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『音楽の未来』レポート 博報堂「コンテンツビジネスラボ」~サブスクリプション時代における消費行動の変化とヒット予測とは?(3/5)
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『音楽の未来』レポート 博報堂「コンテンツビジネスラボ」~サブスクリプション時代における消費行動の変化とヒット予測とは?(3/5)

ヒットの前に支持を固めていたKing Gnu

様々なクラスタにアプローチし、ソーシャルによる1対1の情報伝達で支持を固めた上で、マスメディアに露出してレイトマジョリティを取りにいく。そういう階段方式になっているということですね。これはあいみょんだけでなく、他のアーティストでも見られると思います。今年のブレイクで言うならば、King Gnuだとどうでしょう。
谷口
先ほど2019年上半期ストリーミング・ソングスのランキングでは1~4位をすべてあいみょんの楽曲が占めていると言いましたが、5位にランクインしているのはKing Gnu「白日」です。ストリーミングの話に戻りますが、King Gnuの楽曲は「J-POP好き」「J-ROCK好き」といった音楽ジャンル別のプレイリストはもちろんのこと、ヒット曲をおさえたい人向けや情報通向けといった音楽ファン度によって分けられているプレイリストや、「お花見にピッタリ」や「サッカー応援」や「パーティーを盛り上げる」といったその時々のムードに合わせたプレイリストなど、幅広いプレイリストに入っています。それによって、King Gnuに流入していく人の数も種類も増えていくことになりますね。まさにプレイリストはご新規さんへの接点となっているわけです。ですので、今はプレイリスト・マーケティングが必須の世界になっていると感じます。
ストリーミング・ユーザーでない人にとってプレイリストが接点になるということはイメージしづらいかもしれませんが、CDショップの入り口にある試聴機をイメージしてもらえればと思います。ただ、実際の試聴機には3~5枚くらいしか置けないですが、アプリの世界だとプレイリスト内でずらーっとたくさん曲を並べることが出来ます。そして当然、各ストリーミング・サービスのフォロワー数の多いプレイリストの1番いい場所にどのアーティストを配置するかという、注目の奪い合いになっているのではないかと思います。
谷口
今度は楽曲別のストリーミング・チャートとウィキペディアのPV数、そしてTwitterのツイート数で見ていきます。大きなイベントとしては、フジテレビのアニメ『BANANA FISH』のエンディング曲や、日本テレビのドラマ『イノセンス 冤罪弁護士』の主題歌に選ばれたことが挙げられますね。そのあと『ミュージックステーション』に2回登場しています。このように大きなイベントがいくつかあるのですが、現在までの1年半を大きく3つのフェーズに分けると、それぞれのフェーズで違うファン層を取りにいっていることが分かります。例えば、私は『BANANA FISH』が放送される前後でそれぞれKing Gnuのライブに行ったのですが、放送前はまだみんなが発掘できていない新しい音楽を常に探している人たちが多く、終了後はアニメカルチャーが好きそうな人たちが増えていることを肌で感じました。また、3つのフェーズで獲得した新規ファン層のペルソナを作ってみたのですが、最初の層は音楽ディグ層、次の層は2.5次元ドハマり層、そして最後はJ-POP好き層といった形で、それぞれのフェーズで違う層を取りにいったと思います。
ここでポイントになるのは、評価を固めた上で露出を広げるという積み重ねになっていることですね。今テレビがどういう役割を果たしているかをもう少し詳しく見ていくと、まず『関ジャム 完全燃SHOW』という日曜深夜に放送されている番組が、さきほどのペルソナで言う「音楽ディグ層」の間で重要な番組になっている。それは『バズリズム02』でも同様です。なぜかというと、これらの番組では、音楽の世界で名の知られているプロデューサーがネクストブレイク候補のアーティストをランキング形式で紹介していて、ここでいち早く紹介されたのがKing Gnuなんです。つまり、『イノセンス』が放送されていたときには、「音楽ディグ層」の中ではすでに「こいつらは次に絶対くる」といった評価が完全に定まっていたということです。あいみょんも同じなのですが、「マリーゴールド」が世間に広まったときにはすでに「君はロックを聴かない」で支持が固まっていた。そのような積み重ねになっているのがポイントだなと思います。

▲King Gnu「Prayer X」

木下
「次はこのアーティストが来る!」というのは、webやストリーミングがない時代だと雑誌・専門誌がその役割を担っていました。しかし、今では逆にテレビがその役割を果たしているのが面白いです。あと、テレビで見た人が「このアーティスト誰だろう?」とか「Twitterでどういう投稿がされているだろう?」って思ったときに、2018年の投稿や『BANANA FISH』をやっていたときの評判をweb上で検索して見ることができ、「こういうアーティストなんだ」と認識するような行動をしていると感じます。それが今までと違うところかなと。
今までもヒットするコンテンツは必ず感想をTwitterで検索されている傾向があるので、たとえ露出が大きくてもガッカリ度のあるツイートやブログが散見されると熱は冷めていきますよね。
木下
テレビに出ているのにあまりセールスにつながっていないアーティストの要因も分析しているのですが、大きく違うのはテレビに出る前にちゃんと評判を形成している点でして、そこが大事かと思います。
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  • 柴 那典
    柴 那典
    音楽ジャーナリスト

  • 博報堂 研究開発局 木下グループ グループマネージャー
    博報堂DYホールディングス
    マーケティング・テクノロジー・センター 開発1グループ グループマネージャー
    2002年博報堂入社。以来、マーケティング職・コンサルタント職として、自動車、金融、医薬、スポーツ、ゲームなど業種のコミュニケーション戦略、ブランド戦略、保険、通信でのダイレクトビジネス戦略の立案や新規事業開発に携わる。2010年より現職で、現在データ・デジタルマーケティングに関わるサービスソリューション開発に携わり、Vision-Graphicsシリーズ, m-Quad, Tealiumを活用したサービス開発、得意先導入PDCA業務を担当。またAI領域、XR領域の技術を活用したサービスプロダクト開発、ユースケースプロトタイププロジェクトを複数推進、テクノロジーベンチャープレイヤーとのアライアンスも行っている。また、コンテンツ起点のビジネス設計支援チーム「コンテンツビジネスラボ」のリーダーとして、特にスポーツ、音楽を中心としたコンテンツビジネスの専門家として活動中。
  • 博報堂
    研究開発局
    研究員
    2017年博報堂入社。研究開発局で研究員として、データを活用したマーケティングサービス開発、生活者DMPを活用した生活者研究を行っている。注力研究領域は若者研究やAI技術を用いたマーケティング研究。また、コンテンツビジネスラボのメンバーとして、コンテンツ消費行動研究を行なっており、音楽分野担当として音楽ヒット予測等にも従事。

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