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「場」の体験価値を高める「音声」の力 ──音声コンテンツの新しいプラットフォーム「33Tab」
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「場」の体験価値を高める「音声」の力 ──音声コンテンツの新しいプラットフォーム「33Tab」

音声には、文字や映像とは異なる独自の力があると言われています。音声コンテンツによって人が過ごす「場」の体験を豊かにすることを目的に開発されたプラットフォームが「33Tab(ミミタブ)」です。博報堂DYメディアパートナーズラジオ局の島村徹と、企業の新規事業開発などを支援しているTwoGate代表取締役の小林輝紀氏。33Tabの発案者であり、高校時代からの友人でもある2人に、33Tabのコンセプトや可能性などについて聞きました。

小林輝紀氏
TwoGate代表取締役 
株式会社TwoGate 代表取締役

島村 徹
博報堂DYメディアパートナーズ 
ラジオ局 ラジオアカウント推進部
 

きっかけはアーティスト本人による音声ガイド

──「33Tab」とはどのようなサービスなのですか。

島村
33Tabは、「場(位置情報)」と「音声」を結びつける音声ガイドアプリです。特定の場所における体験を音声の力でより豊かにすることを目指して開発しました。「33」は文字の形と音で「耳」をあらわしていて、「Tab」は、場所に音の「付箋」を貼り付けることをイメージしています。

美術館・博物館の音声ガイドをアプリにするのが当初のアイデアでしたが、つくりこんでいく過程で、例えば観光地のスポットガイドなど、「場所×音声」にかんする幅広いコンテンツを提供するプラットフォームにするというコンセプトに変わっていきました。

──開発のきっかけをお聞かせください。

島村
2017年に、六本木の国立新美術館で建築家の安藤忠雄さんの展覧会を見たことでした。美術館や博物館では、展示物を解説する音声ガイドが利用できますよね。安藤忠雄展では、安藤さん本人が音声ガイドをしていて、すごく面白かったんです。作家本人の肉声を聴きながら作品を見るのはとても新しい体験でした。

ラジオの仕事をしていることもあって、音声には大きな可能性があると以前から感じていたのですが、安藤忠雄展を見て「これだ!」と思いました。その話を高校時代からの友人であるTwoGateの小林くんにしたところから、アプリ開発のプランがスタートしました。

小林
TwoGateは、事業会社の新規事業開発支援を主なビジネスとしています。その中でさまざまなアプリやシステムをこれまでつくってきました。島村くんと話をしているうちに、これまでの経験を活かしながら新しい音声ガイドアプリをつくるイメージが湧いてきました。

──2人はお友だちなのですね。

島村
ええ。高校の同級生で、社会人になってからも5年間ルームシェアをしていました。33Tabは高校時代の友だち同士でつくったアプリということになります。
小林
もちろんビジネスとして成功させることが目的ですが、対等な関係で一緒に新しいサービスをつくれるのは、ほかではなかなか味わえない経験です。

展示会の予習や復習もできるツール

──従来の美術館などの音声ガイドとこのサービスの一番の違いは何ですか。

島村
美術館や博物館の音声ガイドは、展示会場で音声の機材を借りて、鑑賞後に返却するのが一般的な提供方法です。それに対して33Tabは、展示を見る前にコンテンツを購入して「予習」することもできるし、見終わった後で図録を見ながら「復習」することもできます。コンテンツはアプリ内にストックされるので、音声ガイドをコレクションしていくこともできます。また、一つのアプリで複数の美術館・博物館、展覧会の音声ガイドを楽しめます。
小林
美術館・博物館の学芸員、広報担当の方が自分で音声コンテンツをアップロードできる「音声ガイドマネージャ」という機能があるのも、このサービスの特徴です。もちろん、適切なコンテンツかどうか審査はさせていただきますが、アプリ上で音声ガイドを公開する機能は、月額料金や初期費用なく、無料でお使い頂けます。使いやすい仕組みをつくることで、たくさんのコンテンツホルダーにこのプラットフォームを利用していただきたいと考えています。

