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機械学習活用における成功の方程式は「データ×ソリューション×人」

データを活用したマーケティングの精度を上げる手法の一つとして、機械学習に注目が集まっています。しかし、その成功例はまだ多くはありません。マーケティングにおける機械学習活用のコツとは、どのようなものなのでしょうか。博報堂DYグループにて、機械学習によるクライアント事業への貢献に取り組んでいるメンバーたちに、機械学習を活用する難しさと可能性について語ってもらいました。

 アクセス解析と機械学習の違いとは

──機械学習を活用した取り組みの概要を聞かせてください。

土井
クライアントは教育系企業で、ウェブサイトからの資料請求や申し込みなどのコンバージョン数が年々減少しているという課題をお持ちでした。その課題解決の施策を打ち出すために活用したのが機械学習です。
オウンドサイトを閲覧してくれた人にリターゲティング広告を配信してコンバージョンに導く、というのがこれまでの広告施策での最も効率的な手法でした。一方で、リターゲティングは効率的な反面、ある程度の段階で効率は頭打ちになってしまいます。施策の幅を広げ、コンバージョン数をさらに拡大するにはどうすればいいか。そんな課題感を、データ活用のプロである岡田さんと古舘さんに相談しました。
岡田
このクライアントは、商材の特性上、講座の内容によって受講のモチベーションや申し込みまでの検討期間などは異なるはずなのですが、これまではそれぞれの講座の傾向に応じたコミュニケーションが実現できていませんでした。その実現のためにはまずは分析が必要なのですが、従来のアクセス解析だけでは傾向を掴むのが難しいと考え、機械学習に着目しました。
古舘
アクセス解析の場合、オウンドサイトにアクセスしたユーザーの行動を”集計データ”として見ていく場合が多いです。例えば、コンバージョンユーザーの「多く閲覧しているオウンドコンテンツは何か」「流入元はどの媒体が多いか」などを、非コンバージョンユーザーと比較しながら見ていきます。ユーザーがオウンドサイトに来訪してからコンバージョンまでのカスタマージャーニーを個別に見ていく場合もありますが、100講座以上を網羅的に、スピード感をもって見ていくのには限界があります。
岡田
アクセス解析はデータの「集計」ですが、機械学習はコンバージョンした人・していない人の差分を人単位で割り出し、そこに「特徴量」、つまり際立った違いを見出してくれます。アクセス解析が「量」を見る手法だとすると、機械学習は「質」の違いを明らかにする手法と言えますね。
土井
アクセス解析から明らかになる情報は氷山の一角に過ぎないのですが、それ以上の方法はないと考えていらっしゃるクライアントが多いのが実情です。こういったクライアントに対し、「カスタマージャーニーの中で何がコンバージョンに影響しているのかを網羅的に可視化することは可能です」というご提案をし、実際にコンバージョン数を拡大するためエグゼキューションに繋げていく、それを実現する手段の一つが機械学習であると考えています。

「読み解き」「解釈」こそが人間の役割

──ソリューション提案から実際の計測までの流れを教えてください。

土井
クライアントがそれまで使っていたアクセス解析ツールは非常に専門性が高く、一部のメンバーしか使いこなせていませんでした。そこでまず「データの民主化をしましょう」というご提案をしました。専門知識がない現場の社員でも、管理画面上でいくつか操作するだけで分析結果が確認でき、施策が検討できる。また、分析結果を広告配信にもシームレスに活かせる。そんなソリューションが必要であり、それは「Google Analytics 360」ですという提案をおこないました。
岡田
「Google Analytics 360」は、管理画面で簡単にサイト来訪ユーザーの行動データを見られるだけではなく、ユーザーごとの個票データを「BigQuery」というデータベースに蓄積し、詳細な分析に使うこともできます。そのため、「Google Analytics 360」と「BigQuery」の活用を提案し、導入が決まってからは、アカウント設計から計測設定等の導入支援、分析設計から実際のデータ分析までをすべてサポートさせていただきました。

──とくに苦労したのはどの段階でしたか。

古舘
一つは分析設計ですね。どういう変数を用いて分析するかをある程度はじめに明確にしておかないと、分析にかけるデータの形も決まりません。単にたくさんのデータを集めれば分析が可能になるわけではないんです。今回は、チーム内で議論を重ねたり、基礎集計をさまざまな角度からおこなったりして、「アクセスの時間帯」「流入元のメディア」「デバイス」「接触したコンテンツ」などを変数とするという方針を固め、BigQueryに蓄積されたアクセスログの元データから必要な形にデータを抽出し、機械学習を実行する分析用のデータテーブルを作成しました。
岡田
変数を決める際に必要なのは、クライアントの課題をしっかり把握することです。課題は何で、それを解決するためにどういう変数を選び、どう新しい施策に結びつけられそうか──。そんな視点が求められます。
古舘
その分析設計に基づいて取得した半年間のデータに対して機械学習を実行したのですが、そこからの作業も大変でした。それは機械学習が出した分析結果の特徴量が「答え」ではないからです。
岡田
機械学習にて大きな特徴量を持っているとされた変数がなぜ重要なのかを解釈し、それをマーケティングの文脈にしっかり位置づけていく作業をするのは私たちの仕事です。

