データとカルチャーの融合でエンゲージメントを築く「DISRUPTION® LIVE」(後編)
TBWA HAKUHODOは、2006年に博報堂とTBWAワールドワイドのジョイントベンチャーとして設立しました。以来、博報堂の生活者発想とパートナー主義、そしてTBWAのDISRUPTION®メソッド(創造的破壊)を融合させて、独自の考え方で企業のマーケティングとクリエイティブを支援してきました。今回は、このスピード感のある時代に生活者のモーメントを捉えてエンゲージメントを築く手法「DISRUPTION® LIVE」に注目。データとカルチャーの両面から“トリガー”を見つけるというアプローチと同時に、クライアントとの組み方も従来の方法とは異なっています。その詳細を、デジタルストラテジストの金清雄太とインタラクティブプラナーの小口弘太郎に聞きました。前後編でお届けします。(前編はこちら。)
Trigger Hunting:トレンドの起点を見つける
――前編では、DISRUPTION LIVEのプロセスの要である「Open Briefing」について紹介してもらいました。
- 金清
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オープンというだけあって、僕ら起点で随時いろいろな提案をできるようにしているのが特徴です。そのためにも、クライアントにもすぐにジャッジしていただける環境と関係性がとても大事になります。また、前提としてやはりDISRUPTION LIVE(以下、D-LIVE)を採用していただく際、膝を突き合わせて、D-LIVEのゴール・役割と、DISRUPTIONのコアアイディアはなんなのかを話し合うことが欠かせないと考えています。
――なるほど。では2つ目の「Trigger Hunting」についてうかがえますか?
- 小口
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Trigger Huntingは、まさしく“トレンドを生み出す引き金となるトピックスを捉える”といった意味合いで使っていて、D-LIVEの情報収集のベースを担うプロセスです。冒頭で、僕らTBWA HAKUHODOのオフィスには日々さまざまなトリガーがプラナーに共有されているとお話しました(前編参照)。オフィス内に設置した複数のモニターや、個人のPCなどでもチェックできるようになっています。(※すみませんココは推測なので、事実をご確認いただけたらと思います)。このトリガーはグローバルの各オフィスで、Spotter(スポッター)という役割の人たちが、日々見つけて共有しています。僕も日本のスポッター のひとりです。スポッターが日々いろいろな情報やデータから見つけだした、今注目されている事象をトリガー、それらが複数折り重なって生まれる潮流を“Edges(エッジズ)”と呼んでいます。
――トリガーとエッジズの二層で、インサイトを把握しているということですか?
- 小口
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そうですね。この2つの枠組みで、次に何が生活者の心を捉えるのか、その兆しをつかもうとしています。TBWAではグローバルのキャンペーンを推進することも多いので、日本のストラテジーチームとしてそうした案件に携わる際は、グローバルのプラナーとトリガーを常に共有できていることで、ストラテジー構築をスムーズに進めることができます。これをグローバルオフィスで共有している社内メディアのような組織が存在します。BACKSLASHというチームです。TBWAのVIにもなっているその名の通り、我々がカルチャーオリエンテッドエージェンシーであるための、背骨となっている組織です。
トリガーから潮流を見つけるチーム「BACKSLASH」
――BACKSLASHについて、詳しくうかがえますか?
- 小口
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BACKSLASHは、世界各国で絶え間なく発生している、各地の生活者の注目を集める事象をウォッチしているTBWA ネットワーク全体のインターナルメディアであり、チームです。日本ももちろんそのネットワークのひとつで、各地のスポッターが記者兼編集者のようなものですね。編集拠点がLAにあり、僕を含めて各スポッターから情報を収集して、LAのスタッフが動画にまとめて毎日TBWAネットワークに配信しています。これによって、ローカルのインサイトを把握しながら、それを各国で共有してローカルレベルのトレンドをつかみ、そしてグローバルのトレンドも推察できるような仕組みを構築しています。同時に、先ほどお話しした複数のトリガーを集約したエッジズを含めてBACKSLASHのメンバーが分析することで、大きな潮流の裏側にある生活者のインサイトをいち早く捉えることも可能にしています。そして、それを自分たちのクライアントに合わせた形で適宜共有しています。
――クライアントに合わせるというのは、たとえば自動車メーカーなら自動車領域のトレンドを特に集中して追う、といったことですか?
- 金清
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両方あると思いますね。先ほど、クライアントとのチーム構築の最後に、ブランドのコアメッセージに基づいて、そこでどのようなトレンドを追っていくべきかを絞り込むとご紹介しました(前編参照)。企業が目指す未来から逆算して、たとえば自動車メーカーでも自動車領域とその周辺を引き続き注視して追いたい企業と、あるいはまったく関係はないけれど生活者が求める“近未来的生活”に関連する領域を捉えたい企業があると思います。全社なら、自動車とかモビリティ、移動手段といったテーマで発生するエッジズや、小項目としてのトリガーを捉えて、企画に落とし込んでいきます。逆に後者の場合は、さらにその企業の顧客の嗜好性などによって、押さえていくテーマが変わってくるので、それに応じて各テーマのトレンドを共有していきます。
――飲食業界のブランドでも自動車領域のトレンドを追いたい場合もあるかもしれない?
