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国内企業×スタートアップの連携で“健康・長寿・人生100年時代”に新提案を。 AgeTechX、初のMeetupで浮かび上がるウェルビーイングの重要性
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国内企業×スタートアップの連携で“健康・長寿・人生100年時代”に新提案を。 AgeTechX、初のMeetupで浮かび上がるウェルビーイングの重要性

世界で最も長寿が進んでいる日本。現役を引退しても、アクティブに人生を楽しむ方々はもはやめずらしくありません。そうした方々に新しい価値を提案し、先例として世界にも広げていくことを見込んで、昨年秋に博報堂とスクラムスタジオはグローバル事業共創プログラム「AgeTechX(エイジテックエックス)」を始動しました。

国内企業とスタートアップの連携による事業共創を推進する一環で、5月14日に「Well-BeingX/AgeTechX 2024 Meetup!」を開催。博報堂社内のUoC(UNIVERSITY of CREATIVITY)キャンパスに、企業や自治体などを含め約100名の参加者を迎え、計16社のスタートアップによるブース出展もにぎわいました。本稿では同日のセッションより、各3名のゲストを迎えた「Mandalaサロン1」および「2」をレポートします。

ちょっとした会話やつながりも「豊かさ」のひとつ

Mandalaサロン1では、JT(日本たばこ産業)の中井博之氏、ロート製薬の西原麻衣氏、サンクリエーションの太田明良氏のお三方を迎え、「100歳まで生きたい!と心から思える暮らしや社会のあり様」をテーマに意見を交わしました。実は日本では「100歳まで生きたい」と思う人の割合が、諸外国と比べてかなり低いそうです。長寿を全うしたくなるには、どのような環境や技術が必要でしょうか? モデレーターは、博報堂 シニアビジネスフォースの安並まりやが務めました。

安並
人生100年時代といわれて久しいですが、日本は世界でいちばん早く超高齢化を迎える国ながら、長生きしたい意欲は低く、他国は50~60%なのに27.4%なんです。個人的には、80代90代になっても毎日の楽しみやワクワクがあったらいいと思うのですが、それは少数派で、企業の視点では楽しみなどを提示しきれていないのが現状です。

(100年生活者研究所 100年生活者調査~2024年国際比較編~) 

安並
今回はお三方にひとつずつ質問を用意してきました。まず太田さん、サンクリエーションでは「えがお」というブランドで、シニア女性向けに写真館や美容室などを展開されていますが、昔と今とでシニア層の楽しみやワクワクすることはどう変わったでしょうか?

太田
僕たちの経験でいうと、お客様をきれいにして差し上げると、どなたもすごく喜ばれます。ただ、どんなモノやサービスを提供して喜ばれるかは、年代によって違います。例えば洋服のテイストなら、ご自身が育ったカルチャーに影響されるので、70-80代の方が気に入るものでも50-60代の方は買われません。

シニア層の楽しみが変わったというより、"シニア”とひとくくりにせず、もう少し細分化してそれぞれの方に合うものを考えることが大事だと思います。

安並
提供側の意識のアップデートが重要ですね。次に、年を重ねるとどうしても病気や要介護になるなどの状況が出てきますが、それも含めて生涯豊かさや楽しみを見いだすにはどうしたらいいでしょうか。ロート製薬では今、食の分野などにも事業を拡げられていますが、西原さんいかがでしょう?
西原
当社は「医食同源」の考えに基づいて、お客様のウェルビーイングを叶えることを目指しているのが現状です。私はその中でマーケティングコミュニケーションに携わっており、お客様の状況や課題に向き合う傍ら、また自分自身が年を重ねて不調や病気を抱えたらどう感じるかと考えたりします。すると、まず思うのは「いくつになっても自分らしくありたい」ということなんです。

では、その自分らしさはどこからくるのかというと、周囲とのかかわりを含めた日々の積み重ねで形成されるものじゃないかな、と。それなら、助けが必要になったときに手を差し伸べてもらいやすい人であることが、年を重ねたときの豊かさや楽しさにつながるのではないか……と考えています。

