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クリエイティブの潮流もデータドリブンへ ONE SHOWインタラクティブ審査員日記(後編)
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クリエイティブの潮流もデータドリブンへ ONE SHOWインタラクティブ審査員日記(後編)

世界の広告賞で注目されたもの、話題になったものをひも解くと、クリエイティブの最新の潮流が垣間見えてきます。今回は、5月中旬 に結果発表されたばかり、世界的な広告賞の「ONE SHOW」に審査員として参加した林智彦から、前回のエッセイに続いて受賞作の解説をお届けします。

非営利団体が運営、審査員長もいない「ONE SHOW」

前回は、速報としてエッセイ風に、 審査現場でリアルに感じたことをレポートさせてもらいました。今回は改めて、今年のONE SHOW(※正式名称は「THE ONE SHOW2019」)からみえてきたクリエイティブの潮流について、受賞作品の紹介とともに解説します。 
ONE SHOWの位置づけについてご説明すると、カンヌライオンズ、CLIOアワードと並んで「世界三大広告賞」と言われる重要な賞のひとつで、本部はニューヨークにあります。カンヌが営利事業として長く成功しているのに対して、ONE SHOWは1975年に設立された非営利団体「THE ONE CLUB」によって運営されていること、また各部門に“審査員長”を置かずに、各審査員 の採点アルゴリズムを基準に、合議とあわせ決定されることなどが特徴です。 
インタラクティブ部門は「Interactive & Online」「Digital Craft」「Creative Use of Data」の3つのカテゴリに分けられ、優れた作品を選出します。
Interactive & Onlineとは参加性のある企画や、オンラインということでビデオも含まれます。Digital Craftは、ビジュアルやオーディオを作り込んだ作品群を総称する“クラフト”だけではなく、モバイルのUI/UXや、リアル世界のデジタルインターフェースも含め、デジタルに関する全般を「クラフト」の視点で評価します。クラフトという概念が広がっていることを感じますね。
3つ目のCreative Use of Dataはその名の通り、データの使い方にクリエイティビティがある企画が対象です。マーケティングだけでなくクリエイティブの領域にもデータ活用が広がっている意味で、このカテゴリで評価された作品は、クリエイティブの最先端を表しています。“データ”が何を指すのか?皆ではじめに協議しました。Google社が公表している定義によると、単一のデータにとどまらず、いろいろな種類の情報や行動の集積がデータであるとされているので、今回はそれを原則として審査していきました。本稿の後半でも紹介しますが、香港の銀行がユーザーデータを元に旅行体験をプロデュースする企画など、データを軸に事業と顧客がシームレスにつながっているものが多かったのが特徴的でした。

“境界線を押し広げる” 審査

前回のレポートでも少し触れましたが、僕が業務の主戦場にしてきたインタラクティブの領域は、広告から事業までいろいろな要素が常に混ざり合い、流動的です。先の3つの大カテゴリがすでに、ぱきっと線引きができるものではないですし、この企画が広告なのか? サービスなのか? それとも事業なのか、といった分け方もゼロイチで語れないところがあります。さらに今、広告会社とITコンサル、プラットフォーマーなどのプレーヤーのクロスオーバーが起きています。そんな複数の軸で融合が起きている状態の“今”を切り取り、広がりの現状とカテゴリの境界を確かめながら、審査基準を定義して作品を選出していく。僕にとって非常にエキサイティングなことでした。
向き合う領域自体が新しいため、 審査の定義から話し合うのですが、同時に業界全体の発展、という視点でも測っていきます。審査員たちは過去の受賞事例に精通しており、例えば女性の活躍を応援するテーマなら、過去の世界のアワードでは同じ女性という切り口でどのようなものが評価されてきたか、進化の系統樹を踏まえてこの作品は過去のトップを超えているか、という議論になります。作品単体を見て優れていても、過去を超えていなければここで評価するに値しない、と判断された作品もありました。逆に、もし広告賞を狙うクリエイターなら、これまでの系譜をよく把握するのは有効ですね。
加えて、これはほかのカテゴリも同じかもしれませんが「Pushing the Boundaries(境界線)」――境界線を広げているか、「Setting the Bar」――ブランドやクリエイターの成長という視点で、 どんなバーを設定するか?という2つの観点が根底にありました。広告業界自体がデジタルトランスフォームする、まさに混沌とした中で、僕らの審査基準の設定によってONE SHOW自体がまた来年以降に変わっていく、そんな現在進行形の活動だと理解した上で皆で審査にあたりました。

