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対談!EC+【第5回】──「体験プラットフォーム」ってなに? オンラインコマースはオフラインを超えるか
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対談!EC+【第5回】──「体験プラットフォーム」ってなに? オンラインコマースはオフラインを超えるか

博報堂DYグループ内のEC領域のナレッジやスキルを集約し、クライアント企業のEC事業を戦略構築から実装・運用までフルファネル、ワンストップでサポートする「HAKUHODO EC+」がお送りする、EC事情の最前線をさまざまなプロフェッショナルの方とご紹介する連載「対談!EC+」。
「対談!EC+」連載の第5回は、レンタルサービスによって商品の「体験」を提供しているレンティオの代表取締役社長、三輪謙二朗さんをお招きしました。「体験プラットフォーム」が生み出すオンラインコマースの新しい価値とは──。

「体験」と「所有」をシームレスにつなぐ仕組み

奥山
ECの新しい可能性を考える「対談EC+」も、これで5回目となります。今回は、生活者に新たなオンラインの購買体験を提供する「体験プラットフォーム」をめぐって意見を交換していきたいと思います。まずは、商品体験をレンタルサービスという形で広く提供しているレンティオの概要を、代表の三輪さんからご説明いただきます。
三輪
主に家電製品やカメラなどの商品を貸し出すレンタルサービスを展開しているのがレンティオです。サービスのニーズは大きく二つあります。一つは、運動会、海外旅行、キャンプ、パーティーなどのイベントで、ごく短期間だけ商品を利用したいというもの。もうひとつは、購買を検討するに当たって商品をお試しで使ってみたいというものです。2015年にサービスがスタートした頃は短期利用のニーズが多かったのですが、現在は8割くらいが購買前のお試し利用となっています。

その背景には、僕たちのサービスがメーカーの皆さんに受け入れていただけるようになったという事情があります。お試し利用の促進は、メーカーから見ると一種の販促活動になります。そのため、メーカーの公式サイトにリンクを貼っていただけたり、公式SNSなどでサービスを取り上げていただけたりするケースがこの2、3年で非常に増えました。

奥山
現在取り扱っているアイテム数はどのくらいあるのですか。
三輪
種類でいうと3000点くらいですね。在庫数は10万点ほどあります。1日の出荷点数は1000点くらいで、レンタル期間が終わって返却された商品は、すべて社内でメンテナンスしています。その作業の手間がかかるのが今の大きな課題です。これまでのメンテナンスの回数を調べたら、累計で70万回に達していました(笑)。
奥山
利用者数も教えていただけますか。
三輪
レンタル利用者数は月に10万人弱で、サイトへ来訪者は月100万人くらいですね。「Rentio Press」というWEBサイト もあって、月間視聴数は400万PVくらいです。利用者の7割は女性で、以前は20代が多かったのですが、最近は30代、40代が増えています。女性が多い理由としては、賢い買物をしたいと考えている人が比較的女性に多いこと、リユース品に対する抵抗が女性の方が少ないことなどが挙げられます。所得で見ると、やや意外ですが、高所得者層が多いですね。
栗原
レンティオのサービスは、「体験」と「所有」がシームレスにつながっていますよね。そこがとても興味深いと僕は思っています。
三輪
おっしゃるとおりで、レンタル後に買取ができる仕組みを用意しています。例えば、5万円の商品をまず5000円でレンタルしていただいて、それで気に入っていただければ、残りの料金を払って買い取っていただくことが可能です。また、5万円のものを月額2000円で借りて、累計が5万円に達した時点でお客さまのものになるといった仕組みもあります。とくにご支持いただいているのは、後者の仕組みです。とりあえず借りてみて、便利だから使い続けていたら、いつの間にか自分のものになっていた──。そんな体験を多くのお客さまに評価していただいています。

「お試し」によって購買の失敗が回避できる

栗原
買う前に試すことができるから、購買の失敗を防ぐことができるし、気に入ったら買い取ることもできる。そう考えると、レンティオは非常にユーザーフレンドリーなサービスだと言えると思います。

