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生活者の欲求を起点に設計するDX時代のビジネス戦略 書籍『生活者モード戦略』を発刊
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生活者の欲求を起点に設計するDX時代のビジネス戦略 書籍『生活者モード戦略』を発刊

博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センターは9月30日、書籍『変貌する生活者の欲求を捕え、DX時代の事業を設計する 生活者モード戦略』を日経BP社から発刊します。マーケティング・テクノロジー・センターは、テクノロジーによってつながる時代の新たな事業戦略やマーケティング、メディアサービスの研究開発を推進してきました。本書では、そのなかで得られた知見に基づく事業やマーケティングの戦略策定の方法論を提示しています。
 このタイミングで出版する理由や書籍の概要などについて、著者である佐藤智施と大倉幸祐に聞きました。

『変貌する生活者の欲求を捕え、DX時代の事業を設計する 生活者モード戦略』
著:佐藤智施 大倉幸祐

ー書籍をこのタイミングで発刊する理由を教えてください。

 AIやIoT、ARなど昨今の新しいテクノロジーの普及を、博報堂DYグループでは「生活のオールデジタル化」と呼んでいます。この生活のオールデジタル化によって、企業においても様々な業界でビジネスのデジタル・トランスフォーメーション(DX)が加速しています。
博報堂DYグループの従来からのクライアントでもDXは着々と進行しており、その結果として広告ビジネスを軸とした関係とは少し異なる関係でお付き合いすることも増えています。また、ビジネスにおけるテクノロジーの重要性が増したことで、スタートアップ企業などの新たなクライアントとのお付き合いも増えてきています。
 このような状況の中で、私達がクライアントのパートナーとして価値を発揮し続けるためには、クライアントとマーケティングビジネスに取り組むだけでなく、新しいビジネスを一緒になって開発していくことが重要になると考えています。このような思いから、博報堂DYホールディングスのグループポリシーである「生活者発想」を起点とし、企業のビジネス戦略をテーマとした本書籍を発刊するに至りました。私たちなりのビジネス戦略に関する考え方をお伝え出来ればと思っています。

ー書籍の概要を教えてください。

 マーケティングよりも経営のレイヤーに近い内容になっていまして、事業戦略についての実務的なコンセプトやフレームについて紹介しています。企業の事業開発に携わる方に読んでいただくことを想定して執筆しました。
 全体のキーとなる概念は、私たちが独自に定義している「生活者モード」です。これはビジネスを計画・実行していく上で明らかにするべき、生活者の欲求のあり方です。
 事業やマーケティングの戦略を策定していくに当たっては、生活者を突き動かす欲求の正体を明らかにすることが重要です。特に、生活者自身も気づいていない欲求を明らかにし、それを捕えていくことが成功する上での大きなポイントになります。
 従来は、生活者が気づいていない欲求を捕える際には、属性・趣味嗜好・日常生活における価値観といった、「個々の生活者の属性」に影響を受けて生じる、生活者も自身も気づいていない欲求である「インサイト」が重要だと言われて来ました。しかし、AIやIoT、ARなどの生活者とつながるテクノロジーが増えた現在では、欲求は「個々の生活者の属性」だけでなく、「生活者・物・情報のつながり」にも影響を受けて生じるようになってきています。我々はこのような「生活者・物・情報のつながり」に影響を受けて生じる欲求のうち、生活者自身も気づいていないものを「生活者モード」と定義しています。
 もちろん、ビジネスを計画・実行していく上で、「インサイト」が重要な概念であることは今後も変わりません。「生活者モード」は、テクノロジーの普及によって「インサイト」に加えて新たに発生してきている欲求のあり方なのです。

博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター グループマネージャー 佐藤 智施

ー生活者モードには、具体的にはどんなものがありますか。

 書籍で例として紹介したのが、ハロウィーンの夜に渋谷に集まる若者がコスプレをする行動の裏にある欲求です。従来、コスプレは自分の思い入れによって漫画やアニメのキャラクターを選ぶのが一般的でした。その裏にある欲求は、「思い入れのあるキャラクターや作品の世界観を、もっと深く、そして多様に楽しみたい」といったものです。
 しかし、ハロウィーンの夜にコスプレをして渋谷に集まる理由を、個々の若者の属性から説明することは難しい。若者を動かしているのは、SNS上の仲間たちやハロウィーンの渋谷に関するメディアの記事、その日を過ごすためだけに主にオンライン上でレコメンドされ、購入され、利用される物品などであり、そういったつながりに影響を受けて生まれる「お祭り的な盛り上がりの中で、開放的な雰囲気を生み出し、楽しむことが出来るものが欲しい」という欲求なのではないでしょうか。
 こうした欲求は、生活者・物・情報がテクノロジーによってつながり、特別な場を形成するようになった現在では様々なところに生じていますし、今後も増え続けるでしょう。

