おすすめ検索キーワード
対談!EC+【第18回】「ユニファイドコマース」ってなに? ”顧客中心”で実現する新しいコマース体験
PLANNING

対談!EC+【第18回】「ユニファイドコマース」ってなに? ”顧客中心”で実現する新しいコマース体験

博報堂DYグループのECプロフェッショナル集団「HAKUHODO EC+」のメンバーが、外部の専門家と語り合う連載「対談!EC+」。今回は統合コマースプラットフォーム「ecforce」を開発・提供する株式会社SUPER STUDIO 取締役 CROの真野 勉さんと同 執行役員 CMOの飯尾 元さんをお招きして、ユニファイドコマースの最新事例やその可能性について語り合いました。
連載一覧はこちら

(写真左から)
奥山 貴弘
HAKUHODO EC+ リーダー
博報堂 コマースコンサルティング局 局長補佐

飯尾 元氏
SUPER STUDIO 執行役員 CMO

真野 勉氏
SUPER STUDIO 取締役 CRO

山﨑 恭嗣
HAKUHODO EC+
博報堂 コマースコンサルティング局 コマースDX推進グループマネージャー

デジタルとリアルの情報が統合されていないと顧客に寄り添えない

奥山
いまや私たち生活者にとって当たり前の存在になったEC——昨今のECでは、単に便利に買えるというだけではなく、ワクワク体験やエンタメ体験といった高付加価値化が進んでいます。ECで取得できるデータや購買体験がリッチになっていくと、そこを起点にマーケティングに活かすことも可能になってきました。今まで「出口」だったものが「入口」にもなってきており、「EC+〇〇」によってECマーケティングはさらに進化していくと私たちは考えています。その「〇〇」に当たるテーマを掘り下げる本連載、第18回となる今回は、「ユニファイドコマース(統合コマース)」に焦点を当て、統合コマースプラットフォーム「ecforce」を開発・提供する株式会社SUPER STUDIOの真野さんと飯尾さんと共に、色々とディスカッションしていきたいと思います。まず、これまで言われてきたEコマースとユニファイドコマースは何が違い、またなぜ今注目を集めているのでしょうか。
真野
コロナ禍の影響で顧客のニーズや消費志向が変わったことが大きく影響していると思います。アフターコロナでは、ECだけでなくリアル店舗も含めた統合型の顧客体験が重要視されるようになりました。デジタルとリアルの情報が統合されていないと顧客の解像度も上がらないため、「いかに顧客に寄り添えるか」というニーズがより深まったんです。

飯尾
顧客一人ひとりに焦点を当てて、リアル店舗やECといったあらゆる販売チャネルの購入履歴や購買行動をシームレスに統合し一貫性のある購買体験を提供する、というのがユニファイドコマースの基本的な概念です。以前より定義を変えながら言われてきたOMOやオムニチャネルといった顧客体験の最適化の手法は、あくまで物販だけを軸に考えられてきました。単に「物を売る」ことを目的にチャネルを統合するだけでは不十分で、物だけでなく、体験やサービスも含めて包括的にチャネルを捉える必要があります。オンラインなのかオフラインなのか、モノなのかコトなのかという4象限がすべて統合されていることが、ユニファイドコマースの大事な考え方です。
真野
コロナ禍に最も増えたのが、コトのサービスを提供しているお客様からの問い合わせでした。「今までと同じことをやっていては生き残れない」という危機感のなかで、企業の意思決定層がECに注目するようになったことは大きな変化でしたね。ECとリアル店舗が分断されていると、顧客のデータを使いたいと思っても、どうしても手詰まり感が生じてしまいます。商品やサービスの販売、提供からCRMまでを一貫して繋いでいくのが、お客様の求めていることだとあらためて感じました。
飯尾
「オンラインとオフライン」、「モノとコト」の4象限が統合されていると、それぞれが入口にも出口にもなるんですよ。事業的な観点でいくと、ユニファイドコマースを実践することで、CPA(顧客獲得単価)が下がり、LTV改善のために幅広い施策を展開できる体制を整えることができます。