三輪
それもおっしゃるとおりですね。ユーザーの皆さんに確実にメリットを提供できているという手応えがあります。その手応えは数字にも表れていて、顧客満足度を示すNPS(ネットプロモータースコア)は+29と、非常に高くなっています。
栗原
それはすごいですね。日本でNPSはマイナススコアが出やすいと言われている中、+29はほかで見たことのない数字です。
三輪
面白いのは、レンタル後に商品を使い続けているユーザーも、途中でレンタルをやめたユーザーも、どちらも満足してくれていることです。
奥山
自分に合うことがわかってよかった。自分に合わないことがわかってよかった──。その両方があるということですよね。つまり「試せてよかった」という点で、あらゆる人が満足するのだと思います。

三輪
まさに「試せてよかった」というひと言にサービスの特徴が集約されると思います。世の中のECにラインアップされる商品数はどんどん増えていて、自分に合う商品を見極めることがますますたいへんになっています。ガイドとなるのがユーザーレビューですが、これも数が多くなりすぎて、どのレビューを参照すればいいかわからなくなっています。

そんなときに、商品を試すことができれば、自分自身でその商品の価値を実感することができます。実は、そこに、ECがオフラインを超える一つの可能性があると僕は考えています。リアル店舗では、店頭で商品を手に取ることはできても、自宅に持ち帰って試すことはできません。まずは試して、気に入ったら買うこともできるし、買わずに返却することもできる。それが簡単にできるのは、オンラインならではだと思います。

栗原
夫婦や家族の間で、購買に対する意見がぶつかり合うことってありますよね。ほしい人もいるし、いらないという人もいるときに、「まずはレンタルして試してみようよ」という選択肢があるのはとても大きいと思います。借りてみたら、「意外によかったから買おう」となる場合も、その逆もあるけれど、「買って失敗した」ということはまずなくなる。これは、今までになかった体験です。
奥山
このサービスに馴染むのは、やはり失敗するのが怖い高額商品ということになりますか。
三輪
そうなりますね。目安としては、5万円以上くらいでしょうか。もう一つ、よく馴染むのは、「どんな商品かわからない」というケースです。例えば、テレビや掃除機は、新製品でもだいたいどういうものか想像がつきますよね。それに対して、自動調理鍋や美容家電のようにカテゴリー自体が新しい商品は、実際に使ってみないとどのようなものかわかりません。そういった家電を試してみて、使用感を確かめることができるのがこのサービスの大きな価値だと考えています。

栗原
博報堂は生活者発想というフィロソフィーを掲げています。レンティオのサービスにも、それと同様のフィロソフィーがあることを感じますね。
奥山
博報堂は企業のマーケティング支援という形で生活者発想を実践しているし、レンティオは体験の提供という形で生活者発想を実践している。そういうことですよね。僕たちとしても、とても共感できるサービスです。

ブランディングとしての「体験」

奥山
レンティオは、一般的なECと比べると、独自のファーストパーティデータが得られそうですね。
三輪
ご協力頂けるお客様には、レンタルした目的や レンタルした感想など細かなユーザーアンケートをとっていますし、その結果を性年齢別に切り分けることも可能です。ご協力頂いたアンケートに関しては、メーカーにデータとして ご提供することも可能です。とくに、レビューはかなりお役立ていただけると考えています。一般に、ECのレビュー投稿率は1%を切ると言われているのですが、レンティオの投稿率は8%から9%もあります。1割近いユーザーが、商品を利用した感想を書き込んでくれるわけです。その生の声はとても貴重だと思います。
栗原
僕たちも生活者調査はよく実施していますが、特定の商品を実際に使った人を抽出することは簡単ではありません。それができるのが体験プラットフォームの大きな価値ですね。

三輪
レンタル後に購入しないユーザーももちろんいるわけですが、そういうユーザーにも買わなかった理由を聞いています。ここから、商品の改良や新商品開発のヒントが得られると僕たちは考えています。
奥山
「買わない理由」は、マーケティングにおいて非常に重要な情報です。メーカーの皆さんにとって、レンティオは、テストマーケティングのプラットフォームにもなりうるということですよね。

それからもう一点、一つの商品を多くの人でシェアしてモノを有効利用しているという点で、このビジネスはサステナビリティーにつながる意味合いがあるようにも思います。

三輪
その視点も今後はアピールしていきたいですね。僕たちはモノの所有自体を否定しているわけではありません。このサービスが広がれば、商品販売は実は伸びると考えています。商品のことを知らなかった人たちが、体験することによって商品の魅力を深く知り、ほしいと思うようになる。そんな機会を創出するサービスだからです。一方で、体験の結果「買わなくてもいい」と判断すれば、必要のない購買をせずにすみます。その点にサステナビリティにつながる意味合いがあると言えます。

