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PRドリブンの統合型マーケティングを実現させるために ──産学連携による「データ×PR」プロジェクト【前編】
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PRドリブンの統合型マーケティングを実現させるために ──産学連携による「データ×PR」プロジェクト【前編】

デジタル化によってさまざまなマーケティング活動の効果が可視化されるようになっている中、PRの効果は測定が難しいとされてきました。オズマピーアールは、日本データ取引所、東京大学、食品メーカーなどとの共同プロジェクトによって、その難題を解決する取り組みを進めています。これまでほとんど前例のない「PR起点のデータドリブンマーケティング」の試み。その概要と現段階における成果について、3人のキーパーソンに語ってもらいました。

登坂 泰斗
オズマピーアール ビジネス開発本部 戦略コミュニケーション部 部長

猿田 一揮
オズマピーアール ビジネス開発本部 戦略コミュニケーション部 コミュニケーション・ディレクター

早矢仕 晃章氏
東京大学 大学院工学系研究科 システム創成学専攻 助教

データからPR効果を明らかにするためのプロジェクト

──産学連携による「データ×PR」の研究プロジェクトが発足した経緯をお聞かせください。

登坂
さまざまなマーケティング活動の中で、PRはとくに効果検証が難しい領域であるとされてきました。これまでは露出量を広告費に換算するなどの手法が用いられてきたわけですが、そのような代替的手法ではなく、PR施策の直接的な成果を可視化する方法がないかと私たちは以前から考えていました。
猿田
クライアント企業の立場からすれば、マーケティング施策の効果を検証して、それぞれの施策に優劣をつけていく必要があります。PRにも当然効果検証が必要とされていますが、これまでは最適な方法はなく、トライしている事例もあまり聞きませんでした。

──メディアの多くがデジタル化していることを考えれば、効果測定は技術的に可能なような気もします。

猿田
生活者のアクションのログは残りますからね。しかし、それを分析して活用するためのツールや方法論がなかったわけです。
登坂
そのような課題意識のもと、3年前にデータの収集・加工などを手掛ける日本データ取引所とPR効果の数値化にトライするプロジェクトを立ち上げました。そこに食品メーカーにも加わっていただき、三者で「食」の分野におけるPRとトレンドの関係を分析する取り組みを始めました。
PR効果を計るには、いろいろな種類のデータを集め、かつそれぞれのデータを組み合わせてメディアの影響力やトレンドの動きを検証しなければなりません。そこで、東京大学大澤研究室の早矢仕先生に協力していただくことになりました。大澤研は、データマイニングの手法やAI技術を使って、異なるデータを組み合わせたり、異業種間連携を促進したりすることに一貫して取り組んでいらっしゃいます。その知見をお借りしたいと考えたわけです。
早矢仕
最初にお話をうかがったとき、非常に興味深い取り組みだと思いました。データには石油と同じくらいの価値があると言われるようになったのは2013年くらいからのことです。しかし、データの分析や活用がそれぞれの企業の中で閉じてしまっていて、データの可能性を生かし切れていないという問題がありました。大澤研では、学術サイドから企業にアプローチして、データを軸とした企業間連携を支援する活動を以前から続けてきました。
学術分野とビジネス分野では、データに求められる「質」が異なります。学術研究の成果を出すために必要なのは、精度の高いデータです。一方、ビジネスにおいて重要なのはスピーディな意思決定につながるデータを数多く集めることです。その二つの視点を融合すれば、データの分析・活用の手法を社会実装に結びつけることが可能になるはずです。このプロジェクトに参加することによって、そのような社会実装を目指したデータ研究ができると考えました。

統一的な指標をつくり出したい

──プロジェクトの目標はどのようなものだったのですか。

登坂
私たちがまず知りたかったのは、PR、プロモーション、CMなどによって生じた話題性がどうオーガニックに拡大していくのかということでした。さらに、POSデータや喫食データまでを見ることによって、売り上げや生活者の食卓までの流れをトータルに把握できないかと考えました。
早矢仕
データ間の関係を検証すれば、連鎖反応が明らかになります。例えば、「バズは起こったけれど、売り上げにはつながらなかった」とか、「企業側がまったく意図しなかったバズが発生して、購買層が広がった」といったことが異なるデータを連携させることによって見えてくるわけです。
猿田
そこから見えてきたものをツールにしていくことが私のミッションでした。大切にしたことは「シンプルさ」です。具体的には、施策の実行前、実行中、実行後の情報のオーガニックな広がりをどのくらいの割合で増減したかを可視化できるものにしました。ロジックの複雑さをあえて排除することで直感的に理解でき、意思決定の「サポート」になるものを目指しました。期間を細かく分けて数字を見るのは単純ですが意外と時間かかりますよね。
登坂
もう一つ重視したのが、企業内のいろいろな部署が横断的に使えるツールをつくることです。一つのプロモーションには、広報、宣伝、デジタルマーケティングなど複数の部署が関わります。しかしこれまでは、それぞれが参照する指標が異なっていて、同じテーブルで対話ができないという問題がありました。統一された指標があれば、課題や次に打つべき施策について有意義な対話が成立するはずです。そのような指標をツールによって提供したいと考えました。
猿田
統合的にマネジメントされた情報をベースにして、関係者全員が納得して意思決定ができる。そんな仕組みを実現するツールということです。
早矢仕
実際、同じデータを見ていたとしても、目的によって見えてくるものや分析結果が異なるということがよくあります。重要なのは、同じ土俵で議論できるようにデータを結合し、分析結果から意思決定につながるいわばラストワンマイルを誰もが共有可能な形にすることです。そのデザインが上手にできれば、非常に優れたツールになると思います。

