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IPコンテンツが拓くクリエイティブの新時代──Advertising Week Asia 2025より
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IPコンテンツが拓くクリエイティブの新時代──Advertising Week Asia 2025より

2025年12月2日(火)~4日(木)、シェラトン都ホテル東京にて、世界的なマーケティングイベントのアジア版である「アドバタイジングウィーク・アジア2025」が開催されました。記念すべきAWA10周年でもある今回、AI活用により新時代を迎えつつある広告業界にとって本質的で刺激的なさまざまなコンテンツや議論が展開されました。 本稿では、「IPコンテンツが拓くクリエイティブの新時代」の内容をご紹介します。

モデレーター

株式会社ADKクリエイティブ・ワン
クリエイティブ・プロデュース本部
シニア・クリエイティブ・ディレクター/
エグゼクティブ・プロデューサー
若木 信氏

株式会社サン
代表取締役会長
田中 準也氏
 

スピーカー

株式会社電通
グループ・クリエーティブ・ディレクター/
CMプランナー/コピーライター
佐藤 雄介氏

株式会社博報堂
クリエイティブ局/ガリガリ編集部
プラナー
林 龍太郎

株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ
エクスペリエンス・クリエイティブ本部
クリエイティブディレクター/アートディレクター
村上 絵美氏

ブランドとIPコンテンツ双方のファンを増やすために必要なこと

若木
本日のセッションテーマとなるIPとは「インテレクチュアルプロパティ」の頭文字の略語であり、マンガ、アニメ、ゲーム、小説、映画など、人間の知的な活動によって創造された財産的価値のある情報を総称したものです。IPコンテンツは、そのIPファンであるクリエイターにとっては提案モチベーションの大きなトリガーに、また生活者の旺盛な購買意欲のスイッチにもなっており、推し活文化の流行を背景に、顧客、クライアント、クリエイターのトリプルウィンを生むマーケティング手法として、昨今、活況を呈しています。

一般社団法人日本動画協会の「アニメ産業レポート2025」によると、2024年のアニメ産業市場規模は過去最大。さらに、それを牽引しているのが、前年比26%の伸長を記録している海外市場となっています。改めて、海外市場における日本発のIP コンテンツのマーケティング手法としてのポテンシャルについても今日は議論できたらと思います。

まずは、IP コンテンツを商品やサービスのマーケティング手法として活用する際、皆さんが心掛けていることについてそれぞれ教えてください。

村上
私が一番大事にしているのは IP とブランドの接着です。
仕事にもよりますが、まずはIP の作品性やキャラクターとブランドの理念や商品性の接着点を探し、いかに深いところで接着できるかを徹底的に追求します。なぜなら、「なぜこの IPが起用されたのか」というファンの皆さんの違和感を払拭し、納得して心から楽しんでもらえるものにしたいから。IPファンにブランドのファンになっていただくのが一番で、私の場合そこの接着がしっかりしていれば、キャンペーンもうまくいき、動画の再生数や売上、応募数などでいい結果が出せている。なので、コンテンツのファンとどう握手するかに非常にこだわっています。
大切にしていることは大きく3つあります。
1つ目は作品が盛り上がるタイミングを掴むこと。今はすごく盛り上がっているけど、来年はどうか。逆に今はまだ小さいけど、来年はすごく盛り上がるかもしれない。そういう盛り上がりのタイミングを掴みにいくことを大切にしています。
2つ目は制作リードタイムをきちんと作ること。描き下ろしのキービジュアルがあるとないとではキャンペーンの盛り上がりが全く異なりますが、これを用意するには当然3~4カ月といった時間が必要です。その前に提案もあるので、半年から10カ月ぐらいの時間は確保しておきたい。いいキャンペーンを作るためにも、とにかくリードタイムを取ってほしいといつもクライアントにはお願いしています。
3つ目のポイントは盛り上がりを継続させることです。キャンペーンが始まってすぐは、目新しさから簡単に盛り上がりがつくれますが、ワンクール3カ月間、話題を途切れさせないようにするのがすごく難しいんです。IPコラボは通常の広告やCMのように次から次へと流さない傾向にあるので、いかにIPの力でレバレッジをかけ、ファンを引き寄せ続け、3カ月間話題を絶えさせないかがポイントになります。SNS のオリジナルコンテンツを用意するとか、途中でキービジュアルを切り替える、サプライズを用意する、あるいはプレゼントのグッズを差し替えるなど、3カ月間話題を途切れさせないための工夫が重要だと思います。

佐藤
クライアントにとっては物が売れたり、認知が上がってブランディングに寄与したりするのが1つのウィンだし、IPコンテンツサイドにとっては話題になってコンテンツのファンが増えることがウィンになる。この2つのウィンを成し遂げるために僕が心掛けているのが、新しさ。コラボレーションでしか生まれない「ニューネス」があるということです。