最近ではメーカーの皆さんの意識も、「一人でも多くの人に売りたい」から「本当に必要とする方に買ってほしい」に変わってきていることを感じます。とくにブランドへの意識が高いメーカーほどその傾向があります。なぜなら、必要としないユーザーが商品を買い、ミスマッチが生じ、商品に対するネガティブな印象が生まれてしまえば、それはすなわちブランド価値の毀損につながるからです。体験を通じて適切な人に適切な商品を買ってもらうのは、サステナビリティ、ブランディングの両方の視点において非常に大切なことだと思います。

奥山
ECがたんに「モノを売る場」ではなく「人とのつながりの場」になりつつあることを考えれば、売り手と買い手の両方がハッピーになるECこそが、今後必要とされるECなのだと思います。その「ハッピーなEC」の一つの形が体験プラットフォームということなのでしょうね。

「体験」がカスタマージャーニーを変える

栗原
僕は、購買に至るプロセスの中で、「体験」いう要素は今後ますます重要になっていくと考えています。「認知」と「体験」がセットになれば、購買までの距離が一気に縮まる可能性があるし、「検索行動」と「体験」が組み合わされば、検討する時間を大幅に短縮できるかもしれません。カスタマージャーニーのどこに「体験」を組み込んでいくか。今後それがプランニングにおける重要な視点になっていくのではないでしょうか。
奥山
「体験」はカスタマージャーニー自体を変える可能性があるということですね。最後に、体験プラットフォームの展開の今後の見通しをお聞かせいただけますか。
三輪
生活者にとって体験プラットフォームを利用することの一番のメリットは、購入の失敗を防ぐことができること、つまり、「ネガティブな要素を解消する」ことですが、そこからさらに一歩進んで、「知らなかったものに出会える」というポジティブなメリットをより強く打ち出していきたいですね。

またレンティオは、優れた商品を世に広め、長く残していくためのプラットフォームにもなりうると考えています。体験を通じて高品質の商品が正当に評価されるようになれば、よりよいものだけが残っていくはずです。それは生活者にとってもメーカーにとっても意味のあることです。

現在の課題は、レンタル料金が安くはないことです。この価格をぐっと下げることができれば、オフラインを超えるオンラインコマースが本当に実現すると僕は思っています。例えば、あらゆる商品のレンタル料金を500円に統一することができれば、さらに多くの人にこのサービスを利用していただくことができるはずです。そのためには、メーカーの皆さんとの連携をもっと強化していく必要があります。

奥山
例えば、サブスクリプションで月額500円、あるいは1000円払えば何でも借りられるというモデルが成立すれば、まさしくオンラインがオフラインを超えるかもしれませんね。

体験プラットフォームからECの可能性が大きく広がっていきそうなこと、僕たちHAKUHODO EC+もレンティオと一緒にできることがいろいろありそうなことが今日はよくわかりました。これから次世代のECビジネスをともにつくっていきましょう。

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  • 三輪 謙二朗氏
    三輪 謙二朗氏
    レンティオ 代表取締役社長
    2015年4月株式会社カンパニー(現:レンティオ株式会社)創業。2008年に楽天株式会社に入社し、モバイル推進グループにてモバイル版楽天市場の拡大に貢献後、ECコンサルタントとしてキッチン日用品雑貨ジャンルグループ配属。退職後、ECベンチャー企業を経て、2015年より現職。
  • HAKUHODO EC+リーダー
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    メーカーDX推進グループマネージャー
    2004年博報堂中途入社。大手通信会社を中心に長らく営業職を担当し、2019年より現職。ショッパーマーケティング・イニシアティブのメンバーとして、EC領域に特化した組織横断型プロジェクトチームである「HAKUHODO EC+」を推進する。
  • HAKUHODO EC+
    博報堂 ビジネス開発局 GM
    2006年に株式会社博報堂入社。営業にて大手クライアントを複数担当した後に、ビジネススクールを修了。その後、博報堂DYグループの社内ベンチャーへの出向を経て、現職。
    現在は博報堂ビジネス開発局のGMとして、博報堂グループの広告以外のビジネス領域への拡張に従事。