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【PR発想3】マーケティング戦略づくりで陥りがちな、3つのトラブルとその処方箋。
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【PR発想3】マーケティング戦略づくりで陥りがちな、3つのトラブルとその処方箋。

メディアの見方とソーシャルインサイトの導き方が理解できたら、いよいよ、マーケティング戦略を立てていくことになります。(前回までの記事はこちら。第一回第二回)今回は、そうした分析を踏まえ、マーケティング戦略を策定するという時に、担当者がよく陥るトラブルと、その回避方法を紹介していきます。

では早速はじめます。

トラブル1:なぜこんなことをやっているのか、そもそもの目的がわからなくなってきた。

のっけから大問題ですが、実はマーケティングがうまく機能しない場合、ほとんどこの状態に陥ります。ですから、もっとも一般的なトラブルだと言えるでしょう。目的がわからなくなるトラブルは、原因毎にケース分けが可能です。
順に見ていきましょう。

症状1:何を目的にすればよいのかわからない

例えば、新商品を市場に投入する際などによく起きます。
目的は、数年以内にNo.1商品になることなのか、それとも新ジャンルとして今後じっくり育てていくための橋頭堡として、とりあえずは棚落ちしないことなのか。いつまでたっても定まらないというようなケースです。
わりと多いですよね。商品・サービスのローンチまでのスケジュールだけが組み上がっており、その他すべてがブランクのままという状態もよく目にします。
マーケティング戦略を考えながら商品開発をするのではなく、とにかく商品が先に出来上がってしまうプロダクトアウト型の場合に起こりがちな、「目的が書きにくい」というパターンです。
こういったケースでは、研究・開発を進めて行くにしたがって当初の目的やターゲットが変わってしまいがちになります。
そのため、製品ローンチのタイミングで、商品のポジショニングやターゲット、場合によっては商品の開発目的を再構成しなければならなくなります。

症状1の回避策:目的と目標を無理に書き分けず、まずは目標設定を優先させる

こういう場合は、目的と目標を無理にはじめから書き分けようとはせずに、出来上がった商品なりの目標をまず設定し、そこから目的を再考するのが現実的です。
ただし、目標設定だけして目的の明文化を後回しにする、ということだけは絶対にしないよう、気をつけてください。
目的が定まらないまま走り始めると、「そもそもの目的がわからない」という状態に逆戻りしてしまいます。

症状2:具体的な目標やゴールイメージがない

目的は「売れること」とされているのだけれど、具体的なマーケティングプランを検討するにあたっての数値目標や「どういう売れ方をしたらいいのか」という手掛かりになるような具体的な情報が何もない。そこで行き詰ってしまう、そういうケースです。
KPIおよびKGIの設定にかかわる問題です。もう少し突っ込んで言うと、KPIやKGIが大切なのはわかるけれど、それらをどう設定すればよいか見当が付けにくい場合と言い換えてもいいのかもしれません。新規事業や新商品など、新しい取り組みの場合は特に難しいと思われる方も多いと思います。
なぜか?それは、自社にも他社にもベンチマークすべき過去事例がないからです。
ですが、皆さんには今や「メディア分析」という武器があります。
メディア分析を通じて自社の過去の実績や潜在競合など、ベンチマークすべき情報に目星がついているはずです。
もちろん全く同じ条件の過去事例というものは物理的に存在しませんから、ベンチマークするべき過去事例と全く同じ結果は求められませんが、参考にすることはできます。
もしも数値目標や、どのような売れ方をすることが理想なのかというゴールイメージを具体化せずに先を急ぐと、良し悪しの判断基準がないまま闇雲に施策を考えることになります。
その場合、施策の採択基準は決裁者の「好き/嫌い」や「過去の経験」に強く引っ張られることになってしまいます。もはやマーケティングではないことは誰の目にも明らかですよね。

症状2の回避策:メディア分析から見つけた過去の参考事例との比較において具体的な数値目標やゴールイメージを設定する

具体的には、自社、直接競合、潜在競合問わず、まずはベンチマークすべき企業やサービスを見つけます。ベンチマークする企業やサービスを見つけたら、自らが担当している商品との比較を通じて、目標やゴールイメージを固めていきます。
ベンチマークに対して何割くらいの成果が出せば成功と言えるのか?ベンチマークに対して何割くらいの成果が現実的には出せそうか?
時にはオープンデータや自社データも活用しながら、目標やゴールイメージをとにかく具体化、可能な限り数値化することを目指します。