- 小口
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可能性は多いにありますね。BACKSLASHは日々生まれるトリガーとエッジズを分析し、クライアントサイドのストラテジーチームと連携しながら、そのクライアントのブランドがこれからどんなふうに生活者に対して振る舞っていくべきかという部分まで加味して示唆を提供してくれます。故にプランナーやストラテジストは、その示唆を踏まえて施策に落とし込む。たとえばあるブランドで、飲食業界のトレンドを追いたいというニーズがあったとしたら、食材や飲食店やダイエットのブームまで、さまざまな飲食関連のトリガーとエッジズを日々押さえながら、施策のアイデアを探っていっています。
Audience Planning:生活者に伝わるプランニング
――では、3つ目のプロセスであるAudience Planningについて教えてください。
Audience Planningではまず、Awareness、Familiarity、Consideration、Action、Advocateまでのファネルごとに、ターゲットのタッチポイントを全て洗い出します。各タッチポイントのなかで、どのメディアが最適なのかを、Open Briefで生まれたアイディアを元に検討します。BonfireからFireworksまで、アウトプットのスケールに応じて、SNS投稿、キャンペーンサイト構築、WEB動画、プロダクト、OOHやTVといったマスメディアまで、どのメディアで何をやるべきかを設計します。このパートにおいては、特にデジタルメディアにおいて、各メディアでどんなことができて、KPIはどう設定するか、メディアプランニングのスキルも必要になってきます。営業からメディアプランナーまでマルチなスキルを集約して、互いにアイディアを出し合うことで、よりエンゲージメントの高い施策を生み出すことができます。
――D-LIVEのベースである、クライアントとの合意形成やそれに基づく時流の把握の仕方は、マーケターの基本的なマインドセットになるのでは、とも感じました。
- 小口
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そうなったらいいですね。もちろんそこはプランナーがリードしていくべきだと思いますが、営業もクリエイティブもプロデューサーも、皆がワンチームになってD-LIVEは運用されているなと実感しているので、領域を横断して「プレーヤーとして関与する」という姿勢が大事なんじゃないかなと思います。もちろん、マーケティング活動である以上、最終的に商品の購買につなげたいとかブランド価値を上げたいといった目標がありますし、それをKPIとして分かる形で向上させていかなければいけないと思っています。でも一方で、目の前にある数字を見ながらも、ターゲットが生活しているカルチャーの中で、ブランドがどう振る舞うべきかを考えるスタンスが重要だと思います。データとカルチャーの片方だけではなく、両面から次なるエンゲージメント獲得の打ち手を見出す活動こそが求められているのではないでしょうか。僕自身がそういう人材になれるよう、目指していますね。
- 金清
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エージェンシーとして博報堂にもTBWAにも、オーディエンスのこうした反応を分析し、それに基づいて打ち手を導き出せば一定の成果が得られる…といった知見があることは事実です。でも、今は本当にユーザーなり生活者なりの価値観の変遷が著しく、一方向的に読めない複雑な時代になっています。難しいのは事実なのですが、とはいえまったく予想できないかというと、策がなくはない。本当にユーザーの視点に立って、何が今おもしろいのか、流行りの理由は何なのか、自分だったらどう考えるかをひも解いていくと、少なくとも数字を見ているだけでは得られないヒントが見つかると思います。これはある意味、マーケターとしての知見というよりも一般目線が重要、ということなのかもしれませんが、これからはそういうマインドが一層必要になってくるのではないかな、と個人的には感じています。
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TBWA HAKUHODO デジタルストラテジスト武蔵野美術大学 芸術文化学科卒。デジタル系広告会社にてデジタル施策の企画・クリエイティブ開発に従事し、2015年に株式会社TBWA HAKUHODOに入社。統合的なデジタル施策の企画~運用の経験を生かし、得意先のクリエイティブ、プロモーション立案のプロセスにデータドリブン思考を注入している。なかでも、ソーシャルモニタリングを活用した生活者インサイトを抽出する手法は、顧客視点の施策アイデアを着想する起点として、多くのクライアントに活用されている。
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TBWA HAKUHODO インタラクティブプラナー慶應義塾大学 経済学部卒業。ニューヨーク、サンフランシスコ、東京のスタートアップでのインターンを経て、2014年、ブランディングエージェンシーに入社。ブランディング、デジタルコミュニケーション、サービス開発などに係る。2017年に株式会社TBWA HAKUHODOに入社。インタラクティブ、ストラテジー、メディアプラニングを横断して業務に携わる他、TBWA WORLDWIDEのカルチャーエンジンであるBACKSLASHや、TBWAのコンサルティングサービスであるDISRUPTION® CONSULTINGにも従事する。