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受け入れたくなる、動きたくなる ユーザーの文脈を捉えた新しい広告の見つけ方【アドテック東京2019レポート】
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受け入れたくなる、動きたくなる ユーザーの文脈を捉えた新しい広告の見つけ方【アドテック東京2019レポート】

「広告が嫌われないために、いま我々がやるべきこと」――11月27日、28日に開催されたアドテック東京2019公式セッションのひとつに冠されたタイトルです。モデレーターを務めた博報堂の中川浩史は冒頭、「つまり今『広告は嫌われている』という暗黙の前提があるのが現状です」と解説。一方で、受け手にメリットや喜びを提供しながら企業のメッセージを届ける、新しい広告の形も登場しています。 セッションの模様をレポートします。

データ分析からユーザーに喜ばれる提案を見出す

中川
本セッションのタイトルは「広告が嫌われないために」となっています。裏を返すと、今「広告は嫌われている」という暗黙の前提があるということだと思います。一方で、受け手に喜ばれる新しい広告の形の開発も進んでいます。その実例をスピーカーの皆様からご紹介いただきます。
中川
はじめに少し、現状を解説したいと思います。広告とは、自社商品を買ってもらう、あるいは顧客を誘致するために「広く告げる」アプローチであり、これまではマスメディアのコンテンツと合わせて見てもらうフォーマットで発展してきました。それが情報流通のデジタル化やメディアの民主化によって大きく変わっています。
「広く」という点では、ネットとスマホの普及によってマスメディアの接触時間は相対的に減り、またメディアそのものも分散しているので広告情報も散り散りになっている状況があります。また「告げる」視点だと、日々接する情報量があまりにも多いため、生活者自身が主導権を持って“自分に合う情報を引き寄せよう”という意識や動きが若年層を中心に広がっています。この独自の情報圏を、博報堂DYメディアパートナーズでは「じぶん情報圏」と名付けました。この状況下、企業のメッセージを届けようと話題性のあるコンテンツを仕立てても、バズにはなってもブランドを覚えていない、購入まで決め込めない事態も起きています。ブロードキャスト的な発想では広告が機能しなくなった今、成果を上げている企業はどのような取り組みをしているのでしょうか? まず、クックパッド斎藤さんからお願いします。
齋藤
クックパッドでは、ユーザーに料理レシピを検索・使用してもらう傍ら、多くのメーカーや流通企業に対して広告出稿やデータ分析などのマーケティング支援をさせていただいています。広告を出稿される際、伝えたい内容が受け手にとって親和性が高いかどうか、言い換えると「ターゲットが近いか、遠いか」という点を皆さん考えられていると思います。私からは、データ分析によるユーザー行動の把握から、遠いと思っていたユーザーが本当はとても近かったという事例を紹介します。

あらかじめ調味料が混ざっている「〇〇の素」というような商品がありますよね。麻婆豆腐や親子丼などいろいろな種類が出ています。該当商品のテレビCMが流れると、即座にクックパッドでの検索が上がるのですが、たとえば本格的な回鍋肉をつくろうとすると甜麺醤などが必要で、家にないことが多い。すると「回鍋肉風みそ炒め」など専門的な調味料なくつくれるレシピが探され、結果としてメーカーには「“素”を使わず家にあるもので調理されるとCMと連動しない、むしろ競合ではないか」と思われることもありました。我々としても「回鍋肉風」をつくることが、回鍋肉を食べたい人にとって本当によいことなのか疑問がありました。

そこで数年にわたってPDCAを回した結果、必要な調味料が家にないけれど本格的な味が食べたい、という人は「回鍋肉の素」のターゲットに合致するという仮説に至りました。実際に検索連動コンテンツを制作・配信した結果、広告による購買リフトは3.8%。我々は実際の購買も調べているので、これは意識調査ではなく実売の結果です。

中川
ユーザーの実際の購買行動データでプランニングされているんですね。「手軽に、でも本格的な味が食べたい」というユーザーが本当に求めていることと企業が伝えたいこととマッチングさせるなら、ストレートに利点を訴求する広告がむしろ効くということでしょうか?
齋藤
そう実感しましたね。クックパッドはどの施策にもユーザーの反応が大きく、この広告は好きではないという声も届く一方で、プラスになった広告にもわざわざ「役立った」「ありがとう」と意見が来るんです。この施策も、そういった面でも効果がわかりました。
データに関しては、CTRをKPIにする必要がある広告もあると思いますが、出稿企業の目的を考えるとクックパッドでは購買まで追って設計することが重要だと考えています。

