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データドリブンマーケティング入門第3回 データ分析ツール選定編
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データドリブンマーケティング入門第3回 データ分析ツール選定編

多くの優れた機能を持ったDMP(Data Management Platform)、BI(Business Intelligence)やMA(Marketing Automation)などの登場によって、マーケティングのプロセスは飛躍的な進歩を遂げました。しかし、いくら高度なデータ分析基盤を構築できたとしても、ユーザーの用途や利用環境にマッチしなければ宝の持ち腐れになってしまうことも。今回は博報堂DYデジタルで、迅速な意思決定のためのデータ分析基盤づくりに取り組む小山裕香と中野貴光に、データドリブンマーケティングに関連するツール導入のポイントを解説してもらいます。
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第3回のテーマは「データ分析ツールを選ぶ前に検討すべき3つのポイント」
<講師>
株式会社博報堂DYデジタル
データマーケティングユニット データマネジメントグループ
グループリーダー 小山裕香
データアナリスト 中野貴光

得意とする機能や対応領域はツールによって異なる

DMPやBI、MAなど、データ分析基盤の導入を検討しはじめると、たいていぶつかる壁があります。それは「どの製品を選ぶべきかわからない」という壁です。
各社が提供する製品の紹介を見れば、その理由がわかります。どの製品も使いやすそうなインターフェイス、機能や拡張性の素晴らしさ、豊富な導入実績などが謳われていて悩んでしまうのは無理もありません。こうした情報に接するうち「おそらく、どれを選んでもやりたいことはできそうだ。それならば業界上位の製品の中から、比較的安価なものを選べばいいのでは?」と思えてくるはずです。
しかし、こうした安易な考えで製品を絞り込むのは性急に過ぎます。なぜなら、どのような企業のどのような業務、どのようなニーズにもそのまま当てはまるツールやサービスは存在しないはずだからです。

BIツールによって対応領域が異なる。製品選択には注意が必要だ

同じカテゴリーの製品であっても得意とする機能や対応領域、使用条件は異なります。詳細な下調べや事前準備の前にツール選定に走ってしまうと「思ったより使いづらい」「想定していたほどの成果がでない」といった不満を抱えたまま、データマーケティングに取り組むことになりかねません。
しかも、社内のシステム環境やデータ環境によっては、既製のツールを組み合わせてデータ分析基盤を構築するよりも、独自のデータ分析基盤を構築したほうが、対象業務に適した理想的な環境が得られることもあります。
データマーケティングツールの導入は「投機」ではなく「投資」です。比較的シンプルなデータ分析基盤を求めていたとしても、きちんと手順を踏んで導入を図らなければならないことに変わりありません。これからそのプロセスやポイントについて詳しく解説していきます。

ツール選定は「目的」「コスト」「環境」の3つがポイント

では、どのような観点でツールを選ぶべきでしょうか。私たちは次に挙げる3つのポイントを重視すべきだと考えます。詳しく見ていきましょう。

[目的の明確化]
ツール選定の第一歩は、どのようなデータを可視化し、どのデータを分析したいのか。また、分析に必要なデータソースの種類、デジタル広告の指標(インプレッション数やクリック数など)や売上指標(売上数や売上金額など)といった、日常的に把握・管理しておきたい数値指標を決めることからはじまります。これは、ツールベンダーや社内の情報システム部門ではなく、セールスやマーケティングに関わるビジネス部門が中心となって取り組むべき課題です。事業目標とそのKPIを熟知していなければ、何が必要な要素なのか判断がつかないためです。これらがある程度固まらない限り、データ分析基盤に求められる機能や仕様を見極めることはできないため、十分に時間をかけて精査すべきでしょう。既製ツールを組み合わせて構築するか、一部または主要部分を独自で開発するべきかという判断も、こうした洗い出しを徹底した結果でなければ決めることができません。
[チェックポイント]
▢どのようなデータを分析したいか、評価・管理すべき数値目標が明確になっているか
▢分析対象や数値目標の選定にビジネス部門が中心となって取り組んでいるか
▢既製ツールの組み合わせでは対処できないことがあるのを承知しているか

[コストの算出]
ライセンス課金であればユーザー数によって、また、データ量課金の場合はデータをどれくらいの頻度で収集するのか、集めたデータをどれくらいの期間保存するのかによってもコストは大きく変動します。さらに、特に専門知識のない一般社員などのビジネスユーザーがダッシュボードを閲覧するだけの場合と、アナリストが本格的に分析する場合で料金が異なる場合もあるため、どんなユーザーが利用するのか、その利用シーンの精査も重要なポイントです。また、データ拡張に伴うコスト、さらには人員の増強に伴うコストなども無視できません。数年後の利用イメージを見越したコスト算定を行うことが重要です。
[チェックポイント]
▢収集・蓄積するデータの量、保存期間と課金体系のバランスはとれているか
▢どのような職務を持ったユーザーが利用するか想定できているか
▢数年後の利用イメージを見越したコスト算定ができているか

