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AI技術で変わる広告クリエイティブ業務の未来【“生活者データ・ドリブン”マーケティングセミナーレポート】
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AI技術で変わる広告クリエイティブ業務の未来【“生活者データ・ドリブン”マーケティングセミナーレポート】

昨今、様々なメディアにおいて賑わいを見せている「AI技術」。
デジタル広告におけるAI活用も活況となっており、メディアの運用だけでなく、クリエイティブの質の高度化や制作作業の効率化への活用も進められています。

そこで博報堂DYグループは、「デジタル広告におけるAI活用の未来」についてセミナーを実施。クリエイティブ領域におけるAI活用事例と実績に加え、グループ横断の研究開発組織「Creative technology lab beat」が開発したプロダクトや、今後のAI活用への展望について語りました。

本稿では、セミナーレポートとして、デジタル広告にAI技術をどのように活用でき、どのような課題を解決できるのか、そしてAI活用によってどれほどの効果が出るのかなど、具体的な事例を紹介しながら解説します。

木下 陽介
博報堂DYホールディングス
統合マーケティングプラットフォーム推進局 局長
博報堂テクノロジーズ マーケティングDXセンター 副センター長
テクノロジスト

柴山 大
アイレップ 取締役CTO
博報堂テクノロジーズ 執行役員

【第一部】広告クリエイティブ領域におけるAI活用

今、広告クリエイティブにAI技術を活用すべき理由

広告クリエイティブを取り巻く環境の変化

柴山
昨今、話題に上がることが増えているAIですが、特に最近では、学習したビッグデータと特定のアルゴリズムの掛け合わせによって、“まるで知能を持ったかのように振る舞うAI”に注目が集まっています。
AIの特長は、インプットした内容に対してベストな答えを見つけ出したり、インプットしていないことについても統計から「おそらくこうであろう」という回答を導き出したりできることです。広告領域の現場でも力を発揮しており、その一例として広告クリエイティブの効果判定にも活用されています。

イメージとしては、博報堂DYグループで保持している膨大な広告クリエイティブとその成果をAIに学習させることで、「効果が高いクリエイティブ」と「効果が低いクリエイティブ」がインプットされます。そのアルゴリズムを活用すれば、新しく制作した広告クリエイティブの効果を判定できるため、配信前の段階でより効果が見込めるクリエイティブへとブラッシュアップすることが可能になるのです。

そうした広告クリエイティブへのAI活用を進める必要性について、デジタル広告を取り巻く時代の変化を軸にお話しさせていただきます。

例えば、2000年代初頭の「純広告時代」。この頃は、「いかにして枠を買うか」「どれだけ安く枠を買えるか」といった“購買力や仕入れ力”、さらにコスト面での差別化が大きなテーマでした。
しかしその後、「広告をいかに運用するか」で成果が大きく変わるという概念が加わったことで、2010年代から2020年頃にかけては「運用型広告時代」として広告の“設計力・運用力”が鍵を握るようになりました。
ただ、昨今は運用におけるプラットフォームである検索エンジンやSNSなどにもAIが導入され始めたことで、運用力だけでは差をつけづらくなっているのが現状です。

そこであらためて重視すべきなのが、クリエイティブそのものであり、クリエイティブをより良いものにするための“AI活用力”だと考えています。
もちろんこれまでと変わらず優秀なクリエイターがつくことも重要ですが、クリエイターやデザイナーがいかにテクノロジーを使いこなせる環境にできるかということが、これからの広告クリエイティブ領域において重要なポイントになっています。

独自AIで「成果が出る」広告文を

柴山
AIを構築する上でパフォーマンスを左右するのが、学習データです。
博報堂DYグループにおける広告AI構築においても、大量かつ多様性あるデータを保持していることが大きな武器になると考えています。
博報堂DYグループにおけるAI活用の特徴
・グループ内に、総合広告会社とデジタル広告会社など多彩な広告会社があることで、多様な広告クリエイティブに関する実績データを保有していること
・「生活者データ・マネジメントプラットフォーム」といったデータ基盤により、生活者にまつわる豊富なデータを保有していること