やはり新しい何かがあるとそれだけ話題になりやすいし、ファン以外にも届いていく可能性が高まります。そのタイミングでしか実現できないようなコラボであれば、ニュースになり広まりやすくなり、結果的にブランドとIP両方のファンが喜んでくれたり、物も動いたりする。それを目指しています。

版元や原作者が我が子のように育てたIPにリスペクトを

若木
続いて、IP コンテンツならびにそのファンに対する理解やリスペクトは、プロジェクトを進める上で大切なポイントになると思いますが、皆さんはどのように対応されているかお話しいただけますか。
佐藤
クライアントとプロジェクトを進めていくなかで、IPにとってできるできないという条件は当然発生します。そんな場合クライアントに対しては、「こういうストーリーなり、こういう文脈、こういうキャラクターだから」というIPサイドの背景を丁寧に説明するに尽きると思います。もしくは、「こういう文脈であれば、こういうことが可能ですよ」というように、アイデアで解決することにはこだわりたいと思っています。
田中
クライアントの中でも決定者と実行者が違ったりしますから、全員が全員IPに対して同じレベルのリスペクトを持っているとは限らないんですよね。発案者から熱意ある反応がある一方で、同じチームでも「知らないです」「見たことない」といった温度差のある反応が返ってくることもありますよね。

村上
発案者に熱意がある場合はその方が社内でどんどん案を通してくれたりするので、こちらとしてはありがたいですね。

こちらから複数のIP候補を提案するケースで、「この IPは 知りません」という反応だった場合は、とにかく資料や情報を出して、いかにパワーがあるかを説明するしかありません。一方で、「このIPのことはあまり知らないのでお任せします」といったケースも意外と多いですね。いずれの場合も、そのIPを知らなくてもファンの気持ちは理解していただきたいし、版元様や原作者様が我が子のように育ててきた作品だということをもっと知ってほしいなと思います。日本の大切な文化でもあるIPへのそうした理解については、私たち広告サイドから啓蒙していくべきだと考えていて、まずは弊社内から徹底教育していくのが大事だと思います。

IP コンテンツを使うときに結ぶ契約としては、タレントとの出演契約とは違って、 あくまで使わせていただく許可をもらうという、許諾契約なんですよね。契約上キャラクターの同一性保持が求められますから、著作権者が「これは違う」となった時点でそのクリエイティブは出せなくなります。そのために監修が入るんです。まずはこの「監修」が、マナーではなく義務だということを、理解していただくのも大切だと思います。
村上
せっかく面白いものができても、結果的に原作者様や版元様からの印象が悪くなるような仕事はしたくないですよね。やはり私も、クライアントと IP双方のウィンウィンを考えることが重要だと考えています。
若木
続いては、どちらもすでにファンが存在するという点において類似性のある、実在するアーティストや俳優、セレブリティなどとコラボレーションしたキャンペーンと、IPを活用したキャンペーンとのプラニング上の違いについて教えて下さい。
佐藤
コラボレーションの相手がタレントの場合は、「人」とのコラボレーションになりますが、相手がIPコンテンツの場合は、「国」とコラボレーションするのだと考えるようにしています。というのもIPコンテンツはやはり独自の世界を持っていて、その国ならではのキャラクター、ルール、マナーがある。ましてや現実世界でない世界を扱ったりするので、文脈も情報もすごく複雑で、膨大です。そうした相手とコラボレーションするからこそ、キャンペーンを立体的にもしやすいし、長期化もさせやすいわけです。なので、IPコンテンツの背後にある文化、ルールといったことを理解しながら作ることを心掛けています。

日本のIP人気が絶大な一方、海外ならではのマーケティングの障壁も

若木
最後に、日本発の IP コンテンツは海外市場向けのマーケティング手法として活用できるかどうか、また活用する場合のポイントについてご意見をお聞かせください。
日本のアニメが好きな人は世界中に増えていますし、日本アニメが好きな人は日本文化に興味を持ち、日本企業、日本商品のファンになる可能性も非常に高いです。 そういう意味で日本企業はもっと国内でもグローバルでもIPコンテンツを活用していいと思います。

一方で、海外では国ごとに作品の権利を持つエージェントがいて、交渉しやすいエージェントもいればそうではないエージェントもいる。IP の人気度合いも国によって違います。グッズを制作するにしても、輸入ができなくてその国で作るしかない場合もありますが、こちらが期待するクオリティにはなかなか仕上がりません。そういった障壁は確かにあって、日本と同じ手法が通用するとは限らないことは注意しておくべきです。

