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デジタル広告はエコシステムで捉えよ
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デジタル広告はエコシステムで捉えよ

※本記事は『MarketingBase』に2018年4月6日に掲載された記事を、許可を得て転載しています。

デジタルマーケティングビジネスの中心となった広告は、市場の成長が著しく、テクノロジーがどんどん更新されていく過程にあり、さまざまな問題を抱えている。
折しも、東洋経済の2017年12月23日号の特集として「ネット広告の闇」が採り上げられ、話題となっていた。

そのような中、DSPを主力とするマーベリックの主催により、デジタル広告にまつわる諸問題の現状と将来に関するディスカッションが、ざっくばらんに繰り広げられた。モデレーターはマーベリックの中嶋賢氏(写真左)、パネリストはアイプロスペクト・ジャパンの的場啓年氏(写真左より2番目)、Momentumの高頭博志氏(写真中)、Mobile360の伊藤幸司氏(写真右より2番目)、博報堂の高橋伴幸氏(写真右)である。

あらかじめ設定されたテーマはいくつかあったが、柔軟で幅広く、かつ専門的な内容を含んだトークであったことや紙幅の関係から総合的にダイジェストしてお届けする。

KPIは、まだ検討の余地が大きい

日本では、現在GDN(Google Display Network)、YDN(Yahoo! Display Network)やFB AD(Facebook Ad)といった大手アドネットワークへの出稿が主体となり、またそれが固定化している状況がある。同時に、広告効果についての指標も、なかなか新たなトライアルがなされていない。
エージェンシーとしてそうした「思い込み」を排して新たな取り組みをしていくべきだと主張する的場氏は、「従来の指標では見えてこない部分が多く、自分たちがエージェンシーとして提案を行うとともに、クライアントにも、何を図るべきか、についての意識を共有して欲しい」と語る。

例えば、媒体Aのリターゲティング配信とBのディスプレイ広告の比較を同じブランドで比較してみると、従来のCPM、CTR、CPCではほぼ同等と見なせる。しかし、サードパーティーツールを導入し、広告を経てOwned Mediaに入り、そこから商品購買にどれだけ結びついたかということをトラックすると、従来の指標で見えてこなかったものが見えてくることがある、というのが的場氏の説明である。

図1. 媒体指標を新たに導入すると、効果がはっきりすることがある

図1では、左側がPCベースのリターゲティング広告で、右側がPCのクライアントディスプレイ広告(男性配信)であるが、両者の従来指標であるCPM、CTR、CPCは大差ない。
けれども、そこからOwnedに来てAmazonやECでの購買としてクリックした率(Buy It Now)や、それにかかった単価(Buy CPC)を指標としてみると、リターゲティングの場合よりも後者のディスプレイ広告の方がかなり良いパフォーマンスを示している。刈り取るならリターゲティングという一般的な認識は、絶対的ではないという証拠がここにある。

メディア評価はこのように、指標を工夫する余地がまだまだ残されている。逆に目先の指標にとらわれると、クリック率の高いポイントサイトのようなところへの出稿が必然的に増えてしまうが、一体何によって管理をしていくのかという基本的な問題に対応していくことが重要だ、というのがコンセンサスである。

進化がもたらす、複雑化の壁と分断

東洋経済の特集で採り上げられたような、広告詐欺(アドフラウド)の問題は、広告取引が複雑化し、透明性が確保しにくいことをあらわにしている。インターネットの取引はその過程が追えるという前提だから、より透明性が確保できる面があるが、一方でテレビの時代のようなメディアに対する「信頼」がなくプレイヤーもたくさんいるために、悪意のある行為も蔓延する。
アドフラウドやブランドセーフティに詳しい高頭氏は「少し前までは、広告主も諦めるところが多かったが、最近ではブランド毀損などに対しての意識が高まってきた」と言う。

