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「リアルタイム配信」はテレビの価値をどう変えるのか? (メ環研の部屋 レポート)
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「リアルタイム配信」はテレビの価値をどう変えるのか? (メ環研の部屋 レポート)

デジタル化の進展によって、放送と通信の垣根は低くなってきています。その象徴ともいえるのが「リアルタイム配信」。地上波放送と同時にスマホ・PC・タブレットでテレビ番組を視聴することができるサービスで、2020年から「NHKプラス」で、2022年4月からは民放キー局の「TVer」で開始されました。
現在放送中のテレビ番組を、スマホなどのデバイスからリアルタイムで視聴するこの新しいスタイルは、生活者の“リアルタイム”をどのように変化させているのでしょうか?

メディア環境研究所では「リアルタイム配信視聴意識調査2022」を実施。全国15~69歳の男女(1956サンプル)を対象に、視聴実態や意識を調べました。
今回の「メ環研の部屋」では、この調査結果からテレビ受像機でのリアルタイム視聴と、スマホ・PC・タブレットでのリアルタイム配信視聴の違いを探ります。担当はメディア環境研究所の野田上席研究員です。

◆リアルタイム番組視聴の現状は?

スマホやタブレットで見られるリアルタイム配信の認知率は70.8%、実際に視聴した経験がある人は25.1%となりました。
今回の調査の実施時期は2022年5月末。「TVer」のリアルタイム配信スタートから1カ月半の段階で、4人に1人が実際に視聴したことになります。この結果に野田は「予想以上に多い印象」と語ります。

年代別のデータでは、リアルタイム配信を見たことがある割合は10~20代が最も多く、50~60代でも7割以上がリアルタイム配信の存在を知っていました。
この認知度の高さについて、「NHKが放送内で『NHKプラスで配信中』と常に伝えているのが大きいのでは」と野田は指摘します。

リアルタイム配信を利用した状況について自由回答で聞いたところ、「見たい時間帯に家にいなかった」「家事をしたかった」「パソコン作業をしながら見たかった」など、利便性を評価する声が挙がりました。
一方で、「いち早く見たい」「リアルタイムで見ることに意味がある」「ネタバレを防ぎたい」といった、“リアルタイム“に価値を感じている回答も目立ちます。

そのほかに、「推しの姿をリアルタイムで見る」「友達に誘われて一緒に見る」「SNSで感想が飛び交う前に確認する」といった、新しいテレビの楽しみ方が生まれているようです。

リアルタイム配信を見る層は、テレビに対してどれくらい好意を持っているのでしょうか。調査の結果、リアルタイム配信を視聴した経験がある人で、「とても好き」「やや好き」を合わせると8割以上がテレビに好意を持っています。

「知っているが視聴経験なし」「知らない」という人たちに比べて、リアルタイム配信視聴経験者はテレビに対する好意度が高く、「現時点では、テレビ番組ファンがリアルタイム配信を活用している」という結果となりました。

◆リアルタイム視聴は「何を」「どこで」見られている?

ここからはリアルタイム視聴が「何を」「どこで」「どんな気分で」利用されているかを見ていきます。

「テレビのリアルタイム視聴」と「リアルタイム配信視聴」では、視聴されている番組ジャンルも異なっています。年代別では、10~40代はバラエティを、50~60代は報道やスポーツをよく見ていることがわかりました。なお、TVerのリアルタイム配信はゴールデン・プライムタイムに時間帯が限られており、これが結果に影響している可能性も考えられます。

リアルタイム視聴の場所について、テレビはリビングが圧倒的に多く、88.7%。複数台ある場合は自分の部屋で見ている人も27.7%いました。
リビング以外の場所では、リアルタイム配信視聴の割合がテレビを上回っています。「キッチン(23.5%)」「お風呂場(18.8%)」「洗面所(11.2%)」「トイレ(9.7%)」など、自宅内のさまざまな場所で視聴されている実態が見えてきました。
「外出先」は12.8%でさほど多くないが、地方別に見ると東京では18%とやや高めの値に。野田は「電車通勤などライフスタイルの違いも表れたのでは」と考察しました。

◆Z世代はリアルタイム視聴を「有意義な時間」と感じている

スマホ・PC・タブレットで、無料動画・定額制動画配信サービスなどではなく「リアルタイム配信のテレビ番組を視聴する理由を聞いてみると、全体では1位「最新の情報を知れる」(71.3%)、2位「番組が好き」(68.5%)、3位「有意義な時間が過ごせる」(65.1%)という結果になりました。
年代別でみたとき注目なのが10~20代の結果です。「有意義な時間が過ごせる」(70.9%)が理由トップ。ほぼ同率で「気分転換にちょうどいい」(69.6%)が続きます。

