おすすめ検索キーワード
「社会課題解決プロジェクト」が目指すもの【Vol.5】マイナンバーカードによる行政サービス統合と地域活性 ~博報堂×地域通貨企業の挑戦~
PLANNING

「社会課題解決プロジェクト」が目指すもの【Vol.5】マイナンバーカードによる行政サービス統合と地域活性 ~博報堂×地域通貨企業の挑戦~

博報堂の「社会課題解決プロジェクト」が取り組む「デジタル田園都市国家構想」への参画。この挑戦の新たな展開に向け、マイナンバーカードを起点としたサービスを新たに開発しました。
今回は、開発パートナーである日本カード株式会社をお招きして、取り組みと将来像について語り合いました。
連載一覧はこちら

高田 裕行
日本カード 日本カード株式会社 取締役 営業本部長

多久和 幸伸
日本カード 日本カード株式会社 システム部 部長

堀内 悠
博報堂 DXソリューションデザイン局 局長代理/グループマネージャー

古矢 真之介
博報堂 DXソリューションデザイン局 ビジネスデベロップメントプラナー

明官 達郎
博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラナー

常廣 智加
博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラナー

中山 翔太
博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラナー

マイナンバーカードの社会実装を目指して

堀内
我々のチームではここ数年、マイカー乗り合い交通サービス「ノッカル」を皮切りに、移動活性化のためのポイントプログラム「ポHUNT(ポハント)」など、地域の様々な社会課題を解決するサービスを「デジタル田園都市国家構想」のもと実装してきました。
2023年度はデジタル田園都市国家構想交付金に「マイナンバーカード横展開事例創出型(TypeX)」というマイナンバーカードの利活用促進を目指す区分が新設され、自治体と連携しながらマイナンバーカードの社会実装に取り組んでいます。

古矢
マイナンバーカードのICチップには、公的認証に関わるアプリケーションが搭載されていますが、それとは別にオープンに活用できる空き領域があります。国は自治体が独自の用途でこれを活用することを奨励しており、図書館で使う貸出カード機能を実装している事例もあります。ただ、これをサービスとして十分に活用している事例は全国でまだ少ないのが現状です。

常廣
そこで我々が取り組んでいるのが、マイナンバーカードを活用した行政サービス統合の仕組みづくりです。地方自治体の中でも過疎地と呼ばれる自治体では、色々な生活サービスがすでに公営になっている場合が多く、サービスごとに分断されてしまっている現状があります。そこで、様々な公営・行政サービスの利用をマイナンバーカードで一元的にできる仕組みの開発を目指しました。

アナログな「カード」だからこそできる、誰も取り残さないデジタルサービス

堀内
本日お越しいただいている日本カードの皆さんには、その開発パートナーとして加わっていただいております。 まずは日本カードの事業内容についてお聞かせいただけますでしょうか?
高田
当社は1988年に設立された会社で、設立当初からプリペイドカードのような決済カードやポイントカードのシステム開発を行っていました。これを非接触型ICカードで実現したのが今回ご利用いただいている「SHIAGEL(シアゲル)」というサービスで、商店街、商工会議所、自治体など様々な場所で導入されています。
一貫しているのは、アナログな「カード」を使ってお客様の生活を便利にする、ということで、商店街などで店舗を営まれる方やお客さんである地域の皆様、高齢者の方にも実際に使ってもらえるものを提供しています。

古矢
地域活性サービスを考える時に、特にスマホを持たない高齢者や子どもたちを含めた全世代にとって価値があるものでないといけないと思っています。デジタルを活用したサービスを構想するとき、どうしてもスマホをサービスの前提に考えてしまいがちなのですが、それだけではなくカードのような「アナログ」なモノを活用しつつも、バックエンドはしっかりデジタル化するというのが大事な視点です。
先ほど言及した、我々が取り組んでいるマイナンバーカードを活用した行政サービス統合の仕組みづくりでも、日本カードのカードを起点としたサービス設計は、非常に組みやすかったと感じております。
常廣
現場での実際の暮らしのあり方をきちんと観察して、サービス設計に入れ込んでいくのが重要ですね。例えば、マイナンバーカードをスマートフォンによる個人認証のために使用するという場合、それ自体はとても便利なサービスですが、スマートフォンに慣れていない高齢者や子どもにとっては使いづらい部分もあるかもしれません。そうした世代の人たちに向けて、カードも併用しながら今の生活に馴染む形でいかにサービス設計できるか、が重要だと考えています。

