おすすめ検索キーワード
技術を駆使して「心地よさ」を生み出す【気持センシングラボ対談5】
ALLIANCE

技術を駆使して「心地よさ」を生み出す【気持センシングラボ対談5】

バイタルデータ(生体情報)や行動ログデータなどを組み合わせて、生活者にとってほんとうに「心地よいコミュニケーション体験」を実現することを目指すプロジェクト「気持センシングラボ」。このプロジェクトに新たなメンバーが加わりました。アドテクノロジーを駆使したインターネット広告事業を展開しているソネット・メディア・ネットワークスです。同社のアドテクノロジー事業の責任者である谷本秀吉氏と気持センシングラボの取りまとめ役である大広の山口大道が、インターネット広告の課題と可能性について語り合いました。

バイタルデータと動画の訴求力を掛け合わせる

山口
あらためまして、気持センシングラボに参画くださいましてありがとうございます。広告主が生活者に「心地よい体験」を提供し、それを支援するのが僕たちのプロジェクトのミッションです。どんな点に共感いただき、プロジェクトに参画いただいたのでしょうか。
谷本
気持センシングラボのミッションを読ませていただいて、生活者の購買行動の動機や商品に対する愛情には、言葉では説明できない部分がたくさんあり、行動や感情の裏で人を動かしているものを探るという点で、生体情報にはとても重要な意味があると感じました。
山口
言葉では説明できない部分を探るためには、バイタルデータが重要な要素となるだろうというのがこのプロジェクトにおける一つの仮説です。バイタルデータの可能性についてはどう考えていますか。
谷本
気持センシングラボにおいて、当社は当面、動画広告配信のところで関わらせていただくことになりますが、動画にもまた、言葉では説明できないメッセージ力、訴求力があります。生活者のバイタルデータと動画の訴求力。それを掛け合わせて指標化することができれば、このプロジェクトは非常に意義のあるものになるのではないでしょうか。
山口
そこでは、御社のソリューションも力を発揮することになりそうです。
谷本
生活者の行動ログの解析からインサイトを発見して可視化する「VALIS-Cockpit®」ですね。これを気持センシングラボの活動でうまく活用して、広告主と生活者に対して「心地よい体験」を創出できればいいなと思います。 このVALIS-Cockpit®では動画視聴後の態度変容などを捉えることが可能です。配信した動画を解析して、コンテンツの内容やコミュニケーション設計を見直し、再度配信する。そのサイクルを回していくことができれば、より精度の高いコミュニケーションシナリオを描くことができると思います。

インターネット広告とともに歩んだ20年

山口
谷本さんの広告業界でのキャリアのスタートは、総合広告会社だったそうですね。
谷本
1998年に広告会社に入社したのが始まりです。当時の言葉でいうとメディアミックスの担当で、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の広告、セールスプロモーション、加えて発展期にあったインターネット広告を手がけていました。インターネット広告はまだおまけのような扱いでしたが、可能性は感じていました。おそらく、これからはこの領域が伸びていくだろうと考えたこと。それから、広告業界の諸先輩方に対抗できるのは新しい領域しかないと考えたこと。その二つの理由で、独立系のインターネット広告専業会社に2002年に転職しました。
山口
当時としては、インターネット広告の専業会社に身を投じるのは、かなり勇気がいったのではないですか。
谷本
すでにメール広告と検索連動型広告の市場は広がってきていましたから、むしろ「もっと早くチャレンジすべきだった」と思いました。しかし、インターネット広告の技術や手法はその後もどんどん進化して、市場も拡大していったので、決して遅いということはありませんでしたね。
山口
谷本さんはアドテクノロジーにもいち早く取り組まれたイメージを持っています。着目されたきっかけは何だったのですか。
谷本
2008年のリーマンショックです。あれで当時僕が所属していた会社の売上は急激に落ち込んだのですが、ちょうど日本に上陸してきた広告商品の自動取引の技術、いわゆるプログラマティックバイイングに目をつけて、日本でもいち早くその技術の開発者であるアメリカの企業と契約しサービス展開したことも寄与し、業績を回復させることができました。
山口
その後、さらにDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)の開発・販売にも着手したわけですね。
谷本
広告マーケティングにおけるデータの重要性が顕在化してきたのは、2012年~2013年頃だったと思います。ハーバード・ビジネス・レビュー誌が「ビッグデータ競争元年」という特集を組んだのがその頃です。データが非常に重要な資産であることがわかってきて、僕もDMPの開発と実装を手がけるようになりました。しかし、問題はデータを入れる「箱」をつくっても、そのデータをマーケティングに活用できる専門知識をもった人がいないことでした。
山口
いわゆるデータサイエンティストですね。
谷本
そうです。とくに広告業界には、データサイエンティストはほとんどいませんでした。ビッグデータは実際には使いこなせないのではないか。そんな見方を変えたのがAIです。2015年くらいからAIが実用化されるようになって、「人ではなくAIにデータを使わせればいい」という動きが出てきました。その「ビッグデータ×AI」という新しい潮流にかけてみようと、2年前にソネット・メディア・ネットワークスに移ったわけです。