野田は「インタビューをしていると『動画やSNSをだらだら見ていたらなんとなく時間が無駄に過ぎてしまった』という話が出てくる。その対極にあるものとして、リアルタイム視聴を『有意義な時間』と捉えているのでは」と分析します。
また、テレビではランクインしなかった「リアルタイムでみるとワクワクする」(58.3%)「番組が生中継」(55.6%)も上位に挙がりました。「先が読めない展開を、みんなで固唾を飲んで見守る。そのワクワク感が結果にそのまま表れているのは面白いですね」と付け足します。

テレビではなく、スマホ・PC・タブレットでリアルタイムのテレビ番組を視聴する理由について、いずれの年代も「好きな場所で見たい」「1人で見たい」「じっくり集中して見たい」がトップ3となりました。
10~20代では「SNSで話題になっている番組を見やすい」「SNSで情報や感想をシェアしやすい」が理由に挙がっており、SNSと連携した楽しみ方もうかがえます。

◆リアルタイム配信によっておこる「5つの変化」とは

最後に今回の調査を踏まえて見えてきた「リアルタイム配信によっておこる5つの変化」を紹介しました。

①    スマホが「サブスクリーン」として機能し、視聴機会が広がる
1つめは、スマホが「サブスクリーン」として機能すること。30~40代で「ひとりでテレビ番組を見ることが増えた」(61.0%)、10~20代で「家の様々な場所でテレビ番組を見ることが増えた」(60.0%)が高く、リアルタイム配信によって視聴機会が広がっています。

②    SNSが番組視聴のきっかけにも、ライブで盛り上がる場にもなる
2つめは、「SNS活用」による盛り上がり。特に10~20代は、「SNSで話題になっている番組を見ることが増えた」(54.3%)としSNSが番組を見るきっかけになっていたり、「SNSでつぶやいたり、人のつぶやきを見ながらテレビ番組を見ることが増えた」(59.5%)など、SNSが番組視聴の盛り上がりに貢献していると言えるでしょう。

③    番組リンクで、誘い合い視聴が生まれる
3つめは、番組リンクよる「誘い合い」。10~20代の7割が「リアルタイム配信の番組リンクをシェアすることがある」(73.9%)と答えました。これに対し「SNSでシェアされた番組リンクをきっかけにリアルタイム配信を見ることがある」も10~20代ではもちろんですが、30~40代でも過半数が番組リンクをきっかけにして見ることがあるという結果になりました。
TVerでは番組をSNSにシェアする機能があり、推しが出演する番組のリンクをシェアして“リアタイ視聴“を呼びかける、といった使われ方をしています。シェアをしたり、されたりといった「誘い合い」が生まれ、それが視聴機会につながっていると考えられます。

④    若者が家族や友人とテレビ番組を話題にする機会が増える
4つめは、家族や友人との「共通話題」。10~20代の過半数が「家族や友人とテレビ番組を話題にすることが増えた」(57.0%)と感じている。家族や友人というリアルのつながりのなかで世代を超えて、テレビ番組が共通の話題として機能しているようです。

⑤    若者がテレビ受像機でもリアルタイムでテレビ番組を視聴する機会が増える
最後の5つめは、テレビ受像機でも視聴増が見られること。10~20代の6割が「テレビ受像機でもリアルタイムでテレビ番組を見ることが増えた」(63.9%)と回答。スマホで番組を見たことによって、テレビでも見たくなるという流れが、10~20代で起きているようです。

◆まとめ

どこでも自由にテレビ番組を楽しむことができ、SNSとの連携により“誘い合い”が起こるリアルタイム配信。何が起こるかわからないワクワク感のなか、みんなと気持ちを共有し、SNSでも家族でも盛り上がれる。そうした体験が「テレビ受像機でも見たい」という好循環につながっていく……というサイクルが、今回の調査で見えてきました。

メディア環境研究所の山本GMは「若者の中でリアルタイム配信が『有意義な時間』と感じられているのは面白い。有意義やワクワクといった面で、YouTubeやTikTokとしのぎを削るチャンスも見えてくる。スマホでリアルタイム配信を見た人たちが『逆にテレビっていいよね』となるかもしれない」と、今後に期待を寄せました。

また、野田は「タイミングも良かったのはないか」と分析します。コロナ禍で定額制動画配信サービスが増えた一方で、「選択肢が多すぎて自分で選ぶのが面倒」「一人でじっくり見るのもいいが、リアルタイムでみんなと感想を言い合えるのも楽しい」という気づきがあったのかもしれません。

野田は「見逃し配信から定額制動画配信、無料動画、SNSまで、いろいろな選択肢があり、人々の分散化が進んだからこそ、テレビが人々の関心をリアルタイムに集め、コミュニケーションをはかる大きな装置となっている。一緒に共感しながら視聴することも、視聴後に“反省会”をすることも価値となっている今、このテレビの強みをどうさらに活かしていけるか考えていけたらと思います」とコメントし、イベントを締めくくりました。

(編集協力=井上マサキ+鬼頭佳代/ノオト)

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  • 博報堂DYメディアパートナーズ
    メディア環境研究所 上席研究員
    2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。

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