審査員長不在のONE SHOW。「僕はもっとこういう観点が大事だと思うんだけど」と話したら、「それが審査員が12人いる理由なんだよ。そう思う審査員も、思わない審査員もいる」と返され、納得しました。

「この企画は何を変えたのか?」施策の影響を重視

トレンドとしては技術や手法の新しさにとどまらず、「この企画は何を変えたのか」という実際のアクションを重視する傾向が強かったです。
では、今年の流れの中で評価されたものと、僕が注目したものをカテゴリごとに計6つ紹介します。エントリー元の国とクライアントをそれぞれ付記しました。
 

【Interactive & Online】

■ADDRESS_THE_FUTURE(デンマーク/Carlings)

INTERACTIVE & ONLINEのDISCIPRINE(年間ベスト) を受賞しました。
デンマークのアパレルブランドによる、ネット上の自分アバターにおしゃれな服を着させるビジネス自体を開発したものです。背景にあるのは、リアルな服が大量に生産され廃棄されている問題です。インスタ映え、という言葉も流行りましたが、今や服は自分が着用し所有することが喜びというより、着用した姿をSNSで見てもらうことが目的になっている風潮も出てきています。それなら、リアルクローズである必要がない。バーチャルな体験をビジネスにして、ユーザーにデジタル上のブランディングをしてもらえれば大量廃棄を減らせる……というビジョン。前述の「Pushing the Boundaries」、未来に向けてクリエイティブひいてはビジネスの幅を広げているという点が、評価されました。

■LA FORÊT – BET ON A MURDERER(フランス/FRANCE TÉLÉVISIONS - FRANCE 3 )

フランスのテレビ局による仕掛けで、INTERACTIVE & ONLINE のGOLDを受賞しています。昨今、テレビを視聴する人が減ったことに対するソリューションで、サスペンス番組を見ながら実際に「誰が犯人か」に賭けられるようにした企画です。実際の番組を視聴していなくても、サイトで各人のオッズを見ながら参加できる体験型コンテンツとして、TVの楽しみ方を変えたことが評価されました。


【Digital Craft】

■DRAW to ART(イギリス/Google Creative Lab)

「Innovation in Digital Craft」のサブカテゴリで、GOLDを受賞したGoogleの企画です。彼らは 世界中のアート作品のデータを保有しています。一方で、ちょっとした落書きは小さな子どもから日常的に行うものの、アートと個人との距離は概して遠いものです。Googleは機械学習によってそこを結びつける、イーゼルの形をしたインスタレーションを美術館に設置しました。そのイーゼルに落書きをすると「ピカソ風だね」といってピカソの絵を紹介したりしてくれます。
デジタルの時代にあっても自分の手で絵を描くという身体的なアクションは大事だと再認識させること、子どもたちがアートに親しむきっかけの作り方が社会的に意義があると高く評価されました。 


■BEA i-PLANNER(香港/東亜銀行)

これは色付きの受賞作ではないのですが、銀行がユーザーの取引データを参考に、旅行プランや残高額に適したレストランをレコメンドしてくれるアプリです。
例えば富裕層向けにはブラックカードさながら、画面の背景が黒になり、特別な旅をおすすめ したりします。長期的な視点を持ったシステムでブランドをつくるアプローチを僕は評価しました。 

【Creative Use of Data】

■FOOTBALL DECODED(イギリス/Microsoft / Xbox)