ー生活者モードを捕えるためには、どのようなビジネス戦略を打ち出す必要があるのでしょうか。

 まず、特定の「モノ」の提供ではなく、体験を含めた一連の「コト」を提供するというビジネスの枠組みが必要になります。「個々の生活者の属性」から生じる従来型の欲求に応えるためには、質の高いモノが重要でした。しかし、「生活者・物・情報のつながり」から生じる新しいタイプの欲求に応えるためには、モノではなくコトを提供することが必要になります。「コトを提供する」とは、「生活者・物・情報のつながり」の中に商品やサービスを入れ込み、つながりを活性化させる、ということです。
 ハロウィーンを例に説明いたしますと、ハロウィーンの夜に渋谷における「生活者・物・情報のつながり」の中に商品やサービスを入れ込み、これがSNSでシェアされたり、メディアに取り上げられたりしてつながりが活性化される、といった一連の流れまで含めてコトとして提供することが重要になる、ということです。
 このような「コト提供」というビジネスの枠組みは、DXが進展している分野であれば、どのような業界でも可能性を探る必要があると思っています。

生活者との接点になるプラットフォームを企業が自ら作る

ー生活者側から見た場合、企業によるコト提供はどのような形で受容されるのですか。

 書籍の中では、IoTやAI技術を搭載したスマート家電に囲まれた生活者が洗剤を購入するケースを例として紹介しました。生活者が様々なスマート家電を活用するようになると、家事自体が、かなりの部分で生活者がおかれた状況に応じて自動最適化されて行われることになります。そうなると、個々の生活者の属性に影響を受ける「家事そのものをどうしたいか」についての欲求よりも、その状況下での生活者・物・情報のつながりに影響を受ける「家事を行うことで何をしたいか」についての欲求の方が生じやすくなります。生活者モードが生じやすくなるということです。このような欲求には、洗剤の機能価値や情緒価値を伝えた上で、ボトルや詰め替え容器にパッケージして小売店で販売する「モノ提供」のビジネスはマッチしづらくなると想定されます。
ここでの「コト提供」のビジネスとしては、洗剤メーカー自らが、スマホアプリに入力した情報から「洗濯する量」「洗濯にかける時間」「希望する仕上がり」などを分析するプラットフォームを作り、分析結果から自社・他社にこだわらず最適な洗剤を最適なタイミング・量で届ける、といったものが挙げられます。プラットフォームは、関連する様々な機能と連携することで価値を生み出すことが出来ます。この場合ですと、スマホアプリとIoT洗濯機と連携させることで実際の洗濯履歴情報を入力出来るようにしたり、メディアと連携することでファッションについての情報を配信したりといったことが考えられます。生活者側は、プラットフォームが提供する洗剤やその他のサービスを通じて、自分に合ったライフスタイルを実現していけるようになるでしょう。これによって、「家事を行うことで何をしたいか」についての欲求は満たされていくはずです。

博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 大倉 幸祐

ー生活者との接点になるプラットフォームを企業自らが作る、という話は本の中でも強調されていました。より詳しく説明していただけますか。

 身近な例で言いますと、例えばホテルを選ぶような場合、今では比較サイトを介して値段を比べて予約するのが一般的になっていますよね。このやり方だと、ホテル側からすれば自分のホテルが選ばれたとしても、比較サイトに支払う手数料がかかってしまいます。ビジネス環境が厳しくなっていく中で、利益率を高めるためには直接顧客とつながる接点を持たなくてはなりません。またこの接点を積極的に利用してもらうためには、プラットフォーム化して他の企業と協業し、接点をより魅力的にすることが必要になります。
 こうしたことはホテル業界に限ったことではなくて、いろいろな業界で起きています。“デジタル化”とよく言われますが、これは既存の仕組みがデジタルに置き換わるだけでなく、バリューチェーンそのものが変革していくことを意味しているんです。

ー主導権を持ってプラットフォームを運営出来るのは各業種で一企業になってしまうように思えるのですが、それ以外の企業はどうすべきなのですか。

 強いプラットフォームが形成されていく流れを無視してしまうと、選択の機会すら与えられない“不戦敗”と言えるような状況になってしまうので、プラットフォームに乗ること自体は重要になります。
 ただ、プラットフォームが魅力的になるためには、運営主体以外の企業も取引を促進させるような役割を担う必要があります。例えば、ある商品を提供するプラットフォームの場合、「その商品分野についての情報を絶対的な強みを持って提供する」という立場が取れれば、重要な役割を担えます。
 また、後から入ってきたプレーヤーでも、顧客の選択のルールを変えるような仕組みを提供出来れば、プラットフォームの中で重要な位置を占めることが出来ます。例えば、あるECプラットフォーム上で食品の商品選択の基準が価格のみだったところに、後から参入した企業がカロリー計算を出来る仕組みを提供すれば、顧客にカロリーでの商品選択の機会が生み出されます。この例のようなことは、今後多くのプラットフォームで起こり得ると思います。