地域の「全体」をデータで可視化し、行政サービスを最適化する

明官
今年度、当社が開発したのは、地域の様々な施設や公共サービスで、マイナンバーカードを決済手段として利用できる「LoCoPi」というサービスです。具体的には、公共交通の駅や停留所、役場やコミュニティセンターなどの公共施設、さらに商店街や病院などの生活拠点に、カード読み取り端末を設置し、マイナンバーカードをかざすだけで利用できる仕組みです。このサービスには、決済機能だけでなく、見守り通知機能やポイントプログラムなど、様々な機能が組み込まれています。

中山
今ご紹介したようなように、一つのサービスで複数サービスの決済ができるようにすることは、地域住民にとっての利便性向上の他にも、地域全体の行政サービスの最適化にもつながると考えています。1つのIDで複数のサービスの利用データ等を管理・取得することで、将来的には行政サービスの全体最適化にも繋げることが出来ると考えております。

注意が必要なのは、サービス利用データの蓄積はあるのにうまく活用できていない、という状況ですね。そのため、どのような観点でデータを分析するかや、蓄積したデータをどのように活用して生活者に還元していくかをサービス設計時点から考えることが非常に大事になってきます。ここは、生活者発想を起点とした博報堂の強みであるプラニングの能力が光るところだとも感じております。

堀内
例えば交通領域では、小さな自治体であっても、コミュニティバス、タクシー、デマンド交通、スクールバス、そして物流と、非常に多様な交通手段があるのですが、それぞれ分断されている上、データも十分に取りきれていません。一方で、どんどんと人口減少が進む中で、何をどういう形で維持していくか、という行政サービスの全体最適化を考えることが非常に重要になってきています。そのためには、それらを繋ぎ合わせながら全体を可視化するデータ基盤が必要になりますし、当然、公共交通だと高齢者や子どもが多く利用するものなので、スマホを前提とするサービスでは問題あり、ということになるわけです。
多久和
現在、国のマイナンバーカードに対する方針は、「普及」を第一に考えていますが、その先にどう携帯してもらえるか、という課題もあります。私たちが普段取り組んでいるマイナンバーカードの業務では、これまでマイナポイントをいかに活用していくかいう話題が多かったのですが、今後、こうした仕組みが普及すれば、地域の行政サービス最適化を目指していく上で本当にありがたいシステムだと思います。

地域の中で継続し、地域の力を強くするサービスへ

高田
一方で、やっぱり続かなければ意味がないとも思っています。我々は、サービス提供を行うにあたって、価格にもかなりこだわっています。なぜかというと、導入してくれるお店や商店街の方々が持続的に運営できるものってどんなものなのだろう、という観点でいつもサービスを考えているからです。
明官
とても共感するお話です。どのように地域に根付くようにできるか、地域単位で継続しやすい仕組みにするのかは、サービス内容にも反映していきたいと考えています。例えば、地域内での行動を促進するためにポイント機能を持たせ、それを使って公共サービスでの利用や地域特産品がもらえるなどの形で、地域の内側に目が向くように動機付けをしていく工夫を考えています。
常廣
自治体と住民は、公共サービスを提供する側と受ける側に分かれているように感じられてしまいがちですが、本来であれば、もっと一緒に考えていくことができるのではないかと思うので、そういった「共創」のための基盤となる仕組みに育てていけると理想的だと思っています。
古矢
機能の一つに「高齢者・子どもの見守り機能」があります。例えば学校の登下校時や施設来訪時に、設置した端末でカードを読み取ると、保護者の方にメールで通知が届く、という仕組みです。こうした見守り機能は、日本カードでも実装されていらっしゃったと思います。
高田
お客様から「子どもの安全を守ることに貢献したいが、そんな仕組みが作れないか」という要望があって、それに応えるために、見守り機能を実装しました。そうすると、これまで商店街の事務所や組合になかなか加盟してくれなかった若い事業者さん達に共感いただき、加盟してくれるようになりました。
デジタルな仕組みから地域全体のつながりが強固になっていく、という姿を見て、役に立てたのかな、と思いましたね。

