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AR・VR・MRでの広告お作法 -データドリブンな広告の「未来のカタチ」vol.5
CREATIVE

AR・VR・MRでの広告お作法 -データドリブンな広告の「未来のカタチ」vol.5

先進的なアイデアを形にする自主開発型クリエイティブ・ラボ、博報堂「スダラボ」の代表 須田和博が、データドリブンで変わる広告の「未来のカタチ」を解き明かします。

VRコンテンツにストーリーはいらない!?

先日、「コンテンツ東京」のセミナーできいた話に「なるほど!」と思うことが多々ありました。それは、僕らスダラボがホロレンズの「風神雷神」や、オキュラスリフトで「360°ホラー」を作る中でもつくづく痛感していたことなのですが、「映像の語り口」と「VRの語り口」は、実は全然違う!ということなんです。

我々、作り手は20世紀の100年をかけて「映像の文法」を磨いてきたし、生まれた時から映像があった世代の自分は、「映像文法に慣れる」ということを知らない内に当たり前に身につけてきました。

これから始まる、ARやVRやMRという「空間コンテンツ」の時代には、その「映像文法」というものが通用しません。なぜなら、空間には「カット編集」という「モンタージュ技法」もなければ、「ズーム」という「レンズによる拡大」も、ないからです。コンテンツ東京で驚いたのは、映像文法だけでなく「物語というフォーマット」も通用しないという話でした。

映像では「物語というフォーマット」が通用するけれど、VRコンテンツは「物語というフォーマット」では作れないということなんです。

「やってみたい!と思える体験」を、どう企画するか?

僕らは普段、四角い枠の中に映し出される映像から情報を受け取るということには慣れていますが、VRという四角い枠の外にまで拡がるものにまだ慣れていません。VRではどこを見るかも自由ですから、ここぞという見せ場も「あ、今ソレ見てなかった」ということが普通に発生します。「体験型コンテンツ」だから、どこを見るかもユーザーに任されている。なので、ストーリーの流れだけで作ってしまうと、受けとめてもらえないことが、よくあるんです。

VRは体験を作る装置なので、実は「起承転結」は、さほどなくてもいい。むしろ「ソレやってみたい!」という、日常では体験できないけど、ちょっと「やってみたいと思える体験」を企画できるかどうかに、成否がかかっています。たとえば、海賊船の見張り台のてっぺんに立ってみたい!とか、自転車で空を飛んでみたい!とか、エヴァンゲリオンのコックピットから箱根の芦ノ湖を眺めてみたい!とか、そういうのが大事だと。いまはまだ、VR は純粋に「体験だけ」のほうがわかってもらいやすく、ユーザーに受けとめてもらいやすい、という話をセミナーで聞いて、深く納得しました。

たとえばVRで宇宙飛行士のロボットアームを操作する体験をしてみたい!というときに、そこにさらに複雑な「地球の危機を救う!」みたいなチャンとしたストーリーがからむと、むしろ受け手には理解してもらえないんじゃないか、ということ。「やってみたい体験」こそが企画の核で、「ストーリー」はそこにちょっと付加される「設定」くらいで、ちょうど良いと。

ゲームの企画は、そういう順番になっているらしいんですが、僕たち広告会社は、まだそういう企画の仕方に「慣れてない」のが実情です。ブランドのコアがあって、それをどういうストーリーにして手短に15秒や30秒で伝えるか?みたいなことを過去50年くらい、ずっと一生懸命やってきたので、そういうのは大得意なんですが、それを「ストーリーじゃなくて体験にする」という新しい課題に対しては、いまだ模索中。というか、いままさに、自転車で転びながらスタディしているという感じです。

漫画:須田和博
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  • 株式会社博報堂 エグゼクティブ・クリエイティブディレクター/スダラボ代表
    1990年多摩美術大学卒・博報堂入社。アートディレクター、CMプラナーを経て、2005年よりインタラクティブ領域へ。2009年「ミクシィ年賀状」で、東京インタラクティブ・アドアワード・グランプリ受賞。2014年スダラボ発足。第1弾「ライスコード」で、アドフェスト・グランプリ、カンヌ・ゴールドなど、国内外で60以上の広告賞を受賞。2016~17年 ACC賞インタラクティブ部門・審査委員長。
    著書:「使ってもらえる広告」アスキー新書