生活者を軸とした「DSP2.0」を

山口
総合広告会社でマスメディアの仕事を体験し、黎明期から現在に至るインターネット広告を、身をもって体験されてきたわけですね。そんなお立場から見て、現在取り組まれているマーケティング活動にどのような課題を感じていらっしゃいますか。
谷本
広告業界全体の課題として、ビッグデータを使った大きな成功例をそれほど多くつくり出せていないということがあると思います。技術開発は進んでいるとはいえ、「ビッグデータ×AI」によってマーケティングのROI(投資対効果)を最大化していく。あるいは優れたコミュニケーション施策を立てる。そういった実績がまだまだ足りないのが実情です。
 もう一つの課題は、DSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)が担う役割が企業によってはリターゲティングのための限定的な活用にとどまり、生活者の立場に立った情報配信は必ずしも実現できていないという点です。
山口
数値的な部分でコミュニケーション効率は上がっていても、生活者に「心地よさ」を提供できてはいないということですよね。
谷本
ええ。技術を使えば、コンバージョン率を上げることはできるんです。確率論的な分析をして、顧客になるポテンシャルの高い生活者に向けて自動的かつ継続的に広告を配信していけばいいわけですから。しかしそこから生まれてしまうのは、いわば過剰なコミュニケーションです。それによって、インターネット広告は「嫌われる広告」になってしまうわけです。
僕たちが目指すべきは、技術を駆使しながら、あくまでも心地よい体験や出会いを生活者に提供していくことです。広告が「しつこい販促メッセージ」ではなく、「楽しいコンテンツ」となっていくようなコミュニケーションを行うことです。それを実現できる価値提供をDSPが担っていくことが今後は求められると思います。
山口
現在のDSPを、生活者を軸としてアップデートさせていく、ということですね。
谷本
ええ。僕は「DSP」という呼び方自体も変えた方がいいのではないかと考えたこともありました。しかし、「デマンド・サイドのプラットフォーム」ということは、つまり「広告主のためのプラットフォーム」ということですよね。広告主にとって最もメリットになる広告配信をしていくことがDSPの役割であって、DSPは生活者と広告主をしっかり結びつけるソリューションでなければならないんです。そう考えれば、「DSP2.0」「DSP3.0」を目指すことは、「DSP」という名称が意味する本来の姿に立ち返ることにほかならない。そう今は考えています。
山口
「生活者と広告主をしっかり結びつける」ということは、すなわち、広告主が生活者に「心地よい体験」を提供するということですよね。谷本さんの持つマーケティングの課題意識も、プロジェクトに共感いただいた理由のひとつなのだと思いました。