症状3:手段が目的化してしまう

目的や目標を達成するために立てられた施策が、目的や目標から離れていってしまうことによって起こります。目的→目標→戦略→戦術と順を追ってプランニングしたとしても頻繁に起きます。
例えば、「新商品を売るためには、ブランド認知や好意度を上げなくてはならならず、そのためにバズ施策を実施するのだが、バズ施策を実施することだけが決定事項となってしまい、商品を売ること自体がなおざりになってしまった」というようなプロモーション施策策定のタイミングで陥りがちなパターンです。
この場合、「ブランド認知や好意度の向上」→「バズ施策」という部分に問題があります。確かにバズ施策は、認知や好意度を高めてくれるのですが、商品が売れるために上げなくてはならない認知や好意の中身に関して全く検証がなされていません。どこのコンビニやスーパーでも手に入り、単価も安い商品であればよいのですが、そこそこの価格であるが故に購入に際して検討が必要な商品の場合、認知や好意は購入を後押ししてくれる材料となる必要があります。
どんな内容の認知が必要なのか、どんな要素に好意を抱いてもらえればよいのか、これらを踏まえずに立てたプランが目的や目標から乖離してしまうのは当然といえば当然なのです。

症状3の回避策:もっとしっかりとソーシャルインサイトやターゲットインサイトを深掘りする

前回お伝えしたメディア分析を丁寧に行えば、ターゲットの行動原理まで、かなりの精度で炙り出すことができます。それによって、目的や目標達成のために必要な条件が見えてきます。
ここで見つけたソーシャルインサイトやターゲットインサイトをプランニングに活かすことができれば、きちんとワークするマーケティング施策は半分完成したようなものです。

症状4:自社の分析が甘い

少し細かい話になりますが、割と見落とされがちかつよく目にするケースなので、敢えてケースの一つとして取り上げておきます。
担当商品のマーケティングプランとしては完璧なはずなのに、いざプランを実施してみると全然ターゲットが設計通りにコンバージョンしてくれない。というようなケースです。
第一回の時にも説明しましたが、生活者がある商品を評価する場合、その商品の情報だけでなく、発売元である企業に関する情報と併せて商品を評価します。
例えばA社がXという商品を出している場合、Xに対する評判は、A社の評判と切っても切り離せない関係にあります。仮にA社がYという商品でトラブルを起こしていたりすると、Xに対する世の中からの風当たりも強くなりますし、逆にYという商品が大ヒットしているならば、同じ企業の商品としてXに対する評価も高まるでしょう。
また、XがA社の主力事業とは異なる領域の商品であるならば、A社にとってXを発売・展開するビジネス上の意図を問われることになります。自社のビジネス構造を理解した上で、担当商品が自社のビジネスにとってどんな役割を果たすのか理解しなければ、いつまでたっても目的や目標が明確に定まらないまま時間だけが経過してしまいます。

症状4の回避策:メディア分析において、Company(自社)の部分を丁寧に分析しておく

3C分析、5C分析 問わず、自社の分析は非常に重要です。ついついCompetitor(競合)の分析に目が行ってしまいがちになりますが、担当商品が生活者にどのように受け止められるのかしっかりと理解することが先です。
自社がどういう単語や商品と一緒に語られることが多いのか、どういうタイミングで話題になっていることが多いのか、テレビ、新聞、WEBニュース、SNSを使ってしっかりと分析しておきましょう。
まずは担当商品が世間に受け入れられることです。競合との戦いはその次と言っても言い過ぎではないのではないと思います。

さて次に、起こりがちなことです。

トラブル2:当たり前で当たり障りのない総花的なプランに落ち着いてしまう。

理論的にプランを組み立てていけばいくほど、至極当たり前な、提案性のないプランになってしまう。
これもよくありますが、比較的簡単に解決できます。
マーケティングの4Pすべてに、打つべき対応策をしっかりと打った。でも、よく見たら、いつものマーケティングプランの焼き直しにしかなっていないことに気付いた。これまでのマーケティングプランの反省点を活かしたつもりなのに。というようなケースです。

¹3C分析に協力者(Collaborators)と背景(Context)あるいは、流通などの中間顧客の理解(Customer)とビジネスを取り巻く地域社会の理解(Community)を加えた5つのCによる概況分析のこと。

