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あの県の旅は何色? ―ビッグデータが描き出す「#◯◯旅行」【デジノグラフィ・トーク vol.19】 
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あの県の旅は何色? ―ビッグデータが描き出す「#◯◯旅行」【デジノグラフィ・トーク vol.19】 

博報堂生活総合研究所(以下、生活総研)が提唱する、デジタル上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する手法「デジノグラフィ」。
今回は、⽣活者がSNSに投稿した画像の「⾊」のデータを分析して、私たちが旅を通して、何を他者と共有したいと思うのかを探ってみます。

博報堂生活総合研究所 上席研究員
伊藤 耕太


似て非なる、二つの都市


皆さんは旅に出た時、どんな写真を撮るでしょうか。風景や食べ物に建物…普段目にしない風物に触れて、思わずスマホのカメラで写真を撮るかもしれません。そして特に心動いたものについてはSNSに投稿して、友人やフォロワーと共有することも多いかもしれませんね。

では、ここでクイズです。

次のA、B二枚の画像は、「ある二つの都道府県」について「#◯◯旅行」「 #◯◯観光」といったハッシュタグを冠してInstagramに投稿された画像を、AIで「その画像に何色が含まれているか」を判別して、各ハッシュタグの画像に特徴的に含まれる色を視覚化したカラーパレットです。
いったい何県と何県のものだかわかりますか?

(データ取得日は2021年12月17日~2022年1月7日。以下の分析もその時点での季節性を反映していることを念頭にお読みいただけますと幸いです。)


ヒントは、どちらも大都市です。

答えは……。

A:東京  B:大阪

です。

東京都の人口は約1,400万人、大阪府は884万人(*2020年国勢調査より)。日本における第1位と第3位の人口を誇る大都市です。ともに高層ビルが立ち並ぶ風景であることには変わりはないはずですが、その一見似た環境から私たちが「撮って、誰かと共有したい」という衝動を呼び起こされる光景は、同じではないわけですね。

大阪のハッシュタグ(「#大阪旅行」「#大阪観光」)で実際に投稿されている画像をみてみると、焼肉やたこ焼きなどが多く含まれています。Instagramユーザーの方は、ぜひお時間あるときに実際に検索窓にハッシュタグを入れて、出てくる画像を確認してみてください。
東京にも美味しいグルメはたくさんありますが、東京駅や東京スカイツリーなどの建築物も豊富なため、東京のハッシュタグとともに投稿された画像データと比較すると、生活者は東京でより人工物を、大阪でよりグルメ写真を撮っているのかもしれません。
「食い倒れの街 大阪」は、SNSに投稿された画像という生活者データにおいてもあてはまりそうです。

※Instagramのアカウントをお持ちの方は、下記ハッシュタグのついた画像もあわせてご参照ください
#東京観光
#大阪旅行
#大阪観光

生活総研では今回、同様の分析を全47都道府県分の「#◯◯旅行」「#◯◯観光」といったハッシュタグについて行いました(分析・算出方法の詳細については文末をご覧ください)。
下記の画像にある47枚のカラーパレットは、それらの都道府県名を伏せて一覧にしたものです。気になるパレットや、「これはあの県に違いない!」とピンときたパレットはありますでしょうか。

色データからみえてくる意外な共通項


では、この一覧の中から、先程とはまた別の2県のカラーパレットをピックアップしてみましょう。下の画像の左側のパレットは沖縄県のもので、「#沖縄旅行」「#沖縄観光」などのハッシュタグが付いた投稿画像データから作成しています。抜けるような多い空、エメラルドグリーンの珊瑚礁、そして赤瓦やシーサーを想起させる色などが含まれていますね。

#沖縄旅行
#沖縄観光

では少し似ている右側のカラーパレットは、どの県のハッシュタグから生成されたパレットでしょうか。

答えは「千葉」です。千葉と那覇は約1,600kmも離れていますが、生活者が撮る写真の色合いは不思議と似ているところがあります。水族館や九十九里浜、また千葉のカリフォルニア「千葉フォルニア」と呼ばれる袖ヶ浦市の海岸道路など、生活者が思わずレンズを向けたくなる、海と空の広さを感じる環境が豊かなようです。