ただ、もしかしたらこう思われる方もいらっしゃるかもしれません。「最近話題の『ChatGPT』でできるんじゃないの?」と。そこで、博報堂DYグループがAI構築を進める意味についてもお話しさせていただきます。

(上図の)緑色で示しているものが「ChatGPT」で生成した広告文、ピンク色で示しているのが博報堂DYグループ独自の広告AIで生成した広告文です。どちらのAIでも文章の自動生成は可能ですが、“成果が出る広告になっているか”といった点では大きく差がつきます。
「ChatGPT」で生成した広告文は、汎用モデルだからこそ広告特有の言い回しにならない場合があるなど、あくまで “広告っぽい文章”にとどまっていることが多いです。また、インプットした情報が正しく反映されていないといった不十分さが出る場面もあります。
一方で、博報堂DYグループ独自の広告AIで生成した広告文は、広告の成果に関するデータを基にし、広告効果の出る確度が高い広告文を生成する仕組みとなっており、加えて商品情報の正確な反映、広告特有の言い回し表現、クライアントに応じた必須文言や禁止文言の反映も可能です。
こうしたことから、博報堂DYグループが、独自にAI研究開発を行うことで汎用AIとは違う「成果の出るAI」を提供することを可能にしています。

出稿前にクリエイティブの効果を最大化

「動画広告」におけるAI技術の活用事例と実績

柴山
ここからは、動画クリエイティブにおけるAI活用事例についてお話しさせていただきます。

まず当たり前のことですが、動画クリエイティブにおいては「見えていないモノは伝わらない」という真実があります。
例えば、動画の尺の中で複数の要素が出てくる場合、視聴者にとって気になる部分しか見えていなかったり、商品を見てほしいのにタレントさんに目が行ってしまったり。見てほしい要素をクリエイティブに組み込んだからといって、それが狙い通りに見てもらえるとは限りません。

そこで博報堂DYグループが提供するのが、AIによって人の“注視点”を予測するサービス「H-AI EYE TRACKER」です。独自AIによって動画クリエイティブにおける人の注視傾向を即座にシミュレーションできるため、「見せたいものを正しく見てもらえる」クリエイティブづくりを可能にします。

具体的には、仮編集の段階で「H-AI EYE TRACKER」にかけ、視点誘導が成功しているかどうかを逐一チェックします。PDCAをスピーディに回しながら、より効果的な画面構成へとブラッシュアップしていくことで、出稿前に成果の最大化を実現するための広告クリエイティブの制作が可能になります。また、視線のチェックをAIでシミュレーションすることにより、従来の視認誘導に関するABテストが不要となるため、テストにかかる制作・配信コストの削減にもつながります。

この「H-AI EYE TRACKER」を活用することで、デジタルB2B商材の検索数においては1,100%増、トラベルECのリード獲得数では19%増、ファッションECの購入意向では33%増など、獲得指数として想定していた数値を大きく上回る成果も出ています。
この結果からも、「見てもらいたいものを正しく伝える」ことがいかに重要かわかるのではないかと思っています。

勝ちクリエイティブを短期間で発掘

「検索連動型広告」における AI技術の活用事例と実績

柴山
次に、検索連動型広告へのAI活用事例についてお話しさせていただきます。検索連動型広告の効果最大化において鍵を握るのは、なんといっても「広告文」です。
そこで博報堂DYグループは、広告テキストの自動生成と広告配信効果の予測を可能にする独自のAIソリューション「H-AI SEARCH」を提供しています。
これにより、大量の広告文を作れるようになるだけでなく、高い効果が予測されるものだけを厳選して出稿することが可能です。