──Podcastのような使い方もできるのでしょうか。

小林
Podcastとの違いは、コンテンツがすべて美術館、博物館、観光地などの「場」と「音声」の組み合わせになっている点です。「場」で過ごすことの体験価値を「音声」によって高める。それが33Tabの基本的なコンセプトです。

──ビジネスモデルについてもご説明ください。

島村
コンテンツ単位での販売が基本的なモデルで、一コンテンツ400円から600円くらいが標準的な価格になっています。その売り上げをコンテンツの販売者、制作者、そしてプラットフォーマーである僕たちがシェアします。
小林
お金を払ってでも欲しいと思える良質なコンテンツをたくさん揃えていくのが当面の方針ですが、ユーザーが増えてきたら、企業と一緒に無料コンテンツをつくって提供するといったモデルもありうると考えています。

音声コンテンツの特徴は「距離感の近さ」

──現在はどのようなコンテンツがラインアップされているのですか。

島村
一番多いのは美術館の音声ガイドで、期間限定で開催される特別展と、美術館が保有する作品を展示する常設展に分けられます。特別展の音声ガイドに関しては、主催者とそのつどご相談しながらコンテンツの制作と販売を行っています。一方の美術館のコレクション作品は、博報堂グループの博報堂ケトルが運営している美術館情報サイト「Kita-Colle ART(キタコレ! アート)」に協力してもらい、各館の学芸員の音声ガイドなどを制作して販売しています。現在は、全国50館ほどの美術館の音声ガイドを販売しています。
小林
街歩きガイドも特徴的なコンテンツですね。今は鎌倉、上野、渋谷などですが、今後はもっと増やしていける可能性があると思います。

──音声コンテンツにはどのような力があると考えていますか。

島村
聴覚だけを使うので、視覚で別の情報に接触できる点ですね。聞きながら、いろいろなものを見ることができるということです。

また、これはラジオなどのメディア特性でもありますが、話し手と聞き手の距離感が非常に近く感じられるのも音声の特徴です。これまでの美術館などの音声ガイドは、オフィシャル感が重視されていたため、その「距離感の近さ」という特徴を上手に使えていなかった面があると思います。ラジオパーソナリティがフランクに話すようなスタイルの音声ガイドがあってもいいし、エンターテインメント色を出した音声ガイドがあってもいい。いろんな音声ガイドの可能性を視野に入れています。

小林
東京国立博物館で開催された「マルセル・デュシャンと日本美術」という展示会に合わせて、お笑い芸人がナビゲートする「デュシャン大喜利」というコンテンツをつくったことがありました。まさに、エンターテインメント色を強く押し出した音声ガイドです。ユーザーの中には肯定的な意見と批判的な意見が両方ありましたが、今までなかったものをつくるという意味ではいいチャレンジだったと思います。

──音声コンテンツによって、美術館や博物館をより親しみやすい場所にしていくこともできそうですね。

小林
そう思います。例えば、お気に入りのアーティストや声優がナビゲートをしているから、ぜひその展覧会に足を運んでみたい。そんな感覚が生まれたら面白いですよね。
島村
もちろん、作品や展示物を鑑賞する際のマナーは尊重すべきなので、突拍子もないことをするつもりはありません。目的はあくまでも作品鑑賞の体験を豊かにすること、特定の場所での体験価値を上げることです。その上で、いろいろなチャレンジをしていければいいと思っています。
小林
僕たちの原体験は、安藤忠雄さんのご本人解説です。あれは本当に心に響きました。あのようなコンテンツがあれば、まったく新しい「場」の体験を生み出すことができると思います。

