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【Media Innovation Labレポート6】 量子技術が未来を変える(前編)
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【Media Innovation Labレポート6】 量子技術が未来を変える(前編)

現在私たちの生活を取り巻く、PCやスマホなどのスマート家電に代表されるデジタル技術。もとを辿れば80年ほど前に論理演算の概念が確立し、半導体が発明されたことから始まりました。そして今、これまでのデジタルを跳躍する新しい「量子技術」の時代が始まろうとしています。この量子技術は、コンピューターや通信・暗号、センシングと言った技術領域に革新をもたらすとされ、家電、自動車、医療などからAIに至るまで、あらゆる分野での活用が始まっています。広告領域においても最適化や分析に活用の可能性がある量子技術について、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ※)の永松範之に、博報堂DYメディアパートナーズナレッジイノベーション局兼Media Innovation Labの大野光貴が聞いていきます。
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■日、米、中で研究開発が進む量子技術

大野
今回は非常に難易度の高いお題ですが、よろしくお願いします。まずは「量子技術」とはどのような領域で用いられるものなのか教えてください。
永松
量子技術と言うと量子コンピューターを思い浮かべる方も多いと思いますが、そのほかにも、暗号化や通信の領域での活用や、今あるセンサー技術をより高度にした量子センシング、素材や製造機器、IoTデバイス等の開発に使われる量子マテリアルなど、我々デジタル業界でも注目しているところです。
大野
なるほど。普段私たちはインターネットを使ってコミュニケーションから決済まで通信で行っていますが、量子技術を使うことでよりセキュリティの高い暗号化や盗聴されない通信が可能になったりするのですね。量子センシング技術というのは、これまで分からなかったような微弱な変化も捉えられるようになるというイメージでしょうか。
永松
はい。脳内や細胞内の生体の変化といった、より微細な変化も捉えることができるため、医療やマーケティングの観点からもそうしたデータが有益になるのではないかという話があります。
大野
それはすごいですね。国内外において、量子技術をめぐる動きにはどんなものがありますか。
永松
世界市場でいうと、今後伸びる領域としてやはり量子コンピューターが注目されています。続いて、量子マテリアルによる素材やデバイスといった領域。さらに5Gなど通信技術がより高度化することによって、量子通信や量子暗号といった領域も伸びるだろうと言われていますね。
各国の動きを見てみると、アメリカでは量子コンピューターの研究開発が進んでいて、GoogleやAmazon等のプラットフォーマー、多くのスタートアップが切磋琢磨している状況です。中国では量子通信や暗号技術などの特許をたくさん取得しているところで、5Gも含めたインターネットの通信技術を特に強化しようとしていることが感じられます。日本においては、量子マテリアルと言った素材の部分の研究を東京工業大学や東北大学などが行っていて、製造業中心の日本らしい動きという印象です。ちなみにある市場調査では日本はアメリカに次いで2位の市場規模です。中国がどんどん市場を拡大する動きはありますが、世界的に見ても日本は非常に進んでいる分野だと言えます。
大野
ここでもやはりアメリカと中国がキープレイヤーになっているのですね。今後量子技術の開発が進めば、具体的にどんな産業にインパクトを与えていくでしょうか。
永松
たとえば医療や製薬の分野での創薬、銀行、証券、保険と言った金融業界、あるいは政府や軍事防衛産業、エネルギー産業などでの活用が見込まれています。これらの産業はすでに巨大な市場を形成していますが、量子コンピューターの導入で技術革新が進めば、さらなる市場規模の拡大が考えられます。実際、2018年と比較すると、2025年には市場規模が約7倍に拡大するという予測も立てられています。
AIの領域においても、現在のコンピューターよりも処理性能が向上するので、結果的にディープラーニングを含め現在のAIの性能も向上するということがあります。また、量子コンピューターによって、人間の脳の仕組みである“ニューラルネットワーク”のようなものの再現性がより高まるとも言われていますね。今のAIとはまたレベルの異なる、人間の脳に近い処理ができるようになる可能性も秘めているのです。センシングやマテリアル、通信、暗号…こうした量子技術全般が複合的に活用されるようになれば、スマートシティやIoTへの適応も進んでいくでしょう。

■そもそも量子技術とは?基本をおさらい!