ただ、効果を最大化するには、こうしたAI活用だけでは不十分であることも事実です。そこで重要になるのが、AIと人の組み合わせだと考えています。広告における訴求軸の策定や最適な配信プラニングには、やはり優秀なプランナーによる判断が不可欠だからです。
「H-AI SEARCH」を活用することで、人にしかできないプラニングに今まで以上に時間を割けるようになるほか、広告文の効果をすぐに予測できるため、従来3ヶ月単位でしか回せなかったPDCAを2週間単位で回せるようになり、効果につながる“勝ちクリエイティブ”を、最短距離で発掘することが可能になるのです。

その成果事例をいくつかご紹介させていただきます。例えばモビリティ業界A社だと顧客獲得単価において14%削減という結果が出ていたり、B社だと顧客獲得単価を下げながらコンバージョンを上げることに成功していたりと、結果の出方はさまざまですが、PDCAを高速で回すことで、必ず効果につながる良いクリエイティブにたどり着くということがわかるかと思います。

【第二部】広告クリエイティブ領域へのAI活用の未来と展望

クリエイティブ業務のDXを推進する

beat発足の背景とビジョン

木下
昨今、デジタルメディアや広告業務が活況となる中、クリエイティブの現場においては短納期や、メディア別のバナーを複数タイプ制作など、クリエイティブ制作へのニーズが高まっています。
そうしたニーズに応えながら、質の高いクリエイティブを生み出すために急務となっているのが、クリエイティブ業務におけるDXと自動化です。

そこで発足したのが、博報堂DYグループ横断型の研究開発組織「Creative technology lab beat」(クリエイティブ・テクノロジー・ラボ・ビート 以下beat)です。

「Creative technology lab beat」とは
2022年1月に発足した、博報堂DYグループ横断型の研究開発組織。クリエイティブ領域におけるAI活用について、産学連携での学術研究、プロダクト開発、ワークスタイル変革などを担う。

 beatのビジョンは、「クリエイティブ×テクノロジーを社会実装し、世の中を魅了する体験価値を提供する」こと。①基礎研究・応用研究といった学術研究、②学術研究から得られた要素技術を基にしたプロダクト開発、③人が楽しくクリエイティブな仕事に集中できる働き方の探求・業務支援システムの開発といった取り組みを通して、効率性の追求だけでなく、より高いクリエイティビティが発揮できる業務環境やワークスタイルの確立を目指しています。

コストと時間の効率化や高解像度化を実現

AIを活用したプロダクトの紹介

木下
AIを活用した二つのプロダクトを例に、beatの具体的な取り組みについてお話させていただきます。

一つ目が、「H-AI MOVIE RESIZER」です。「H-AI MOVIE RESIZER」は、AI技術を用いて、既存の動画広告クリエイティブを各種デジタルメディアに最適なフォーマットにリサイズする制作支援プロダクトです。
動画をアップロードして任意の設定をすることで、希望の動画サイズに簡単にリサイズすることができます。通常こうした再編集作業はプロのエディターが行うものとされており、4~6日間を要していましたが、当ツールを用いることで30~50分で完了できるため、編集にかかるコストや工数の大幅減と高速化を実現できます。

また、さらなる高付加価値機能として、AI技術を用いて動画広告の効果を予測する機能についても実装を進めています。その基盤となるのが、博報堂DYグループが14年間にわたって実施しているCMに関する独自調査BestHITです。広告の注目喚起力や理解促進力、欲求喚起力などを評価したデータになっており、このデータを元に評価AIモデルを構築すれば、リサイズした動画の購入意向や好感度などの効果予測が可能になります。
そのほか、リサイズ後に調整が必要になるロゴの再配置などにおいても、「どこに配置すべきか」をAIがサジェストする機能を追加し、社内での試験運用が始まっています。業務効率化だけでなく、広告効果の最大化を軸にした高付加価値化を追求しています。

二つ目のプロダクトが、「H-AI UpRes」です。「H-AI UpRes」は、AI技術を活⽤し、低画質映像データを短期間でリーズナブルに高解像度化するサービスです。

4Kなど高画質のコンテンツへのニーズは年々高まっており、映画やアニメ作品をはじめとする過去の映像コンテンツにも注目が集まっています。
しかし、昔の作品はフィルムのままになっていることも多く、高解像度化するにもフィルムのクリーニングやデータ変換、手作業のデータ修正など、莫大なコストと工数がかかることが大きな課題となっていました。