施設や場所を元気にするDX

──昨年からのコロナショックは、この取り組みにどのように影響していますか。

島村
美術館や博物館は本当に対応が大変だ、というお話をよく聞きます。企画展が中止になったり、入場を制限したり、事前予約制にしたり、対面でのオペレーションが制限されたりと、どこも非常に苦労されています。
小林
音声ガイドのレンタル端末も感染源防止で活用を控えたりする状況になっています。その代替として33Tabにご相談いただくケースも増えていますね。
島村
美術館の重要な活動の一つに学芸員のギャラリートークなどの教育・普及のためのプログラムがあります。通常は10人くらいのお客さんと学芸員が一緒に館内を回るのですが、このコロナ禍でそれも難しくなっています。こういったプログラムも、33Tabの音声コンテンツで代替できるのではないかと考えています。

──リアルをデジタルで代替する方法と言えそうですね。

島村
美術館に行って作品を直に見たり、観光で知らない土地や食べ物を体験したりすること自体の価値は変わらないと僕は思っています。しかし、そこに至るプロセスにデジタル技術を活用したり、デジタルによって体験に付加価値をつけたりすることは可能です。これまでの体験の本質は変えずに、可能な部分をデジタル化していくことが、僕たちが目指していることです。

──いわば、「場所のDX」ですね。

島村
そのとおりです。コロナ禍が去っても、すべてが完全に元に戻ることはないと思います。ニューノーマルの時代に対応していくためには、このコロナ禍をきっかけに必要なDXを進めていく必要があると思います。
小林
コロナ禍で多くの美術館や観光施設が対応に追われています。僕たちにできることは、そのような施設や場所が元気になるようなDXを支援していくことです。例えば、33Tabは外国語対応もしているので、インバウンドが戻ってきたら、外国人観光客向けのサービスとして33Tabを使っていただくことも可能です。今のうちから、そのような準備をぜひ一緒に進めていきたいですね。

プラットフォームとしての信頼性を確立したい

──今後の見通しをお聞かせください。

島村
日本は美術館来訪者の数が世界有数の国ですが、展覧会の多くはメディアと美術館の共催による大規模な企画展です。そのような企画の音声コンテンツ展開を進める一方で、全国の美術館が所有している貴重なコレクションなど、注目されてこなかった素晴らしい作品などをもっと多くの人に知ってもらえるコンテンツも配信していきたいですね。そうやって、美術館や博物館全体の価値を上げていければいいと思います。
小林
33Tabを音声コンテンツのビジネスの機会と捉えてくださる人が増えるといいですね。例えば、美術館や博物館の宣伝媒体としてのラジオの力には定評があります。地方のラジオ局が美術館などと一緒に音声ガイドをつくって販売すれば、新たな収益源になると思います。

──33Tabを活用する新しいアイデアがありましたらお聞かせください。

小林
展覧会のチケットと音声コンテンツをセットで販売するのは面白い試みかもしれません。
島村
僕は、大学のフィールドワークなどにぜひ33Tabを使っていただきたいと思います。あとは、全国のお城ガイド。これは地域のラジオ局と連携してぜひ取り組んでみたいですね。
小林
アーティストなど「人軸」のコンテンツもあると思います。ミュージシャンのルーツを音声ガイドと一緒に辿ってみるとか。
島村
アニメの聖地巡礼コンテンツなども面白いですよね。

──アイデアはいろいろ膨らみますね。

小林
今後は、音声コンテンツをプロデュースするチームと一緒にいろいろなアイデアを試していきたいですね。たくさんの人にこの取り組みにジョインしてもらって、一緒にユーザーを増やしていければ理想的です。
島村
そのために、まずは続けることが大切です。サービスを継続させながら、プラットフォームとしての信頼性を確立していくことができれば、きっと多くのコンテンツホルダーやユーザーに利用していただける。そう信じています。
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  • 小林 輝紀
    小林 輝紀
    TwoGate代表取締役
    株式会社TwoGate 代表取締役
    大学在学中にプログラミングコンテストの優勝を機に起業
    B向け業務系SaaS開発から・C向け音楽コンサート向けアプリなど、
    幅広い種類のアプリケーション開発をこれまでに100以上手掛ける
  • 博報堂DYメディアパートナーズ
    ラジオ局 ラジオアカウント推進部