おすすめ検索キーワード
これからの音声コミュニケーションの可能性を探る
MEDIA

これからの音声コミュニケーションの可能性を探る

スマートスピーカーや音楽配信サービスの普及により、音声を使ったコミュニケーションへの注目が高まっています。国内外における音声コミュニケーションの現状はどうなっており、今後どのように発展していくのでしょうか。博報堂DYメディアパートナーズ ラジオ局オーディオビジネス開発部長の石井忠典がご紹介します。

本記事では、近年注目を集めている音声コミュニケーションについて、その最新動向をいくつかの視点からご紹介させていただきます。併せて、博報堂DYグループが音声コミュニケーションの分野でどういった取り組みをしているかもご紹介します。

まずUI(ユーザーインターフェイス)の視点から、お話しさせて頂きます。
米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは数年前、「Conversation as a Platform(プラットフォームとしての会話)」というコンセプトを提唱しました。これは「音声は人間にとって最大のコミュニケーション手段であり、入力装置として最適だ」「会話は人にやさしい究極のユーザーインターフェースだ」といったことを意味しています。
これまで人が使うインターフェースは、大体10年おきくらいに変わって来ました。90年代がWeb、2000年代がモバイルだとすると、現在はVUI(Voice User Interface)の時代がスタートした段階と言えると思います。
iProspectがAPAC6カ国(日本、中国、インド、シンガポール、オーストラリア、インドネシア)を対象に実施した調査結果によると、スマートフォンでの音声アシスタントの使用状況は、日本は未だ40%程度に止まっているのですが、中国やインドでは約8割に上っています。日本人は音声入力に対して「恥ずかしい」と感じる人の割合が多いのかもしれませんが、他国では全く状況が異なりますし、今後日本も他国を追随する形になるのではないでしょうか。
そもそもVUIが大きく注目されるようになった理由のひとつが、スマートスピーカーの登場・普及です。NPR Smart-Audio-Report-Winter-2018によると、アメリカの場合は成人の約4人に1人が、既に所有しているという状況です。スマートスピーカーを2台以上所有しているという人もかなりの割合に上ります。私もスマートスピーカーを複数台使っているので分かるのですが、各部屋に置いておくととても便利なんですね。

今年の最新電子機器の見本市であるCESでは、音声アシスタントを搭載した家電が多く展示されました。例えば、楽器のキーボードは演奏する際に両手が塞がるので、話しかけることで音色を変えられるようにしたものがありました。ほかにも冷蔵庫を音声操作し、レシピや予定が見れたり、足りなくなった食材をすぐに注文できるといった展示がありました。
VUIが注目されるようになった理由としてインターネットに自動車を常時接続する「コネクテッドカー」の普及もあります。私も車を運転しながらストリーミングサービスを音声操作して音楽をかけたり、Podcastを聴いたりしています。アメリカはここでもとても進んでいて、成人男性2億5千万人のうち7700万人が車内で音声アシスタントを利用しているという調査結果があります。(ボイスボット.ai / Twice the Number of U.S. Adults Have Tried In-Car Voice Assistants as Smart Speakers)

音声入力の強みの主なものとしては、「音声入力は文字入力よりも圧倒的に早いこと」、「個人を認識できること」、「運転中、料理中など目や手がふさがっている時でも使えること」、「高齢者にもやさしいこと」があると思います。
日本ではまだまだスマホの音声アシスタントを使用する人は少ないイメージがありますが、今後は、生まれた時から音声操作がある「VUIネイティブ」と言える世代が誕生します。音声操作を「恥ずかしい」という感覚は確実に無くなっていくでしょう。

