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【XRで変える社会 第2回】企業と生活者の活動を豊かにするツールとしてのメタバース
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【XRで変える社会 第2回】企業と生活者の活動を豊かにするツールとしてのメタバース

さまざまな分野のプロがXRによって新しい価値を生み出す取り組みを続けている博報堂DYグループ横断型組織「hakuhodo-XR」。その活動をお伝えする連載第2回は、大きな可能性があると言われているメタバースです。
現在さまざまなプラットフォームが立ち上がって切磋琢磨が始まりつつあります。その中で、独自のバーチャルプラットフォームを構築してさまざまな試みを行っているのが三越伊勢丹です。同社の取り組みに関わっている「hakuhodo-XR」のメンバーが、企業と生活者にとってのメタバースの価値と目指すべき将来像について語り合いました。

独自のメタバース構築に挑戦した三越伊勢丹

庄司
コロナ禍以降、企業と生活者の接点としてのバーチャル空間に注目が集まっています。最近では、メタバースという言葉を多くの場面で見聞きするようになりました。メガプラットフォーマーだけではなく、新興のプラットフォーマー、自治体・行政、ゲーム業界、コンテンツホルダーなど、多様なプレーヤーがメタバースの領域に次々に参入しています。

メタバースをめぐる動きは今後も活性化していくと見られ、さまざまなプラットフォームが立ち上がって切磋琢磨が始まりつつあります。その中で、一般事業会社としてバーチャル空間の構築に乗り出し、さまざまなチャレンジを続けているのが三越伊勢丹です。

同社が展開する「REV WORLDS」(仮想都市プラットフォーム)はどのような経緯で実現したのか。プラットフォームの企画と制作の中心メンバーとして参加されている、博報堂グループCRAFTARの川島さんから説明していただきます。

川島
三越伊勢丹で最初にバーチャル空間構築のアイデアが出たのは10年ほど前のことだったとお聞きしています。当時、EC市場が急速に拡大し、ファストファッション市場も大きく伸長していました。そのような環境変化に危機感を抱いた現在のREV WORLDSのご担当者が、百貨店の新しい形としてのバーチャル店舗に着目されたのが始まりだったとのことです。

もっとも、時期的に早すぎたために、その時点では実現に至りませんでした。アイデアが具体化したのはコロナ禍以降です。私はそのタイミングでご担当者と仕事をご一緒することになり、ディスカッションと実証実験を重ねました。その結果をもって社内で上申をし、ゴーサインが出たのが2020年11月のことです。そこから具体的なサービス構築に取り掛かり、21年3月にサービスがスタートしました。

庄司
ご担当者の先進的なアイデアと、何よりもそれを実現させるパッション。それが最初にあったわけですね。
川島
まさしくパッションの力だと思います。メタバースを使ったビジネスは何が正解かまだ誰もわからない世界ですが、ご担当者は社長や会長と何度もお話をされて、バーチャル空間に取り組むことの意義を繰り返し説明されました。REV WORLDSが実現したのは、そういったご努力があったからです。三越伊勢丹という歴史ある企業で、このような前例のない取り組みを実現させたことの意義は非常に大きいと思います。

誰もが参加できるバーチャル空間

庄司
REV WORLDSとはどのようなプラットフォームなのか、概要をご説明ください。
川島
伊勢丹新宿店や新宿の街並みがバーチャル空間上に再現されていて、アバターを使ってその中で買い物をしたり、アバターファッションを楽しんだり、ほかのユーザーとコミュニケーションしたりできる。それがREV WORLDSの基本的な機能です。アプリをスマートフォンにインストールすることで、誰でもバーチャル空間に参加することができます。

庄司
イベントなども開催しているそうですね。
川島
例えば、東京都三鷹市立第三小学校の生徒たちとのコラボレーションでファッションショーを開催したりしています。子どもたちがデザインした服をアバターに着せられるだけでなく、リアル店舗にもデザイン画を展示しました。今後も、オンラインとオフラインを融合させたさまざまなイベントを行っていく予定です。
庄司
メタバースとしてのREV WORLDSの特徴は、どのような点にあると考えられますか。
川島
メタバースは大きく3つのタイプに分類できると私は考えています。一つは、ゲーム空間のように世界観や機能がしっかり出来上がっていて、その中でユーザーが自由に行動できるタイプのメタバースです。一方、一部のソーシャルVRアプリのように、ゲームエンジンを触れるようなユーザーが世界観を独自に設定できるタイプのメタバースもあります。ただし、これを使いこなすにはある程度の3Dデータの扱いに対するリテラシーが求められます。