トラブル2の回避策:予算や課題をしっかりと事前に認識しておく

当たり障りのない総花的なプランに落ち着いてしまう理由は、解決しなければならない課題を洗い出し切れていないことと、課題解決に使える予算額を意識していないことにあります。
対応策としてはまず、課題を洗い出すために3Cや5Cの概況分析をします。
事前の調査データがなくても、メディア分析を駆使しながら3C分析や5C分析を実施すれば、解決しなければならない課題は山ほど出てきます。課題の数だけでなく課題の根深さにも気付くことが出来ます。
課題が洗い出せたら、与えられたマーケティング予算を確認してみてください。すべての課題をクリアするために十分な予算でしょうか?絶対に足りないハズです。そこで、どの課題を優先的に解決していかねばならないかの取捨選択と優先順位付けが起こることになります。この課題の取捨選択と優先順位付けにより、プランは自動的に尖ってきます。

最後は、きちんとマーケティング戦略を考えれば考えるほど先鋭化してくる頭の痛い問題です。

トラブル3:商品に対してフラストレーションが溜まる。

効果的なマーケティング施策がプランニングできるようになってきて、いざ実績を作れるようになってくると、「もっと良い結果が出せたはずなのに」という欲がでてきて、結果に対していい意味で妥協ができなくなります。Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション)に関しては手を尽くしたのに、開発部門が主導権を握っているProduct(製品)の部分を詰め切れなかった不満や後悔が残る。というようなケースです。マーケティングのためにソーシャルインサイトを探れば探るほど、潜在ニーズが見えてくるようになるのですが、潜在ニーズが見えれば見えるほど、商品として実売する際に製品に足りていない要素が目につくようになってきます。
プロダクトアウト発想の開発部門とマーケットイン発想のマーケティング部門との、哲学の違いによる摩擦と言い換えてもいいでしょう。

トラブル3の回避策:広告・販促という選択肢を一旦手放してみる

トラブル3は、策というよりも心構えやコミュニケーションのやり方を変えることで回避します。広告・販促に落とし込むという考えを一度捨て、マーケティングではなく商品企画の人間として開発部門と向き合ってみるのです。つまり、販売力の話ではなく商品力の話をするのです。
マーケティング部門からの製品に対する注文は、開発部門からすると「理想的な広告・販促プランを遂行するために製品にテコ入れをしろ」と言っているように聞こえてしまうものです。
ここでは、売れるものを作りたいのだけれど、広告・販促のためにものを作っている訳ではないという開発部門の心理をしっかりと理解する必要があるのです。そこで、「商品力の話をしている」ということを明らかにするために、広告・販促の話を一旦封印するのです。
そんなことで本当に商品は売れるのか心配になる方もいらっしゃるでしょうか?心配はいりません。
PR発想でソーシャルインサイトを探り、潜在ニーズがはっきりと見えているみなさんの提言を受け入れて作られた製品は、すでにそれだけで世の中に受け入れられる商品となっているはずです。
大規模な広告や販促は、そのあとの継続的な情報発信などで、使用するといった選択肢もあるのですから。
コミュニケーションファーストの時代に、もっとも理想的なモノの売れ方ではないでしょうか。

今回は、マーケティング戦略を立案する時に起こりがちなトラブルとその回避方法を、トラブルシューティングの形式で紹介させていただきました。
なお、3C分析、5C分析、4Pをどう考えるか、目的とはなにか、戦略とはなにか、など、マーケティングに関するそもそもの体系的な知識を補完したい方には、森岡毅(2016)『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』KADOKAWA/角川書店.を読むことをおすすめします。

次回は、なぜPR発想のマーケティングがワークしやすいのかについてご紹介し、この連載を終わろうと思います。

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  • 博報堂 PR戦略局
    コピーライターとして2003年博報堂入社、2009年からPR戦略局所属。
    ソーシャルインサイトを読むことで、課題の見えにくい新規事業やサービスの立ち上げ、定番商品のリバイタライズを行う。
    広報、PR、広告、メディアプランなどのコミュニケーション領域だけでなく、販売戦略や商品ライナップ戦略に至るまで、PR発想のマーケティング施策を立案・実施。2004年TCC新人賞、日経BP広告賞受賞。
    (PHOTO by 馬場道浩)