──「読み解き」「解釈」が人間の役割と言えそうですね。

古舘
そのとおりです。機械学習からアウトプットが出た後が、本当のスタートと言ってもいいくらいです。機械学習から出てきた結果を見ながら、基礎集計に戻ったり、実際のオウンドサイト内のページを開いて内容や構造を確認したりと「この変数が特徴として出てくる意味は何なのだろう」とか、「この変数とこの変数は相関があると解釈できるんじゃないか」といったことをチームのみんなで時間をかけて話し合いました。
岡田
導入や設計の段階から関わらせていただいたので、議論が比較的スムーズに進んだという面もあります。既存のデータを与えられて、「これを機械学習にかけて分析して」と依頼されたら、おそらく「こういうデータがあれば良かったのに」といった場面や、「この結果が出てくるのは一般的にはこういう意味を持つだろう」と得意先の文脈を考慮しない考察をしてしまう場面もあったはずです。
 

──その解釈をもとに具体的な施策を考えていったわけですね。

土井
分析のレポートと施策案を一緒にクライアントにご提示することになっていたので、短時間でアイデアを練りました。今回ご提案したのは、「オウンドコンテンツの拡充」「メディアの選別」「異なる分析視点による深掘り」などの施策です。今回は時間が限られていたので実現できなかったですが、理想的には、ディスカッションにマーケティングのスタッフが加わるのが望ましかったと思います。プロのマーケターの知見があれば、異なった視点の施策案も生まれたかもしれません。
岡田
分析結果の解釈や施策のアイデアは、関わる人によって大きく異なりますよね。最も大きく差が出るのは、人間的知見の部分であると言っていいと思います。

「素材」を上手に料理する総合力

──クライアントからの評価はどうでしたか。

土井
「これまでになかった新しい示唆を得ることができた」と喜んでいただけました。嬉しかったのは、機械学習の分析そのものに価値があるわけではなく、それをもとにした読み解きが価値を生み出すという認識をクライアントと共有できたことです。その読み解きの部分で、今後もぜひ博報堂DYグループのサポートが必要だと言っていただけました。
岡田
提案した施策が実行のフェーズに入るのはこれからです。施策の結果をクライアントとともに検討した結果、読み解きを変える必要が出てくる可能性もあります。新しい解釈を試み、それをもとにした施策をあらためて考え、再び実行し、また結果を検討する──。そんなサイクルを回しながら、コミュニケーションの精度を上げ、クライアントの事業拡大に貢献していくことがこれからの目標になります。

──機械学習の導入に取り組んでみての感想を聞かせください。

古舘
「機械学習は何でもやってくれるツール」と考えがちですが、今回の例でいうとあくまでもデータ分析の手段の一つであり、考える素材を出してくれる道具であるということがあらためてわかりました。質の高い素材を得るためには、仮説に基づいた分析設計が重要ですし、そうやって出てきた素材を上手に料理できるかどうかは、それを読み解く人たちの知見や発想にかかっています。私たち広告会社の存在価値は、まさにその「料理」のところにあると思います。「料理の部分が大事」という考え方は先輩方に教えていただきましたが、今回実際に業務として機械学習を活用してみて、本当にそのとおりだなと実感することができました。
岡田
素材を上手に料理するためには、データの取り扱いに対する知識だけではなく、クライアントの課題を的確に把握する力、アイデアを生み出す力、それを実現する力、さらにはメディアやマーケティングに対する知識や理解、生活者発想などが必要になります。この総合力をこれからもクライアントに提供していきたいですね。
古舘
今回の取り組みでは、クライアントが保有しているいわゆるファーストパーティデータだけを使いましたが、今後は、博報堂DYグループのデータプラットフォームである「生活者DMP」のサードパーティデータを活用することも可能です。それによって施策の精度をさらに高め、さらに広い視野で示唆を得られる可能性を秘めていると思います。
土井
繰り返しになりますが、機械学習が出してくれるのは「答え」ではなく、答えを導くための「素材」であり、答えを導くのはあくまでも「人」です。データとソリューションと人の知見。その3つを掛け合わせることで、データの価値を最大化していく。そんな取り組みをこれからも続けていきたいと思います。
  • 博報堂 デジタルビジネス推進局デジタルプロデュース部
    ネットベンチャー企業・ネット専業代理店を経て、2014年に博報堂入社。
    営業として、教育系企業のデジタル領域における戦略策定からエグゼキューション/分析/改善に至るまで日々クライアントの事業課題に対応し、2019年より現職。現在は、ダイレクトマーケティングとマーケティングテクノロジーを専門領域として、デジタルを起点としたクライアントビジネスのプロデュース業務に従事。
  • 博報堂 デジタルビジネス推進局デジタルプロデュース部
    2015年に博報堂DYデジタル(旧博報堂DYインターソリューションズ)入社。デジタル広告の運用経験もあるデータアナリストとして、メディアプラニングからデータ分析までを一気通貫で実施するPDCA業務に多く従事。最近は、Google Marketing Platformを活用したクライアント課題解決のためのチーム体制を構築し、HDYグループとしてのケイパビリティ向上に貢献。金融、自動車、保険、家電、通信、EC等、幅広いジャンルの業務に携わる。
    2019年4月より博報堂へ出向し、デジタルやデータを起点としたクライアントビジネスの設計やプラニング業務に従事。
  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム
    ソリューションサービス本部データソリューション推進部
    2017年に新卒として博報堂DYデジタルに入社。
    データアナリストとしてWebサイト行動、広告接触、会員データ等デジタルマーケティングに関するデータを活用した分析業務に従事。
    教育系の他、自動車メーカー、金融、不動産等の業種を担当。
    各社のデータ環境にアクセスし、マーケティングデータの受領、整形、管理から”生活者データ"を掛け合わせた解析までを一貫して担う。