僕も手探りで細かい手法手段を開拓中ですので、こういう場で皆さんと情報交換しながら、皆で知見を溜めていけたらと思っています。

佐藤
僕の仕事でも、海外から「うちの国でも同じことをやりたい」といった問い合わせや相談をよく頂きます。僕の仕事は傾向として、大人でも子どもでも楽しめて、ノンバーバル性を持っていることが多いので、そのまま海外でも受け入れられるという特徴はあるかなと思います。ノンバーバル性については、特にプラニングの際に意識するということはありませんが、ある程度わかりやすさを担保した結果として、ノンバーバルで楽しめるものになっている。何より日本の IP コンテンツの力が大きくて、世界中で人気を集めているという前提があるからだと思います。
村上
今年、日本の IPとアジアの企業とのコラボ企画を行い、複数の言語でアニメーション CMを制作しました。当初、「日本のギャグが通じるのか」など言語や文化の壁を懸念していたのですが、日本のIP人気が定着していて作品理解度が高く、言葉遊びや掛け言葉も無理なく通用し、うまくブランド訴求できました。作品性やキャラクター性とブランドがきちんと接着した広告クリエイティブであれば、十分海外で通用すると実感できましたし、今後もっと事例が増えていくと思います。

日本では IPコラボがすでに飽和状態で、クリエイティブ的にも難しくなってきている感がありますが、海外だとまだまだチャレンジできることが多いので、可能性は無限大です。

若木
日本のIPコンテンツは、日本はもちろん、海外でも非常にポテンシャルが高いということを広告会社の垣根を超えてうかがうことができました。
本日は以上となります。ありがとうございました!

※肩書は取材当時のものです

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  • 若木 信氏
    若木 信氏
    株式会社ADKクリエイティブ・ワン
    クリエイティブ・プロデュース本部
    シニア・クリエイティブ・ディレクター/
    エグゼクティブ・プロデューサー
    1974年生まれ。1997年、青山学院大学卒。同年、ADK入社。プランナー、営業職を経験した後、2004年、30歳の1ヶ月手前からCMプランナーに転向。TVCMを制作する傍ら、ミュージック・ビデオの広告メディア化や共創型プロモーションのプランニング、ゲームアプリ開発など、目まぐるしく変化するメディア環境の最中、既成概念に捉われることなく、結果に直結するソリューション開発に従事。20年間をかけて培ったクリエイティブ・プランニングの技能をさらに応用・拡張すべく、50歳にしてクリエイティブ・ディレクターとプロデューサーを兼任する立場に。Cannes Lions、New York Festival、ACCなど受賞多数。
  • 田中 準也氏
    田中 準也氏
    株式会社サン
    代表取締役会長
    1990年クレディセゾン入社。その後ジェイアール東日本企画、電通、トランスコスモス、メトロアドエージェンシー、電通レイザーフィッシュを経て、2015年インフォバーン入社。2017年に取締役に就任。2021年より2025年3月まで代表取締役社長。2025年4月より株式会社サン代表取締役会長。マスからデジタルまで精通し、オンラインとオフラインを横断する総合的なマーケティング・コミュニケーションの設計から実行、及び新規事業開発・推進が得意。
  • 佐藤 雄介氏
    佐藤 雄介氏
    株式会社電通
    グループ・クリエーティブ・ディレクター/
    CMプランナー/コピーライター
    東京都出身。2007年電通入社。広告のクリエイティブやブランディングを中心に手掛ける。最近の仕事に、マクドナルド「ティロリミックスAdo×YOASOBI×星街すいせい」「ルナチー」「ドラクエバーガー」「寄り道マック」「日本昔ばなし×チキチキン」、マンダム「ワキには金」、呪術廻戦「ファンタCM復活」、日清カップヌードル「HUNGRY DAYS アオハルかよ」など。史上最年少でクリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞。ヤングカンヌフィルム部門で日本人初のメダリストなど。武蔵野美術大学・日本大学芸術学部 非常勤講師。
  • 株式会社博報堂
    クリエイティブ局/ガリガリ編集部
    プランナー
    ベルギー生まれ荒川区育ち。カルチャー誌の編集を経て、2008年に博報堂に入社。 豊富なエンタメ知識とネットワークを活かし、アニメ、マンガ、キャラクターを活用した広告クリエイティブを手がけるプロジェクトチーム「ガリガリ編集部」を設立。企業とIPコンテンツのコラボレーション広告アワード「アニものづくりアワード」特別審査員。IPコンテンツコラボの専門家として講演、執筆多数。
  • 村上 絵美氏
    村上 絵美氏
    株式会社ADKマーケティング・ソリューションズ
    エクスペリエンス・クリエイティブ本部
    クリエイティブディレクター/アートディレクター
    1977年生まれ。2004年東京藝術大学デザイン科卒。同年ADKに入社し現在までクリエイティブとして様々なカテゴリーの企業を担当。中でもIPコンテンツ関連に多く携わり、企業コラボ・ライセンス商品広告・IP作品宣伝・グッズデザインなど、関わったIPはシリーズ50作品以上、膨大な知見と実績を持つ。読売広告大賞/ザ・デイリーヨミウリ広告賞 最優秀賞/ビジネス広告大賞/毎日広告デザイン賞 部門賞/日本産業広告賞など。