そのちょうど中間にあたるタイプとして、世界観が比較的フラットかつ、必要な機能などが初めから揃っていて、企業や個人が自由に活動できるメタバースがあります。REV WORLDSは、この三つめのタイプに該当します。誰でもスマホから自由に参加して、アバターファッションや、空間自体を楽しんだり、買い物をしたりできるという点で、非常に開かれたタイプのメタバースと言っていいと思います。

庄司
REV WORLDSは驚くべきスピードで進化していますよね。一週間ログインしないだけで、コンテンツやユーザビリティがかなり変わったと感じます。
川島
新しいアイデアをどんどん試していこうという運営方針になっています。「REV」には「回転する」という意味があります。コンテンツや仕組みを高速で回転させて、よりよいものにしていこう。そんな思想が名称自体で表現されているわけです。

いかに使いやすいUIを実現するか

庄司
さて、博報堂プロダクツの福田さんは主にBtoBの領域におけるバーチャル空間の構築や運用に取り組まれています。取り組みの具体的な内容をお聞かせください。
福田
コロナ禍で展示会や会社説明会などの企業活動がストップしてしまった際、バーチャル空間上で3Dのイベントができないかというご相談を数多くいただきました。そのようなご要望に対応するために私たちが開発したのが、ビジネスユースに特化したバーチャルプラットフォーム「インスタントフェス・オンライン™」です。

このプラットフォームの特徴は、アプリとウェブブラウザの両方で使うことができる点、3Dと2Dを切り替えられる点などにあります。また、デザインのテンプレートをご用意することで、最短3週間程度でバーチャルイベント会場を設営することができて、コンテンツの差し替えなどもクライアント側のご担当者にしていただける設計になっています。これまでメタバースを使ったことのない企業の皆さまが、比較的気軽にメタバースを体験できるプラットフォームと言っていいと思います。もちろん空間構築に当たっては、私たちが伴走して、スムーズな構築をご支援する体制をつくっています。

庄司
企業が一からメタバース空間を構築するのは非常にたいへんだと思います。このプラットフォームを使えば、メタバース活用のハードルがぐっと下がりそうですね。
福田
そのとおりです。コロナ禍の初期の頃は、自社でメタバースを構築したいというご要望も少なくありませんでした。しかし一からつくろうとすると、莫大な費用と時間がかかることになります。ですから、最近では既存のプラットフォームを上手に使っていこうという企業が増えています。その一つの選択肢として、「インスタントフェス・オンライン™」をご提案しています。

庄司
バーチャル空間を構築したり、活用したりするに当たって、より多くの企業や生活者に使ってもらうにはどうすればいいか。お考えをお聞かせください。
福田
やはり、ユーザーインターフェース(UI)を最適化することだと思います。デバイスによっても、アプリかウェブブラウザかによっても、最適なUIは変わります。重要なのは、ユーザーが空間を楽しめることであり、空間の中でコミュニケーションがスムーズにできることです。どれだけ魅力的なコンテンツを用意しても、使い方や楽しみ方、情報の共有の仕方がわからなければ、空間自体を楽しむことができなくなってしまいます。バーチャル空間に集まってくれた人たちをほったらかしにしないようなガイドやナビゲーションの仕組みをつくる必要があると思います。
川島
福田さんがおっしゃったことは、まさに僕も日々のREV WORLDSの運用で感じていることです。年齢やデジタルスキルに関わらず、ユーザーの皆さんが気軽に立ち寄れて、空間の中で長く過ごせるようにするには、UIを徹底的に考える必要があります。コンテンツを増やしたり、コミュニケーションの仕組みを工夫したりすることはもちろん大切ですが、その一つ一つをいかに使いやすいものにするかを常に意識する必要があると感じています。

庄司
コロナ禍においては、リアルの代替としてバーチャル空間を利用するというケースが少なくありませんでした。しかし今後メタバースは、企業のコミュニケーションツールの一つとして定着していくと私は考えています。多くの企業がメタバースを活用することによって、企業と生活者との関係が変わっていく可能性もあると思います。

私自身、クライアントのご担当者とメタバースについて議論させていただく機会がとても増えています。そのような議論の場で私がいつもお伝えしているのは、企業のメタバース活用には大きく5つの方向性があるということです。「コミュニティ形成」「見込み顧客の獲得と育成」「ブランドエンゲージメントの実現」「話題化」、そして「ブランドの認知向上」です。現在は、多くの企業がメタバースに関して試行錯誤している段階にあります。これらの5つの可能性のどれにフォーカスし、メタバースをどう戦略的に活用していくか。そのような視点をもって、引き続き対話を続けていきたいと考えています。

