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Web3によって変革が進むメディアとマーケティング【Media Innovation Labレポート.25】
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Web3によって変革が進むメディアとマーケティング【Media Innovation Labレポート.25】

2021年頃から、NFTやメタバースに関係する話題が世間を賑わせ始めました。それと同時に、「Web3」という言葉もにわかに注目を集めています。Web3とはどんな概念でなぜいま注目すべきなのか、メディアやマーケティング領域における可能性や影響とは。デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ※)の永松範之に、ナレッジイノベーション局兼Media Innovation Labの田代奈美が聞いていきます。

■世界の中心は間違いなくWeb3に移っていく

田代
「Web3」というキーワードをここ最近よく耳にするようになりました。改めてWeb3とは何か、その特徴などについて教えてください。
永松
Web3を一言で表すならば、「ブロックチェーン技術によって実現される次世代のインターネットの姿」となります。
まずご存じのWeb1.0、Web2.0の世界では、プラットフォーマーによってデータやコンテンツが独占され、サービスの統治が中央管理者である特定企業に集中しており、サービスを運営する企業によってコンテンツやデータが一方的に削除されるということが当たり前でした。一方でWeb3では、非中央集権型組織で、プラットフォーム支配からの脱却、自律的な組織運営が試みられています。そこでは中央管理者が不在で、組織に参加する同等の発言権を持ったメンバーによる分散型のサービス運営が行われ、コミュニティにおける議論や投票、予め設定されたルールや貢献度による利益配分など、意思決定プロセスの透明性が高い組織運営が行われます。またブロックチェーンによるコンテンツやデータの永続的な保存も可能です。

さまざまな人物がそれぞれの言葉でこのWeb3を定義しています。イーサリアムの共同創設者であるGavin Wood氏は「ブロックチェーンに基づく分散型のオンラインエコシステム」とし、彼が設立した財団Web3 Foundationにおいては、「ユーザーが自身のデータやアイデンティティ、運命をコントロール可能な分散型の公平なインターネット」であると説明しています。こうした技術的視点からの定義に加え、最近では、世界有数のVCであるアンドリーセン・ホロウィッツのChris Dixon氏が「トークンによって編成されたクリエイター/エンジニアとユーザーによって所有されるインターネット」と表現したり、暗号通貨データ分析会社メサリーのリサーチャーが「Web1:Read-Only → Web2:Read-Write → Web3:Read-Write-Own」と指摘しているように、“所有”という概念が新たに加わり定義されています。確かにWeb1.0の時代のインターネットは、誰もがウェブサイトを作り自由に情報発信できるといったように自由でオープンなものだったように思いますが、Web2.0に来て一部プラットフォーマーに主導権を握られる状況になり、その所有をユーザーの手に取り戻すという意味でWeb3が出現してきたとも解釈できます。

暗号通貨を所有するユーザー、NFTやウォレットを持つユーザー数がいま世界で急増していますし、アンドリーセン・ホロウィッツなどのVCも、この分野へのスタートアップへの投資を強化しています。今後のインターネットの世界は、Web3を中心に動いていくと考えています。

田代
Beeple氏によるアートが75億円で落札されたり、日本でも小学3年生のイラストに300万円の値が付いたりするなど、NFTによるさまざまな高額入札事例がニュースになっていましたね。スポーツのトレーディングカードや会員権にNFTが活用されるという動きもあり、本当にジャンルが幅広いと思います。
永松
もう一つ特徴的なのは“Play to Earn”という考え方です。暗号通貨を獲得できるNFTゲームが流行しており、コロナ禍で雇用不足が深刻化した新興国では、在宅で稼げる手段として「Axie Infinity」というNFTゲームのユーザーが急増しました。NFTスニーカーを入手し、現実世界で歩いたり走ったりすることで暗号通貨を稼げるアプリ「Stepn」も話題です。
田代
2021年あたりからWeb3というキーワードの検索件数も急上昇したそうですし、さまざまなデジタルコミュニティでも活発に議論されるなどWeb3周りが大きく盛り上がりを見せている。まさに世界的なトレンドですね。

■期待される公平で健全なトークンエコノミーの実現

永松
次にWeb3が一体どういう世界を目指しているのか、少し詳しくご説明します。先ほど、Web3は「非中央集権型組織でプラットフォーム支配からの脱却を目指す」としましたが、経済的な観点においては、国家や特定企業に依存しないオープンな金融インフラ・経済圏として“トークンエコノミー”が期待されています。Web1.0、Web2.0の場合は、取引の際に銀行や決済事業者を経由する必要がありましたが、Web3では仲介業者を必要としない取引が可能です。また特定のサービス内や事業者内、コミュニティ内で利用するためのトークンを自由に発行でき、参加者への報酬に活用することも可能です。所有権を持つユーザー自身がコンテンツを管理でき、クリエイターとユーザーの直接取引も可能で、さらに二次流通~n次流通においてもクリエイターの権利を守りながら流通させることができ、健全な市場が実現すると言われています。
田代
あらゆるカテゴリーで仲介業者が不在になり、新しい経済価値が生まれ、いろんな領域にまたがってビジネスが動く。まさにディスラプター、大変革の気配がすでにあるわけですね。
永松
はい。さらに、プライバシーファーストといった、個人情報も含めたデータ管理における高い透明性・検証可能性も期待されています。これまでデータはプラットフォーマーを中心とする特定企業が集中管理していましたが、Web3では管理主体が不在で、ユーザー自身がデータを管理したりコントロールできるので、必要に応じて希望する企業にだけデータとわたすといったことも可能になります。

