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音声配信市場でも特別な、「オーディオエッセイ」という価値 ~Artistspokenがめざす世界【前編】
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音声配信市場でも特別な、「オーディオエッセイ」という価値 ~Artistspokenがめざす世界【前編】

台本なし、編集なし。本当の意味でアーティストの生の声を聴くことができる音声配信サービスとして2020年9月にリリースされたArtistspoken(アーティストスポークン)。現在*43ジャンル・69名のアーティストが参加し、6月からは月額1,200円で参加全アーティストの聴き放題プランもスタートしました。サービス開始から10カ月。日々コンテンツ制作を支えながら、事業の未来を描く共同代表の井上雄二、桂田匠に、Artistspokenがアーティスト、ユーザー、そして広告業界にどんな価値をもたらすか、そのビジョンをききました。
*2021年6月時点

井上雄二
株式会社博報堂DYホールディングス Artistspoken設立準備室 共同代表 
桂田匠
株式会社博報堂DYホールディングス Artistspoken設立準備室 共同代表 

ものづくりをする人の言葉や思考のプロセスは、こんなにもおもしろい

−おふたりは2014年博報堂入社の同期ということですが、Artistspokenを立ち上げるきっかけになったのは?

井上
入社当時から仲がよくて、「なにか一緒におもしろいことをやろう」とずっと話していたんです。僕の最初の配属が関西支社だったこともあって、具体的に話が進んだのは本社勤務になった2017年以降。ふたりが共通して興味のあった、アートに関わることでなにかできないかと考えました。
桂田
Artistspoken につながる話でいうと、2019年にアートイベントを企画・実施したことが大きかったですね。気になる美術家さんを呼んできて、カフェでお客さんと一緒に1~2時間お話するというイベントを1年間かけてやっていたんです。
アートをただ鑑賞するのではなく、対話を産むコミュニケーションツールと捉え、内包される問いをきっかけに“言語化”することで新たな視点や気づきを得ることに実験的にチャレンジしたアート展です。
井上
芸大とか美大の文化祭に行って、一人ひとり声をかけてね(笑)。なぜこの作品を描こうと思ったのか、作品の裏側を知ることが、なによりすごく刺激的だったし、あのときの経験がいまの事業でアーティストさんにお声がけするのにも活きています。
桂田
美術家の方とディスカッションを重ねるなかで、ものづくりをしている人の言葉とか思考のプロセスってこんなにおもしろいんだと毎回気づきをもらって。これを多くの人に届けることが価値になるんじゃないかと考えるようになりました。この企画はリアルイベントとして開催していましたが、それをスマートフォンアプリのサービスに落とし込んだのがArtistspokenです。

“声”というツールを発見して、無形の“言葉”がビジネスになった

−博報堂DYグループ横断社内公募型ビジネスアイデア募集・育成プログラム、「AD+VENTURE(アドベンチャー)」で審査を勝ち抜いてきたわけですが、苦労された点は?

井上
アーティストが描いた作品など、有形のものを売るのではなく、気づきとか言葉という無形のものをどうビジネスにするか、という点には苦労しました。ともするとファンサイトとかファンクラブみたいなものになってしまうので。
そのなかで、“声”というツールを見つけたときに、突然バッと目の前が開けた感じ。嗜好性や言葉がダイレクトに伝わりつつ、コミュニティを形成するための一番いい距離感が“声”なんじゃないかと発見しました。

−なぜ“声”にたどりついたのでしょう?

桂田
本質に立ち返って、僕らがアートや映画を観たとき、なににわくわくするか考えたんです。友達と美術館に行って、そのあと飲みながらあの絵がよかったとか振り返って盛りあがりますよね?その場に絵はなくても、想像力やイメージで成立する。ビジュアルがなくても声だけで充分わくわくできると思ったんです。
井上
あとは、ビジュアルを出すことに抵抗のあるアーティストさんもいらっしゃる、というのも要素のひとつでした。顔を出していきたい方は動画配信などを積極的にやられると思うのですが、なるべく黒子に徹したい方もいる。“声だけ”というのは、参加していただく方のハードルを下げる意味でも作用していると思います。その辺の温度感は、たくさんの美術家さんと取り組みをしてきた僕らだからこそ感じとれたことかもしれません。

2020年が音声元年。ポテンシャルの高さを実感する音声配信市場

−“声”に着目して「音声配信サービス」になったわけですが、ここ数年世界的な成長市場と言われていますよね?

桂田
アメリカでは1カ月に1回以上ポッドキャストを視聴するという人が1億1780万人を突破しました。日本だと1123万人とまだまだ数は少ないですが、この1年で聴きはじめたという人が47.1%とまさに急増しています。(引用元記事:オトナル、朝日新聞社と共同で「ポッドキャスト国内利用実態調査」を実施)
音声はながら聴きすることができ、移動中や家事、仕事中など、起きてから寝るまでのほとんどの時間に接触が可能です。
音声広告市場も今後様々なデバイスの普及に伴い、2025年には2020年の70倍の420億程度に成長見込みがあると言われており、その潜在的なポテンシャルの高さがうかがえます。(引用元記事: 音声広告の効果とその可能性とは?拡大する市場規模
井上
アメリカや中国では、市場の大きさにともなってコンテンツのラインナップが本当に充実している。日本では、小説が原作でそこからドラマ化とか映画化の流れが主流かと思いますが、アメリカだと、音声ドラマをミニマムコストでつくってみて、成功したら映像化するという流れがでてきています。また音声市場への投資額からもその本気度が伺え、2020年にspotifyはスポーツ系Podcast「The Ringer」の買収、AmazonはPodcastサービス「Woundery」の買収を発表しています。日本でもこれまでのradikoやVoicyに加え、音声SNS「clubhouse」や三井物産グループの「VOOX」、アミューズによる「NUMA」等次々と新たな音声配信サービスが展開されてることで、音声コンテンツが増え、そこにリスナーが集まり、広告価値も高まっていくでしょう。そういった意味でも我々がサービスをスタートした2020年は音声元年という感じですね。

ひとつの作品にもなり得る「AudioEssay(オーディオエッセイ)」という価値

−徐々に広がりをみせる音声配信サービスのなかで、Artistspokenがほかのサービスと差別化できる強みはどこでしょう?

