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ヒット習慣予報 vol.96『老若ミクスチャー』
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ヒット習慣予報 vol.96『老若ミクスチャー』

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの村山です。

毎年この時期に思うことであり、もしかしたら紀元前の人々も感じていたことかもしれませんが、1年早いですね。
個人的には9月あたりから加速度的に早くなります。そして、いつのまにかイルミネーションで街が色づきはじめ、名ばかりのクリスマスを楽しんだと思ったら一瞬で年が明けてしまいます。毎日毎日を大切に生きていたいと当たり前のことをしんみりと感じる年頃になりました。

そんな年末シーズンですが実家に帰省して久しぶりに両親やおじいちゃんおばあちゃんの顔を見て、あれこんな老けてたっけ、みたいなことを思うことで自分の年齢を感じる、なんて方も多いのではないでしょうか。

今回のヒット習慣予報のテーマは、そんなシニア世代に関する新しい潮流「老若ミクスチャー」です。政府が1億総活躍社会の実現にむけて「人生100年時代」というキーワードを発信してから早2年がたとうとしていますが、リカレント教育しかり、超高齢化社会におけるシニア世代の新しい生き方には引き続き注目が集まっていることが分かります。

人生100年時代の検索数推移

出典)Googleトレンド

最近、70歳弱のとある大物演歌歌手がラップを披露してSNSやニュースで話題になりました。演歌歌手らしい着物とは一転して若々しいファッションに身を包み方言でラップを披露しているMVはYouTubeでも300万回弱再生されコメント欄もポジティブなコメントであふれています。ひょっとすると70歳近くの、それも演歌を歌っているアーティストが全く接点のない若者に人気のカルチャーであるヒップホップに手をだしたら、世代間の壁もありネガティブな反応も出そうですが、(少なくとも)ネット上の人たちからはポジティブに受け入れられている事実に驚きました。もう少し調べてみると、孫とヒップホップユニットを組んで活動するシニアラッパーもいました。2018年にライブデビューして以来、抱えている難病も症状が改善してきているようです。ライブ映像を見てみるととてもイキイキと楽しそうにラップしているだけでなく、観客の若者からもとても歓迎されている様子が伝わってきました。東村山市では、同市在住の人気ラッパーの方を講師に招いた脳トレのワークショップも行われているようです。童謡をラップ調にして歌ってみたり、自己紹介をラップで発表したりと高齢化がすすむ地域の活性化のためのハブとしてカルチャーが介在しているのです。

(※写真はイメージです)

このシニア世代が、自分と親和性のない若者カルチャーを積極的に楽しむことで、若者とシニアのポジティブな交流が生まれる潮流が「老若ミクスチャー」です。シンプルに「若者とシニアの世代間交流」とせずに、あえて“ミクスチャー”という音楽シーンで混合を意味する言葉を使用したのは特にカルチャー側面での現象だからです。

ラップにとどまらず、ヒップホップダンスを楽しむシニアも登場しています。平均年齢約70歳のグループや平均年齢80歳超え(!!)のグループまでいます。2018年の学習指導要領改訂によってダンスの授業が必修化したのもつい最近の出来事ですがシニアにまでその波が広がってきているようですね。さらに驚くべきはある研究論文によると加齢によって衰えが避けられないと言われてきた「敏しょう性」がヒップホップダンスをすると20代まで(!!)若返るという調査結果がでたそうです。
このような医学的な調査結果もあり地方でも取組が広がっており、リハビリテーション施設での導入も進んでいるようです。アメリカでも平均年齢80歳を超えたヒップホップダンスグループがいて、映画化もされています。その中で10代のダンサーと交流し、世代の垣根を越えてお互いを高め合い、シニアダンサーがよりイキイキとしていく様子が描かれているのですが、シニア世代同士のつながりはもちろん、若者世代と交流することでシニア世代が若さを取り戻す可能性も感じることができました。

音楽、ダンスのようなカルチャーにとどまらず、最近SNSでファッションにおける「老若ミクスチャー」の事例もありました。秋田出身のファッションが好きな都内で働く若者が地元で暮らすおじいちゃんに自分のハイブランドの服を着せて写真をとりSNSアカウントで発信したところたちまち話題に。アカウントのフォロワーはすでに13万人を超えており、国内外のメディアから取材依頼がはいるだけでなく、ラグジュアリーブランドから服を着てほしいという依頼もあったよう。仕事を引退して、秋田で農業をするどこにでもいる普通の田舎のおじいちゃんに似合うようなオシャレ着ではなく、あえてファッション好きしか着られないようなハイブランドの尖ったファッションをセンス良くスタイリングしたことでそのノンバーバルなギャップに世界中が好意を示したのだと思います。つい先日の敬老の日には表参道で写真展を開催したところこの展示も大盛況でグッズも飛ぶように売れたとのことです。

写真と言えば、2018年には約90歳のおばあちゃんがインスタグラムでクスっと笑える自撮り画像をアップしたところたちまち人気となり写真展を開催したということもありました。年齢に関係なく様々なことに挑戦されてきたようですが、息子さんがカメラ講座を開催していたことがキッカケでカメラを始めたことが発端だったようです。もともとユーモアのセンスがあったことは言うまでもないですが、若者のカルチャーであるSNSにあえて写真をアップすることでモデルや俳優といった誰もが知っている若い有名人の写真でなくても、好意的に受け入れられたとてもいい事例だと思います。

ここまで様々な事例をご紹介してきましたが、このような「老若ミクスチャー」という潮流が芽生え始めている理由はなんでしょうか。
もちろん、先に述べたように人生100年時代に突入しシニアはゆっくり余生を過ごすもの、という固定観念が崩れ、様々な新しい活動に精をだす人たちが増えたということは大きいでしょう。ただ、俳句や茶道といった今までのシニアでも行っていたような活動ではなく、あえて若者の、それも熱狂的な人々がいるラップやダンス、ファッションなどのカルチャーの分野に思い切って越境して飛び込むことで、その“画としてのギャップ”や意外な人々が好きになってくれた“姿勢”にカルチャーを愛する若者たちが共感し、1億総メディア時代にSNS通じて拡散し好意の輪が広がったことが大きいと思います。超高齢化社会ですべての人たちがイキイキと生活するキモは「カルチャー」にあるのかもしれませんね。

最後に、「老若ミクスチャー」のビジネスチャンスについて、少し考えてみたいと思います。

「老若ミクスチャー」のビジネスチャンス例
■ シニアでも楽しめみやすいUIの音楽サービスを若者とシニアで開発
■ ファッション誌の読者モデルとしてシニアを起用して話題化&読者層を広げる
■ シニア向けのダンススクールで取得したデータを元に、健康商品開発

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

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  • 博報堂 PR局
    ヒット習慣メーカーズ メンバー
    PR戦略局から、19年に統合プラニング局に異動、21年にふたたびPR局に異動。車からお菓子に至るまで様々なクライアントの情報戦略、企画立案に携わる。毎日きまった街のきまった飲み屋に入り浸っていた生活を経て、知らない街の知らない店に飲みに行きたいなとリサーチ活動を実施中。