「REALTIME」のサブカテゴリにて応募、DISIPRINE(=ベスト)を受賞した作品です。Xbox用のサッカーゲーム、FIFAシリーズ最新作のPRのために、実際の試合での選手の動きをゲームのコマンドとしてビジュアライズしました。FIFAの試合中にリアルタイムで動きを解析し、即座に反映している点で、テクノロジー的にも高度な企画です。創造性がテクノロジーをリードしており、シズル感が高いことが評価されました。
SNSなどでも大きな話題になり、デジタルとリアルが融合しているのが自然な世代の感覚に合っていますね。

■KNOW WHAT YOUR DATA KNOWS(アメリカ/Google)

こちらもGoogleですが、アメリカはサンフランシスコで実施された企画です。先ほどのサッカーと同じ考え方で、Googleがスポンサードするバスケットボールの試合中の動きをGoogleクラウドで解析して、 次に試合結果がどうなるかを予測させる……というものです。その予測結果をリアルタイムでTVCM化し、皆が次の展開をわくわくして待てるよう演出しました。“機械学習”も、一般の人には遠いものに思われがちですが、身近なスポーツの予測を楽しむという新しい楽しみ方を提供した点が評価されました。


日本の広告会社として問われること

ここ最近「BTC」――ビジネス、テクノロジー、クリエイティブの3要素を押さえることが大事だといわれていますが、まさしくこの3つすべてをハイレベルに満たすものが評価されたと思います。 テクノロジーを理解した提案は、ある程度実際に手を動かせる人でないと独自性が持てません。チームにエンジニアやデータサイエンティストを加えることが、広告会社として急務だと思います。
また審査中、ここまでテクノロジーの有効性が拡大した今、「クリエイティビティとは何か?」という点も繰り返し話しました。 人々の生活を変える優れた技術こそ、社会から標準化を求められ、似てくるからです。その中で、ブランドのオリジナリティも価値として持つために、広告会社の力は発揮できるはずです。

翻って、ここまでご紹介した世界の潮流を踏まえて、日本市場では今後どのようなトレンドが生まれそうか、少し触れたいと思います。
今回のONE SHOWインタラクティブの審査が、単なる技術の先進性よりは、社会に与える意味やインパクトを問う企画が評価されたと思います。 日本では「どれだけバズったか」、再生回数やエンゲージメント数だけで評価されがちですが、世の中やブランドを、なぜ、どう変えたのか? 「こう変えていくのだ」と強く訴えられるかどうかは、僕らにとって直近のチャレンジだと感じました。

一方で、やはりコミュニケーションは楽しくなければ聞く耳をもってもらえないというところは昔も今も変わらないので、ただ変えるだけでなく“楽しく”変える、楽しんでいたら気づいたら価値観が変わっていた……といった状態をどうつくるかは、常に意識したいところです。

ペルーの審査員から「デジタルシフトは民主化である」という意見が挙がり、皆の共感を得ました。その流れが、世の中の幸せの総和が増えるように進めることが、クリエイティブの役割だと思います。
僕がインタラクティブ領域に携わる中で昔から大事にしているのは、個人のアイデンティティを最大化することなんです。何も、壮大な企画でなくていい。例えば僕がお手伝いしている猫のおやつ商品では、6歳でも60歳でも「うちの子こんなにかわいい!」と写真をシェアし、CMに採用され、幸せの領分が増える仕組みをつくっています。個々人が エンパワーメントされる企画を、技術で社会が変わる中で変わらず生み出していければと考えています。

  • 博報堂 グローバル統合ソリューション局 インタラクティブ・ディレクター
    広告、スタートアップ、コンテンツなど、枠を超えた活動を行う。
    デジタルクリエイティブエージェンシー“nuuo”、ロボットスタートアップ“nubot”ファウンダーを経て博報堂に復帰。
    米creativity誌「creatives you should know」8組中1組選出、SXSW interactive award finalist、文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門大賞など。2019年 ONE SHOWInteractive審査員。