“トライブ”を有しているインフルエンサーと協業する

中川
データに基づいてユーザーに喜ばれるコンテキストを捉え、その効果もデータで可視化した事例でした。では次にGushcloudのランダさんから、インフルエンサーマーケティングに対する考えと、インドネシアにおけるグリコのアイスクリーム普及の事例をお話しいただきます。
ランダ
昨今の広告が抱えている問題は、人々が見たくないものを見せていることだと思います。受け入れてもよいという合意が大切だとするパーミッションマーケティングの提唱者、セス・ゴーディン氏は、メッセージを送って誰かが需要するために「trust/coordination/permission」の3つが必要だと述べています。今、効かないとされている広告は、受け手のパーミッションを得ていないと考えられます。

その点、我々が手掛けるインフルエンサーマーケティングは、インフルエンサー自身がすでにそのフォロワーから「情報を受信してもよい・受信したい」というパーミッションを得ていることから、企業もパーミッションを得るチャンスを開いてくれる手法だと考えています。インフルエンサーがつくるコンテンツにブランドメッセージを織り込むことで、受け入れやすくなります。
ひとつ、インドネシアの事例をご紹介します。グリコが現地法人とともに立ち上げたアイスクリーム会社のグリコウィングスから、Gushcloudがインフルエンサーのコーディネートをお引き受けしました。12-25歳若年層、20-40代女性という2つのターゲット向け、そして日本のグリコの工場を5人のインフルエンサーが訪問することを前提にした依頼でした。
そこで我々はインドネシアで高い人気を誇るインフルエンサーやYouTuberをアサインし、グリコブランドに触れて工場訪問や試食などをする一連の体験を発信してもらいました。結果、グリコウィングスのマーケットシェアはキャンペーン後に約30%向上しました。
我々が重視しているのは、relevance(関係性)です。インフルエンサーが多くのフォロワーを捉えているのは、彼らがフォロワーの期待や要望をよく理解して発信しているからです。なので、我々は発信する内容を彼らに任せるようにしています。ただし、あらかじめ「オーディエンスが何に関心があるのか」「インフルエンサーのコンテンツにブランドメッセージをどのように織り込めるか」という文脈を設定して、適したインフルエンサーを選ぶことが重要です。

中川
そのインフルエンサーを心から信用し、価値観まで共有しているフォロワーたちは“トライブ”と捉えられると思います。トライブを有しているインフルエンサーは、彼らが動くツボをしっかりわかっているのですね。
ランダ
その通りです。彼らは自身のフォロワーに受け入れられるトレンドを理解しています。食品だからといって食関連のインフルエンサーがいいというわけではなく、今回もライフスタイル系のインフルエンサーが生活の中でのアイスクリームに焦点を当てたり、カップルのインフルエンサーが2人の仲睦まじい暮らしでアイスクリームを楽しんだりすることで、効果が上がったと思います。

価値観を共有するコミュニティ自体をつくり上げる

中川
では、トライブを超えて、コミュニティ自体を創造し捉えるというチャレンジをされているプレイブレーンの事例を、シタールさんから紹介いただきます。
シタール
私は2002年に来日して以降、広告やクリエイティブエージェンシーのビジネスに長く携わってきました。プレイブレーンは2016年に起業した会社で、eスポーツをエンターテインメントビジネスとして盛り上げ、企業のマーケティングプラットフォームとしても活用し始めています。すでにあるターゲットコミュニティに接触するのとは、逆の考え方ですね。
生活者は今、一方的なメッセージに辟易しています。そんな中で企業がメッセージを届けるには、信頼に足る内容が必要ですね。また、人は自分に合ったメッセージに興味を持ちます。この3つのことから、起業する際、特定の場でのマーケティングにフォーカスしようと考えました。今の日本において、市場成長のポテンシャルから注目したのがeスポーツでした。

日本のeスポーツのプロダクションは、まだ世界レベルにリーチしていませんが、もっと伸びればeスポーツファンは喜ぶはず。コミュニティもまだ確立していなかったので、ファンをつないで市場の活性化を促せば皆さんに喜ばれ、当社の独自性も発揮できると考えました。
そこでストリーミング番組などのコンテンツ制作・配信や、eスポーツのリーグの立ち上げと運営などに注力してきました。今ではプロダクションやエンターテインメント系の企業とのパートナーシップも増え、共同で大会を開催したり、ファッションブランドを立ち上げたりもしています。