安並
たしかに、周囲との関係が良好かどうかは、年を重ねるほど大きく影響しそうですね。

最近、私たちのチームで「リタイア後の男性の孤独」が話題に上りました。会社を離れるとすべてのコネクションが絶たれてしまい、本人から接触してくれないと周囲も手を差し伸べられない。男性には、周囲がかかわりやすいような環境づくりを早い段階でサポートすることが必要になるかもしれないです。一方で、定年まで仕事をする女性も増えていますし、一概に男女でいえないことにも注目すべきだと思いました。

リタイア後の男性が、周囲との交流をどう保てるか

安並
JTの中井さんには、人生100年時代の「心の豊かさ」とは何かを一緒に考えていただけたらと思います。中井さんが所属されているJTの「D-LAB(ディーラボ)」という組織は、事業の枠を超えて心の豊かさを探求しているんですよね?
中井
はい。当社自体がパーパスとして「心の豊かさを、もっと。」と掲げており、D-LABはその具現化を目指すコーポレートR&D組織です。……とはいえ、心の豊かさとは何なのか、私自身もまだまだ模索中です。100人いたら、共通項もあるでしょうがきっと100通りあり、どのタイミングでそれを感じるかを考えても、複雑だなと思います。

正直、自分でも70歳80歳になったときに何を「豊かだ」と感じるかわかりませんが、10歳や30歳のときの感覚や感性とはもちろん変化もありつつ、変わらないところもあるような気がします。もともと持っているものに、いろんな経験や刺激が重なって、考え方や見方が多彩になっていく。私自身はそういう変化を楽しめると思いますし、100歳まで生きたいタイプですが、昭和を生きてこられた今のシニアの方々は違うのだとすると、時代や環境の影響もあるのかもしれませんね。

安並
そうですね。若いころの感覚がベースにありそうというお話は、先ほどの「自分らしさ」にも通じると思いました。ここまでうかがって、それぞれが感じる「心の豊かさ」をシェアすることが、お互いより豊かに幸せになることにつながるような気がしました。
西原
とても共感します。感情の行き来をどれだけできるかによって、豊かさは大きく変わりそうだと思います。余談ですが連休中に一人でインドに行ったら、滞在した施設でさまざまな国の人と会話を交わすようになって、毎日顔見知りが増えていく豊かさを感じたんです。すごく仲良くなくても、ちょっと気にかけてもらえる存在になることって大事だなと思いました。
安並
まさに、気持ちが通い合うようなことですね。その点でも、例えば女性は「きれいになりたい」「素敵になりたい」といった気持ちを共有しやすいですし、それが実現することで心や生活の豊かさにつながるなとイメージできます。
太田
その通りだと思います。また、女性はいくつになってもコミュニティーを広げられるなと実感しています。うちの写真館には、女性は旦那さんを亡くされたお友達同士で遺影撮影に来られて笑顔で「きれいに撮って」とおっしゃったりしますが(笑)、男性のパターンだとやや深刻そうで……。

先ほど「男性の孤独」が挙がったように、たしかにリタイア後の男性は小さくなってしまう感じがあるので、男性を助けてほしいと思いますね。女性は学生時代の友達がいて、仕事でできた友達や子どもを持ったらママ友ができて、その後はまた学生時代の友達とも会う様子がありますが、男性からはそうした複数の層があまり感じられないです。

中井
我々を含む現役世代は、男性も仕事以外の世界やつながりを持つようになりつつあると思いますが、たしかに今のシニア層だと仕事100%でこられた方も多そうです。
安並
周囲との交流が心の豊かさにつながること、またその点ではより男性の状況に、課題解決の余地が大きそうですね。

オムロンの経営の羅針盤「SINIC理論」

続いて、「未来予測の重要性」をテーマに据えたMandalaサロン2へ。ゲストには、オムロンのグループ内シンクタンクであるヒューマンルネッサンス研究所の立石郁雄氏、楽天の杉澤健真氏、そして住友生命の藤本宏樹氏を迎えました。将来どのような社会になっていくのか、そこにどんな可能性があるのか。お三方の話から、ウェルビーイングの重要性がますますクローズアップされていくこと、また自社だけでなくさまざまなパートナーとのディスカッションや協業が欠かせないことが浮かび上がりました。モデレーターは、スクラムスタジオの上松真也氏が務めました。