盛り上がりを見せるアメリカのPodcast市場

次はオーディオコンテンツの視点からお話します。
Podcastは音声や動画をネット上で公開するための手法の一つです。
The Podcast Consumer 2018(EdisonResearch、TritonDigital)によると、アメリカでは7300万人がPodcastを聴いています。これも約4人に1人の割合ですね、
また、同調査によると、アメリカではPodcastを1週間で1~5時間聴くという人が半数ほどで最も多いのですが、10時間以上聴いている人が17%もいて、“聴取習慣”があるメディアなのが分かります。Podcastを聴く場所は、個人的には車社会のアメリカでは車が多いのかなと思っていたんですが、意外なことに自宅が半分程度で、車は26%でした。
コンテンツとしてはコメディやドキュメンタリーなどが多いです。アメリカのマルチメディアラジオ放送局である「This American Life」が制作した「シリアル」というドキュメンタリードラマがPodcastブームの火付け役と言われていて、3億4000万回以上のダウンロードを記録しています。
企業と組んでPodcastを制作する「ブランデッドPodcast」という取り組みも盛んになっていて、ゼネラル・エレクトリック(GE)がスポンサードして制作した「The Message」というSF作品が大ヒットしました。
Podcastで音声コンテンツとしてヒットしたものが、コンテンツビジネスとして映像になるという流れもかなり増えています。「Homecoming」というPodcast発のドラマは、女優のジュリアロバーツを起用して映像化されています。Podcastにおける「人気Youtuber」のような存在も登場しています。音によるSNSのようなものも、広がりつつあります。ニューヨークタイムズが制作・配信している「The Daily」は一日に100万人が利用していると言われています。アマゾンが提供している本の読み上げサービス「Audible」など、オーディオブックのサービスも増えていて、1000億円を超える市場になっています。

日本でも広がり始めた音声コンテンツ

日本の状況をお話しますと、私は日本での音声コンテンツは大きく4つのジャンルに分けられると思います。「音楽配信サービス」「マルチジャンル音声コンテンツ配信サービス」「オーディオブック配信サービス」「ラジオコンテンツ配信サービス」です。
ITC総研「2018年定額制音楽配信サービス利用動向に関する調査」によると、「音楽配信サービス」は、現在約2000万人が利用しています。このうち半分の1000万人が定額制サービスでお金を払って音楽を聴いているので、「サブスクリプションサービスでお金を払って音楽を聴く」のが既に普通のことになっているのが分かります。
「マルチジャンル音声コンテンツ配信サービス」については、新たなサービスが次々に登場しています。中国で登録者4億5千万人を誇る巨大プラットフォーム「Himalaya」、テレビ局やラジオ局など多くの企業から出資を受けている「Voicy」、誰でも簡単にトークを配信できる「radiotalk」などがあります。
次に「オーディオブック配信サービス」なのですが、これはまだ認知・普及がそれほど進んでいないという印象です。アメリカでは急成長して相応の規模に成長しているので今後に期待です。
「ラジオコンテンツ配信サービス」については、月間のユニークユーザー数が700万人を超える「radiko」や、博報堂DYメディアパートナーズが開発・運営している「ラジオクラウド」などがあります。「ラジオクラウド」は、全国のラジオ番組を中心に、ニュース・エンタメ・教養などバラエティ豊かな音声コンテンツが楽しめる、2017年1月にスタートしたスマホアプリです。すべてのコンテンツが無料で、好きな時間に好きなだけ自分スタイルで楽しむことができます。
この4つのジャンル以外には、博報堂グループquantumがユニークな取り組みをしていて、「音によるブランディング」を事業にしています。企業固有の音を使ってコンテンツを作るというものです。

デジタルオーディオアドの動向について

アメリカのデジタルオーディオアド市場は、すでに年間約2500億円の規模まで拡大しており、Podcastに関わるものだけ見ても年間500億円までになっています(IAB internet advertising revenue report 2019-2018 full year results)
一方、日本のデジタルオーディオアド市場はまだまだ黎明期と言えます。日本で現状セールスされている主なものとしては、Spotify、ラジオクラウド、ラジコのオーディオアドがあります。すでに様々な業種の多くのスポンサーが興味を示し、出稿をしていただいていますが、現状ではまだ年数億のレベルで、本格的な拡大はこれからと考えています。
オーディオアドに関心が集まる理由のひとつとして、「目から入る広告は限界が来ている一方で、耳からであればまだ可能性がある」ということがあると思っています。スマホの利用中に何をしているかを調査した結果があるのですが、59%が音楽やラジオを聴かずに画面を見ており、画面を見ながら音楽やラジオを聴いている人が11%、画面を見ずに音楽を聴いている人は8%、テレビ番組やネット動画を見ている人が22%でした。