「人」を中心に考えるのがユニファイドコマースの本質

山﨑
一方で、EC事業部は部門間で分断されているという問題は、特に大企業では依然として大きな課題ですよね。EC部門はECだけ、流通部門は流通だけといった形で、それぞれが独立して動いていては部門同士の融合が進まず、これが生活者にも寄り添えない部分につながっていると感じています。
飯尾
最近多くのお客様とお話しする中でわかったのは、顧客を「会社の重要な共通資産」として部門間で横断的な共通認識を持てているかどうかが、分断の有無を大きく左右していることでした。顧客を「いち商品のエンドユーザー」として捉えるか、それとも「様々な取引関係に繋がるユーザー」として捉えるか。売上を単なるKPIとして見るか、それとも自社に集まる消費の源泉となる顧客との関係性として考えるか。日本は人口減少が進み、商品の差別化が難しい状況に置かれるなか、企業が成長していく上で重要なのは、「核となる顧客ニーズを捉え、総合的に体験価値を向上させ、その結果として自社に集まる消費を増やすこと」です。リアル店舗やECといったチャネルを独立して運用するのではなく、各チャネルで獲得した顧客の体験をそれぞれの出口で最大限に良くし、その結果として全体の売上が伸びる仕組みを構築することが重要になるでしょう。
奥山
コマースの統合と聞くと、ツールやシステムの話だと思ってしまいがちですが、やはり中心になるのは生活者だと考えています。ユニファイドコマースにおいて「人」はものすごく財産になるというか、ど真ん中にくるものだなと感じました。このような視点でいくと、コロナ前後ではどのような変化や進化があったのでしょうか。

飯尾
そういう意味では、一時期のD2Cバブルで顧客一人あたりの収益性を追い求めるユニットエコノミクスの考え方が広がりましたよね。我々もそのブームの真っ只中に事業に参入したことで、中小企業だけでなく大手企業からも「顧客を大事にする商売をしていきたい」という問い合わせが入るようになったんです。
山﨑
私は事業会社に在籍していた時に、D2Cバブルと同じ時期ではないものの、「顧客がこれ以上増えない」という状況に直面したんです。そこから、保有しているデータの活用や購入後の体験、CRM設計を通じて、いかにLTVを向上させるかが重要視されるようになりました。

この視点が各業界で強まったのは2015年以降で、それがコロナ禍を契機に一気に加速した印象です。

奥山
ユニファイドコマースの事例についてもご紹介いただけますでしょうか。
飯尾
ターゲットを絞ったフィットネスジムの例が象徴的です。この企業では、売上の実に半分以上をフィットネス会員向けの物販が占めているんです。顧客の会員基盤をオフラインのフィットネス事業で作り、さらに美容や健康への意識が高い層に対してクロスセルでプロテイン等を販売していくという事例です。自身の生活に根づき、満足度の高いブランドやサービスにおすすめされた商品であれば継続率も高くなり、顧客の総LTVも必然的に高まるわけです。フィットネスというサービスもプロテインという商品も、「健康でありたい」とか「より美しい生活を送りたい」といった顧客の根源的なニーズが消費を起こしていることに変わりはありません。このような一貫した顧客体験の提供は、当時非常に参考になりました。やはりユニファイドコマースという顧客中心の概念を取り入れると、提供するチャネルや接点を持った入口に関係なく、自社の顧客基盤となるお客様が求めていて、経済合理性が高いモノやサービスを提供するという事業のあり方になっていくのだと思います。

まずは成果の出やすいところから小さく始めること

奥山
ユニファイドコマースを実現するには、データの活用が不可欠だと思います。ユニファイドコマースにおけるデータ活用は、これまでのECとは異なるのでしょうか。
飯尾
データの種別が変わるわけではなく、顧客の会員プロフィールに紐づく情報と購買履歴に紐づく情報が基本です。このあたりは既存のECと一緒ですよね。どちらかというと、データをどう取得・統合して、どのように活用するかという戦略側の違いが大きいと思います。よくある失敗が、何もかも先ずすべて統合に振り切ってしまうパターンです。これだとデータを統合して活動するまでのリードタイムが長く、プロジェクトにかかる資金も膨大になります。従来のウォーターフォール的なアプローチではなく、アジリティの高いデータ活用が大切です。顧客データと購買情報だけあればデータ活用はできるので、最初から全部の要件を決めてプロジェクトを動かすのではなく、成果の出やすいところから小さく広げていくことがうまくいっている企業に共通するポイントではないでしょうか。
山﨑
他方で、クライアント側の視点では、データの可視化が進んだ先に顧客との信頼関係をどう築いていくかが課題になりますよね。店頭やオンラインのデータだけでは把握しきれない部分、例えば顧客がリアルでどのような行動を取っているのかを踏まえた本質的なCRM設計が必要になるわけです。現状の多くはポイント施策に偏っており、本来目指すべきロイヤルティプログラムとは少し違う方向に進んでいるのではないかと感じています。そんな中でも、複数のデータを統合的に活用することで新たな発見や気づきを得られるのは、ビジネス的な観点でも非常に魅力的ですし、企業にとってもパーパスに基づいたLTV向上の施策に落としやすいのではないでしょうか。