誰もが平等にコミュニケーションができる空間

庄司
これからバーチャル空間、メタバースを使って、どのようなことを実現したいと考えていますか。

福田
SDGsで掲げられている目標をメタバースでシミュレーションしてみる。そんな試みにぜひチャレンジしたいですね。例えば、貧困のない世界をメタバース上につくり、それを体験してみれば、多くの人がそのような新しい世界のイメージをつかめるはずです。「想像できることは実現できる」という言葉がありますよね。新しい世界を実現するための想像を膨らませるツールとして、メタバースは非常に有効だと思います。

もう一つ、メタバースは障がいをもった皆さんの活動をサポートするツールにもなりうると考えています。メタバース内ではテキストでのコミュニケーションができるので、例えば聴覚障がいのある方でも対話することが可能かもしれません。あるいは、手の動きをセンサーで捉える「ハンドトラッキング」という技術を使って、手話をテキスト化する仕組みをつくることもできるかもしれません。最近では、口の動きからテキストや合成音声を生成する研究に取り組んでいる研究者もいます。

誰もが平等にコミュニケーションができる空間──。それが、メタバースが持つ大きな可能性だと思います。

川島
とても共感できる意見ですね。やりたいことがあるけれどできなかった人。自分の居場所がないと感じている人。メタバースをそういった人たちにとって役立つツールにしていきたいと僕も考えています。例えば、REV WORLDSは、地方在住の方々が都市機能を体験することを可能にします。また、身体や精神に障害があったり、高齢で体が不自由だったりする人でも、都市活動を体験することができます。

ほかにも例えば、学校にどうしても馴染めず、孤立感を抱えている子どもたちが昔からたくさんいます。そんな子たちでも、バーチャル空間の中なら、友だちをつくったり、自分の好きなことを見つけられたりするかもしれません。

やりたいことがあるけれどできなかった人や、自分の居場所がないと感じている人は、生活者全体から見ればおそらくマイノリティですが、マイノリティのためのソリューションをつくることが、これからの日本の競争戦略になりうるのではないか。そう僕は個人的に考えています。

米国のメガプラットフォーマーは、世界中の人たちが利用できるソリューションをつくることに成功しました。それと同じ戦略をとっても勝ち目はありません。逆に世界の2割の人に使ってもらえるソリューションをつくって、社会的弱者と言われる皆さんを支援することができれば、メガプラットフォーマーとは異なる価値を生み出すことができるはずです。

福田
現実世界では行き詰まってしまうような人たちもいきいきと活動できる。メタバースをそんな場所にしていくということですよね。バーチャル空間での体験を糧にして、現実世界で羽ばたいていくことができたら、本当に素敵だと思います。

メタバースはAIと同じで、つくり手の考え方によっていいものにも悪いものにもなりうると私は考えています。制作側にいる私たちが正しいビジョン、正しい意志をもって、メタバースをいい方向に進化させていきたいですね。

庄司
メタバースは、課題を抱えている皆さんが生きていくことをサポートするツールにもなりうるということですね。素晴らしい視点だと思います。

先ほども話したように、多くの企業がメタバース活用の方向性を模索しているのが現状です。私はクライアントとのディスカッションの中で、「小さな失敗」を重ねて経験値を高めていく方法を推奨しています。メタバースの大きな波が来てからそれに乗ろうとしたが、すでに遅かった。そういう事態が起こりえるからです。「小さな失敗」に伴走し、「大きな成功」への道筋をつくるご支援をこれからも続けていきたいと思います。

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  • 博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 OMOクリエイティブ部 部長
    HAKUHODO-XR
    外資系広告エージェンシーなどを経て、2019年9月に博報堂に入社。リアル・デジタル融合の体験設計を得意とし、hakuhodo-XRではメタバース空間での新しいブランド体験の実証実験のプロジェクト等に従事している。
  • 川島 英憲
    川島 英憲
    クラフタースタジオ
    常務取締役
    最近の仕事。
    『REVWORLDS』『おそ松さんVR』『映画館でVR』
    『平成31年度 N高等学校 バーチャル入学式』『令和二年度 N高等学校 オンライン入学式』『デンソー快適キャビンコンセプト Ver.2』等
  • 博報堂プロダクツ
    デジタルプロモーション事業本部
    テクノロジープロデュース部XRチーム チームリーダー
    エンジニアとしてキャリアをスタートし、2015年より博報堂プロダクツ デジタル領域のプロデューサーとして、AR (Augmented Reality) / VR (Virtual Reality) / MR (Mixed Reality) を活用した、体験コミュニケーションのプロデュースを多数行う。代表案件は「MRミュージアムin京都(第5回イベントアワード最優秀賞受賞 経済産業大臣賞、2019年)」など。

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