■Web3の構造と、いまから知っておきたいいくつかのキーワード

永松
Web3のベースとなっているのはブロックチェーン技術です。ブロックチェーンとは分散型台帳、または分散型ネットワーク技術ともいわれ、データの単位であるブロックがチェーン状につながっているもので、ピア・ツー・ピアのネットワークで管理されています。そのため中央管理者/サーバーを必要とせず、すべて履歴データとしてつながっているため改ざんが不可能で、システムダウンしにくいといった特徴があります。

それをふまえてWeb3の世界の構造を見てみると、基本となるのが、いわゆるアカウントの代替となるWalletです。WalletではIDや暗号通貨、NFT等、Web3上の自身に関わる様々なデータを管理しています。Walletを通じてDApps(Decentralized Applications)といわれる分散型アプリケーションにログインしてサービスやゲームを利用したり、サービスによってはトークンという形で暗号通貨の報酬を得ることができます。またNFT Marketplaceや、Exchange(取引所)、DeFi(分散型金融)では、NFTの売買や暗号通貨の取引ができる場所を提供しています。こうしたWeb3のサービスはDAO(分散型自律組織、Decentralized Autonomous Organization)と呼ばれる組織形態によって運営されることがあり、インフラ自体はイーサリアムなどのブロックチェーンによって構築されています。

実際にはサービスの運営はDAOではなく、企業によって中央管理されているというものも多くありますが、Web3の世界の構造の例として、このように捉えてもらえると理解も進むかと思います。

田代
Web3の世界観を象徴するいくつかのキーワードについて解説してくれますか。まずはトークンという報酬について、どういうものか教えてください。

永松
トークンとはブロックチェーン上で発行・暗号化された資産や証明書を指し、Fungible Token(FT):代替可能なトークンと、Non Fungible Token(NFT):非代替性トークンの2つに大別されます。代替可能なトークンとしては、暗号通貨などのExchange Tokenや、株式や債券など証券の性質を備えるSecurity Tokenがあります。さらにコミュニティへの貢献や参加権利を表すソーシャルトークン、投票権や発言権を表すガバナンストークンなどは、実用性を伴うUtility Tokenとして分類されます。
NFTは、ご存じのようにアート作品やメタバース上のアイテムの所有権など、対象物の唯一性・希少性を保証するものです。ただ、NFTはあくまでも対象に対する所有権を保障するものですから、コンテンツ自体が正しいかどうかは保障されない。ブロックチェーン上には対象物と所有者のIDしかなく、実際のコンテンツは別のサーバー上にあったりして、そこがハッキングされたりコンテンツが複製されるという危険性はあります。注意が必要なところですね。
田代
代替可能なトークンの考え方はいまのWeb2.0の世界でもなじみがありますが、NFTは多くの人にとってまったく新しい概念ですね。

永松
Web3では価値の中心がアプリケーションからプロトコルへシフトすると言われます。どういうことかというと、Web2.0では検索エンジンなりSNSなりプラットフォーマーが提供するアプリケーションの影響力が大きかったのに対して、Web3では、オープンな形式で提供されるプロトコルにおいて、データが処理されたり、設定したルールに従って機能等が自動的に実行(スマートコントラクト)されたりします。スマートコントラクトでは、お金を入れてボタンを押すと、欲しい商品が出てくる自動販売機のように、人の手を介さずに、一定のルールに従って契約が執行される仕組みをブロックチェーン上でプログラムを組み立てられるのが特徴です。これまでのようにアプリケーションによってデータを囲い込むようなことができないため、価値の中心がプロトコルにシフトすることになります。
田代
プラットフォーマー側ではなく、つくりたい人がスマートコントラクトのルールや動き方を設定することができるわけですね。面白い。
永松
またDApps(Decentralized Applications)というのは、ブロックチェーン上のサービスやプロトコルを利用することで実現できる分散アプリケーションのことです。そしてDao(Decentralized Autonomous Organization)とは、中央管理者が不在で、参加者によって運営・管理・意思決定される組織のこと。参加者は平等で、ガバナンストークンの所有量に応じて多数決などで意思決定を行う。組織への貢献に応じてトークンを得ることで、報酬が得られるという特徴があります。