リアルやECの垣根を越え、生活者が際立つコマース体験に

奥山
ユニファイドコマースをまだ始めていない企業は、どのようなポイントを押さえればよいのでしょうか。
飯尾
1つ目は「顧客中心に考える発想を取り入れてみる」ことです。今後、日本は人口が減っていくなかで、顧客一人ひとりにどう焦点を当てて新規顧客の獲得効率やLTVを高めていけるか、という発想に切り替えていくことが大事だと考えています。
2つ目は「大きく考えすぎないこと」です。ユニファイドコマースのプロジェクトを3か年計画で進めるのではなく、まずはやれることから着手していき、アジリティの高い状態で対応力を上げていきます。Planが大きすぎるPDCAではなく、最小で意味のある単位でのPDCAをスピーディーに回して機動的な軌道修正を行い、確信を積み重ねながら進めていくことが重要です。このように、「仕組み」と「マインドセット」の両面から考え方を変えていくことが大切なのではないでしょうか。
奥山
企業の中心に「顧客」や「生活者」という視点を据えると、自然と「こういう形で提供した方が良い」という方向性が見えてきました。顧客中心の考え方が浸透すれば、組織的な垣根や分断といった問題も次第に解消されるかもしれませんね。
真野
実は思っているよりも早くユニファイドコマースを進めることができることを、多くの企業は知らないんです。例えば「こんなことがしたい」という話をお客様からされた場合に、極論ですけど「1日でモックまで作ります」とお伝えします。我々は普通にやればそのくらいできると思っていますが、お客様はそのことを知らないので驚かれる場面も多いんですよ。これからは「しっかりとプロジェクトの計画を立てなければならない」という固定概念を捨てていく時代なのかもしれませんね。
山﨑
オンラインやオフライン問わずデータの組み合わせが自由になってきており、さらに簡単にモックが作れることを考えると、いろんな事業者が「同じスタートラインに立てる」と言えるでしょう。ECが伸長している今こそ、「ブランドの本当の価値提供は何か」という視点に立ち返り、ブランドの付加価値を追求できるチャンスだと思っています。
奥山
最後に、「生活者を真ん中に置いたコマース体験はどうなっていくのか」お聞かせください。
飯尾
顧客を中心にした次の統合コマースのあり方が浸透し、顧客が求めているのであればモノやコト、場所であっても既存の発想の枠を超えて提供していく姿勢を持ち、いろんなチャネルを入口、出口にして事業を伸ばしていく企業が増えていくといいなと思っています。
真野
生活者にとって「ECで買うかリアル店舗で買うか」といった区別はなくなってきています。つまり、生活者も進化していくわけなんですよ。私たちもその流れを見越しつつ、先回りして生活者のニーズを深く理解し、それに応じたアプローチを研ぎ澄ませていくことが重要だと考えています。
山﨑
生活者視点でどういう未来になるのかを考えた時に、あらためて「人」が際立ってくる気がします。ワクワク感や楽しさを味わえる買物体験が、オンラインやオフラインの垣根を越えて、当たり前にできる未来になるのではと思っています。また、登場人物が企業だけではなく、「誰かが何かを応援する推し活」の要素などが加わっていき、買物の概念がより広がっていくのではないでしょうか。
sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • HAKUHODO EC+ リーダー
    博報堂 コマースコンサルティング局 局長補佐
    2004年博報堂中途入社。大手通信会社を中心に長らく営業職を担当し、2019年より現職。EC領域に特化した組織横断型プロジェクトチームである「HAKUHODO EC+」のリーダーとしてEC領域を起点とした事業支援および協業パートナーとのアライアンスを推進。
  • 真野 勉氏
    真野 勉氏
    SUPER STUDIO 取締役 CRO
    1987年、東京都出身。青山学院大学を卒業後、ITベンチャー企業へ入社し、セールスとして同社の東証マザーズ上場に貢献。2014年にSUPER STUDIOを共同創業し、現在はCROとして企業間のアライアンスをリードしている。
  • 飯尾 元氏
    飯尾 元氏
    SUPER STUDIO 執行役員 CMO
    大学卒業後、楽天株式会社に入社。その後外資コンサルファームにて、新規事業開発やビジネスモデル変革等のデジタル関連プロジェクトに従事。 2019年にSUPER STUDIOに入社し、2021年に執行役員に就任。現在はCMOとしてセールス&マーケティング部門とエンタープライズ部門を管掌。
  • HAKUHODO EC+
    博報堂 コマースコンサルティング局 コマースDX推進グループマネージャー
    通信販売会社、通信会社を経て、博報堂に入社。通信販売会社では、MD・海外生産地開拓を行う。通信会社では、ECモール・ライブコマースのサービス立ち上げから事業戦略・実装までEC領域全般に携わる。博報堂では、「HAKUHODO EC+」に所属し、ビジネスディベロップメントディレクターとして事業戦略から実装に至るまで推進。

関連記事