伊藤氏は、「インターネット広告は、可視化して、透明性を確保し、それが簡単に運用できることでビジネスの効率化を理想としていました。けれども、いろいろなことができるようになったことで煩雑になったり、高機能化したツールは現段階では使うのが難しく、ツールの導入に付帯したコンサルテーションを必要とする状況が生まれています。また、様々な新技術の台頭が事業者を分断することにつながり、効果的なデータ分析を難しくしている。」と指摘する。
「使いやすいダッシュボードなど、運用(Execution)が簡単になる必要がある」と高頭氏も強調する。ツールの操作困難さで運用ができる人が限られると、デジタルに強い担当者とそうでない人の分断や、縦割り組織の亀裂がより強調される形となる。さらには、広告主が代理店をデジタルとそうでない代理店に分けてしまったりする。

実現の程度はともかく、向かっているのは生活者中心のマーケティング

そうした分断に対して、高橋氏は数字ばかりを見るのではなく、コミュニケーションの戦略やフローをしっかり考える必要がある、と主張する。オーディエンスベースでシナリオを書き、それをしっかり実行していくことが重要だ、ということだ。
DMPやマーケティング・オートメーションでは、セグメンテーションによってデータを蓄積するが、その欠点は、ジャーニーの過程で接点が異なるユーザーは、異なったセグメントに分類され、その繋がりが断たれてしまう可能性があることだ。
博報堂は、タッチポイントによるセグメントの受け渡しができるようなツール(TEALIUM)を使い、リアルタイムにデータ管理をすることで、適切なタイミングで適切な情報をユーザーに届ける仕組みを作っている。

的場氏は、電通イージスネットワークが数年前に買収したMarkleというCRMの企業があり、ここがピープル・ベース・マーケティングという思想を持っており、彼らが主導するようにパーソナルなidによってアドレサビリティ(1人ひとりにアプローチ可能なメディア特性)を確保してマーケティングをしようという動きがアメリカでは加速すると見ている。
ただ、日本では(おそらくヨーロッパでも)、個人情報保護に対する障壁が高く、パーソナルビディングに対する拒否反応が強いことから、かなり時間がかかるだろうと予想する。
より具体的な将来イメージについて、的場氏は「CRMにパーソナルデータを入れて、セカンドパーティ、サードパーティのデータも取り込み、なおかつアドレサブルなメディア、プラットフォーマー、パブリッシャーと提携してデータを取得し、それをプロスペクトに対してのアプローチに使うというイメージを持っています」と語る。

分断を克服し、建設的で大人の議論にもとづくビジネスモデルを

デジタル広告を取り巻く流れは、ツールがそうであるように、どんどん統合化に向かっている。パネリストたちが見ている世界は、さまざまなプレイヤーが相互に関わった広告全体のエコシステムである。

伊藤氏は昨年来、アドベリフィケーションをしっかり行っているDSPやSSPの普及など、広告の信頼性を高める必要性を感じている。そこにおいて重要なことは、アドベリフィケーションを通して広告主の価値向上につながり、結果としてメディアの収益の改善につながる可能性があることである。今のような低いフロアプライスやビッディングレートで競争ばかりしていると、皆が疲弊してしまうことになる。アドベリフィケーションの導入は、フレッシュでオーガニックなユーザーを確保できているメディアに対してはより正当な媒体コストにつながることが普及するのに必要な条件である。そうした大人の議論で、しっかりしたビジネスモデルを作りたいというのが、パネリストたちの合意事項である。
もう1つ議論されたことは、そうしたビジネスの「大人の議論」に、メディアやエージェンシーやプラットフォーマーだけでなく、広告主の参画が強く求められるということである。なぜなら、「いいとこだけしか買わない」というかたくなな広告主のあり方が、広告枠の需給バランスをゆがめ、結果として、アドフラウドを引き起こす余地をあたえるからである。健全な市場形成への大同団結が、闇から光へとネット広告を変えて行くのだという認識が、その場で共有された。

イベント名:いま求められているデジタル広告の役割 2018年に向けて
主催:マーベリック株式会社
日時:2017年12月21日

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  • 博報堂 デジタルビジネス推進局デジタルプロデュースグループ ビジネススーパーバイザー