地域の全員が関わる、あらゆる行政サービスに向けて

古矢
「LoCoPi」やそれを通して取得できるデータは多くの可能性を秘めていると考えています。見守りだけでなく、他の様々な領域でもデータの利活用推進に取り組む予定です。
常廣
先ほども話題に上がった交通領域に関してお話ししますと、例えば現状のバスの仕組みでは、誰がどこからどこまで乗って降りたかは、データとして非常に取りづらいのです。
そのため、交通再編計画を作成する際は、どうしてもバスに張り付きで調査したりアンケートを取ったりするしかなかったのですが、こうした仕組みが実現できれば、データを繋ぎ合わせる形で、1人の人がどこからどこまで行ったかが地域全体でわかります。そうすれば、どのエリアにどういったルート・形態の交通手段が必要になる、ということが議論できるようになります。こうしたことは役場の担当者からすれば悲願であり、夢だった、という話をいただいており、ぜひ力を入れてやっていきたいと考えています。
中山
教育分野や高齢者福祉の分野でも利活用を考えています。教育領域では、プライバシーを十分に担保した上で、子どもたちの学習履歴データを基に、学校内で必要な教育プログラムや、一人一人に合った教育内容はなにか、という指針を作ることが将来的に可能になると考えています。
高齢者福祉の分野では、体操等の教室への参加状況と健康状態をかけ合わせることで、運動と健康の関係性を明らかにすることができます。また、一人一人の健康状態と組み合わせながら、運動コンテンツの種類や強度を最適化していくことも可能かもしれません。

明官
施設や加盟店舗の利用、ボランティア活動への参加などに応じてポイントが貯まる仕組みを拡張させていければ、地域通貨としての普及もありうるかなと考えています。一般的な地域通貨は、運用コストの課題解決がハードルになることが多いですが、使ってもらうモチベーションや楽しさ、便利さをきちんと伝えていきながら、地域全体に向けて展開できればと考えています。
高田
これから大きな展開に繋がっていきそうなお話で、とても楽しみですね。これまでご一緒させていただいた経験から申しますと、システム実装を前提にせず、博報堂の皆さんはサービス全体を考えていくじゃないですか。「絶対これは作ってくれ」「いや、それは無理だ」といったようなやりとりが普通はあるものですが、とても柔軟に「ここはじゃあ運用でカバーしましょう」と言ってくれたことが印象に残っています。今後もいろいろなハードルに出会うかもしれませんが、柔軟に飛び越えてくれることを期待しています。
多久和
我々がこれまでやってきたサービスから、全く新たな可能性が生み出されていく過程を目の当たりにしているという感覚があり、すごく新鮮な感じがしています。また、地域の中でこれまでボランティアで運営されていたことにポイントをつける、といった意義もありますね。そういう共助の輪が、このサービスを通して広がっていくのではないかと、とても期待しています。
堀内
それでは、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。
sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 高田 裕行
    高田 裕行
    日本カード株式会社 取締役 営業本部長
    1990年日本カード株式会社 入社。
    1991年よりポイントカードシステムを全国700団体の商店街に導入し、地域商業の活性化を支援する。
    2017年にはポイントと電子マネーの運用ができる「SHIAGELシステム」を開発し、現在、自治体様へ地域内経済循環の仕組みを提案している。
  • 多久和 幸伸
    多久和 幸伸
    日本カード株式会社 システム部 部長
    2006年日本カード株式会社 入社 ポイントカードシステム、顧客管理システムのソフトウェア開発に従事。 2016年よりポイントと電子マネーの運用ができる「SHIAGELシステム」の主担当として開発に携わる。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 局長代理/グループマネージャー
    京都生まれ京都育ち。2006年博報堂入社。入社以来、一貫してマーケティング領域を担当。
    事業戦略、ブランド戦略、CRM、商品開発など、マーケティング領域全般の戦略立案から企画プロデュースまで、様々な手口で市場成果を上げ続ける。
    近年は、新規事業の成長戦略策定やデータドリブンマーケティングの経験を活かし、自社事業立上げやDXソリューション開発など、広告会社の枠を拡張する業務がメインに。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 ビジネスデベロップメントディレクター
    2016年博報堂DYメディアパートナーズ入社。DMPを用いたソリューション開発・分析業務に従事した後、2020年から現職。
    データを用いたビジネス開発経験を活かし、LINEを使ったサービス開発やAIbot開発等のPdM業務に取り組む。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラナー
    2017年にITコンサル会社に入社し、金融系プロジェクトでシステム開発・運用を経験後、AI/機械学習の専門チームに参画。自社サービス開発やデータ分析、機械学習モデルの検証・導入に従事。2022年から博報堂に入社し、地域活性化領域でLINEを使ったサービス開発に取り組む。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラナー
    福井県出身。2018年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、飲料・不動産のマーケティング業務を経験したのち、地域交通のサービス実装、自治体DXのプランニング、システム・サービス開発に取り組む。近年では、交通領域での自社ビジネスの開発を担う。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 マーケティングプラナー
    2019年通信会社入社。金融、法人、公共分野のシステム開発及びデータ分析、ソリューション開発、アジャイル開発におけるプロダクトオーナー等の業務を担当。2023年1月に博報堂にキャリア採用として入社。PMやシステムの実装経験を武器にして、社会課題プロジェクトに参画。

関連記事