上松
まずはオムロンの未来研究所であるヒューマンルネッサンス研究所の立石さんに、オムロンで何十年も前に発表された未来予測理論「SINIC(サイニック)理論」についてうかがえればと思います。立石さんは今、ヒューマンルネッサンス研究所の代表を務めておられ、SINIC理論に基づくさまざまな研究やよりよい未来づくりにつながる社会実装支援などを進められているのですよね?
立石
はい。SINIC理論は、1970年にオムロン創業者の立石一真らが国際未来学会にて発表したもので、当社で未来への“経営の羅針盤””と位置付けています。

先ほど、個人にフォーカスした心の豊かさを話されたMandala1を、興味深く聴かせていただきました。そこから、自分の思考をがらっと企業や事業のモードにしなければと思ったのですが、企業も一つの人格として見たら、同じなのかなという気がしています。

実はその発想は、SINIC理論と通ずるところがあると思います。SINIC理論では社会全体をひとつの生命体のように捉えています。企業も個人もその中のいち要素となりますので、分けて考えていないんです。今日お集りの方々は、皆さん新規事業やスタートアップで「こんなことをやりたい」とアイデアやテクノロジーをお持ちでしょうが、それらを「社会全体がどう動いていくか」の摂理とうまく連結させると、新しいマーケットを創出できて長く続く事業にもなると思います。実際、オムロンの歴史がまさにそうなんです。

思い切り遠くから俯瞰して未来の仮説を立て、逆算する形で今を見てみる、そんな理論です。今の言葉でいうと"バックキャスト”になりますね。

立石
1970年の時点で2033年までの社会・技術・科学の変化を予測していますが、けっこうこの通りに社会が動いていることで「おもしろいね」という声をたくさんいただき、社内だけではなくより幅広く社外の皆さんにもこの理論を活用していただけるようにオープンソース化した経緯があります。
具体的には、2033年は過去の強いコントロールから解放され、人間と自然と技術と社会等が繋がるエコシステムが確立した「自然(じねん)社会」になる。その手前の2025~2033年は、人類社会が成熟した「自律社会」、さらにさかのぼって2005年~2025年は新旧の価値観が衝突しながら最適化を見いだす「最適化社会」と位置付けています。

立石
今はまさに、最適化社会から自律社会への過渡期です。過去の考え方がたくさん刷新されようとしていて、大転換の時期にあると思います。そしてそれは、科学や技術と強く関連していますよね。

どの時代もそうで、オムロンはこの未来予測に基づいて技術・事業開発を進めてきました。当社はかつてファクトリーオートメーションの会社 でしたが、1970年前後には電子自動信号機や自動改札機、現金自動支払機といった社会システムを、2005年にかけてはヘルスケアの商品やサービスを市場に実装してきました。実はヘルスケア事業は20年くらい以上赤字続きだったのですが、今では血圧関係などは世界で50%ものシェアとなっています。
そして、最適化社会から自律社会において中心となるコンセプトが「ウェルビーイング」です。当時は違う言葉で表現していましたが、身体面だけでなく精神的なケアや健康まで含めて大事にするウェルビーイングが、確実に浸透しつつあるのが今だと思います。

互いに響き合い、望む未来をつくっていく

上松
精神性も大事にするウェルビーイングの時代になりつつあるのは、たしかに実感します。

では、経営の立場で新規事業開発を率いておられる住友生命の藤本さんにうかがいますが、今のお話も踏まえて、どのような未来予測を持たれていますか?

