をご一緒させていただいて、まさに理想的なパートナーだと感じました。今後、〈じぶんランウェイ〉を多面的に展開していくにあたって、GVOの皆さんのお力が絶対に必要になると考えています。

洋服選びの方法を変えるソリューション

──デジタルファッションを手がける立場から見て、〈じぶんランウェイ〉をどう評価していますか。

田尾
最初にデモを見せていただいたときは、本当にびっくりしました。アパレルのプロでも、ECで自分の服を買うときは、フィット感などを把握することが難しいものです。まして一般の生活者の皆さんは、自分がECで買おうとしている服が自分に本当に合うかどうか確信を得ることはなかなかできないと思います。

その点、〈じぶんランウェイ〉を使えば、短時間でアバターがつくれて、パンツの丈感やジャケットを着たイメージなどを確認することができます。生活者にとっては洋服を選ぶ際の新しい手段になるツールであり、ファッション業界にとっても画期的なソリューションになると感じました。僕たちは以前から、デジタルファッションの技術でビジネスをどう拡大していくかをずっと話し合ってきました。僕たちの技術を〈じぶんランウェイ〉に提供することで、新しいデジタルファッションのモデルがつくれる。そんなふうに考えています。

野田
僕は、〈じぶんランウェイ〉が最初にリリースされた時点から注目していました。僕が感じたのは、確実にコマースでの成果を上げられるソリューションだということです。アパレル企業が売上を上げたり、ユーザーの満足度を向上させたり、ECサイトのコンバージョンを上げたりするために使えるに違いない、と。

その後、お声がけをいただいてからソリューションに実際に接してみて、アバターの再現度やファッションショーを模した仕組みのクオリティの高さにあらためて驚きました。田尾が言うように、ここに質の高いデジタルファッションを組み合わせれば、アパレル業界にとって間違いなく有用なツールになると思います。これから、博報堂の皆さんと一緒に本腰を入れてこのソリューションを育てていきたいですね。
(後編に続く)

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