[利用環境の確認]
企業によっては、セキュリティの観点からクラウド型サービスの利用が制限されていることがあり、インストール型のツールでなければ導入できないケースがあります。また、コンシューマー向け製品のように、初心者にもわかりやすいUI(ユーザーインターフェイス)を実装しているツールもあれば、データを取得する際にユーザー自身がSQLでクエリを書かなければならない上級者向けツールも存在します。とくにITリテラシーが高い人材が少ない企業の場合、実務に携わるユーザーのスキルとツールが求めるリテラシーがマッチしているかどうかの確認は欠かせません。
[チェックポイント]
▢自社のセキュリティポリシーの内容とツールの利用形態が適合するか
▢そのツールはどの程度のリテラシーが必要なのかを理解しているか
▢そのツールを使いこなすスキルを持った人材がいるか、また育てる余力があるか

メリットが多いPoCの実施とユーザーグループへの参加

これまでに挙げた3つのポイントは、ツール導入ありきでデータ基盤の構築を急いでいる場合に見落としがちな項目です。
これらのポイントに留意して取り組めば、自ずと最適解が導かれるはずですが、データ分析基盤の構築経験がない場合、多岐にわたる下調べや事前準備を自社内で行うことは現実的ではないと考える企業は少なくないでしょう。かといって、面倒で手間のかかる作業をツールベンダーに丸投げしてしまっては、客観性の面で不安が残りますので、社内でシステムに明るい人や、中立的な立場からの意見を求めながら進めていくことも重要です。その際、どうしても解決できない問題が多く発生した場合や、システムに明るい人がいない場合には、社外のITコンサルタントを頼るといいかもしれません。
そして、本格的な基盤を構築する前に、投資の正当性を見極める「PoC」(Proof of Concept/導入前検証)を実施することも重要なポイントになってくるでしょう。

PoCは、データ分析環境構築の実行可能性を見極めるために行われるものなので、とくに初めての導入プロジェクトの場合は、万全を期して実施すべきだと考えます。また、PoCによる一連の検証作業は、導入から運用までの流れを網羅するため、立ち上げメンバーのデータ活用のリテラシーを高める上でも有益な経験になるでしょう。
さらにもうひとつ、有益な取り組みがあります。各地で開催されている製品の勉強会やユーザーグループへの参加です。製品やサービス、テーマごとに存在する勉強会やユーザーグループに参加することによって、ツール導入がもたらした成功事例や失敗事例などの最新情報に触れる機会を増やすことができます。
また、立場が近いユーザーが多数参加するため、企業や業種の壁を越え、データ分析プロジェクトに取り組む中で生じる現場のさまざまな悩みや解決策を共有する機会も得られるでしょう。多くの場合、ツールベンダーのサイトやSNSなどで参加者を募っているので、興味のあるグループを探してみてください。

データ活用の恩恵は正しい手順を踏むことでしか得られない

冒頭に申し上げた通り、どのような企業のどのような業務、どのようなニーズにも当てはまるツールやサービスは存在しません。ツールの導入ありきで取り組みを急ぐと思わぬ落とし穴にはまってしまうこともあります。
データ基盤の構築には多くの悩みがつきものです。どのような状況にも適用可能な正解が存在しない以上、どうしても試行錯誤は避けられませんが、注意すべきポイントをよく理解し、正しい手順を踏めば、規模の大小を問わずデータドリブンマーケティングの恩恵は必ず受けられます。ぜひ恐れずチャレンジしてみてください。

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  • 株式会社 博報堂DYデジタル データドリブンプラニングディビジョン データドリブンプラニング ユニットマネージャー代理 兼 データマネジメントグループ グループリーダー
    インターネット専業広告代理店を経て、2007年博報堂DYインターソリューションズ(現:博報堂DYデジタル)入社。運用広告、ダイレクトマーケティングなど、大量のデータを継続的に取り扱う部門での経験を通してオペレーションフレームワークの構築や組織への業務用システムの導入を多数経験。
    現在は、「データでマーケティングの意思決定スピードを上げる」をミッションとして、
    データドリブンマーケティング基盤構築のチームを立ち上げ、多くのBI/MA環境の構築に携わる。
  • 株式会社 博報堂DYデジタル  データドリブンプラニングディビジョン データドリブンプラニングユニット データマネジメントグループ 兼 株式会社 博報堂 データドリブンマーケティング局 グローバルデータマーケティンググループ
    システムベンダーにて10年以上システムエンジニアを経験した後、システムインフラに特化したベンチャーにてITコンサルタントを経て、2009年に博報堂DYインターソリューションズ(現:博報堂DYデジタル)入社。入社後、博報堂DYグループのナレッジツールのシステム開発業務に携わる。現在はデータドリブンマーケティング基盤の構築業務を担当。国内に限らず、海外のDMP構築業務も担当。