ーそのようなプラットフォームにおいて、博報堂DYグループはどのような役割を担うのでしょうか。

 博報堂DYグループには様々な事業会社があるので、多様なケースが想定されます。ビジネス戦略の立案を支援する、プラットフォームそのものを一緒に設計する、機能追加を担うなど、いろいろなパターンがあるでしょう。
 マーケティング・テクノロジー・センターとしては、そのような事業会社の取り組みをテクノロジーの側面から支援していきたいと考えています。

マーケ施策の再編成が必要

ー本の中で「コト提供ビジネスにおける新しいマーケティング手法の一つ」としてデジタルロケーションマーケティングが紹介されています。デジタルロケーションマーケティングについて教えてください。

 生活者モードの考え方をベースにしたマーケティング手法で、時空間の生活者モードに着目しています。
 そもそも生活者モードを明らかにして捕えるという観点でマーケティングを考えると、そのために必要な手法は従来から大きく変化します。生活者モードが生じている状況を明確にし、そこに対して最適なコンセプトを考え、従来の4P(Product、Price、Place、Promotion)と言われていた施策を再編成する必要があります。
 店舗施策について考えると分かりやすいのですが、従来の店舗施策は「買うための場所」であり、4Pの中のPlaceとして一定のセオリーをもとに立案・実行されていました。しかしDXによってECでの購買が当たり前になると、「店舗=買うための場所」とは言えなくなります。生活者モードを明らかにし、捕えるための施策を設計し直す必要が生じてくるのです。
 例えば、捕らえたい生活者モードが「何か目新しい発見があるものがほしい」という欲求であれば、商品に興味を持ってもらうための、目を惹くデザインのショールーミング店舗を計画する必要がありますし、捕らえたい生活者モードが「何かについてじっくり考え、検討したい」という欲求であれば、スタッフを配置して商品の理解を促進するための店舗を計画する必要がある、といった具合です。
 このように、時空間で生活者に着目するといろいろな生活者モードが想定され、施策についてもそれに応じるかたちで様々な再編成のあり方が考えられる、ということを本の中では紹介しています。近年ではサイネージなど屋外も、デジタル化・ネットワーク化されているので、生活者のモードを捕えやすい状況になっています。

ーコロナ禍で生活者の行動は変化していると思います。どのように考えていますか。

 会社への出社や大学への通学など定型的な行動が減り、個人主体の自律的な移動が増加しました。その結果、シェアオフィスやサテライトオフィスの利用が増えたり、買い物にピックアップサービスを利用したりする人が増えています。労働や購買の場所がフレキシブルに設定されるようになっていくということですね。時空間の側から見ると、一つの場所でも時間帯によって労働や購買といった様々な行動が行われるようになっていくと言えます。固定的な場所のイメージにとらわれず、その時空間がどういう生活者モードなのかを明らかにする必要性が、ますます重要になってくるのではないでしょうか。

ーデジタルロケーションマーケティングの今後の展望を教えてください。

 これまではファーストプレイス、セカンドプレイスがあって、その中に生活動線があって、その移動する生活者にアプローチすることが主流でした。しかし現在はセカンドプレイスや生活動線といった概念そのものが変わってきています。セカンドプレイスや生活動線といった概念が変化すると、状況を捕えるマーケティングが重要になります。デジタルロケーションマーケティングが求められる場面は今後益々増えていくはずです。

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  • 博報堂DYホールディングス
    マーケティング・テクノロジー・センター グループマネージャー
    1978年生まれ。大学卒業後、メーカー、ITソリューション、外資系マーケティングサービス、M&Aアドバイザリーファームを経て、2013年に博報堂入社。2017年4月から出向して現職。主にマーケティング領域の事業戦略・開発、プロダクト開発等のビジネスデベロップメントに従事。
  • 博報堂DYホールディングス
    マーケティング・テクノロジー・センター 上席研究員
    1987年生まれ。大学卒業後、博報堂DYメディアパートナーズに入社し、博報堂を経て2018年より現職。デジタルメディア及びマーケティング領域におけるクライアント支援やソリューション開発を多数経験してきた。近年は、生活のデジタル化によって広がる新たなビジネス領域でのテクノロジーサービスの開発に従事。