井上
先行するサービスがあるなかで、はじめは「アーティスト特化型音声サービス」という言い方をしていたのですが、いまひとつ伝わりきれていない気がしていて。リリース後、半年以上経って、この6月に聴き放題プランを発表したタイミングで生み出せたのが「AudioEssay(オーディオエッセイ)」という言葉なんです。
アーティストや表現者が残す言葉だからこそ、1本のエッセイにもなり得る。それくらい価値のあるものにしたいし、アーティストに特化しているからこそできることなんだと思っています。

桂田
あとは、アーティストが自宅や公園など、非常にリラックスした状態で収録する環境をつくっているところも価値になると思っています。しかも、一部は有料コンテンツなので、みんなに向けて話しているのではない。特定の人を意識した“わざわざ聴きたい濃い話”を届けることができていると思います。
もうひとつポイントなのは、アーティストを応援できるということ。僕らは売上の70%をアーティストさんにお渡ししているので、Artistspokenで課金をすることは、直接アーティストさんを応援することにつながるんです。

ラブレターを書くような熱量と“あたたかな環境”で、アーティストに寄り添う

−サービスをつくりあげていくうえで、苦労されているのはどんなところでしょう?

井上
やっぱりアーティスト交渉ですかね。DMやお問い合わせフォームからお一人おひとり心を込めたメールを送る、そこからはじまります。個々のアーティストに向けたお便りなのでとてつもなく時間がかかります。もっと効率よくやる方法もあるとは思いますが、それでは絶対に共感していただけない。僕らがつくりたい世界を一生懸命伝えることしかないと思ってます。すごく大変なんだけど、一番の醍醐味でもある。

−どんな口説き文句がアーティストの方を動かすと思いますか?

桂田
はじめにお話ししたアートイベントのときに僕らが感じた、つくり手の言葉を伝え残したいという想いに共感していただけるかどうかだと思っています。あとは、みなさんSNSでの情報発信が必要だなと思ってはいるものの、動画配信は労力がかかりすぎるし、SNSだと文字だけが一人歩きし炎上するといった悩みを持っている。Artistspokenなら本人の感情を乗せて自身の言葉で伝えられるため、他の情報発信よりも丁寧に安心してアーティストとしての魅力を伝えることができるということがプラスの要素になっているかもしれません。

−炎上リスクが少ないというのはどういうことでしょう?

桂田
まず、そもそもが有料コンテンツなので、コアなファンや本当にアートを愛するリスナーが集まるということですね。あと、Artistspokenではちょっとクラシックに「レター」という機能を付けているんです。ラジオのお便りみたいな。誰でも見られるコメントではなくて、書いた人と制作者だけが見られるレター。これだけ自由になんでも発言できるインターネットという環境で、敢えてちょっと不自由を設けることで、あたたかい環境をつくっているんです。
井上
あと、Artistspokenでは、このアーティストに何人のフォロワーがいるとか、何人がいいねしているとかいうスコアもユーザーに開示していません。そういう定量を全部パブリックにする必要はないと思っていて。それより、アーティストが表現したいことがちゃんと誰かに伝わればいい。その根っこの部分がアーティストの共感を得ているんだと思います。僕らの考えをひとつひとつ伝えないと口説けないと思うから、飛び込み営業みたいなことはぜったいにやらないです。
桂田
ラブレター書くのって、めちゃくちゃ疲れるじゃないですか。エネルギー使いますよね。本当はもっといろんな人にオファーしたいんですけど、ちょっとずつしかできない。その人のことを考えて、毎回ラブレター書いている気持ちです。

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Artistspokenの成り立ちやその独自性、音声配信市場の現在についてきいた前編。後編では、このサービスが広告業界に与える影響、未来のビジョンについてなど詳しくきいていきます。

●ダウンロード方法
下記URLからアプリダウンロードをおこないぜひご視聴ください。
「Artistspoken」ホームページ:https://artistspoken.com/lp/
「Artistspoken」専用アプリ(iOS/Androidに対応) iOS13.0以降 Android8.0以上
「iPhone」ダウンロードはこちら (Apple store)
「Android」ダウンロードはこちら (Google play)
 

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  • 株式会社博報堂DYホールディングス
    Artistspoken設立準備室 共同代表
    2014年博報堂入社。2017年まで関西支店、その後本社でマーケターとして活動。2020年、社内公募型起業プログラム「AD+VENTURE」制度を活用し、Artistspokenを立ち上げる。
  • 株式会社博報堂DYホールディングス
    Artistspoken設立準備室 共同代表
    2014年博報堂DYメディアパートナーズ入社。音楽フェスやアート展等の主催社としてコンテンツビジネスに従事。その後博報堂への出向を経て、2020年Artistspokenを立ち上げ。