AIがクリエイティブを生み出す可能性も

山口
AIの今後についても、ご意見を聞かせていただけますか。
谷本
ビッグデータは「21世紀の石油」とよく言われますよね。でも、例えば、石油をガソリンとして精製しないと車を走らせることができないように、ビッグデータも精製しないとマーケティングに活用することはできません。その精製を行う機械がAIであると僕は考えています。よいガソリンをつくるには石油の質が重要です。同様に、AIが力を発揮するためには、ビッグデータの質を高めていかなければなりません。逆に言えば、質の高いデータが大量に集まれば、AIの可能性も広がるということです。
僕たちは、AIに関するいろいろな実験をしています。その一つに、AIに広告クリエイティブのよしあしを判断させる実験があります。この場合の「よしあし」とは、クリックにつながる力があるかどうかということです。二つのクリエイティブを示し、熟練したクリエイティブスタッフとAIにそれを判断してもらったところ、AIの正答率が人間を上回りました。
こういうシンプルな選択問題であれば、AIは人間を超える力を発揮することができます。しかし、例えば「最高のバナー広告をつくってほしい」というオーダーに今のAIは応えることはできません。
山口
目的、時代背景、メッセージ、デザイン、色づかいと、広告クリエイティブにはいろいろな要素が複雑に混じり合っていますからね。
 
谷本
そうなんです。しかし、そういう要素を判断できるようなデータが大量にインプットされれば、将来的に優れたクリエイティブを生み出すAIが登場する可能性はあると僕は考えています。
山口
そうなると、よく言われる「人の役割の再定義」がクリエイティブの領域でも必要になりますね。
谷本
もちろん、人が機械に取って代わられるということではなく、AIと上手に役割分担をすることで、人は戦略的思考や意思決定の領域に注力できるようになるということだと思います。それはまた、そういった「人間的な仕事」にダイナミックかつスピーディに取り組んでいくためには、AI活用をもっと進めていかなければならないことを意味します。現在は、旧来型の組織やマネジメントの問題によってAIを十分に活用しきれていない面もあると思います。新しい時代に合わせて組織を変えていくことも大きな課題なのではないでしょうか。
山口
今日お話をうかがって、たんに技術に詳しいというだけでなく、広告業界全体の大きな流れを把握する視点をもっていらっしゃることがよくわかりました。こうして、新しくプロジェクトに加わってくださった方々と対話することで、このプロジェクトの目標がどんどん明確になっていると感じます。
谷本
僕はこのプロジェクトにおいて、動画広告の新しい指標をぜひつくりたいんです。それは簡単なことではありませんが、チャレンジすることが何よりも大事です。もう船には乗りこんだわけですから、あとは皆さんと一緒に船を漕ぎ進めていくだけです。
山口
それぞれの得意領域をうまく組み合わせながら、成果を示していきましょう
sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 谷本 秀吉
    谷本 秀吉
    ソネット・メディア・ネットワークス株式会社
    アドテクノロジー事業 / 執行役員
    1998年総合広告会社にて、マスメディアとインターネット広告のメディアプランニングを担当し、2002年にGMOインターネットグループの総合インターネット広告会社であるGMO NIKKO株式会社(当時 株式会社日広)に入社し、営業部門、コンサルティング部門の担当役員を経て、2013年 常務取締役に就任し、DMP開発やビッグデータ解析、コミュニケーションプランニング部門を担当する。2017年4月 ソニーグループのマーケティングテクノロジー事業を展開する、ソネット・メディア・ネットワークス株式会社に入社し、2017年8月よりアドテクノロジー事業を管掌する。
  • 株式会社大広
    ブランドアクティベーション統括 顧客価値開発本部 東京第2顧客獲得局
    プロデューサー
    複数の広告会社で営業やマーケティングセクションでの経験を積み、2015年12月より、株式会社大広に入社。前職時代に注力した、デジタル領域に関連する経験をベースにしながら、プロモーション業務に従事している。「生活者を動かすこと」をモットーとして、日々の業務に取り組んでいる。