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ヒット習慣予報 vol.138 『エモアナ価値』
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ヒット習慣予報 vol.138 『エモアナ価値』

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの村山です。

夏が始まったと思ったらすぐ終わり、気づけばもうすぐ10月、、、時間が経つのが早すぎてこのコラムの順番がまわってくるたびに唖然とする、ということを繰り返しています。夏もなかなか遠出できなかったので、都内のホテルに宿泊してみたり、近所の公園で友人とピクニックをして穏やかに過ごすなど新しい夏の過ごし方を楽しみました。

最近の働き方で特に変わったことといえば、やはりリモートワークだと思います。オンラインで打ち合わせをしてオンラインで提案するのは当たり前、なんならプレゼン資料もオンライン上で共同編集して仕上げるなんてことも珍しくなくなりました。

身近な体験からも分かりますが、やはりここ最近で「デジタル化」が急速に進んだことは皆さんも実感としてお持ちなのではないでしょうか。政府と経済4団体が脱ハンコに向けた共同宣言を発表したことも記憶に新しいですが、ビジネスにおいては今後ますますペーパーレス化をはじめとした「デジタル化」が進むことは間違いないと思います。

「デジタル化」の検索数推移

出典)Googleトレンド

さらに日常生活においてもポケベルからはじまったデジタルコミュニケーションは進みに進み、いまではアプリを使っていつでもどこでもメッセージを送ることはシニア世代でも当たり前になっています。インスタントカメラを現像しなくてもスマートフォンで高画質な写真を撮影してクラウドに保存することも、CDを買わなくてもサブスクリプションサービスなどで様々な音楽をすぐに聴くこともできるようになりました。

そんなあらゆるものがデジタル化していき、モノを持つこと自体が少なくなっていく社会において、デジタルで置換できない新しい感情的・情緒的(エモーショナル)でアナログな価値が求められ始めているというのが、今回のテーマ「エモアナ価値」です。

先日、アメリカの2020年1~6月に発売されたレコードの売上が1980年代以降で初めてCDの売上を上回ったことが報道されて話題になりました。これほど音楽が気軽に聞ける時代でも、本当に好きで感情を揺さぶられる音楽は、利便性で代替できないエモーショナルな機能を有したレコードプレイヤーで、アナログならではの音質を楽しむ潮流が出てきているのです。日本でもミレニアル向けのホテルでレコードプレイヤーが部屋に設置されていたり、若者に人気の渋谷にリニューアルオープンした商業施設内にもレコード専門店が入るなど、往年のレコードファン層だけでなく、若年層にも愛され始めていることが伺えます。レコードだけでなく、カセットも人気がでてきており、つい先日大手メーカーもBluetooth送受信機能がついたCDラジカセ発売を発表しました。(カセットテープ、実はめちゃくちゃ音がいい!)

レコードだけでなく、手帳も最近人気がでてきています。スマートフォンやパソコンで簡単にスケジュール管理ができる時代に、あえて手帳も併用して活用する若い女性が増えているようです。どんな使われ方をしているのかSNSで投稿を見てみると、仕事のスケジュールはデジタルで管理するものの、今年の目標や好きなこと、プライベートな予定、うれしかったこと悲しかったことなどの、日々のちょっとした出来事まで様々なことを書き込むために手帳が使われている事がわかります。「機能的」なスケジュール管理はデジタルで十分なのですが、「感情的・情緒的」なスケジュールや想いを書き留める機能は手書きの手帳で、といった具合に使い分けることでアナログがデジタル全盛の時代に新しい価値を帯び始めている事がわかります。

他にも、アナログな行為として文通も人気の兆しがあります。もちろん、飲み会の約束や仕事の連絡などの日常で必要な「機能的」なコミュニケーションではなく、日々の出来事や感情の機微を伝え合うコミュニケーションとして文通が利用されており、オンラインで文通相手を紹介するサービスも会員数が増加しているようです。最近ではコロナ禍で学校にいけない中学生高校生の悩みや不安に、大学生が文通で答える取組も実施されています。

最後に、スマートフォンでいくらでも撮影できるしオンラインで保存できる写真ですが、そのプリントサービスが子供の成長記録を残したい親から人気のようです。やはり、デジタル化がどこまで進んでも、本当に大切な写真はデジタルではなく手にとって質量を感じるモノとして所有したい「エモアナ価値」への欲求があるということかと思います。

ここまで様々な事例をご紹介してきましたが、このような「エモアナ価値」に対する潮流が顕在化してきている理由はなんでしょうか。大きな理由はデジタル化への反動だと思います。機能性・便利さはどんどんデジタルで補われていく一方で、パーソナルで感情的・情緒的な役割はデジタルでは今のところ賄えていないということかもしれません。特に面白いのは、過去にアナログに親しんだシニア世代だけがノスタルジーのためにアナログに回帰しているわけでなく、幼少期からデジタルに親しんできた若者もエモーショナルなモノの所有を求めていることだと思います。かつて大学の授業で、人間はありもしない中庸をもとめて2極の間をさまよい続けてきた、と教えてもらったことがありましたが、まさにその反動が今顕在化してきているのかもしれません。

最後に、「エモ機能価値」のビジネスチャンスについて、少し考えてみたいと思います。

「エモ機能価値」のビジネスチャンス例
■ アンティークカーの趣や匂いなどの「エモ機能価値」はそのままに、電動化して環境に配慮したクルマのリノベーションサービスを展開
■ オンライン学習塾が、勉強の精神的な悩みに文通で答えるサービスを開始
■ 旅行会社が旅の写真をアルバムにして郵送してくれるサービスを開始
など。

僕も自粛で、ベッドから数歩の距離内でPCと1日中にらめっこして1日が終わることもある今日この頃なので、デジタルから距離を置きアートや植物など、なにか情緒に触れる存在を購入してみようかと思います!

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

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  • 博報堂 PR局
    ヒット習慣メーカーズ メンバー
    PR戦略局から、19年に統合プラニング局に異動、21年にふたたびPR局に異動。車からお菓子に至るまで様々なクライアントの情報戦略、企画立案に携わる。毎日きまった街のきまった飲み屋に入り浸っていた生活を経て、知らない街の知らない店に飲みに行きたいなとリサーチ活動を実施中。