「データ選定」と「シナリオ設計」の重要性

──プロジェクトはどのように進んでいったのですか。

登坂
はじめに大澤研が開発したワークショップの手法を用いて、食のトレンドを把握するのにどのようなデータが必要で、それをどこから集めてきて、それぞれをどうつなげていくかというシナリオづくりをプロジェクトメンバー全員で行いました。
早矢仕
参加者の知見によってデータのマネジメントの方法を編み出していくというのが、大澤研のワークショップのコンセプトです。3時間くらいのワークショップを3回ほどやって分析のシナリオをつくり、それをもとにデータを集めていきました。
登坂
マーケティングの視点だけからデータを見ると、どうしても視野が狭くなってしまいます。しかし、そこに学術的な視点が加わると、意外なデータがたくさんあることがわかるし、さらにそれを組み合わせることで新しい発見が生まれます。ワークショップによって数々の新しい視点を得ることができました。
ワークショップで必要なデータを選定し、その中で現実的に取得可能なものを洗い出し、そこから早矢仕先生に最終的に収集するデータを決めていただき、そのデータを日本データ取引所に分析可能な形に成形してもらう──。それが大まかな流れでした。

──どのようなデータを集めたのですか。

登坂
SNS、Googleトレンド、ウェブメディアの露出数、CMなどの広告出稿データ、POSデータ、喫食データ、それから気候データなどですね。喫食データは、食分野のマーケティング活動を支援しているライフスケープマーケティングの「食MAP」という食卓調査のデータベースを使わせていただきました。
早矢仕
データの取り扱いにおいて非常に難しいのは、「分析してみないと価値がわからない」ということです。高額なデータを購入したけれど、分析してみたら使えなかったということがありえます。そのような事態になることを避けるために、ワークショップでデータの関係性をしっかり考えて、企業の意思決定に資するシナリオづくりを緻密に行いました。そこから必要と判断されたのが、それらのデータ群だったということです。
猿田
私はワークショップが終わった後でこのプロジェクトに参加したのですが、喫食データを活用するなど、最終的な利用シーンまで視野に入れていることにちょっと驚きましたね。ここまで視野を広げれば、統合的なマーケティングの手法を確実に生み出せるのではないかと思いました。
早矢仕
データ設計に費やした時間が2カ月くらいで、そこから1カ月ほどでデータを収集しました。ワークショップを含めて足掛け4カ月くらいで統合データセットができたので、かなり早い動きだったと言えます。最初の段階でのシナリオづくりがうまくいったことが、このスピード感につながりました。データ集めにはコストも時間もかかるので、初期の段階でどれだけ必要なデータを精査できるかが、データ活用の大きなポイントになると思います。
後編に続く)

※本サービスに関するお問い合わせ:strategy-com@ozma.co.jp

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  • 登坂 泰斗
    登坂 泰斗
    オズマピーアール
    ビジネス開発本部 戦略コミュニケーション部 部長
    ファッション系の広告代理店に3年間勤務の後、2013年に当社入社。
    入社後は、戦略PRの立案からPRコンテンツの企画開発を手がける。現在、主にデータに基づいたコミュニケーションプランニングを専門領域とし、PR戦略の立案だけでなく、統合型の効果検証ツールを東京大学と共同で研究開発なども行っている。
    ●早稲田大学商学部 招聘講師 
    ●産業能率大学 地域創生・産学連携研究所 客員研究員
    ●宣伝会議 デジタル広報講座他レギュラー講師 
    ●人工知能学会 東京大学との共同論文執筆
    ●東京大学とのマーケティング効果検証における産学連携研究プロジェクトメンバー
    ●AppApeアワード2018 登壇(東京ミッドタウン)
  • 猿田 一揮
    猿田 一揮
    オズマピーアール
    ビジネス開発本部 戦略コミュニケーション部 コミュニケーション・ディレクター
    東証一部上場企業にて、6年間マーケティング部・経営管理部に従事。主にキャンペーン企画・メディアプランニングを担当。年間数十億円規模のプランニングを行ってきた。Googleアナリティクスや購買データ等のクローズデータやジオデモデータなどのオープンデータの活用が得意。当社に入社後は統合型のマーケティング施策の立案をメインで行い、特にデジタルマーケティング領域ではPRファクトを活用した設計を行っており、獲得効率の向上に貢献。
    ●東京大学とのマーケティング効果検証における産学連携研究PJメンバー
    ●宣伝会議 講師
  • 早矢仕 晃章
    早矢仕 晃章
    東京大学
    大学院工学系研究科 システム創成学専攻 助教博士(工学)
    2012年東京大学工学部卒業。2017年に同大学院工学系研究科システム創成学専攻博士課程修了。専門はデータ利活用知識の構造化とシナリオ創出支援。データ流通・データ市場マーケットデザインと制度設計、支援技術の開発に従事。企業との共同研究から、産官学民・国内外問わず300回以上のデータ利活用方法検討ワークショップを開催し、その成果を発信。主な著書に「データ市場」近代科学社(2017)。