#千葉観光

沖縄にも風景や食文化などのなかにアメリカ文化を感じられる観光スポットがありますが、不思議な共通点があるものですね。

筆者は20年ほど東京に住んでいますが、今回の分析で、知ったつもりになっていた千葉のイメージが少なからず変わりました。


脳内イメージと色データが大きく異なる場合も


それでは次に、比較的淡い色を多く含む二つのカラーパレットをみてみましょう。なんだかクリーム色が多くておいしそうなイメージですが、それぞれどこのパレットのなのでしょうか。ヒントはともに「水」と深くかかわりがある県なのですが…ブルー系の色がそれほど多くないのです。

答えは……。

C:岡山  D:滋賀

です。

岡山には瀬戸内海や瀬戸大橋、滋賀には琵琶湖がありますね。にもかかわらず、生活者が撮って共有したいと思った光景には、ほかの県と比べるとブルー系の色が少ないのです。ちょっと意外ですね。

岡山のカラーパレットは、倉敷に代表されるような、石畳や白壁土蔵を思わせる落ち着いた色合いの感触に囲まれるかたちで、少しと都会的で愛らしい色が差し色のように入っています。古い街並みのなかに、カラフルなスイーツや風物が点在しているのかもしれません。

#岡山観光

対して滋賀のパレットは、目の覚めるようなイエロー系が多いのが特徴です。この色には、守山市にある「第一なぎさ公園」で、悠然とした山々をバック咲き誇るひまわりや菜の花の画像のビビッドな黄色が含まれているのです。

#滋賀観光

私たちがある県の名前を聞いたときに脳内に浮かぶその土地の風物のイメージと、生活者によって撮影され共有された画像により形成される色データの分布は、大きく異なる場合もあることに気づかされますね。


検索エンジンのランクには現れない情報


最後に47都道府県の名前を表示した全パレットをあらためてみておきましょう。

この都道府県名ありの画像では、各カラーパレットをクリックしていただくと、解析のもとになっているInstagramの各都道府県のハッシュタグ付き画像一覧へのリンクが新規ウインドウで開きます。AIによるデータ取得は2021年12月17日~2022年1月7日に行なっているため、リンク先にある現時点のデータとは若干異なりますが、もとになっている画像データの雰囲気はつかんでいただけるかと思います。

みなさんの住んでいる県や、旅で訪れたことのある県、次に行ってみたい県の「脳内イメージ」のパレットと、実際の生活者データから生成されたパレットは、同じだったでしょうか。それとも意外なパレットだったでしょうか。

滋賀のパレットにイエロー系として現れた公園の風景は、検索エンジンで「滋賀観光」などと検索してもこういった画像は上位には上がってきません。

ですが今回のように「生活者が自らの意思で撮影・共有した画像」を解析対象にすると、大きな特徴として現れます。

一般的な観光地としてはそれほど知名度がなくても、実際にその地を訪れた人たちの心を打ち、好かれている風物がある。

頭のなかの「滋賀=琵琶湖」という思い込みだけで情報をみたり、検索エンジンのアルゴリズムだけに頼って情報を探していると、見落としてしまうかもしれない、愛すべき風景や体験があるわけですね。

今回のように、「そこを訪れた生活者自身が、自らの意思でシャッターを切り、アップしたもの」を分析対象として、場所や名物といった既存のラベルを一旦削ぎ落とし、「色」だけにフォーカスすることで、「意外なる名所」「意外なる、生活者の心が動く瞬間」に出会う可能性が高まるかもしれません。

例えば「色から探す、次の旅」のような、観光情報検索サービスなども想定できますね。

生活総研ではこらからも様々な方法とアイデアを用いて、生活者データのもつ可能性を研究していく予定です。


分析・算出方法
カラーパレットの作成にあたっては、Quilt AIを用いて、各都道府県について「#◯◯旅行」「#◯◯観光」「#◯◯県(/都/道/府)観光」のハッシュタグで言及しているInstagram投稿を最大1000件ずつ解析し、画像に含まれる137色の色毎の出現数と構成比を算出。各都道府県における各色の構成比の値のうち、全国平均の構成比との差が正の値となる色を抽出し、都道府県ごとに色の構成比を算出してツリーマップ化した。データ取得日は2021年12月17日~2022年1月7日。

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  • 株式会社博報堂 博報堂生活総合研究所 上席研究員
    2002年博報堂入社。国内外の企業や自治体のマーケティング/ブランド戦略の立案や未来洞察、イノベーション推進の支援に携わりながら、企業向けの研修講師や中高生向けキャリア教育プログラム講師を担当。2021年より現職。生活者データのエスノグラフィーやビジュアライゼーションに取り組む。