■〇〇to earnで広がるサービスやコンテンツの可能性

田代
では具体的にどういったサービスがWeb3で展開されているのか、教えてください。

永松
暗号通貨やNFTなどのアイテムによって成立しているゲームに、Decentralandがあります。クリエイターやユーザーがゲーム内の仮想土地を自由に売買し、家を建てたり転売することができます。さまざまなNFTのアイテムが作成・販売されていて、それらを駆使して建築物をつくったり、アバターを着飾ったりします。運営しているのは企業ではなくDAO、非営利団体で、ユーザーが組織運営に関わることも可能です。一方競合としては、企業により運営されているThe Sandboxがあります。こちらも同様にゲーム内の仮想土地の売買が行われているほか、ノーコードでのアイテム作成が比較的簡単にできること、マインクラフトのようにボクセル単位で世界ができているので、ある意味若年層向けでもあります。
また最近話題なのが歩いたり走ったりすることでトークンを得て収益化が可能なSTEPNというゲームです。最初にNFTのスニーカーを入手し、スニーカー自体を稼いだトークンでレベルアップさせることでより稼ぎやすくなる仕組みになっています。スニーカーを集めたくなるコレクション性とゲーム性のほか、スニーカーを育成しながら自分も健康になれて、かつ稼ぐこともできるといった細かい仕掛けがいくつもあり、ゲームの世界観の盛り上がりに貢献しています。
田代
面白いですよね。最初にこのスニーカーを入手するのに8万円(2022年5月時点)ほどかかると聞きましたが、私の周りでもすでに購入し、「どうせ毎日走るのだからこれで稼ごう」という人がいます。普段やっていることが価値になるというのは、新しい感覚。エンタメ分野などにも応用ができそうな気がします。
永松
ブラウザとしては、ユーザーに還元される広告エコシステムを構築しているBraveというものがあります。もともとは広告ブロックの観点で出てきたブラウザですが、ブロックチェーンの仕組みを取り入れ、広告視聴に応じて暗号通貨をユーザーに還元したり、ウェブコンテンツの提供者に対して投げ銭のように暗号通貨を送付することもでき、Braveを中心としたエコシステムをつくりあげています。
田代
生活者からするとこれもWatch to earnのシステムということになる。新しい広告の見せ方として、ありかもしれません。
どれもユニークな取り組みで、Web3のエコシステムを我々の業界に取り込む際の参考になりそうです。
永松
そうですね。いずれの事例でも共通するのは、暗号通貨も含めて、ユーザーが直接稼いだり、ユーザー自身が行動を通じて価値を創出したり、ユーザー同士や企業との間でお金の価値を直接やり取りすること。そういう仕組みをマーケティングに取り込む方法を、私たちも探るべきかもしれません。

■Web3活用の現状とマーケティング領域におけるこれからの展望

永松
既存メディアも、すでにWeb3やNFTの活用を始めています。CNNなどの報道機関が、自社が保有する過去の歴史的な報道記事や写真をNFT化して販売していますし、日本でも漫画やアニメ作品をNFT化し販売する動きが始まっています。
田代
IP大国と言われる日本としても、そのあたりに大きな収益のチャンスがありそうですね。発展の大きな可能性があるWeb3ですが、利用の入り口が一般的にはまだわかりにくいのが課題かもしれません。技術に詳しい人でなくても利用できるよう、ハードルが下がることで普及は進みそうです。
永松
そうですね。
我々広告会社としては、NFTを活用したマネタイズ方法や、メタバースを組み合わせたマーケティング施策を提案していくといったマーケティング支援が今後は求められていくかもしれませんし、ブロックチェーン上でのデータを活用することも考えるべきでしょう。アカウントとして機能するWalletについても、生活者がいかにデータ管理し、活用できるかといった視点の考察も必要です。また新しいプロダクトやサービス開発において、クリエイター支援やデータの流通といった観点で、ブロックチェーンを活用したソリューション開発ができるといいとも思います。
いずれにしても、広告ビジネスのあり方もWeb3で大きく変わっていくかもしれません。それも想定して、我々もNFTを活用した取引やビジネスモデルにいち早く対応していくべきでしょう。
田代
我々のグループでも、スポーツやエンタメコンテンツにおけるNFTのプロダクトをローンチしています。ゲームやコンテンツ配信を支援するようなプロダクト開発は十分に可能性がありますね。
まさにいま、まったく新しいエコシステムができあがろうとしており、いかに既存のビジネスから発想を変え、そこに生活者発想をもって臨んでいけるかが問われています。我々も最初の一歩を踏み出さなくてはならないときだと思いました。ありがとうございました!

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アド・トランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

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  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局兼Media Innovation Lab
    2004年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社、ネット広告の効果指標調査・開発、オーディエンスターゲティングや動画広告等の広告事業開発を行う。2008年より広告技術研究室の立ち上げとともに、電子マネーを活用した広告事業開発、ソーシャルメディアやスマートデバイス等における最新テクノロジーを活用した研究開発を推進。現在はAIやIoT、AR/VR等のテクノロジーを活用したデジタルビジネスの研究開発に取り組む。専門学校「HAL」の講師、共著に「ネット広告ハンドブック」(日本能率協会マネジメントセンター刊)等。
  • 博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局情報マネジメントグループGM兼Media Innovation Lab
    テレビ局、メディアマーケティング局、博報堂香港、メディアビジネス開発センターなどを経て2019年よりメディアやテクノロジーのグローバルトレンドを研究。