藤本
まずSINIC理論は本当に時代の流れを見事に言い当てていて、未読の方はぜひ読んでいただきたいのですが、これは単なる未来予測ではなく意志をもった未来予測だと思うんですね。よりよい社会を目指して、予測した未来をみずからつくる意志があります。

僕らも、未来をつくる意志をとても大事にしています。当社は経営の第一条に「社会公共の福祉に貢献する」と記していますが、そのやり方は時代によって変わります。今2030年までのビジョンをつくっていますが、やはりウェルビーイングがカギになると考えています。

昔はリスクに備えることが生命保険の機能でしたが、次第に健康寿命をより長く、よく演出することにフォーカスし、今後はさらに「どうやって幸せな人生を実践していくか」が重要になります。健康な方も、病気を抱える方もご高齢の方も、それぞれが幸せを感じられる世の中にしていく意図で「Well-being as a Service」という構想を掲げています。

自分たちだけでなく、他の企業やスタートアップ、アカデミアの方々と連携して、サービスのエコシステムを確立する。これは意志をもった未来予測だと個人的には思っています。

上松
その予測は、いろいろな立場のパートナーとディスカッションを交わすことで、軌道修正したりブラッシュアップしたりするようなイメージですか?
藤本
もちろんそうですね。お互いに響き合いながら、新しい価値や新しい世の中のありようをつくれればと考えています。
上松
ありがとうございます。続いて、楽天生命に携わっておられる杉澤さんにお聞きします。昨年からAgeTechXに参画いただき、今まさに具体的に事業開発に取り組んでいただいていますが、将来どんな課題解決の可能性がありそうか、うかがえますか?
杉澤
はい。もともと楽天の企業理念として、イノベーションを通じて社会をエンパワーメントしていくことを掲げているので、冒頭のSINIC理論には強く共感しました。

我々はこれまで、ユーザーの合理性を追求して次々とサービスの立ち上げを行ってまいりました。現在の会員数は1億人ほど、アクティブな方で4000万人ほどいらっしゃいますが、その方々も等しく年を重ねられていきます。近い将来、一人ひとりがより自律性や自分らしさを尊重する社会になるとすれば、我々もより変容して共存していく視点が必要だと思います。

AgeTechXで様々なスタートアップの方々とお話しする中で、合理性だけでなく、人間性のような観点も加味して「ユーザーが便利だけでなくどう豊かになれるか」を考えていくことが重要だろうなと感じています。

立石
藤本さんと杉澤さんのお話を聞いていて、仮にSINIC理論でいったんの終着点にしている自然社会になっても、やはり人とつながってエンパワーメントされて、学び合うことが豊かさであるのは変わらないだろうと思いましたね。会社組織としては違っても、共通項があれば臨機応変に協働すればいい。
藤本
そうですね。以前SINIC理論の話をうかがったとき、自然社会はみずからがありのままである意味で「じねん」と読むと教えてもらったのですが、これはみずから燃える"自燃”になってこそ実現できるのではないか、と思ったんです。

大企業は、やはりなかなかみずから燃える人は少なく、火をつければ何とか燃える"可燃”の人が多いような。一方、スタートアップの方々は皆さん自燃の状態です。そういう人を増やしていきたいですし、Well-Being XやAgeTechXがその役割を果たしてくれると期待しています。

上松
僕らもそうしていきたいです。今の日本で未来予測というと、ネガティブに偏ることも多いですが、どのような社会にしていきたいかの意思を込めて、さまざまな方と立場を超えてディスカッションしながら進んでいければと思います。お三方とも、今日はありがとうございました!
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  • 博報堂シニアビジネスフォース 新しい大人文化研究所所長

  • 中井 博之
    中井 博之
    日本たばこ産業株式会社D-LAB

  • 西原 麻衣
    西原 麻衣
    ロート製薬株式会社 マーケティング&コミュニケーション部 MC2グループ マネージャー

  • 太田 明良
    太田 明良
    株式会社サンクリエーション代表取締役

  • 立石 郁雄
    立石 郁雄
    株式会社ヒューマンルネッサンス研究所代表取締役社長

  • 杉澤 健真
    杉澤 健真
    楽天生命株式会社 営業収益管理部

  • 藤本 宏樹
    藤本 宏樹
    住友生命保険相互会社 常務執行役員兼新規ビジネス企画部長

  • 上松 真也
    上松 真也
    スクラムスタジオ株式会社VP of Co-Creation

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