つまりこの表であればネズミ色のところ以外、全部にオーディオアドが入る余地があるということです。

オーディオアドの特徴として、高い聴取完了率があります。ラジオCMを聞いている人は、テレビCMを見ている人とは異なり、CM中に他局に切り替えることをしない傾向にあります。それと同様の兆候がオーディオアドにも見られ、ほぼ100%の人が聴取を完了するんです。

広がるオーディオアドの可能性

オーディオアドには様々な可能性があると思っています。例えばスマート家電。冷蔵庫の中に牛乳が無くなった場合、そのタイミングで牛乳の割引を知らせる音声の広告を流したら高い確率で売れると思います。

コネクテッドカーに乗っている人に、お昼近くの時間になったら近隣の店のランチクーポンを出せば、興味をそそられるでしょう。車の走行距離の情報を取得して、買い替えを考えそうなドライバーに向けて、新車の情報を出すといったことも将来的に可能になるでしょう。

博報堂DYメディアパートナーズはアメリカのInstreamatic社に出資し、同社と連携してAI技術を活用した「インタラクティブ音声広告システム」を提供することを発表しています。
https://www.hakuhodody-media.co.jp/newsrelease/service/20190301_24786.html
音声の広告は、いいなと思ってもクリックできないという欠点があるのですが、このシステムを使えば興味の有無を音声で回答して当該のWebサイトに移行したりできるようになります。英語では実現できていて売れ始めており、現在は日本語対応の準備を進めています。
その他にも、ロボットスタート社などと連携し、スマートスピーカー対応の広告配信ネットワークを構築する動きもはじめています。
https://www.hakuhodody-media.co.jp/newsrelease/service/20180720_22366.html

広告分野以外の新たなオーディオビジネスにもトライしています。例えば、スマートスピーカー向けのアプリである「スキル」の制作です。アメリカに比べ、スキル数はかなり少ないですが、2019年5月より日本国内でスキル内課金の仕組みが始まったこともあり、加速度的に広がっていく可能性があります。
「音声すかし」と呼ばれる技術を使った取り組みにもトライしています。人間の耳には聞こえない音を、放送に紛らせて送ってスマホで感知します。この「音声すかし」と「ブロックチェーン」の技術を組み合わせて、ラジオ放送にブロックチェーンゲームのアイテムやキャラクターの情報を「音声すかし」にのせてリスナーに送るという試みを毎日放送様などと実施し、無事に成功することができました。
https://www.hakuhodo.co.jp/archives/newsrelease/54660
今後はクーポンなども放送にのせて配ることもできるようになると思います。これまで、放送では情報しか送れなかったものが、価値も送れるようになるのは非常に大きな可能性を感じます。

コンテンツ開発にも関わっていきたい

今後、音声市場発展に向けての課題を考えると、広告にしてもコンテンツにしても「音声ならではのクリエイティブが必要」ということが挙げられます。広告で言えば、ラジオ広告と違ったものが必要とされるのではないかと思っています。全日本シーエム放送連盟の広告賞「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS」には以前はラジオ部門の広告のみを表彰していましたが、2018年度にはラジオ&オーディオ部門ができました。これと同様に、オーディオアドを意識した様々な動きが出てくると思います。
音声市場拡大には、起爆剤となるようなコンテンツが必要と思っています。このようなコンテンツの制作においては、これまでの概念にとらわれないクリエイティビティが必要だと考えています。まだまだ、日本では未開拓の分野なので、今後トライしていくのが楽しみです。

  • 博報堂DYメディアパートナーズ
    ラジオ局 オーディビジネス開発部長
    2001年博報堂入社。金融・食品・化粧品等、数多くのスポンサーの主にダイレクトマーケティング事業に関わる。膨大な量にのぼるデータ分析と、それをふまえたプランニング・クリエイティブ開発、効果検証を含めたPDCA運用により、事業拡大に貢献。2017年より現職。オーディオ(音)に関わるすべての領域でコンテンツ・テクノロージー・データを掛け合わせて新たな稼ぎ方・ルールを創り出すべく、日々チャレンジを続けている。