中川
価値観を共有できるコミュニティを、あえてクローズドで運用することで質の高い関係性を構築し、マーケティングプラットフォームとしても成立するようにしたわけですね。
シタール
そうですね、eスポーツファンにリーチしたい場合、ファンのコミュニティに入れないとなかなかうまくいかないのではと思います。世界的に人気のタイトル「LoL(リーグ・オブ・レジェンド)」の日本大会の運営に当社は携わっていますが、今年はルイ・ヴィトンがその世界大会のパートナーとなったことが話題になりました。

情報圏に入り込み気持ちに火をつける「PIXループ」

中川
ここまでご紹介いただいた事例はいずれも、行動デザインの観点から、受け手に無理のない行動がデザインされていたと読み解けます。博報堂の行動デザイン研究所では、デジタル時代の生活者を捉える行動デザインモデルとして「PIXループ」を開発し、先日発表しました。
中川
多すぎる情報の波を乗りこなすかのように、生活者は自分に合った情報を引き寄せて「Pool」しています。その中から、ふとしたきっかけで気持ちに火が付く「Ignite」が起こると、それが一気に行動化し情報圏を広げる「eXpand」につながる。これを繰り返しながら自己充足を得ている状況があります。企業が生活者にアプローチするなら、企業目線ではなく「生活者主導のPIXループの中にどう入り込むか」をいう視点が求められます。
中川
ご紹介いただいたみなさんの挑戦は、まさに情報引き寄せプールに入るための「情報デザイン」はもちろん、そこから行動への気持ちに火を点ける「衝動デザイン」もきちんとインストールされていて、だから、生活者に嫌われずに受け入れられていると考えられます。
中川
皆さんのお話しから、情報を受け入れてもらう上で重要なキーワードとして「文脈」が語られていたと思います。最後に、その文脈をどう見つけているのか、お考えをうかがえますか?
齋藤
クックパッドでは、ユーザーが何を求めているのかをすべてデータで見られるので、我々は基本的にデータから文脈を導き出しています。
ランダ
目的によって文脈の捉え方は違います。認知度の向上ならシンプルにフォロワーが多い有名人と組むのが有効でしょうが、長期の関係性を築くなら、マイクロインフルエンサーを介して伝えることも有効だと考えています。
シタール
私たちはコミュニティづくりからスタートしていて、企業のマーケティング支援はあとづけの形ですが、そこでは「このブランドがeスポーツコミュニティにリーチしたいなら、どんなアクティベーションが可能か」という方向でコンテキストを見つけています。コンテキストはとても大事ですね。
中川
ユーザーの受け止められ方を無視したアプローチや露出は、嫌われることにつながってしまいます。受け入れたくなる、そして動きたくなる広告をつくることが企業にも生活者にもプラスをもたらすことを忘れずに、今後さらに追求していければと思います。
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  • 株式会社 博報堂
    行動デザイン研究所 所長
    プロモーション領域を出自に、CRM、インタラクティブ、ナレッジ領域を経験。購買というKGIにコミットすべく、デジタルを活かしたIMCのアップデートと実践に従事。大手飲料、通信、電力、運輸等、プラットフォーム構築・運用の実績も数多く、キャンペーン型コミュニケーションにとどまらない、プロジェクト型の業務も多く担当。直近では、チャットボット、スマートスピーカー等テクノロジーを取り込んだ顧客体験や、デジタル/スマートフォン時代における購買行動モデルの研究・開発にも取り組む。
  • 齋藤 貴生
    齋藤 貴生
    クックパッド株式会社
    マーケティングサポート事業部/部長
    スタートアップ、ポータルメディアとキャリアを経て2016年クックパッドに入社。主にメディアのマネタイズを中心に従事し、クックパッドでは広告事業に携わる。入社直後は大手調味料メーカーを担当し、2017年2月より現職。
  • ランダ オディー
    ランダ オディー
    Gushcloud International
    Director of Sales and Marketing for Southeast Asia
    東南アジア最大級のインフルエンサーマーケティング企業である、Gushcloud Internationalの東南アジアにおける、営業・マーケテイングの統括及び、インドネシア拠点のカントリーマネージャーを務める。
  • シタール マイク
    シタール マイク
    株式会社プレイブレーン
    代表取締役
    1998年より、シドニーにあるBDEにて、ゲーム、テレビCM、映画のモーションキャプチャーディレクターとしてキャリアをスタート。2002年から日本に拠点を移し、2007年にはクリエイティブエージェンシーUltraSuperNew(以下、USN)を立ち上げ、レッドブルやMINI、ハイネケン等、多くのクライアントのマーケティング活動のサポートをする。
    2016年にUSNを退職後、ゲーム業界に特化したクリエイティブエージェンシー:プレイブレーンを立ち上げ、現在に至る。

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