そこでbeatは、 AI技術を用いて映像解析を、劣化補正や色彩補正をかけた上で高解像度化をするプロダクトを開発しました。AI/XR領域に強みを持つイスラエルのスタートアップ企業AUGMIND(オーグマインド)社とも共同し、部分的に手作業が必要な箇所については専属クリエイターが修正するため、ワンチームでアウトプットの最適化を目指すことが可能です。

TV番組/CM・映画・アニメ・NFT動画などの幅広い映像コンテンツに対応していることから、リリース以降、「昔のライブ映像を高解像度化したい」「アニメ作品を高解像度化したい」など、コンテンツホルダーやメディアからも多く問い合わせをいただいています。

クリエイティブ×テクノロジーの社会実装を目指す

今後の活動テーマと展望

木下
最後に、beatの今後の活動についてお話しさせていただきます。
中長期的には、広告クリエイティブ領域において「新しいクリエイティブワークスタイルの実践・標準化」を進めていく予定です。例えば、先行研究や先端テクノロジーを活用したプロダクト開発、クリエイティブ業務における新しい働き方事例の創出など、新たなワークスタイルの確立を目指してより実践的な取り組みをしていきたいと考えています。

そこで、私たちが現在取り組んでいるのが「新しいクリエイティブワークスタイルを提示すること」です。クリエイティブ業務を支援するプロダクトの開発はもちろん、新たなクリエイティブ業務を実践していく先鋭チームの構築、得意先とのクリエイティブ業務を支援するワークフロー刷新事例の創出などの活動も進めています。

私たちは、クリエイティブ人材がAI技術を使いこなすことで、これまで感性や経験を基に作り上げてきたクリエイティブの再現性をさらに高められると確信していますし、生活者の情動を引き起こす新たなクリエイティブを今まで以上に生み出せるようになると考えています。
そのためにも、テクノロジーを活用した企画支援や、3DCGを活用した新しい制作手法の確立といった「クリエイティブプラニング力の強化」はもちろん、テクノロジーを活用した業務オペレーションを支える「テクノロジー人材の採用、システム基盤の強化」も進めていく必要があると思っています。

beatはR&Dリサーチャーやデータサイエンティスト、テクノロジスト、システム開発のエンジニアまで在籍していて、プロトタイプの開発から本番実装までをワンチームで取り組んでいます。
第一部でお話しさせていただいた柴山も、密にコミュニケーションを取り、お互いの個性を尊重しながら新しいプロダクトを作っています。
今後も「クリエイティブ×テクノロジーの社会実装」を目指して活動してまいりますので、もしこうした新しいプロダクトにご興味があれば、お問い合わせいただければと思っています。

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  • 博報堂DYホールディングス
    統合マーケティングプラットフォーム推進局 局長
    博報堂テクノロジーズ マーケティングDXセンター 副センター長
    テクノロジスト
    2002年博報堂入社。マーケティング職・コンサルタント職として、幅広い業種のコミュニケーション戦略、ブランド戦略、ダイレクトビジネス戦略の立案や新規事業開発に携わる。2022年1月にAI技術などのテクノロジー活用により「審美」の量的・質的効果を追求する基礎研究や応用研究を産学連携で推進。加えて研究成果に基づくプロトタイプの開発や、それを活用したクリエイティブ制作における新しいワークスタイルの研究・開発を進めていく研究開発組織 「Creative technology lab beat」のリーダー。
  • アイレップ 取締役CTO
    博報堂テクノロジーズ 執行役員
    通信企業やWebメディア企業にて商品企画開発を経験したのち、2017年negocia株式会社を設立、代表取締役としてマーケティング系のSaaS商品を提供。2019年、negociaのアイレップへのM&Aに伴い、アイレップのテクノロジー領域全般を管掌。2022年よりアイレップ取締役CTO、博報堂テクノロジーズ執行役員。