大野
身の回りの具体的な話から始めましたが、ここで、そもそも量子とは何なのか。0と1のデジタルの世界と何が違うのか。多くの人にとってなかなか想像しにくい難解な部分だと思うのですが、簡単に解説していただけますか?
永松
まず、量子は非常に小さい世界――ナノサイズという、1メートルの10億分の1ほどの原子核や電子といった世界――です。そこでは、これまでの物理学では説明できないような法則が存在していることがわかっており、それがいわゆる「量子力学」と呼ばれる分野です。
大野
今までの物理学では説明ができない現象というと、たとえばどういうことですか?
永松
通常の世界なら、光を当てることで対象物がどこにあるのか、どういう動きをしているのかを見ることができますよね。でも量子の世界では、ものを見る、測定することに限界があります。たとえば電子も量子の世界に属するものですが、光を当てて電子がどこにあるのか、どのくらいの速さで動いているのかなどを見ようとすると、光そのものが電子に影響を与えてしまったり、光が電子を通り抜けてしまったりして正しい動きを調べることができません。電子だけではなく、分子、原子、中性子、陽子…いずれも小さい単位の量子は、通常の方法で観測すると正確な位置や動きを把握できないという不可解な現象が起こることが分かったのです。
大野
これまでの古典的な物理学の世界では、そこに目で物が見えていれば、間違いなくそこにあると言えましたが、量子の世界では、そこにあるかどうかすら、ある確率でしか言えなくなるのですね。難解ですが、とにかくそれだけ小さく不思議な世界ということ(笑)。
永松
また、たとえば光は、昔から波の性質を持つと言われていますが、1900年代にアインシュタインが、実は粒子の性質を持つということも発見しました。それから電子というと、一般的には本当に小さな粒子という認識の人も多いと思いますが、粒子である電子が実は波の性質も持っていることが実験により判明しています。つまり、量子と呼ばれる単位のものは、すべて波でもあり粒子でもある――2つの性質を持つことがわかっているのです。なぜこうした性質を持つかは厳密にはわかっておらず、そうした性質を持つとしか言いようがありません。
大野
面白いですね。波の性質か、粒子の性質か、通常はどちらかで説明できるものですが、両方の性質を併せ持つのが量子なのですね。ほかにも量子ならではのユニークな特性はありますか?
永松
“重ね合わせ”という、複数の状態が存在していることです。たとえばコインを落とすと、それを見ていても見ていなくても、表か裏のどちらかに決まっているのが通常の物理の世界ですが、量子の世界では、例えていうならば、常に回転していて表でも裏でもある状態。観測して初めて、表か裏かどちらか一方の状態に決まるというユニークな特性があります。

また、“もつれ”の状態というのも量子ならではの特性です。たとえば2つの量子を衝突させて“もつれ”というペアの状態にすると、そのペアになった2つの量子はどんなに距離が離れても互いに影響を及ぼし合っていて、片方の状態が決まると自動的にもう一方の状態も決まるのです。この“もつれ”の状態により、地球から火星くらいまで距離を離したとしても、必然的に一瞬でもう一方の状態も決まる量子テレポーテーションと言われる性質も持っています。

さらには“トンネル効果”というのもあって、通常の世界だと、仮に山の向こうにいくには山を越えるだけのエネルギーがなければ越えられませんが、量子の世界では、そのエネルギーがなくても山を通り抜けてしまうことが一定の確率で発生します。

大野
今までの物理学やデジタルの世界だと、0か1かで説明できていたものが、量子の世界になるとどちらでもなくなる…。不思議な世界ですね。こうした物理現象を技術応用するというのが量子技術なわけですね。

後編では産業別に見る、応用ケースや広告、メディア、マーケティング分野における可能性について聞いていきます。

 

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アドトランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

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  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局長
    2004年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社、ネット広告の効果指標調査・開発、オーディエンスターゲティングや動画広告等の広告事業開発を行う。2008年より広告技術研究室の立ち上げとともに、電子マネーを活用した広告事業開発、ソーシャルメディアやスマートデバイス等における最新テクノロジーを活用した研究開発を推進。現在はAIやIoT、AR/VR等のテクノロジーを活用したデジタルビジネスの研究開発に取り組む。専門学校「HAL」の講師、共著に『ネット広告ハンドブック』(日本能率協会マネジメントセンター刊)等。
  • 博報堂DYメディアパートナーズナレッジイノベーション局 情報マネジメント部
    ラジオ局のビジネス企画開発部、メディアビジネス開発センター、データドリブンビジネス開発センターなど新規開発系部署を経て、2018年よりナレッジデザイン局(現ナレッジイノベーション局)で主に海外のテクノロジーやメディアにおけるDXを調査。クリエイティブ&テクノロジー局テクノロジーソリューション開発グループ複属。